電気自動車のバッテリー劣化を防ぐための手段として広く言われている、充電残量100%まで充電することが実際にどれほど問題であるのか、
充電残量80%から0%を使用する場合と、充電残量100%から20%まで使用したケースでは、どちらの方がバッテリーにダメージを与えてしまうのかという、EVユーザーなら気になるであろう理想的な充電シナリオを解説します。
LFPはむしろ100%充電推奨です
まず、電気自動車における充電に関する基本的な事項を把握していきましょう。特に最近市場に登場した多くの電気自動車では、充電器をプラグに挿して充電を開始しても、必ずしも100%まで充電が完了するわけではありません。ユーザーは、充電の終了時点での残量を任意に指定することが可能です。
たとえば、テスラの車両では、100%充電を指定することはもちろん可能ですが、そこから1%ずつ、最低50%まで充電残量を指定することができます。通常、充電残量を50%に設定するユーザーは少ないと思われますが、いずれにせよ、テスラをはじめとする2023年に発売された多くの電気自動車では、車両側で充電終了時の残量を指定することが可能なのです。
では、なぜ自動車メーカーは充電残量を100%以外、つまり任意の量に設定できるようにプログラムしているのでしょうか。その理由は、充電残量が100%に達すると、電気自動車のバッテリーにとってあまり好ましくない状態になるからです。
たとえばテスラの取扱説明書を参照すると、充電に関するいくつかの注意事項が記載されています。その中には、「フル充電制限を90%未満に保つことが推奨されている」という指示があります。これはテスラに限ったことではなく、ほとんどすべての自動車メーカーが、充電残量を100%キープするのではなく、通常は80%から90%程度の充電残量に自主的に制限することを推奨しています。
しかしながら、それでは電気自動車を絶対に100%充電してはいけないのでしょうか。その答えは「それほどでもない」ということです。例えば、テスラは日常的な運用では最大でも90%程度まで充電することをアドバイスしていますが、フル充電での航続距離を超える長距離の旅行の前などには、充電時間を無駄にしないためにも、100%充電することを推奨しています。
もしテスラ車を購入し、常に充電残量を100%に保っていたとしても、最大8年または24万kmのバッテリー保証が無効になることはありません。テスラがユーザーに対してアドバイスしているのは、バッテリーへの負担を減らし、その寿命を最大化するためのものです。
一方で、テスラでは一部のモデルで例外的に100%充電を許容、あるいは推奨している車種も存在します。それが現在発売中のモデル3とモデルYのRWDグレードです。これらの車種では、異なる種類のバッテリーであるLFPが採用されており、その結果、他のグレードとは異なり、100%充電が可能であるだけでなく、テスラ側からは可能な限り100%充電状態を保つよう推奨されています。特に、車両を1週間以上使わない場合、運転後すぐに100%充電することが推奨されています。
このLFPバッテリーは、電圧が低く、その差(電位差)が非常に小さいため、リアルタイムで正確な充電残量を計測することが難しいです。そのため、充電残量を100%にして一種のリセット状態を作り出すことで、その後の充電残量を正確に計測することが可能になります。したがって、定期的に充電残量を100%にしないと、正確な充電残量を把握できなくなり、最悪の場合、ディスプレイ上では充電が残っているはずなのに、車を再起動したときに充電がなくなってしまう可能性があります。
ちなみに、BYDも現在、すべての車種でこのLFPバッテリーを採用しています。公式発表はありませんが、定期的に100%充電することが推奨されているという話もあります。今後、LFP搭載車両が増えると予想されるため、充電習慣が大きく異なるという点は、覚えておくべきでしょう。
それでは、まず始めにバッテリー劣化に影響する主要な因子の1つ、電圧についてBMZグループが行った研究結果をご紹介します。
まず、バッテリーセルを異なる電圧で制限し、充放電を繰り返すという実験を行いました。結果として、4.2V(最大電圧)で制限されたバッテリーセルは、充放電サイクルが2000回に達した段階で、バッテリー劣化率が90%近くに達しました。一方、最大電圧を4.0Vに制限したバッテリーセルは、同じ充放電サイクル数であっても、劣化率は15%程度に抑えられました。
100%充電は想像以上に電池を劣化させます
続いて、放電深度という視点から見たバッテリー劣化についても検証しています。放電深度とは、一度に何%のバッテリー容量を使うか、ということです。そしてここでは、充電回数とは異なり、バッテリーの寿命は充放電サイクルの数で考えることが一般的であると説明しています。充放電サイクルとは、充電・放電によって100%分の電力が消費・回復されることを1回と数えるものです。
例えば、毎日の通勤で充電残量が70%から50%まで20%分消費し、その後70%まで充電を行うという運用方法では、1日あたりの使用量が20%なので、5日間使用すると1回の充放電サイクルとなります。同じく5日間で充電を5回行うと、充電回数としては5回となりますが、バッテリーの劣化を評価する際にはこれらの違いに注意が必要です。
その後、充電残量を100%から0%まで完全に使用する、いわゆる深放電状態で運用した場合、バッテリーの劣化が30%に達するまでに約500回の充放電サイクルが可能でした。一方で、100%から10%までの充放電サイクルで運用した場合でも、同じく500回のサイクル数で劣化が30%に達しました。
しかしながら、充電残量を100%から20%まで使用する運用方法では、充放電サイクルは倍の1000回になり、バッテリー寿命が延びました。更に驚くべきことに、充電残量80%から0%までの充放電サイクルでは3000サイクル、充電残量70%から20%までの充放電サイクルではなんと6000サイクルと、驚異的な寿命を達成しました。
これらの結果からわかることは、充電残量が100%状態で運用することがバッテリー劣化を大きく引き起こすことであり、この事実は非常に重要です。例えば、充電残量100%から20%までの運用の場合、1000回の充放電サイクルが可能ですが、充電残量80%から0%という、放電深度が80%である状態では、充放電サイクルは3000回と、3倍の寿命を実現します。
充電残量0%まで使うことがバッテリーに良くないという話はよく聞きますが、実際には充電残量を10%まで使うか、0%まで使うかでは大きな違いは見られません。しかし、充電残量の上限を100%から90%に引き下げるだけで、充放電サイクルが2倍以上に増える可能性があります。
したがって、日々の運用では充電残量100%を避け、上限を低く設定することが最善の方法で、例えば日々の通勤で長距離を走行しない場合には、充電残量を70%程度に抑えておくと良いでしょう。
ただし、今回の検証は急速充電ではなく、Cレートで0.5C、100kWhバッテリー搭載車両に対して50kWで充電するという低速充電、その上、温度は25度という条件下で行われたものであり、理論値であることを理解しておく必要があります。
また、電気自動車では、バッテリーマネージメントシステムにより、ディスプレイ上の充電残量と実際の充電残量が一致しないことが多いです。例えば、ディスプレイ上では100%と表示されていても、実際は95%であることがほとんどです。さらに多くのEVはバッテリーの温度調整機能を備えているため、リアルワールドでは適宜温度調整が可能です。
したがって、実際のEVの運用では同じ結果が出るとは限りませんが、バッテリーの特性を理解することは、電気自動車のバッテリー劣化を抑制するための重要な手掛かりになるでしょう。
LFPバッテリーの充電残量100%充電推奨の理由については、その低電圧によるバッテリー劣化の低さと、正確な充電残量の把握のために満充電を維持することのメリットが、電池劣化のデメリットを上回るからです。つまり、LFPバッテリーは本来の耐久性が高いと言えます。
これらの知見をもとに、電気自動車のバッテリー寿命に関する疑問を解決する手掛かりとすることが重要です。
From: Push EVs
Author: EVネイティブ