【中国EV戦争最前線】販売低迷中の中国EVメーカーの切り札 「Xpeng G6」前後ギガキャスト・市街地自動運転搭載

G6

中国のEVスタートアップであるXpengが新型電気自動車としてG6の正式な販売をスタートしながら、そのEV性能に留まらず、標準装備内容、および市街地における自動運転システムを含めて、

2023年Xpeng自身にとっても、そして中国EV市場全体にとっても極めて重要なモデルであるG6の驚異的なコストパフォーマンスについてを解説します。

G6は「モデルYキラー」Xpengの起死回生の一台だ

まず、今回のXpengについてですが、これは2014年に設立された中国のEVスタートアップで、すでに4車種のEVを販売し、急速に販売台数を拡大することに成功しました。

2021年末から2022年中盤にかけて、月間1万5000台を超える販売台数を達成しました。これは、その当時の中国EVスタートアップとしては、トップクラスの販売実績であったため、今後さらに販売台数を伸ばすと考えられていました。

しかし、2022年9月から納車がスタートしたフラグシップSUVのG9については、当初、月間1万台程度という販売目標を掲げ、競合となるアウディQ5の販売台数を超えるという目標であったものの、2023年に突入してからの販売台数については、概ね1000台程度となり、完全に不発に終わってしまっています。

そして、このG9の販売低迷によって、Xpengについては大きく2つの面で問題が浮上しました。まず、G9で見込んでいた販売目標を全く達成できていないことによって、Xpeng全体の販売台数が低迷しています。特に2023年に突入してからというもの、月間で7000-8000台の間と、一時の半分という販売規模となっています。

そして第二に、G9はフラグシップモデルであったことから、その利益率に期待することができていたわけですが、G9が不発に終わってしまったことによって、Xpeng全体の収益性という観点でも、かなりのマイナスとなってしまいました。2023年第一四半期の決算発表では、赤字がさらに拡大してしまいました。

いずれにしても、現在Xpengは、想定以下の販売規模に落ち込んでしまったことによって、この厳しい中国EV戦争の中で、ピンチに追い込まれてしまっています。このピンチを脱却するためのヒット商品の登場が待望されているという背景があります。

G9は不発に終わる

そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、Xpengの待望の新型EVであるG6のワールドプレミアおよび正式な発売がスタートしたということです。

実は、このワールドプレミアの前に、上海オートショー内で、G6のお披露目は行っていました。特に注目すべきは、このG6には、Xpengの次世代プラットフォームであるSEPA2.0が初めて採用されました。

中国市場においてはテスラでも達成できていない、前後アンダーボディにそれぞれギガキャスティングを採用しながら、800Vシステムを採用することで充電性能を飛躍的に改善、最新の炭化ケイ素を採用したパワートレイン、ヒートポンプシステムの導入による航続距離の改善、ラインナップを通して、最大で80%もの部品を共有可能なことによる、開発コストおよび開発期間の大幅短縮、市街地における自動運転システムの拡大適用など、次世代プラットフォームであるSEPA2.0の導入というXpengが現在有するすべてのテクノロジーを詰め込んだ最新EV、それが、今回のG6なのです。

それでは、今回のミッドサイズSUVであるG6について、特に直接の競合車種となるテスラモデルYと比較して、どれほど競争力のあるスペックを達成できているのかについてを、徹底的に比較していきたいと思います。

まず初めに、今回のG6のサイズ感についてですが、全長4753ミリ、全幅1920ミリ、ホイールベースが2890ミリとなっており、まさにモデルYと瓜二つのサイズ感で、なだらかにルーフが下がっていくクーペタイプという点も、非常にプロパーションが似ています。

そして、今回のG6については、全部で5種類のラインナップを揃えていますが、実際にはロングレンジRWDグレード、スーパーロングレンジRWDグレード、そしてAWDパフォーマンスグレードという3種類のラインナップと、オプションなどによるラインナップ数を相当絞ってきていることが見て取れます。

こちらは、顧客のニーズを拾いきれない恐れがありますが、その分だけ生産コストを引き下げることが可能です。このラインナップ数の少なさからも、XpengがG6の販売に相当自信があることが見て取れると考えられます。

そして、搭載バッテリー容量については、ロングレンジが66kWhのLFP、そしてスーパーロングレンジが87.5kWhの三元系バッテリーを搭載しています。それによる航続距離が、中国市場で一般的に採用されているCLTCサイクルにおいて、最大で755kmとなっています。これは、このミッドサイズSUVセグメントとしては、中国で最も航続距離の長い一台となります。

特に注目するべきは、その電費性能という観点です。755km走行できるにも関わらず、その電費性能は132Wh/kmと、競合として電費性能に定評のあるモデルYの127Wh/kmに極めて接近しています。

しかし、今回Xpengは、実際にCLTCサイクル基準での測定結果では、755kmを大きく上回る800km以上という航続距離を達成していると説明しました。その一方で、ユーザーに誤解を与えないように、あえて航続距離を低く見積もって公表しています。

実際に、そのXpengの主張が正しいことを示唆する検証結果として、ノルウェーのNAFが主催する、様々なEVの航続距離を一斉に検証するテスト結果では、すでにXpengが発売中のP7iおよびG9の航続距離テストの結果が、欧州WLTCモードというカタログスペックを大きく上回っています。対して、テスラをはじめとするそれ以外の電気自動車については、軒並みカタログスペックの結果を上回ることができていません。

つまり、今回のG6についても、カタログスペックでは755kmという航続距離に留まっているが、実際には800kmを超えるカタログスペックを達成済みであり、実際にユーザーが検証を行えば、テスラモデルYの効率性を凌駕するポテンシャルを十二分に秘めているということです。

XpengのEVはカタログスペックを大きく超える

さらに、このG6の強みは効率性だけではありません。特に、充電性能が最大280kW級という充電出力に対応可能となり、モデルYを上回る充電性能を発揮しています。充電残量80%まで充電するのにかかる時間も、たったの19分となり、モデルYロングレンジよりも10分以上の充電時間短縮を実現しています。

この充電性能は、すでに中国の現地メディアが検証しています。スペック通り、最大285kWという圧倒的な充電出力に対応しながら、充電残量80%に到達してもなお、150kWを超える異次元の充電性能を達成しています。この性能は、800Vシステムによる恩恵だと思われます。

Xpengは、この充電性能を担保するために、最大480kWという充電出力を発揮可能な最新のS4スーパーチャージャーを中国全土に整備中であり、2023年中に500ヶ所を整備し、2025年末までには合計で2000ヶ所にまで拡充する計画も発表しています。

しかも、この充電性能は800Vシステムに対応した充電器だけではなく、中国全土に普及している一般的な400Vの公共の充電器でも恩恵を受けることができます。例えば、公共の180kW級急速充電器を5分間使用すると、通常のEVでは7kWh程度しか充電できないものの、G6では11kWh以上も充電することが可能です。いずれにしても、最短の充電時間だけではなく、すべての充電器においてでも、G6の高い充電性能の恩恵を受けることができるということです。

また、G6に採用されている最新テクノロジーである、前後のギガキャスティング、および、バッテリーパックを構造物としてシャシーを設計するCell Integrated Bodyの採用によって、車両重量の大幅な軽量化に成功しました。

モデルY RWDの重量が1929kgであるのに対し、G6ロングレンジは1995kgとなっています。6kWhも余分にバッテリーを搭載しているにも関わらず、その重量差を66kgにまで抑えることに成功しました。これは、最適化の鬼であるモデルYと同等の軽量化を実現することができています。

また、ギガキャスティングの導入によって、ボディ剛性もさらに向上しました。ねじり剛性は41600ニュートンで、BMW X5、メルセデスSクラス、ポルシェケイマン718よりも高剛性というレベルです。そのため、エルクテストと呼ばれるハンドリング性能についても、時速82kmと、SUVとしては驚異的な結果を出しました。

さらに、車内スペースの最大化という観点でも、例えばリアシートのヘッドルームを1020ミリも確保しています。これは競合であり、よりボクシーなフォルムのBMW iX3よりも長く、また、比較対象であるモデルYについても、1001ミリと圧倒的です。

また、後席のニールームについても、136ミリと、iX3を圧倒しています。いずれにしても、このクーペタイプのSUVとしては、車内スペースの広さはトップクラスであると言えます。

そして何より注目すべきは、その価格設定です。今回のG6は、エントリーグレードにおいて21万元以下、日本円に換算すると驚異の418万円からという、驚愕のコストパフォーマンスを実現しています。これはモデルYと比較しても、100万円以上も安価な価格設定となります。この価格設定は、現地メディアやSNSでも極めて高く評価されています。

しかも、このG6については、価格発表前のワールドプレミアの前日までに、すでに3万5000台以上という予約台数を獲得しています。おそらくこの価格設定を見て、さらに注文を決意したユーザーも多く存在すると思いますので、この数日中に発表されるであろう注文台数の速報値、および第三者機関による、実際の注文動向のリサーチにも注目していきたいと思います。

標準装備内容の充実度合いに注目

また、このコストパフォーマンスの高さが、EV性能以外で比較するとどの程度であるのかを特に標準装備内容の観点で、モデルY、および日産アリアと比較していきたいと思います。

まず、タッチスクリーンについては、G6は14.96インチと、モデルYと同等のサイズ感であり、そのインフォテインメント周りのプロセッサーについては、QualcommのSnapdragon8155を採用しているため、極めて滑らかな操作性を実現しています。

さらに、スマートフォンのワイヤレス充電器についても、モデルYと同様に2台同時充電が可能であり、その充電出力も驚異の50Wと急速充電化が可能で、充電性能を引き上げるために強制空冷式のファンが取り付けられています。

ワイヤレス充電の急速充電化は今後のトレンドになると思います

また、シート調整については、当然メモリー機能付きの電動調整であり、シートヒーター、シートクーラーも標準です。さらに、ヒートポンプ式の空調システムを導入しながら、充電性能の最大化のためのプレコンディショニング機能も標準となっています。

車外に電力を供給可能なV2L機能も装備しており、中国でも人気のキャンプにぴったりの機能です。音響システムに関しても、合計で18ものスピーカーを全グレードで標準装備していますので、モデルYよりも高音質に期待できます。

そして何よりも、中国のユーザーがXpengに最も期待するのが、自動運転システムの完成度です。すでにXpengは、上海や北京、深センなどの大都市において、City XNGPと呼ばれる市街地向けの自動運転システムの提供を開始しています。こちらはアメリカ国内で提供されているテスラのFSD Betaと同様の機能となりますが、実際のユーザーによる週間利用率が驚異の94.6%という数値からも、非常に実用性の高い機能であることが示されています。

この自動運転システムは、Maxグレードでは全て標準装備となっており、競合であるNIOやLi Autoはサブスクリプションやオプション設定で対応していますが、Xpengはこの自動運転システムの魅力度が高いことを理解し、全てのグレードで標準装備しています。この市街地向け自動運転システムの存在も、G6の販売台数をさらに増加させる要素になるでしょう。

今回発表されたXpengの最新EV、G6は、モデルYをも上回るEV性能を実現しつつ、その内外装の質感についてもモデルYを上回る充実した装備内容を備えています。それにもかかわらず、モデルYよりも100万円以上も安い価格設定によって、その事前予約台数からも、間違いなくXpeng史上、最大のベストセラーになることは間違いありません。

さらに、このG6は、2024年中にヨーロッパ市場でも発売を開始するとアナウンスしています。これまで一定の販売台数を上げていた日本やドイツのメーカーが、G6の登場でどこまで販売を維持できるかが注目されます。

そして、Xpengの真の価値である自動運転についても、現状では中国で最も洗練されたシステムを提供することができていますので、このG6の販売増加によってさらにXpengの自動運転システムが進化していくことにも期待しています。

これらを考えると、販売が低迷していたXpengが、今回のG6の発表により、起死回生のチャンスをつかんだと言えるでしょう。

From: XpengXpeng(Configurator)WeiboXpeng(Launch Event)

Author: EVネイティブ