【全固体電池はゲームチェンジャーです】 日産が全固体電池を引っさげて大型EVを大量導入の可能性

アリア

日産がカーボンニュートラルに対する様々な取り組みを発表するイベント内において、

特に最新のバッテリー技術であったり、全固体電池に対する考え方など様々な情報を共有し、

新たに明らかとなってきた、今後の新型電気自動車のラインナップ、さらには日産アリアに関する新事実を含めて一挙に紹介します。

日産の全固体電池を含めた電動化戦略とは

まず、今回取り上げていきたいのが、

現在オンライン上で開催中である、国内最大規模のITの総合展示会であるCEATEC(シーテック)の中において、

日産の専務取締役であり、日産の電動化戦略を統括する技術部門のトップでもある平井専務が、

現状の日産の電動化に対する取り組み、

および、今後の電動化に対する考え方などをプレゼンテーションしてきたということで、

今回は、そこで日産側が説明してきた電動化戦略の中でも、特に抑えるべき重要なポイントについて、

大きく、日産アリアに関連して、新たに日産が公開してきた電気自動車としての質に関する新情報

ゲームチェンジを狙う、全固体電池開発の最新動向

および、その全固体電池を採用した、今後日産がラインナップする新型電気自動車という3点についてを、

一挙に解説していきたいと思います。

From: 日経クロステック

まずはじめに、日産アリアに関する最新情報についてですが、

まず結論から申し上げて、その充電性能について、より細かいスペックが判明したということで、

というのも、すでに日産に関しては、昨年である2020年の7月に開催されたアリアのワールドプレミアにおいて、

その充電性能については、最大130kWという最大充電出力を許容することができると説明され、

この充電出力というのは、現行型日産リーフの上級グレードであるe+の最大70kWという数値の、

実に倍近い充電性能を発揮することができるということになります。

そして、なぜそれほどまでに充電性能を向上させることができたのかに関して、

今回のアリアからは、強制水冷機構と呼ばれる、バッテリーパック内に水冷式の管を張り巡らせることによって、

バッテリー温度が低ければ加熱、バッテリー温度が高ければ冷却するといったように、

バッテリー温度を最適に調整することができるようになり、

特にリーフにおいて問題となっていた、強制水冷機構を搭載していないことによる、いわゆる熱ダレ問題が一切問題とならなくなりましたので、

したがって、リーフと比較して圧倒的な高出力で充電したとしても、

熱ダレせずに、安全に充電を行うことができるのです。

Leafの最大の弱点は熱ダレ問題

アリアの充電性能、相当高い件

そして今回紹介されたスライドにおいて、

その充電時間についても、その詳細なスペックが判明したということであり、

それが、65kWhというスタンダードレンジグレードについては、

充電残量10%から80%までに充電するのにかかる時間が概ね30分であるということで、

さらに、90kWhというロングレンジグレードについては、

充電残量10%から70%まで回復するのにかかる時間が概ね30分ということなのです。

したがって、今回明らかとなった充電時間から、30分で充電できる電力量を航続距離に変換してみると、

まず、エントリーグレードである、B6スタンダードレンジグレードについては、

高速道路を時速100kmでクーラーをつけても達成可能であるというような、実用使いにおいて最も信用に値するEPAサイクルにおいて、

おおよそ348kmであるため、

30分の充電時間で回復することのできる航続距離は、EPAサイクルに変換しておおよそ244km分

つまり、東京を満充電で出発して、途中名古屋付近で30分の休憩時間兼充電時間を挟むだけで、

大阪を超えて、兵庫県西部の姫路市まで走破することが可能となります。

さらに、B9ロングレンジグレードについても、

EPAサイクルにおける航続距離が483kmであることから、

30分の充電時間で回復することのできる航続距離は、EPAサイクルに変換しておよそ290km分

つまり、東京を満充電で出発して、途中京都付近で30分の休憩時間兼充電時間を挟むだけで、

関西地方を大きく超えて、広島県中部にまで到達することができるという、

実は本メディアにおいてはすでに1年以上前から、ほぼ同様の推測をしていたわけではありますが、

日産公式の数値からも、その推測はほぼ間違いない状況となった、ということになります。

最大充電許容出力だけでEVの質を判断するな!

そして、今回のアナウンスによって、

やはりアリアの充電性能は、想像以上に高いということは間違いないということで

というのも、よく日産アリアと競合車種を比較して、

その最大充電出力の許容値が、アリアは130kWと、そこまで高くない数値にとどまっている点を取り上げて、

アリアの充電性能の低さを批判している方が存在するわけですが、

その見方は極めて浅いを言わざるを得ず、

電気自動車における充電性能を見極めるためには、その最大充電許容出力の数値とともに、

その高い充電出力を、一体どれほど持続させることができるのかという点も抑えるべきであり、

特に今回のアリアに関しては、開発責任者によるインタビューから、

ロングレンジグレードについては、最大充電出力である130kWという数値を、

充電残量70%付近まで持続させることができると発表しています。

つまり、ロングレンジグレードに関しては、充電残量10%から30分間という充電を行った場合、

充電残量70%程度まで充電を完了させることができる一方で、

その30分間の間は、そのアリアの許容出力の上限値である130kWが、一貫して持続し続けるという、

特に電気自動車を運用したことがある方でしたらお分かりの通り、

そのような極めて安定した充電性能を発揮することができる電気自動車は、世界を見てもかなり稀な車種であり、

電気自動車を7年以上運用しているユーザーからすると、

最大充電出力の上限値よりも、いかに最大出力を高い次元で、安定して維持してくれるかの方が、

その充電時間に対する予見性という観点でも優れているというのが持論であります。

実際にそれこそ、現在電気自動車の販売台数が急上昇中であるヨーロッパ市場において、

同セグメントで今尚圧倒的シェアを獲得し、

特に電気自動車に対する目の肥えている、電気自動車最先進国家のノルウェー市場において、

今だに販売台数上位にランクインしているアウディのe-tronについては、

その最大充電出力の許容上限は150kW程度と、すでにテスラなどが発売する電気自動車が、

200kWを大きく超えて来ている状況を比較すると、やや見劣りしてしまう一方で、

その充電出力の変遷を示したグラフを見てみると、

その150kWという出力を、極めて安定して発揮することができているわけで、

したがって、そのような充電性能の安定性も相まって、

特にEVに対して目が肥え、高性能充電インフラが発達している、

ノルウェーのEVユーザーの間で選ばれ続けている、ということなのです。

From: Fastned

したがって、このような点からも、やはりアリアは下馬評以上の充電性能の高さを発揮する、ということになりますので、

このような点が理解されてくれば、すでに10年以上リーフを売り続けているという信頼感も相まって、

電気自動車戦争が過熱するヨーロッパ市場において、期待以上の販売台数を達成する可能性がある、ということですね。

全固体電池はゲームチェンジャーです

次に、今回の日産のプレゼンテーションにおいて判明した、今後の電動化戦略に関する最新情報として、

現在世界各国が開発を急いでいる全固体電池に対する考え方という点であり、

まず、今回の日産の全固体電池に対する見方について結論から申し上げれば、

ゲームチェンジャー的な存在になり得る

という見方であり、

というのも本メディアにおいては以前にも複数回にわたって、全固体電池におけるメリットデメリット、

そして現状の開発の最新動向についてを紹介していたわけですが、

今回の日産に関しても、将来的に発売される電気自動車に対しては全固体電池を搭載するという、

世界の多くの自動あやメーカーと同様の方針を明らかにして来たわけなのです。

そもそもこの全固体電池と既存のリチウムイオン電池との大きな違いとは、

端的に言ってしまえば、+側である正極側と、−側である負極側を、

電子が行き来する通り道である電解質の素材が固体か液体かの違いであり、

実は全固体電池とは、広義の意味においてはリチウムイオンバッテリーの1種類に過ぎない、ということなのです。

そして今回日産が指摘している、全固体電池の強みとして、

まずは、電解質を液体から固体に変更することによって、

仮に事故か何かで、バッテリーが破損してしまった場合、バッテリーから液漏れしてしまい、

したがって、最終的に発火につながってしまうなど、

液系電解質の抱えるリスクを大幅に低減することができるのです。

また、その液漏れ問題にもつながることですが、

固体電解質の特性上、例えばバッテリーに大きな衝撃を与えたり、

それこそ大きく破損してしまったとしても発火のリスクが極めて小さいですし、

さらに、皆さんが今手に持っているであろうスマートフォンなどをイメージしていただくと、

経年劣化などによって、そのバッテリーについては膨張し、

ケースが破損してしまった、なんていう経験をされた方もいるかもしれませんが、

固体電解質であれば、その膨張もほとんど気にする必要がなくなりますので、

その安全性という観点において、既存の液系リチウムイオンバッテリーよりも、その性能を高めることができます。

充電時間3分の1以下、電池コスト半減!

しかしながら、本メディアにおいては以前から指摘している通り、

このような安全性を担保することのできる液系リチウムイオンバッテリーが、すでに複数誕生しているという点も、やはり重要な流れであるわけで、

特に、中国メーカーが強みを持っているLFPに関しては、発火の心配が極めて少ないバッテリーであるわけですし、

さらに日本の東芝が圧倒的な強みを有している、負極材にチタン酸リチウムであるLTOにを採用したバッテリーについても、

バッテリーを針で貫通させたとしても発火することがないという、

非常に安全性が高いバッテリーが存在していたりするのです。

ただし、それでも今回の日産については、その全固体電池における、安全性以外の、さらに大きく3つのメリットを提示してもいて

まずは、その発熱に対する耐性が格段に向上することから、より大電流をバッテリーに流すことができる、

つまり、急速充電の時間を、現状の液系リチウムイオンバッテリーよりも大幅に短縮することが可能となり、

なんと現状の3分の1以下の充電時間を達成することができる、

ということなのです。

次に、固体電解質を採用することによって、既存の液系リチウムイオンバッテリーと比較して、

バッテリーセルあたりのエネルギー密度が2倍以上に向上する、

つまり、単純計算としても、バッテリー容量を半減させたとしても、同じような航続距離を確保することにつながるわけで、

したがって、同じ航続距離の達成を目指す場合、

エネルギー密度が倍以上の全固体電池を搭載した方が、搭載しなければならないバッテリー容量を半分程度で済ますことができる、

故に、高価なバッテリーを、その分搭載する必要がなくなりますので、

結果的に、そのコストを半減させることができる、ということなのです。

充電インフラは国と規制緩和で協業がマスト

ただし、この日産が提示してきている全固体電池のメリットについては、

いくつか大きな懸念点が存在するということで、

まず第一に、急速充電時間を3分の1程度にまで短縮することができるとしてはいますが、

こちらは、その車両側の充電性能を3倍にまで高めることがでいたとしても、

充電器側の性能も、全く同様に3倍にまで高める必要性があり、

例えばアリアを例にとって話を進めれば、アリアの最大充電許容出力は130kWですので、

その3倍ということは、おおよそ390kWということになるわけであり、

そもそもこのような充電出力を有する充電器を、我々日本市場で設置することは、

法制度上、およびコストという観点で、2021年現時点では不可能であるわけですので、

この難題を、いったいどのようにクリアしていくのかは、同じく同様の主張をしているトヨタと全く同様に、

国や電力会社とともに、しっかりと制度を作っていかなければならないと思います。

次に、その倍以上ものエネルギー密度という観点についても、

今回は詳しくは触れませんが、リチウムイオンバッテリーにおけるエネルギー密度の決定要件というのは、

基本的には正負極材の種類に依存するわけであり、

ただ電解質を固体化しただけで、エネルギー密度が向上するわけではないですので、

果たして日産側が、固体電解質を採用することによって、

どのような新たな正負極材の種類を採用する方針であるのか、

こちらは現状、あのトヨタでさえも、完全電気自動車用にはその開発が難航している状況でありますので、

その開発の進展状況には、非常に興味が湧く部分であると思います。

ただし、日産の平井専務曰く、

グローバルで52万台以上を販売しながら、今だに一台もバッテリー起因の発火事故を起こしていないというリーフというのは、

確かに液系リチウムイオンバッテリーを採用していながら、極めて高い安全性を確保することができている一方で、

その周辺技術の進歩によって、リスクを抑えむことで安全性を担保しながらも、

やはりその何重にもわたる安全措置によって、様々な制約が限界があると指摘し、

より安全性の高い全固体電池であれば、そのような制約から解放される、

つまりおそらくですが、やはり今まででは使用することのできなかった正負極材を新たに採用することができるようになるため、

結果として、バッテリーセルあたりのエネルギー密度の向上に寄与していくのではないかと、推測することができそうです。

全固体電池をビジネスで成功させることができるか

よって、全固体電池の採用によるバッテリーコストの半減という点についても、

その今まで使用できなかった正負極材の導入によって、

コストを下げていくというアプローチなのではないかと推測することができそうですが、

やはりその量産コストという観点では、おそらく何年間というスパンで、

液系リチウムイオンバッテリーの製造コストにはかなわないはずですから、

果たして現状のリチウムイオンバッテリー自体の進化、およびスケールメリットによるさらなる価格低減に、

いつの時点でもってキャッチアップすることができるのか

全固体電池という技術力では勝利しても、完全電気自動車のシェア率というビジネスで負けてしまった

なんてことが起こらないように、今回の日産であったりトヨタをはじめとする、全固体電池の開発に注力している自動車メーカーには、

期待とともに、一抹の不安を感じるのは私だけでしょうか?

電気自動車セダンが最も早く登場か?

そして、今回の日産側のプレゼンにおいて、最後に明らかとなった電動化戦略についてですが、

それが、今まで説明してきた全固体電池を搭載した新型電気自動車を、4車種もラインナップしていくのではないか、ということで、

それが、プレゼンテーション内において示された、今後の電気自動車のラインナップにおけるイメージ図であり、

今後よりラインナップを拡充、特により大型の車両において十分な性能を達成するためには、エネルギー密度の革新が必須であり、

したがって、やはりある一定の段階の大型セグメントを電気自動車化するためには、全固体電池の搭載が必須である、と結論づけています。

そして、その将来のラインナップを見てみると、

アリアに続いて、さらに4車種もの大型セグメントの車種の導入を検討していることが見て取れ、

もちろん大前提として、こちらはあくまでイメージ図でありますので、

この通り大型セグメントに4車種もの電気自動車がラインナップされるのかなどは不確定なわけですが、

特に一番大型の車種として示されている、おそらくフルサイズSUVであるアルマダであったり、

もしくは、最大クラスのパトロールであったり、

それこそピックアップトラックとしてタイタンなど、

何れにしても、電気自動車において不利な大型、かつ重量級のセグメントについても、

将来的には完全な電気自動車をラインナップしていく、ということにはなりそうです。

ちなみにですが、

一番アリアに近いタイムラインであり、しかも既存の液系リチウムイオンバッテリーを採用するようである、

セダンタイプの電気自動車が、アリアに続いて、近い将来ラインナップされる可能性があるということで、

特に日産ファンの方でセダンのラインナップが少なくなってしまっていることをお嘆きになっていた方に関しては、

もしかすると朗報となるのかもしれませんし、

おそらくアリアより大型のラージサイズ級のセダンとなると、

例えば現在北米市場で導入されているマキシマなどが、

その電気自動車化の対象となるのではないか、と推測することができるのかもしれません。

11月開催見込みの日産の電動化戦略発表会に要注目

何れにしても、今回日産がプレゼンテーションを行ってきた、今後の電動化戦略に関しては、

特により大型車セグメントに対しても、実用的な電気自動車をラインナップしていくために、

様々なメリットがある全固体電池を採用すべく、その研究開発を淡々と行っているということである一方で、

やはり、既存の液系リチウムイオンバッテリーについても、

現在その最適化を爆速で進めているテスラや中国勢に対して、

果たして価格競争力という観点で、中長期的に見ても対抗することができるのか、

今後さらに明らかとなってくるであろう、日産側の研究開発の成果発表を、

具体的な数値とともに、徹底的に考察していきたいと思います。

また、来月である11月9日に開催される2021年度上半期の決算発表

もしくは、その少し後において開催されるであろう、今後の電動化戦略に関する説明会において、

もしかしたらアリアに関する正式な発売スタート、および軽自動車EVに関する最新情報、

そして、その後にラインナップされていく新型電気自動車の最新情報についても、

わかり次第情報をアップデートしていきたいと思います。

From: CEATEC(要会員登録)日本経済新聞日経クロステック

Author: EVネイティブ