レクサスが独自の急速充電ネットワークであるレクサス充電ステーションを正式にオープンし、特に150kW級という高性能な急速充電器を複数台設置しながら、充電予約システムの導入、そして充電料金の自動決済機能であるプラグ&チャージも実装するなど、
このレクサスの独自充電ネットワークに関する個人的見解を解説します。
レクサスも独自の急速充電ネットワークの整備をスタート
今回取り上げたいのはレクサスです。レクサスはすでにUX300eとRZの2車種の電気自動車をラインナップしています。UX300eは2023年3月にモデルチェンジが行われ、搭載バッテリー容量が70kWh以上に増量され、元々の54.3kWhから大幅に増えた結果、航続距離は500km以上になりました。
一方、RZはUX300eとは異なり、bZ4Xの兄弟車としてe-TNGAプラットフォームを基にEV性能を最適化しています。その結果、バッテリー容量は71.4kWhと、UX300eの72.8kWhよりも少し小さくなりましたが、それでも車格が大きいにも関わらず、最長534kmというさらに長い航続距離を実現しています。これは、EV専用プラットフォームによる最適化と、レクサス初のシリコンカーバイドを採用したインバーターをe-Axleに搭載したこと、そしてアルミの採用による軽量化が相まって実現したものです。
しかし、この高いEV性能を最大限に発揮するためには、充電インフラが重要です。RZはカタログスペック上では500km以上の航続距離を実現していますが、EPAサイクルベースでは最大でも350km程度になります。さらに冬場の暖房使用により、その航続距離はさらに減少し、おそらく300km以下になります。
そうなると、自宅に充電器を設置していても、関東圏を往復する場合、例えば東京や神奈川に住んでいるRZユーザーが日帰りで軽井沢に行く場合などには、途中で充電が必要になります。
しかし、日本市場では充電ネットワークがまだ脆弱で、これが大きな課題となっています。特に、観光地の軽井沢では、もし6kW級の普通充電器が大量に設置されていれば、滞在先で2-3時間充電すればさらに100km近く走行可能になります。
このような普通充電器による継ぎ足し充電が可能になれば、高速道路上の急速充電器の使用を減らすことができ、充電渋滞や充電器のスペック不足という問題を解決できます。これにより、電気自動車のハードルが下がり、レクサスのような高級ブランドユーザーが頻繁に訪れるであろう軽井沢や御殿場、箱根、伊豆などの主要観光地における充電ステーションの整備が待望されています。また、公共の充電器ではなく、独自の充電ネットワークの設置も求められています。
そして、そのような背景の中で今回新たに明らかになったのは、レクサスが独自の充電ネットワークの構築計画を発表し、第一弾としてミッドタウン日比谷の地下駐車場に充電ステーションを設置し始めたということです。
ミッドタウン日比谷は高級店舗が軒を連ねる商業施設であり、そのことから非常に高所得者向けの施設となっています。したがって、高級ブランドであるレクサスのオーナーと非常に相性が良いと言えるでしょう。
しかしながら、レクサスが始めたこの独自の充電ネットワークには非常に独特の取り組みが含まれており、どれだけEVオーナー、特に高級EVのオーナーにとって便利なのかを詳しく検証する必要があります。すでに全国に独自の急速充電ネットワークを展開しているテスラと比較しながら、各々の強みや弱み、懸念点を詳しく比較していきましょう。
まずは、今回ミッドタウン日比谷に設置されたレクサスの充電ステーションから見ていきましょう。合計2台の急速充電器が設置されていますが、その最大充電出力は150kWです。ただし、この150kW級の急速充電器は新電元製であり、30分間連続で150kWを供給することはできません。15分経過後には最大200Aに絞られ、結果として最大でも約80kW程度の充電出力にしかなりません。
一方、テスラのスーパーチャージャーは最大250kWの充電出力を発揮します。しかし、旧世代のV2スーパーチャージャーは最大でも140kW程度で、隣合わせの充電器を同時に使用すると、最低70kW程度にまで下がる可能性があります。しかし、テスラのスーパーチャージャーは2014年9月から全国に設置が進められており、2023年6月時点で全国74カ所に設置が完了しています。また、その1カ所当たりの設置台数は合計360台であり、平均して約5台程度は設置されている計算になります。したがって、レクサスのように充電出力が必ず低下することは避けられませんが、テスラの場合は混雑による充電出力の低下に遭遇する機会は非常に少ないと言えます。
一方、レクサスは2023年の秋に軽井沢の商業施設にも充電ステーションを追加設置する計画を発表しています。軽井沢はレクサスのオーナーが頻繁に訪れる地域であり、高速道路上の公共の充電器を使いたくないというプレミアム志向の強い高級車オーナーにとって、レクサス専用の充電器は非常に魅力的なものとなります。さらに、2030年までに全国100カ所のレクサス充電ステーションを設置する計画を発表していますので、首都圏を中心に主要な商業施設にレクサス充電ステーションが設置されていくことでしょう。
充電予約システムは高級EVのスタンダードになるか?
レクサスが自社の充電ステーションに新たな機能を導入することにより、レクサスオーナーは非常に便利なサービスを享受できるようになります。特に充電予約システムの導入は、現在の充電ステーションで広く見られる「充電渋滞」問題を解消します。この新機能により、レクサスのオーナーは事前に充電時間を予約し、確実に充電器を利用することが可能となります。
さらに、レクサス充電ステーションには自動バーが設置されており、充電スポットへの無断駐車を防ぐという素晴らしい機能があります。これにより、ガソリン車が充電スポットを占拠することを防ぎ、EVオーナーが予約した時間帯に確実に充電を行うことが可能となります。
これらの機能は、特にプレミアム志向の高いレクサスオーナーにとって、非常に価値あるサービスでしょう。自動決済機能とあわせて、これらの新機能はレクサスのEV体験をさらにスムーズで便利なものにします。
一方で、テスラのスーパーチャージャーネットワークは、現在でも充電予約システムを採用しておらず、また、ガソリン車による無断駐車防止のための自動バーも設置していません。そのため、特に混雑した時間帯には、充電のための待ち時間が発生したり、充電スポットがガソリン車によって占拠される可能性があります。
つまり、レクサス充電ステーションは、ユーザーの利便性と待ち時間の削減を重視した新機能を取り入れたことにより、テスラに比べて一部の利点があると言えます。
他方で、この充電予約システムについては、いくつかの懸念点も存在します。まず何と言っても、充電予約が必須のシステムであるため、突発的な充電予約はできません。
確かに充電予約の詳細を見てみると、30分単位で、その1分前までなら、充電予約が可能です。仮にミッドタウン日比谷に到着する直前に、想定よりも充電残量が減ってしまったとしたら、急遽充電器を使用したいとなるでしょう。しかし、スマートフォンを操作すれば、直前でも充電予約は可能です。
しかし、その充電器を次に使用する予約が入っていれば、充電器を使用することはできません。つまり、突発的な充電対応については、充電予約システムがあったとしても、不安が残るということです。
それではテスラについて考えてみましょう。充電予約システムは存在しないものの、各ステーション当たりの充電器数は5基以上あります。おそらく今後は、海外と同様に、8基以上の充電器数が増えてくるでしょう。
さらに、テスラの場合は、車両のスクリーン上にリアルタイムの充電器の空き状況が表示されます。そのため、事前に充電器の空き状況を確認でき、それに基づいて行程を変更することで充電待ちを回避することが可能です。
そして、充電渋滞になったとしても、充電状況からおおよその充電渋滞、解消時間すら表示されます。例えば、「10分以内」という表示であれば、待ってでも充電器に向かうことが可能です。
そして、予約システムを導入した場合、全て計画通りの行程であれば問題ありませんが、途中で行程を大きく変更した場合は、あらかじめ充電予約をキャンセルしながら、さらに新たな充電予約を行わなければならないのです。
たとえば、交通渋滞がひどくて、充電予約を遅らせようと思っても、その後に充電予約が入っていれば、新たな充電予約を行うことはできません。つまり、充電計画そのものに大きな変更が伴うことになります。
何と言っても、予約は任意ではなく、予約しないと充電器を利用することはできません。したがって、予約システムの導入が万能であるとは限らないのです。
さらに、この予約システムの懸念点として、その充電器の予約可能時間が挙げられます。なぜなら、充電予約が可能な時間は最短30分だけでなく、なんと最大で4時間も予約することができるからです。
したがって、交通渋滞や行程変更をある程度考慮に入れて、その前後4時間を予約してしまえば、予約したオーナーにとっては問題がある程度解決可能です。
しかし、もし最大4時間という予約時間を多くのユーザーが取ってしまうと、その1日に充電予約できるオーナーの数が大きく制限されてしまいます。
確かに、充電予約をしている間は、充電が完了したとしても車両を放置することができます。そのため、そのオーナーにとっては、気兼ねなく車両を放置して、商業施設でサービスを受けることが可能です。
しかしながら、それ以外のレクサスEVオーナーが、使いたい時に充電器を使えない可能性が高くなってしまうのです。その結果、充電器の稼働率という観点から見ると、今後予約が取りづらくなる問題が顕在化してくるかもしれません。
そのような観点から見ると、両社の充電体験に対するアプローチは大きく異なります。レクサスの予約システムは、使用者に対して確実な利用時間を保証し、充電渋滞を避けるための方策を提供しますが、一方で、その柔軟性には疑問が残ります。特に、最大4時間の予約可能時間や、月間予約制限などは、ユーザーの利便性を制約する可能性があります。
一方、テスラは、充電ステーションにおけるリアルタイムの利用状況の提供や、充電放置に対する超過料金制度の導入、そして何よりも充電ステーションの増設により、利用者に安心感を提供します。そして、充電が完了したら車両を移動させるという行動を促し、充電渋滞問題を解消する方向に進んでいます。
もちろん、これらのアプローチは、それぞれのブランドのポジショニングや目指すビジョンに基づいています。レクサスは2035年までにバッテリーEV100%を目指し、その一環として、予約システムを導入しています。それは、プレミアムな体験を提供するというブランドのポジションを強化する一方で、商業施設とのパートナーシップによる利便性を追求しています。
しかし、これらの取り組みが実際にユーザーの充電体験をどの程度改善するのか、また、レクサスの充電予約システムがどの程度実用的であるのかは、実際の利用者のフィードバックを待つしかありません。そして、そのフィードバックに基づいて、今後の改善やアップデートが必要になるかもしれません。
さらに、商業施設に設置される充電器についても、全てが急速充電器である必要があるのか、目的地充電器の設置も考慮するべきなのか、という議論も必要です。そして、それぞれの設置場所や状況に応じて、充電器の種類やスペックを選択することで、より良い充電体験を提供できるかもしれません。
まとめると、レクサスとテスラの充電体験向上のためのアプローチは大きく異なり、それぞれのメリットとデメリットがあります。その結果として、どのアプローチが最善かは、実際の利用者の体験やフィードバックにより明らかになるでしょう。そのため、今後の評価や改善点については、引き続き注視していきたいと思います。
From: Lexus(プレスリリース)、Lexus(充電ステーション利用方法)
Author: EVネイティブ