【中国EVシフト後退?】中国EVメーカー・テスラに大打撃? EV推進政策「デュアル・クレジット・ポリシー」大幅縮小の影響を解説します

中国

電気自動車の販売台数が急増中の中国市場において、EVメーカーに対する優遇制度であるDual Credit Plicyが大幅に改定され、EVメーカーにとってさらに厳しい制度変更になるという最新動向とともに、

この中国メーカー勢が発売をスタートした2023年最強のEVたちの初期注文台数が記録的になっているという最新動向とともに解説します。

中国のEVシフトを支える「Dual Credit Policy」とは?

今回取り上げたいのは、中国市場における電気自動車(EV)関連の最新動向です。まもなく、最新の6月度のEV販売動向が報告される見込みで、そのEV販売台数、EVシェア率、および人気の電気自動車ランキングなどについては、別途詳細に解説していきたいと思います。

なぜ新興メーカーだけでなく、既存の自動車メーカーも電気自動車を数多くラインナップしているのかというと、それは中国政府が導入している「デュアルクレジットポリシー」という制度が影響しているからです。

中国市場のEV販売台数が急増する要因となったEVの中には、日本メディアでも取り上げられたことで話題になっていた「Hong Guang Mini EV」という電気自動車もあります。

この車は、超小型EVとして、中国CLTCサイクル基準でも120kmしか走行することができず、急速充電にも対応していないため、EV性能を割り切っています。しかし、その価格設定が日本円に換算して約50万円からという格安さが、車を買えずに電動バイクを使用していた農村部のユーザーから大きな支持を得て、2020年、および2021年に中国のベストセラーEVとなりました。

しかし、ここで問題になるのは、50万円程度で電気自動車を販売したとして、ユーザーにとっては格安でEVが手に入るというメリットがある一方で、自動車メーカー側としては利益が出ていないのではないかという疑問です。

実際に、このHong Guang Mini EVを販売しているWulingの利益と販売台数を単純に割り算してみると、販売台数がトップクラスであった2021年においても、一台あたりの利益はたったの1500円ほどしか出ていない計算になります。

しかし、中国のEVメーカーが採算を保つための政策が存在していて、それが「デュアルクレジットポリシー」の存在です。

中国国内の電気自動車販売に関しては、消費者に対する補助金とは別に、自動車メーカー側に対してもインセンティブが与えられています。それは、自動車メーカーごとに燃費基準を設定し、その目標値を達成することを義務付けています。これにより、販売台数の一定割合を、電気自動車や省エネルギー車にすることが促されています。

さらに、もう一つの政策として「NEVクレジット」と呼ばれる制度があります。新エネルギー車を発売すればするほど、その販売台数に応じてNEVクレジットを獲得することが可能です。また、その新エネルギー車一台あたりのNEVクレジットは、その車両の電費性能や燃費性能の高さを考慮して増減するため、自動車メーカー側としては、より高効率の新エネルギー車を開発するインセンティブも働きます。

したがって、政府が課し、毎年厳しくなっていく燃費基準に達することができなかった自動車メーカーは、特に電気自動車の販売台数が多く、NEVクレジットが余っている自動車メーカーから、そのクレジットを買い取ることによって、その燃費基準を達成します。これが「デュアルクレジットポリシー」の大まかな仕組みです。

したがって、電気自動車の販売台数を伸ばしている自動車メーカー、特にテスラやNIO、Xpengを始めとする電気自動車専業メーカー、また電気自動車の販売シェアが多いBYD、そして今回例示しているWulingについては、その余剰分のクレジットを他のメーカーに売り付けることが可能です。

ただ電気自動車を販売した分の利益だけでなく、そのクレジット分の利益も得ることが可能になります。特に現在は、より厳しい燃費基準が課されている状況もあり、そのクレジットの取引額も上昇し続けています。この制度がスタートした際の1クレジットあたりは、概ね300元、日本円にして6000円であった相場が、現状では最大3000元程度、日本円にしてなんと60000円ほどにまで上昇している状況です。

例えば、2020年シーズンにおけるWulingブランドのNEVクレジットは、おおよそ50万弱でしたので、そのNEVクレジットを含めたHong Guang Mini EVを発売したことによる利益は、仮に2021年シーズンの相場における最高値を適用した場合、3億8000万元、日本円にしてなんと75億円程度にも上がるという試算すらあります。

また、テスラの中国法人についても、2020年シーズンにおいては、クレジットの販売によってなんと2000億円以上という莫大な収益を上げることができました。その2020年シーズンは、そのNEVクレジットの半分程度しか純利益を計上することができていませんでした。

つまり、中国のテスラにとっては、このNEVクレジットがなければ、黒字化することができていなかったということです。

中国テスラについてはNEVクレジット取引にだいぶ助けられていた

さらにNIOについても、2020年シーズンにおいて、効率性の高いバッテリーEVのみを多く販売することによって、ズバリ20万クレジットを獲得できていたと説明します。こちらは2021年シーズンの取引価格で計算すると、200億円規模の価値があります。

何れにしても、電気自動車単体を発売することによる利益率が極めて低かったとしても、現状の中国の電気自動車推進のデュアルクレジットポリシーの存在によって、自動車メーカーは、より安価な電気自動車を大量に販売することができるのです。

したがって、超小型格安EVのHong Guang Mini EVは、その一台あたりの利益率は低かったとしても、その中国政府が導入しているデュアルクレジットポリシーという制度によって、中国政府が課す自動車の燃費基準、および一定の新エネルギー車両の販売台数を達成しながら、それと同時に、新エネルギー車両の販売で得られたNEVクレジットを、競合の内燃機関車の販売が多い自動車メーカーに売ることで利益を確保できます。

バッテリーEVをはじめとする新エネルギー車両、しかも、より効率性の高い車両開発を促すことができることで、中国メーカーの競争力をさらに引き上げようとしていたということなのです。

NEVクレジット減少はEVメーカーにとって悪条件ではない

そして、このデュアルクレジットポリシーについて新たに明らかになってきたことというのが、2023年の8月から、その新エネルギー車両一台を販売するごとに得られているNEVクレジットの計算式が大幅改定され、獲得可能なクレジットが大幅に減少するということです。

仮に、CLTC航続距離500kmを達成するバッテリーEVを例にとって、新たな計算式を当てはめてみると、一台あたり1.9クレジットを獲得することができます。

以前は3.2クレジットを獲得することができていたことから、バッテリーEV一台ごとで得られるクレジットは、なんと40%も減少してしまいます。

つまり、これまで電気自動車を多数販売していたEV専業メーカーたちは、NEVクレジットの売買によって、これまでのような収益を上げることができなくなります。

また、自動車メーカーに求める新エネルギー車の販売台数を含めた燃費基準は毎年厳しくなっていきます。したがって、その燃費基準に達しなければ、同様に競合EVメーカーからクレジットを購入しなければならないのです。

しかし、そのクレジットについては、概ね40%程度も獲得できる量が減っていることで、さらにクレジットの取引額が跳ね上がることは確定的です。このため、内燃機関車を多く販売しているような既存メーカーとしては、クレジットを購入することによって相殺する方法は、さらにコストが増します。そのため、やはり自社内で新エネルギー車両を販売することが求められます。

結局のところ、既存メーカーからのEV販売の動きが、さらに活発化していくのではないかと予想されます。

NEVクレジットが減少したとしても、燃費基準も厳しくなるので、既存メーカーがさらにEVを販売しなければならないことには変わりません

いずれにしても、間もなく大幅に改定されるデュアルクレジットポリシーにより、電気自動車メーカーが獲得できるNEVクレジットが大きく減少してしまう見込みです。これはEVメーカーにとって大打撃となるという見方が存在します。

同時に、これまで通り多くの内燃機関車を販売していく我々日本メーカーをはじめとする既存メーカーに関しては、さらに厳しくなる燃費基準により、競合からNEVクレジットを購入するか、もしくは自社内でNEV販売比率を大幅に高めるか、という2つの選択肢に迫られます。

しかし、他者からのNEVクレジットを購入する選択肢は、取引価格がさらに上昇することにより、競合メーカーに支払う金額も増えてしまいます。また、自社内でNEV販売比率を大幅に増やすという選択肢も、日本メーカーのNEV販売台数を見てもわかるように、アリアやbZ4Xが大幅な値引きをしているにもかかわらず、販売台数は低下中です。

日産アリアは中国で120万円弱の大幅値下げを断行するが、販売台数は全く増えず

このデュアルクレジットポリシーの内容を理解していただければ、なぜアリアやbZ4Xが100万円以上という大幅な値引きを断行できているのかがわかると思います。しかし、それでも販売台数を稼げていないのであれば、自社内でNEVクレジットを稼ぐことは厳しく、一台あたり獲得可能なクレジットも減少しています。

実は、EVメーカーにとってマイナスな話というよりも、内燃機関車を多数販売している既存メーカーの方が、さらに厳しい規制に直面する可能性があります。内燃機関車で販売規模を維持しようとする日本メーカーにとっては、この中国市場でさらに厳しい戦いが待ち構えているというわけです。

中国最新EV「G6・N7」が想定を超える販売台数を達成中

ちなみに、中国のEVメーカーの最新動向として、2023年に大注目のEVの正式な注文台数が明らかになってきています。

まず、BYDの高級車ブランドであるDenzaのシューティングブレーク、N7については、正式発売後24時間でなんと11687台という注文台数を獲得しました。このN7は、日本円にして600万円以上というプレミアムセグメントに該当しますが、それでもたったの1日で1万台以上という売れ行きを記録しました。

また、テスラモデルYの直接的な競合車種として注目されていたXpengのミッドサイズSUV、G6についても、正式発売前の段階で3万5000台以上の予約注文を獲得していました。正式発売後の注目度はさらに高まり、なんとG6の試乗を求めて夜の10時半を超えてもなお、試乗の列が途切れないという熱狂的な状況が報告されています。

初動調査によると、Xpeng側は正式には公開していませんが、すでにG6の正式な注文台数は28000台を突破しているという驚異的なレベルにあるとのことです。

Xpengは、今後数ヶ月間で月間1万台程度の生産規模にまで拡大する予定ですが、この段階で既に数ヶ月待ちとなってしまう状況です。

なぜ今回Xpengは正式注文台数を公開しないのかと言えば、想定を大幅に超える注文台数により、生産までに時間を要するという報道を回避するためだと考えられます。

いずれにせよ、最近発売が開始されたN7およびG6は、当チャンネルの予想通り、想定を大きく上回る初動を達成しています。特に9月以降、生産体制が整うと、記録的な販売台数を見込むことができます。

激しさを増す中国のEV戦争の最前線を、これからも更新していきたいと思います。

From: MIITCNEV POST(G6)Weibo(N7)

Author: EVネイティブ

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