これまでの報道通り、中国BYDがナトリウムイオン電池の開発を進めていることが正式にアナウンスされ、専用のバッテリー生産工場の建設が発表されました。
BYDのナトリウムイオン電池参入報道は本当でした
まず、今回のナトリウムイオン電池に関してですが、現在主流のリチウムイオン電池に続いて、電気自動車向けのバッテリーとして注目され始めているバッテリーの一つです。
というのも、このリチウムイオンバッテリーについて、特に昨年(2022年)から大きな問題となっていたのが、そのコストの暴騰です。その発端はロシアとウクライナの戦争による政治の不安定さで、サプライチェーンに大きな支障が出ることを恐れ、原材料をあらかじめ在庫に持とうとした結果、原材料価格が高騰しました。
それに加え、2022年の初めから電気自動車の販売が急速に増え、バッテリーメーカーの生産が追いついていなかったため、需要と供給のバランスが崩れました。これらの要因が重なり、リチウムイオンバッテリーの価格が急上昇。結果として、多くの電気自動車メーカーが値上げに踏み切ったのです。
電気自動車のコストを決定づけるのは、その3分の1もの割合を占めるリチウムイオンバッテリーのコストですから、EVの価格を下げるためには、このバッテリーをいかに安価に調達するかがポイントとなります。
そのため、テスラを筆頭としたBYDやフォルクスワーゲンなどは、早期に自社でバッテリーセルの生産を始め、原材料も積極的に調達する体制を構築。これにより、安価なバッテリーを安定的に確保できる体制を整えてきました。
そして、リチウムイオンバッテリーについて何が言えるのかと言うと、やはりリチウムを絶対に使用しなければならないということで、そのコストに直結するリチウムの価格が上昇傾向にある今、バッテリーコストも上がってしまいます。
そこで、バッテリーメーカーや一部のEVメーカーは、EVの価格を下げるためにリチウムイオンバッテリーに代わる、リチウムを使用しない新たなバッテリーを模索していました。そして、その結果として選ばれたのが、ナトリウムイオン電池でした。
特に、このナトリウムイオン電池に関しては、中国のメーカーが開発を進めており、最大手のCATLは2023年中に本格量産を開始する方針を公表しています。また、これまでLFP一辺倒と見られていたBYDも、このナトリウムイオン電池の研究開発を進めているとの報道がされています。
そのような背景の中で今回新たに明らかになったのが、BYDが公式にナトリウムイオン電池事業を立ち上げるという発表を行ったことです。これにより以前からの報道が正確であったことが証明されました。今回の発表内容は、BYDのバッテリー事業を担う子会社のFinDreamsと、中国国内でバッテリーや電動バイクなどを開発・販売するHuaihaiホールディンググループが共同で行いました。
この二者が合弁して、ナトリウムイオン電池の生産拠点を整備しながら、ナトリウムイオン電池に特化したサプライチェーンを構築する方針を示しました。そして、BYD向けだけでなく、世界最大のナトリウムイオン電池サプライヤーとして、小型車両向けのバッテリーを提供していくことを発表しました。
その一方で、現時点では、その合弁会社によって建設されるナトリウムイオン電池生産工場の生産能力や、具体的にどの程度のタイムラインでバッテリーを本格生産していくのかという詳細は公表されていません。したがって、当初報道されていたような、今年中にBYDの電気自動車にナトリウムイオン電池が搭載されるという極めて進行したタイムラインではなく、おそらく数年後に搭載が始まると考えられます。
一方で、このナトリウムイオン電池の最大の長所は、主要原材料であるナトリウムが世界中に豊富に存在しており、リチウムと比較して調達コストが低く、原材料の偏在による安定した調達に対するリスクも低いことです。したがって、その調達コストを低く抑えることができ、リチウムイオン電池と比較して安価に生産することが可能となります。
一方、ナトリウムイオン電池の最大の短所は、エネルギー密度が低く、中長距離向けの乗用車や商用車には適していないことです。そのため、CATLは初期段階で純粋なナトリウムイオン電池ではなく、ナトリウムイオンとリチウムイオンを混合させたハイブリッドバッテリーパックを構成し、そのエネルギー密度の低さを補う方針を示しています。
このハイブリッドパックにより、比較的高コストなリチウムイオン電池の使用量を減らすことが可能で、さらに純粋なナトリウムイオンバッテリーよりもエネルギー密度を高めることができます。CATLは、このハイブリッドパックによって、EVの航続距離を最大500kmまで延ばすことが可能だと説明しています。
BYDだけではナトリウムイオン電池の覇権を握れない?
したがって、なぜ今回BYDは、Huaihaiホールディンググループと合弁してきたのかというと、フアイハイがバッテリー事業に強みを持っているだけではなく、二輪バイクや三輪バイクなど、ナトリウムイオン電池の採用に適した小型EVの開発も行なっているからです。
そして、BYDといえども、ナトリウムイオン電池を開発できたとしても、それを大量生産するためのサプライチェーンを構築するのは、非常に難しいと思われます。
ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池とはまた別の事業分野であり、その参入にはBYDでさえ大きなリスクが伴います。しかしながら、そのような新たな領域においても、BYDが覇権を握ろうとしてきていることがお分かりいただけるでしょう。
また、2023年中旬に入ってきた最新の動向として、リチウムの価格が乱高下していることも見逃せません。一時期のリチウムの取引価格は1トンあたり60万元に迫るという驚異的な値上がりを見せていましたが、2023年に突入してからその取引価格は一貫して低下しており、直近の4月中旬時点においては20万元を下回ってしまっています。
その後、5月に入ると取引価格は急上昇し、現時点では30万元ほどになっています。しかし、価格が不安定であるという点はマイナス材料となります。その一方で、一時期よりはだいぶ下がっていることから、今回のナトリウムイオン電池に対する期待が自動車業界全体として低下する可能性も出てきています。
それに対して、BYDやCATLは、EV向けのバッテリーだけではなく、定置用の蓄電池としてのバッテリービジネスも展開しています。その寒冷地における低温性能が、現在蓄電池に採用されているLFPと比較しても優れているという強みを考慮すると、ナトリウムイオン電池の将来性には大いに期待できます。
最後に、今回のBYDのナトリウムイオン電池事業への正式参入表明によって、BYDの電気自動車、特に世界的に注目されている小型EVのSeagullへの搭載への期待が高まります。しかし、それ以上に重要なのは、BYD規模のバッテリーメーカーでさえ、ナトリウムイオン電池のサプライチェーンを大規模に構築するのが難しく、合弁という形態を取らざるを得なかったことから、今後ナトリウムイオン電池についても、LFPと同様に中国のメーカーが覇権を握っていく可能性が高いということです。
そして、BYDはLFPだけではなく、ナトリウムイオン電池についても、外販を視野に入れ、世界最大のナトリウムイオン電池メーカーとなることを狙っています。このBYDのポテンシャルは、まだまだ計り知れないものがあります。
From: CNEV POST
Author: EVネイティブ