【EV航続距離戦争にトヨタが終止符?】トヨタの最新プリウスの発表から見える、EVに対する甘い捉え方とは

トヨタ

トヨタが北米市場において、新型電気自動車として最新型のプリウスの発売をスタートし、

その航続距離が、ついに1000kmの大台を突破してきたという超朗報が舞い込んできました。

巨人がEVシフトを本格化!

まず、今回の北米市場におけるトヨタに関してですが、

ちょうど直近である11月中にも、トヨタの初めての本格量産電気自動車となる、bZ4Xのワールドプレミアを開催し、

特に満充電あたりの航続距離が、

高速道路を時速100kmでクーラーをつけても達成可能であるというような、実用使いにおいて最も信用に値するEPAサイクルという、

そのアメリカ市場で一般的に採用されている測定方法において、

最大で402kmを達成してくる見込みであり、

実際の納車に関しても2022年の中旬からスタートするということとなりましたので、

いよいよトヨタが完全電気自動車に対して、大きな一歩を踏み出そうとしているのです。

ただしトヨタに関しては、このbZ4Xよりも前に、

すでに電気自動車を何車種もアメリカ国内に投入していたという背景があり、

それが、2012年に発売をスタートした、RAV4 EVという完全電気自動車であり、

こちらは、トヨタが発売していたミッドサイズSUVのRAV4のプラットフォームを流用しながら、

なんと、テスラのバッテリー技術を搭載したという、

今考えてみれば、トヨタとテスラが共同開発した完全電気自動車という、まさに夢の共演が実現したEVな訳で、

41.8kWhというバッテリー容量を搭載しながら、

最も信用に値するEPAサイクルにおいて、およそ161km程度を達成していたわけですが、

ポイントは、このRAV4 EVに関しては、そのテスラのお膝元でもあるカリフォルニア州のみでしか販売されず、

その販売台数も立ったの2000台程度、

さらに、発売から立ったの2年後である2014年中にも、このトヨタとテスラの電気自動車開発におけるパートナーシップは解消されてもしまっていましたので、

トヨタ初の本格量産電気自動車というには、物足りないプロジェクトに終わってしまった、

ということなのです。

そしてその後、トヨタに関しては、完全電気自動車の市場投入は一旦横において、

そのRAV4 EVのような、

搭載された大容量のバッテリーに、充電して貯められた電力のみので走行することができる完全な電気自動車ではなく、

そのバッテリーとともに既存のガソリンエンジンも搭載して、両方を併用して走行することができる、

プラグインハイブリッド車の展開にフォーカスし、

実際に、Prius Primeを皮切りに、

さらには、テスラの技術を詰め込んだ完全電気自動車としては販売が振るわなかった、

RAV4のプラグインハイブリッド車バージョンとなる、RAV4 Primeを発売し、

こちらは反対に、かなりの成功を収めているわけであり、

さらに、そのRAV4 Primeに搭載されているプラグインハイブリッド車用のパワートレインを共用して、

高級車ブランドであるレクサスブランドからも、初めてのプラグインハイブリッド車として、NX450h+も発売をスタート、というように、

何れにしても、もともと完全電気自動車から展開していたトヨタというのは、

その後は、プラグインハイブリッド車を中心に電気自動車を展開してきた、

という背景があったのです。

Lexus NX450h+

北米トヨタが航続距離1030kmのプリウスを発売の衝撃

そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、

その北米トヨタが、ここまで取り上げた電気自動車の中のうちの、

Prius Primeの、最新モデルとなる2022年モデルを新たに発表してきたということで、

まず特筆すべきなのは、そのインテリアの質感に関して、

特に注目すべき点として、上級グレードのみとはなりますが、

車両中央に配置された、11.6インチという縦型の大型タッチスクリーンを搭載し、そこから車両操作の多くを行うことができ、

こちらは近年多くの車両で見られている、ディスプレイの大型化の流れをしっかりと採用してきた格好となりそうです。

そして、本メディアにおいて注目していかなければならないポイントであるのが、その電気自動車としての質であるわけですが、

まず、8.8kWhというバッテリー容量を搭載しているということで、

こちらに関しては、

例えば、RAV4 Primeの搭載バッテリー容量が18.1kWhと、倍程度のバッテリー容量を搭載している、ということを考えると、

個人的には、もう少しバッテリー容量を増やして欲しいという意見ですが、

それと同時にトヨタ側については、この8.8kWhというバッテリー容量であったとしても、

多くのアメリカ在住のドライバーが、日常の通勤の際に必要な航続距離を賄えてしまい、

必要にして十分である、とは説明しています。

そして、その気になる航続距離に関してですが、

最も信用に値するEPAサイクルにおいて、最長640マイル、

つまり1030kmという、衝撃的な航続距離を達成してもきたということであり、

したがって、トヨタ側の説明を見てみても、

現在発売されているどんな電気自動車であったとしても、

1030kmという航続距離を走破するためには、途中で充電を行わなければならないものの、

今回のPrius Primeであれば、途中充電などすることなく走破できてしまうという、

その航続距離の長さをアピールポイントとしているのです。

プリウスの航続距離1030kmは本当か?

それでは、ここまでの説明を聞いてすでに気づいている方が多いとは思いますが、

今回取り上げている2022年モデルのPrius Primeというのは、

電気自動車の中でも、プラグインハイブリッド車に属する

つまり、先ほども説明した通り、

充電されたバッテリーに貯められた電気のみで走行するのではなく、

ガソリンエンジンを始動して、ガソリン車と同様に走行することができるわけであり、

そして今回のPrius Primeの、電気のみで走行することができる航続距離というのが、

25マイル、つまり40kmほどとなるわけですから、

要するに、途中充電をしなければならない完全電気自動車とは違い、

航続距離を気にせずに、さらに長く走行を続けることができてしまうと宣伝されている最新型のPrius Primeというのは、

その完全電気自動車のような、電気のみで走行することができる距離というのは、あくまでも40km程度にとどまり、

それ以降の990kmという航続距離というのは、

全てガソリンを燃やして走行するという、ただの内燃機関車である

これが、トヨタが主張してきている、航続距離1030kmを達成した、

完全電気自動車よりも長く走行することができるPrius Primeの実態、ということなのです。

大前提として、プラグインハイブリッド車として、EPAサイクルにおいて40kmという航続距離は、

必要にして十分な航続距離であるという考えであり、

さらに、日常使いにおいて電気のみの走行スタイルになれることができれば、

次は電気オンリーの運用が求められる完全な電気自動車にも、

よりスムーズなトランジションを行うことができる、という実体験も数多く聞こえてきてもいますから、

だからこそ、本メディアにおいては、欧米中という列強が揃って定義している完全電気自動車に加えて、

プラグインハイブリッド車も電気自動車に含めるという定義に肯定的であり、

したがって、電動化状況の解説の際は、完全電気自動車のみの販売台数だけでなく、

プラグインハイブリッド車の販売台数も含めて、同時にアナウンスしているわけなのです。

しかしながら、今回の北米トヨタに関しては、その航続距離の長さを宣伝文句として、

特に完全電気自動車では達成することができない、と比較しているわけですが、

そもそも論として、プラグインハイブリッド車というのは、あくまで電気は補完的な役割であり、

そのような長距離走行時には、通常のガソリンを使用して走行する、

つまりガソリン車と同等の性能を兼ね備えているのは当たり前なわけでもありますから、

別に航続距離自体が完全電気自動車よりも優っているのは至極当然、

ましてや、その当然の事実を、

「航続距離1030kmを達成できるのはやはりPrius Primeだけで、完全電気自動車であれば、やはり充電のために走行を中断しなければならないんですよ」

と言いたげな表現というのは、

やはり完全電気自動車の運用方法をまるで理解することができていないのではないか、

と感じてしまうのです。

94%の日本人は300km以上の走行で必ず一回は休憩しています

繰り返しとはなりますが、完全電気自動車の場合、

確かに絶対的な航続距離の数値自体は、既存のガソリン車、

もちろん今回のプラグインハイブリッド車にも劣っているわけですが、

その一方で、それが絶対的な不便につながるのかといえば、全てがそうではないわけで、

例えば、今回北米トヨタ側が指摘している航続距離1030kmとは言っても、

その間にドライバーは一切の休憩時間を取ることはないのか、

という話であり、

それは人類史に残る膀胱の強靭さを兼ね備えているか、

もしくは、オムツを装着し、

かつ、アスリート並みの体力を有しているかのどれかなわけで、

一般的な人間でいえば、その1000kmを超えるようなロングトリップであれば、必ず途中で休憩時間を挟む、

つまりその休憩時間の間に、車両にプラグを差し込んでおくことができれば、

休憩時間中に充電を行い、航続距離を回復させることができる

つまり、そもそも大前提として、

航続距離1000kmをノーストップで走行するシチュエーションは、

完全電気自動車であっても、ガソリン車であっても、ほぼ想定する必要はありません。

ちなみにですが、その休憩時間とは言っても、

「俺は3分で休憩を完了させることができるので、EV車も3分で充電を完了できないのなら、使い物にならないのだー」

「EV車なんて乗り物は不便すぎるのだー、わっはっはー、」

というようなコメントが100発100中でくることが予測されるのですが、

こちらの長距離走行を行う際の、日本のドライバーの走行距離と休憩時間との相関関係を示したグラフを見ていくと、

まず、走行距離が300kmを超えるような長距離走行の場合、

最低でも一回以上の休憩を取っている割合は、なんと94%に達している、

つまり、東京名古屋間の350km程度の長距離運転の際には、

ほぼ全てのドライバーが、最低でも一回は途中休憩を取るということが、

お分かりいただけると思います。

399万円のモデル3でも、すでに7割以上のユーザーが満足するはず?

さらに、その300km以上走行するドライバーというのは、

一体具体的に、どれくらいの休憩時間を挟んでいるのか、に関してもデータが存在し、

それが、30分未満の休憩時間を挟む割合が26%

そして、30分以上の休憩を挟んでいる割合が68%

という調査結果が出ている、

つまり、航続距離300km以上を超えるような長距離走行時、

それこそ、東京名古屋間のロングトリップの際には、

ほぼ全てのドライバーが、少なくとも一回は休憩を挟み、

さらに、全体の7割弱のドライバーは、30分以上の休憩時間を取る

ということになるのです。

From: ETC2.0 プローブデータを活用した都市間高速道路における休憩行動実態把握

そして、例えば現在テスラが発売中であり、私自身も所有し、

補助金を活用すれば、2021年12月中旬現時点で399万円から購入することができてしまう、

エントリーグレードのモデル3のEPAサイクルにおける航続距離は、438km

30分の充電時間で回復させることのできる電力量は、

EPA航続距離に換算して、おおよそ300km以上

つまり、この利用実態のデータにおける7割弱の方は、

100%の確率で、この実質399万円の電気自動車の利便性に満足することができるわけで、

もちろんですが、この399万円のEVであれば、

走行距離300kmでは途中の充電は一切必要ない、

しかも、航続距離が400kmを超えてくれば、

このデータには無いながら、おそらくより多くのドライバーが、

より長い時間休憩することもまた間違い無いでしょうから、

7割を大きく超えるドライバーは、

すでに電気自動車の問題となる、長距離走行時における利便性で、不便を感じることがないはずである、

ということですね。

2021年末時点で実質399万円から購入可能

つまり、このデータから何が言えるのかといえば、

現在世の中で言われている電気自動車の不便な部分として、満充電あたりの航続距離の短さが必ず指摘され、

実際に、すでに電気自動車を発売しているトヨタですら、

その不便さを、暗に指摘しているものの、

それでは、実際に2021年現時点における電気自動車のスペックにおいて、

具体的にどれほどのドライバーが、不便を受容しなければならなくなるのかといえば、

このように実際の利用実態とを比較してみると、

実はその多くの場合において、特に困ることはない

要するに、電気自動車を本気でうるために必要なスペックというのは、

本質的には、満充電あたりの航続距離ではない

ということになるのです。

時代は航続距離戦争から「充電インフラ戦争」へ

それでは一体、電気自動車を本気で売るためには、

どのようなスペックを向上させることが近道であるのかという、最も重要な点ですが、

それは、充電性能である

ということであり、

例えば今回例を挙げた実質399万円のモデル3については、

最大充電出力を170kW許容することができ、

30分間の充電で、少なくとも300km程度は、航続距離を回復させることができるわけで、

つまり、先ほどのデータ的にいえば、

300km走行すると、全体の7割弱が30分以上の休憩を取ることが判明している、

よって、この時点において、休憩を取りながら充電を行うというサイクルが完全に成立する

故に、充電のためだけに、休憩時間を超過して待機するという時間がゼロになる一方で、

これを可能にするのは、170kWという最大充電出力の高さを筆頭とする充電性能の高さ、

そして何よりも、その車両側の充電性能を最大限発揮することのできる、

充電インフラの普及度合いであると思います。

したがって、特に電気自動車のリーディングカンパニーであるテスラに関しては、

いち早くこの本質を理解して、

2012年から、世界中に独自の急速充電ネットワークであるスーパーチャージャーの建設を進めることによって、

その充電性能の高さを、しっかりと活かせるインフラ体制を構築することができているからこそ、

やはり電気自動車の長距離運用において最も信用に値するのはテスラ車、

故に、現在世界で最も完全電気自動車を発売している自動車メーカーとして、

世界の電動化をリードしているのです。

したがって、すでに電気自動車のリーディングカンパニーというのは、

すでに満充電あたりの航続距離という、航続距離レースではなく、

充電性能の改善、そしてその充電性能を最大限生かすことができる充電インフラの構築という、

新たなレースを行なっているわけですから、

つまり今だに電気自動車の航続距離という側面を取り上げて、

「電気自動車の満充電あたりの絶対的な航続距離は内燃機関車に劣るので、話にならん、出直してこい、」

というような主張というのは、

残念ながら、すでに世界の電気自動車の最前線からは取り残されてしまっている、

周回遅れ的な議論である

ということなのです。

何れにしても、今回北米トヨタ側が発表してきた、

プラグインハイブリッド車である最新モデルのPrius Primeについては、

電気のみの航続距離が40kmに留まるものの、

日常使いの買い物や通勤においては必要にして十分な航続距離でありますから、

個人的には全く興味がないものの、

300万円前半という安さとともに、一定の販売台数を達成するとは考えられます。

その一方で、その北米トヨタ側が主張してきている宣伝文句である、

航続距離1030kmの達成によって、

どの完全電気自動車よりも、途中充電せずに走りきることができてしまう、

という主張というのは、

残念ながら、完全電気自動車の運用方法を理解していないか、

それとも、この宣伝文句を考えたトヨタのマーケティング担当者の膀胱が、人間越えをしたスペックを兼ね備えているか、

のどちらかであり、

すでに世界の電気自動車メーカーたちは、

その不必要な航続距離戦争の第一線からは撤退して、本質的に内燃機関車を超える利便性を達成するためにマストな、

充電性能・および充電インフラの構築にコミットしているわけですから、

すでに完全電気自動車の利便性の低さを、航続距離という観点で論じているうちは、

電気自動車戦争の第一線に立つことすらできていない、周回遅れである、

ということが、図らずも露呈してしまっている、ということですね。

From: Toyota

Author: EVネイティブ