フォルクスワーゲンのトップが社内会議において、現在フォルクスワーゲンのすべてが危機に瀕し、屋根が燃えているというフォルクスワーゲンの経営状況を好転させるために3年間で1.5兆円ものコストカットの方針を表明、
このフォルクスワーゲンの厳しい現状から我々日本メーカーに対する懸念がさらに深まっているという、既存メーカーのEVシフトの厳しい現実についてをまとめます。
「フォルクスワーゲンの屋根が燃えています」
まず、今回取り上げていきたいのは、ドイツの巨人、フォルクスワーゲンの最新動向です。このフォルクスワーゲンについては、グループ全体で、2022年シーズンでは57万台以上ものバッテリーEVを販売することに成功しました。2030年時点において、グループ全体の販売台数の50%をバッテリーEVにするという大目標を掲げています。
特に、中核ブランドであるフォルクスワーゲンブランドについては、お膝元である欧州市場に関して、2030年までに、バッテリーEVの販売シェア率を8割にまで引き上げる予定です。さらに、2033年までにはバッテリーEVのみの販売へと移行する方針すら表明しています。
そして、その電動化やソフトウェア部門に対して、莫大な投資を表明することによって、今後も既存メーカーのEVシフトを牽引していくと思われていたという背景があったのです。
ところが、このフォルクスワーゲングループについては、さまざまな問題が山積している状況です。高級車ブランドであるアウディについては、EVシフト、およびグループ全体の次世代プラットフォームとなるSSPの開発を主導していた、トップのMarcus Duesmannの解任を発表しました。
また、最重要マーケットである中国市場におけるバッテリーEVの販売台数が全く伸びていないことにより、確かに短期的にはガソリン車が売れているものの、中長期的な中国市場における中国メーカー勢にシェアを奪われる可能性が極めて高いです。
その中において、なんと水面下で、中国国内で合弁体制を構築している、SAICとタッグを組んで、その高級EV専門ブランドであるIMモーターのEVプラットフォームを購入しようと交渉が進められている模様です。
すでに本チャンネルにおいては予測していた通り、中国メーカーに対抗するためのソフトウェア、自動運転システムを、果たして既存メーカーが開発することができるのか、どこかのタイミングで、自社開発を諦めて、中国メーカーなどから購入するのではないかと考えていたわけですが、
なんと、もはやソフトウェア部分だけではなく、EVプラットフォームという、ハード面についても、もはや外注するという始末です。確かにEV専用プラットフォームとはいうものの、別にバッテリーやモーターなどという主要パーツだけでなく、EEアーキテクチャーなどは、ソフトウェアと密接に関連する部分です。
よって、中途半端に自社のEVプラットフォームを採用しようとすると、他社のソフトウェアシステムを導入するのに、また大変な開発を必要としますし、結局中途半端なシステムに留まる可能性が高いです。
よって、アウディについては、自社独自のプラットフォームの開発が間に合わないことを悟って、プラットフォーム開発を丸ごと中国メーカーに丸投げする選択を採用しました。
この段階で、アウディとしてはブランドくらいしか残らなくなるのです。まさに進むも地獄、止まるも地獄状態、ということなのです。
さらに、グループ傘下のポルシェに関しても、今後の自動運転システム開発を、モービルアイと共同で開発すると発表したものの、このフォルクスワーゲングループについては、グループを横断するソフトウェア部門であるCariad内で、現在自動運転システムの開発を進めている状況です。
この状況を端的に表せば、ポルシェのトップであるオリバー・ブルームは、フォルクスワーゲングループトップであるオリバー・ブルームを信用せずに、グループとは別路線の、独自の自動運転システムの開発に着手した、というようなイメージです。
グループ内の混乱模様が容易にイメージできると思いますし、また、フォルクスワーゲンブランドに関しても、特に2023年の1月から、販売ディーラーにおける注文数が激減している状況です。
中でも、主力車種であるID.4の需要が低迷していることによって、ID.4などを生産するエムデン工場の生産を一時ストップしている状況です。
今後も需要が上向かない場合は、ID.4生産の主力工場であるズウィッカウ工場についても、シフトを減らす可能性も示唆しています。
生産工場の稼働率が下がってしまえば、ただでさえEVを販売することによる利益率が低いにも関わらず、さらにEV生産に関わる利益率が低下してしまうのです。
しかも、ズウィッカウ以外にID.3の生産をスタートした、最大工場のヴォルフスブルク工場においても、現在ID.3の需要低迷によって、1日あたり、2桁のID.3しか生産することができていない状況です。
いずれにしても、フォルクスワーゲングループについては、EVシフトという観点で、明らかに問題が顕在化し始めている状況、ということなのです。
そして、今回新たに問題が浮上してきたのが、フォルクスワーゲンブランドのトップであるトーマス・シェーファーが、マネージャー2000人を集めた全体ミーティングにおいて、現在のフォルクスワーゲンが置かれている極めて厳しい現状を演説してきたということです。
というのも、この7月10日に開催された全体ミーティングにおいて、このフォルクスワーゲンブランドの状況を、屋根が燃えていると表現しました。具体的には、競合のBEVメーカーに関しては、フォルクスワーゲンの2-3倍という利益を上げている状況であり、しかもその上、経済が不況に入り始めているという流れを含めると、現在フォルクスワーゲンを取り巻く状況というのは、完全に嵐が吹き荒れ始めていると表現しました。よって、シェーファーについては、今後は、法律で義務付けられている大規模な投資以外は、これ以上何も承認されるべきではないとすら断言している、ということなのです。
つまり、現在フォルクスワーゲンについては、内燃機関車とEVという両方への大規模投資を進めていたものの、実際に発売されている電気自動車の完成度が高くなく、よって、徐々に需要が低迷してしまっています。
他方で、利益率の低いフォルクスワーゲンとしては、むやみやたらな値下げを行う体力が残されていないことによって、まずは、大量出血を止血するために、大規模投資の中断を宣言してきた格好です。
まさにこれこそ、本チャンネルが懸念していた、既存メーカーの抱える究極のジレンマです。電気自動車にシフトしていくために、まずは既存の内燃機関車で投資余力を蓄えるといった手法というのは、堅実に聞こえはするものの、その実態というのは、投資が内燃機関とEVの両方に分散することによって、EVとしての完成度、および収益性という両方の観点で中途半端な状況になってしまいます。
そして、フォルクスワーゲンの2-3倍もの収益性を確保してしまっているのは、まさにこれはテスラ以外の何者でもないわけですが、このテスラというのは、2023年に突入してから、我々日本を含めて、全世界的に大幅値下げを行っており、今回のドイツやヨーロッパ全体も全く例外ではなかったのです。
まさに、なぜ2023年の1月以降、フォルクスワーゲンのEVに対する需要が急速に低下しているのか、それはテスラの大幅値下げによって、フォルクスワーゲンのEVへ魅力を感じなくなっているからであり、それでもテスラは、収益性で数倍の余力があるために、値下げ戦争に火をつけることができていたのです。
対するフォルクスワーゲンは、そのテスラの値下げについていくことができなかった、その結果が、いよいよ表面化し始めている、ということなのです。
現在のフォルクスワーゲンの惨状は、ディース元会長を潰した結果です
そして、今回フォルクスワーゲンに対して最も重要な懸念というのが、実は、今回シェーファーが行った演説における警鐘というのは、すでにとある人物が全く同様の警鐘を、数年前から行なっていたということです。
それが、フォルクスワーゲンの前トップであるHerbert Diessの存在です。このディースについては、もともとBMWにおいて、i3やi8という電気自動車の責任者を務めており、フォルクスワーゲンのディーゼルゲートの後処理を行うべく、BMWからフォルクスワーゲンに移ったという経歴の持ち主です。
実際に、電気自動車シフトを行うために、EV専用プラットフォームであるMEBの開発を主導し、そして、2019年にイーロンマスクがドイツベルリンにおけるギガファクトリーの建設を表明した段階から、テスラに対するリスペクトを積極的に表明するという異例の対応を取り、フォルクスワーゲンについても、テスラに追いつくために、さらなるEVシフトを進めるべきと主張しました。
特に、Power Dayという、今後のEV戦略において重要な電池開発、電池工場への莫大な投資計画、さらにはNew Autoという、2030年までの、具体的な経営方針を策定するなど、既存メーカーのEVシフトという点で、非常に早い動きであったわけです。
ところが、本チャンネルでも定期的に取り上げていたディースについては、このままのEVシフトのスピードに留まれば、3万人もの解雇をしなければならなくなると、マネージャーミーティングにおいて警鐘を鳴らしていたという背景が存在します。
そして、その警鐘に待ったをかけたのが、フォルクスワーゲンの労働組合の存在であり、当時のフォルクスワーゲングループの監査役会の19議席のうち、なんと9議席が、労働組合で支配されていたということから、急速にディース下しの動きが活発化しました。
グループトップの地位には留任したものの、すぐに、実質的な経営権を剥奪され、グループ全体のソフトウェア開発部門であるCariadのトップに就任しました。
ところが、このCariadのトップという人事というのは、ソフトウェアの開発の遅れをディースになすりつけるためのなんちゃって人事で、よって、その開発遅れの責任を追求して、3万人のレイオフ警鐘発言からたったの1年足らずで、CEO職の座を追放しました。
ことの経緯はざっとこんな感じですが、いずれにしても何が言いたいのかと言えば、
実はフォルクスワーゲンについては、数年前から、そのEVシフトにおける、痛みを伴う改革の必要性を知っていたものの、その発言を潰していたという背景が存在します。
結局トップが変わったとしても、問題は解決されていないわけですから、結局今回のように、後任のシェーファーについても、ディースと全く同じ警鐘を行なってしまっている、ということなのです。
このようにして、ドイツの巨人であるフォルクスワーゲンについては、現在EVシフトという観点で、とてつもない逆風に晒されてしまっている状況です。おそらく例年秋ごろに策定される、今後5年間の投資計画については、利益率の抜本的な見直しを前提として、これまでとは様変わりする可能性が濃厚となってきていますし、もしかしたら、投資抑制だけには収まらず、レイオフという最後の手を使ってくる可能性も濃厚です。
ところが、このレイオフについては、労働組合が強烈に反対してくることは間違いなく、さらに泥沼化することも確定的です。しかしながら、その泥沼の最中でも、テスラや中国勢のEVシフトが止まることはなく、さらにフォルクスワーゲンとのEVシフトの効率性で、引き離しを行なってくるでしょう。
そして、忘れてはならない点というのが、このフォルクスワーゲンに対する警鐘というのは、前トップのディースが全く同様に警鐘を鳴らしていたことから、ディースの失脚を画策していた段階で、すでにフォルクスワーゲンの暗い将来は確定していたのかもしれません。
いずれにしても、フォルクスワーゲンについては、今後のEVシフトに対する投資を、一時的に抑制する可能性が高いですので、今後数年間における、EV戦争のプレゼンスが低下することは必至で、販売台数などに関する最新動向には、今後もチェックしていきたいと思います。
この手の話は、何もフォルクスワーゲンだけではなく、我々日本メーカー勢についても、全く同様に当てはまる話です。それこそ、日産についても、COOであるグプタ氏を追放したこと、そして世界戦略車であるアリアの販売がグローバルで失敗に終わっているという状況の中、e-POWERとEVの二正面作戦というのは、まさにフォルクスワーゲンと被るわけですが、
現在の内田社長だけで、EVシフトをリードすることなどできるのか、ホンダについても、2023年の4月の会見の中で、いまだに、中国のEVの進化が目覚ましいことを上海オートショーで実感させられたなどと抜かす三部社長が、中国勢のようなSoftware Defined Vehicleなど、いつになったら作れるのか、
トヨタについても、全方位戦略とは聞こえがいいものの、やはりEVに対する投資額は、既存メーカーの中では劣っているわけですし、本気のEV第一弾であったはずのbZ4Xの完成度と、欧米中における実際の販売台数の低迷具合、なんといっても、戦略の練り直しを迫られたバッテリーEV戦略、
中でも2026年に発売予定の次世代EVが、本当に完成度が高いのか、ソフトウェアの開発が間に合うのか、開発が間に合わないか、もしくは完成度やコスト競争力が目ぼしく、結局アウディのように、中国メーカーからプラットフォームやソフトウェアシステムを購入することになってしまわないか、
フォルクスワーゲンの行方を見るに、日本メーカーのEVシフトについても、かなり厳しい未来が待っているのではないか、間も無く答え合わせの時間が始まろうとしています。
From: WARDS AUTO、Volkswagen
Author: EVネイティブ