EVシフトが遅れていると言われているアメリカ国内のEVシフト動向について、すでにバッテリーEVのシェア率という観点で日本の倍の成長を達成しながら、テスラが驚異的なシェア率を依然として維持、
他方で日産アリアやヒョンデIONIQ5、トヨタbZ4XなどのEVの在庫が過剰になりながら、ハイブリッドやPHEVの在庫が少なく、ユーザーはハイブリッドを求めているというトヨタの主張が正しいことが証明され始めています。
アメリカは日本の3倍EVシフトが進んでいます
今回取り上げていきたいのは、アメリカ国内のEVシフトの動向です。
まず、2020年以降のバッテリーEVの販売台数と新車販売全体に占めるバッテリーEVの販売割合を示したグラフをご覧ください。直近の2023年に突入してからは、その月間販売台数が8万台以上、5月では歴史上最高の9万台を突破しました。日本国内では概ね月間7-8000台程度で推移していることを考えれば、アメリカでの販売台数が飛躍的に伸びていることがわかります。
また、新車販売全体に占めるバッテリーEVの販売割合は、2023年5月時点で6.73%を達成しています。これは、全米で売れた新車全体のうち、13台に1台がバッテリーEVだったということです。
さらに、日本国内のバッテリーEVのシェア率とを比較してみると、2020年初頭には、アメリカと日本のシェア率はほぼ同じでしたが、その後はアメリカのシェア率が急上昇し、最新の段階では日本の3倍近くに達しています。
それでは、アメリカ国内でどのような電気自動車が人気なのかをランキング形式で見ていきましょう。テスラが圧倒的な人気を誇っていて、特にモデル3は7万台以上を売り上げ、アメリカ国内では年間20万台以上の販売ペースを維持しています。また、テスラの車種だけで、アメリカ国内のバッテリーEVの販売全体のうち、6割を占めています。これは、テスラがアメリカ国内で圧倒的な存在であることを示しています。
今回は特に注目すべきEVがいくつかあります。まず、フォードのマスタングマックEは4ヶ月で約8000台、月間2000台と販売が低迷しています。フォードは2023年末までに、グローバルで60万台のEVを生産できる体制を整えるとしていますが、現在の国内販売台数は2000台で、販売開始直後の2021年と大差ありません。
また、テスラが支配的な存在である一方、フラグシップセダンのモデルSが苦戦しています。販売台数は月間1000台を下回っています。モデルSの競争相手であるLucid Airも月間600台と、予想以下の販売状況ですが、モデルSに近づき始めています。
特に注目したいのは、日本メーカーが発売しているEVです。これまでは日産リーフしかラインナップがありませんでしたが、2022年以降には日産アリアやトヨタbZ4Xが、そして2023年にはレクサスRZが投入されるなど、少しずつ日本メーカーのEVのラインナップが増えています。しかし、販売台数は最新の2023年第2四半期で、アリアが2300台、bZ4Xが2000台弱と伸び悩んでいます。
日産アリア・トヨタbZ4Xが在庫過多状態の可能性
アメリカのニュースサイトAxiosが報じた内容によれば、アメリカ国内では電気自動車の在庫が92日分、つまり3ヶ月分に達するとのことです。この状況は、電気自動車が供給過多状態に陥っている可能性を示しています。
この状況にはいくつかの要因があります。まず、テスラは直販体制を採っているため、テスラの電気自動車はこの在庫に含まれていません。また、特に在庫過多状態にあるのは韓国ヒョンデの高級車ブランドであるジェネシスのG80 ElectrifiedやアウディのQ4 e-tron、Q8 e-tron、GMのハマーEVなどです。
アメリカでは連邦政府の7500ドル(日本円で約100万円)の税額控除を適用できない電気自動車は人気がなく、その結果として在庫が増えています。そのため、消費者は税額控除が適用可能なモデルYやモデルXなど、性能が優れたEVを選ぶか、あるいはEVの購入をあきらめる傾向があります。
我々の日本メーカーも在庫日数が増えています。特に、日産アリアは100日を超える在庫日数があり、アリアの販売台数の減少は、供給不足ではなく、単純に需要が低下していることが原因と考えられます。また、トヨタのbZ4Xについても在庫日数は101日で、これらの在庫が過剰となっている原因は、税額控除を適用できないことによるものと思われます。
しかし、バッテリーEVとは対照的に、ハイブリッド車やPHEVの在庫レベルはかなり低いです。アメリカ全体では、ハイブリッド車の平均在庫日数は44日と、バッテリーEVの半分以下です。特に、トヨタのハイブリッド車、プリウスハイブリッド、RAV4ハイブリッド、PHEVは、全ての在庫日数が30日未満と、業界平均を下回る在庫日数で、非常に需要が高いことが示されています。
以上のことから、アメリカ市場では、バッテリーEVのシェア率が7%となり、日本の3倍以上となっています。その中でもテスラは、6割もの販売割合を占め、驚異的な人気を持っています。一方で、日本メーカーの新型EV、アリアやbZ4Xの販売はスタートして一定期間が経過しましたが、目立った販売の伸びは見られず、在庫が過剰になっています。
アメリカ市場では、テスラが税額控除を満額適用可能なため、圧倒的な販売台数を維持し、アメリカのEVシフトを引っ張っています。しかし、現地生産体制が整っていない既存メーカーは、税額控除が適用できず、コストの低減もできないため、テスラの値下げ競争についていくことが難しく、厳しい戦いが続くと予想されます。
さらに、フォード、GM、ボルボ、メルセデスなどの既存メーカーは、2025年からテスラのNACS規格の充電ポートを採用することを決定しています。これにより、2025年以降に販売する新型モデルが買い控えの動きになる可能性があります。アメリカ国内で、いまだにNACS規格への移行を表明していない日本メーカーにとっては、さらに厳しい戦いが予想されます。
Author: EVネイティブ