【トヨタEVシフト】トヨタEV逆転勝利へ 全固体電池含む5種類の新型電池を一挙発表 EV航続距離は最長1800km超 ギガキャストも採用へ

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トヨタがEVや水素に関連する最新テクノロジーを紹介するToyota Technical Workshopを開催し、2026年に発売される次世代バッテリーEVにおいて航続距離1000kmの達成、

さらに待望の全個体電池についても、遅くとも2028年に登場、なんと航続距離1800km以上を達成可能なポテンシャルを秘めるという、トヨタの持つ最新テクノロジーの詳細を解説します。

トヨタの5種類の次世代バッテリーとは

トヨタが開催したToyota Technical Workshopにおいて、同社の最新のCASEテクノロジー、包括的なバッテリーEV戦略、水素関連戦略などが紹介されました。中でも、注目すべきは次世代バッテリーEVの技術です。

今回、トヨタは主に5種類の新型バッテリーを発表しました。その中で第一に挙げられるのが、「次世代電池パフォーマンス版」です。これは、2022年から発売されているbz4Xと同じ角型リチウムイオン電池で、エネルギー密度の向上と充電スピードの大幅な改善が特徴です。

2026年に発売予定の次世代バッテリーEVでは、この新型電池を採用し、空力性能や軽量化による効率性の追求と合わせて、航続距離は1000kmを実現すると発表されています。また、その充電時間は、バッテリーの充電残量が10%から80%まで回復するのに20分以内とされています。

しかし、トヨタが紹介したこれらの数値は、中国のCLTCサイクルを基準にしており、実用上の航続距離はそれよりも短くなる可能性があります。例えば、EPA基準では800km程度が実用上の航続距離の目安とされています。したがって、実際の航続距離はおそらく7-800km程度になると考えられます。

その充電時間についても、実用上では目標達成が難しいでしょう。例えば、CLTCサイクルベースで電費性能が9km/kWhと、テスラを上回る仮定で考えた場合、搭載バッテリー容量は約111kWhになります。このバッテリーを20分で充電するには、少なくとも理論値で233kWの充電出力が必要となります。しかし、一定の233kWを保つことは不可能なため、実際の最大充電出力は300kW程度必要となるでしょう。

300kWの充電出力を持つ充電器は欧米や中国市場では存在しますが、日本国内では2026年までに150kW以上の充電器が大規模に設置されることは考えにくいです。したがって、日本人が次世代BEVを購入した場合、20分で充電を完了させることはほぼ不可能となります

LFP・バイポーラ構造をリチウムイオン電池に採用へ

次に、次世代電池の「普及版」についてですが、特に2つの技術が採用されます。一つ目は、bZ4Xや次世代電池パフォーマンス版で採用される三元系の正極材料ではなく、LFP(リン酸鉄リチウム)を採用する点です。LFPは三元系よりも安価で、安定的に調達可能なため、エントリーグレードのモデルに幅広く搭載される予定です。

二つ目は、「バイポーラ構造」を採用する点です。この構造は、新型アクアから採用されたトヨタの新型のバッテリー構造で、内部抵抗の低減や密な構造によるエネルギー密度の向上が期待できます。この特性は、LFPの最大の弱点であるエネルギー密度の低さをカバーすることが可能です。トヨタは、単にLFPを採用するだけでなく、LFPの弱点をカバーするために、自社で開発したバイポーラ構造を組み合わせてきました。

そしてこの次世代電池普及版を搭載するEVについては、bZ4Xと比較しても、航続距離が20%延長し、LFPを使用しても700kmを大きく超える航続距離を実現します。また、そのコストを40%削減することが可能で、bZ4X用のバッテリーの6割のコストで、それだけEVの価格を大きく下げることが可能です。また、充電時間は30分以内で、次世代電池パフォーマンス版よりも充電時間は少し劣りますが、エントリーモデルのEVとしては十分な性能です。

そして、この普及版バッテリーは2026年から2027年ごろに市場に投入する予定です。

次に、次世代電池普及版と同時に開発を進めているのが、バイポーラ型リチウムイオン電池ハイパフォーマンス版です。こちらはバイポーラ構造を採用しながら、LFPではなく、正極材にニッケルの配合割合を高める、いわゆるハイニッケルを採用しています。

このハイニッケルにより、リチウムイオン電池のエネルギー密度を大幅に向上させることが可能で、さらにバイポーラ構造によりエネルギー密度を更に向上させることができます。これにより、トヨタのラインナップにある液体リチウムイオン電池の中で、史上最高のエネルギー密度を持つ電池となります。

次世代電池パフォーマンス版と比較しても、さらに10%もの航続距離を延長可能で、その航続可能距離は最長で1350kmに達します。そして充電時間は変わらず、20分以内で充電可能で、さらにコストはパフォーマンス版と比較して10%削減することができます。したがって、bZ4Xと比較して3割近いコスト削減が可能で、このハイパフォーマンス版バッテリーは2027年から2028年に市場投入予定です。

全固体電池は2028年までに登場決定

全固体電池について、これはトヨタが開発を進めている、次世代電池の中で最も期待が高まっているものです。全固体電池は液体電解質ではなく、固体電解質を用いた電池で、エネルギー密度の向上、安全性の向上、長寿命化、高速充電が可能となります。

トヨタの全固体電池には、次世代電池パフォーマンス版と比較して、さらに20%もの航続距離を延長可能で、急速充電時間は驚きの10分以内という特性があります。bZ4Xと比較した場合、その満充電あたりの後続距離は、最大でも1500kmに近くなります。

しかしながら、トヨタはこれだけで満足せず、将来の全固体電池については、ハイパフォーマンス版の研究開発も進めています。この全固体電池ハイパフォーマンス版は、エネルギー密度を極限まで引き上げることで、パフォーマンス版と比較してもさらに50%もの航続距離向上を実現します。このハイパフォーマンス版全固体電池をbZ4Xに搭載すれば、航続距離はなんと3倍に増え、その数値は約1845kmに達します。これは、EVの航続距離における大きな変革をもたらすでしょう。

しかし、航続距離が1800kmを超えるEVは、現実的には必要ないかもしれません。しかし、この高いエネルギー密度は、中大型の商用トラックやトラクターヘッド、重機などの商用車にとっては非常に有用です。大型トラックは、バッテリーの重量や容量によって、積載性能が犠牲になるため、バッテリーEVへの切り替えは困難です。しかし、トヨタの全固体電池ならば、中大型の商用トラックもバッテリーEVへと切り替えることが可能となります。これは、日野が将来的に発売するであろうトラックやトラクターヘッドのBEVバージョンへの期待を大きく高めています。

テスラや中国勢に追随してギガキャスティング採用へ

また、トヨタはこれら5種類の次世代リチウムイオン電池だけでなく、航続距離やコスト競争力を向上させるための最新技術も多数開発しています。例えば、極超音速技術を応用して空気抵抗を削減し、Cd値を0.1台にまで低減することを視野に入れています。これらの技術開発には、三菱重工業の宇宙事業部との共同研究も行われています。

さらに注目すべきテクノロジーとして、ギガキャストの導入が挙げられます。ギガキャスティングは、これまで車体を数十種類の板金で作っていたものをアルミ鋳造の一体成型によって部品点数や作業工程を抜本的に削減する方法です。トヨタは、このギガキャスティングの導入によって、リアボディでは86部品、33工程を1部品1工程へ、フロントボディでは91部品を1部品へと削減し、生産効率を大幅に向上させることが可能と説明しています。これにより車両開発費や工場への投資も大幅に削減し、それぞれのコストを半分にまで削減できると主張しています。トヨタがギガキャスティングを正式に採用するという方針を表明したことは、テスラや中国メーカーといった先行者に続く重要なステップです。

また、モーターやインバーターなどが一体化したe-Axleのさらなる小型化が進んでいます。特にインバーター用のパワー半導体については、これまでのシリコンから電力損失を半分に減らす炭化ケイ素への導入を予定しており、これによって電費性能が10%も向上するとされています。

さらに、トヨタはbZ4Xに採用されているe-TNGAプラットフォームや次世代BEV用プラットフォームとともに、内燃機関車向けに開発されたモデルでもBEVへの転用が可能なマルチパスウェイプラットフォームを追加しました。その一例として、クラウンをBEV化したプロトタイプが発表されています。これらのプラットフォームを用いることで、市場のニーズに応じてハイブリッド車をBEVに、あるいはその逆にBEVをハイブリッド車に変換することが可能となります。この3種類のBEV向けプラットフォームによって、トヨタは今後のEVシフトを積極的に推進していくとのことです。

そして最後に、トヨタは次世代BEVプラットフォームを採用した車種のラインナップ構成を公開しました。具体的には、2030年には次世代BEVプラットフォームを採用したコンパクトハッチバックを年間36万台、ミッドサイズSUVを36万台、大型SUVを60万台、大型ミニバンを12万台、そして大型セダンを24万台生産する予定です。これらを合わせると、トヨタは約170万台の次世代BEVを生産する計画となっています。これは、2030年の目標である年間350万台のバッテリーEV生産台数のうち半数以上を占める数字となります。残りの車種は、e-TNGAやマルチパスウェイプラットフォームを採用することになるでしょう。

さらに、次世代BEV第一弾の詳細も明らかになりました。それはレクサスから発売される大型セダンとなることが予想されています。具体的なモデル名はまだ公開されていませんが、おそらくレクサスのフラグシップモデルであるLSのバッテリーEVバージョンとなる可能性が高いです。2026年にレクサスの大型セダンが次世代BEVとして初めて発売され、そして2030年には、次世代BEVプラットフォームを採用した車がトヨタの販売のマジョリティを占めることになるのです。

今回のテクニカルワークショップでは、トヨタの今後の電動化戦略や必要となる電池などの最新テクノロジーについて詳細が発表されました。次回は、トヨタが提示した電動化戦略や最新テクノロジーが競争相手と比較してどの程度競争力があるのか、そしてそれにより明らかになるトヨタの課題などについて考察していきます。

From: Toyota

Author: EVネイティブ