電気自動車の販売台数が急増しているタイ市場の直近の6月度におけるEV販売動向が判明しながら、ついに新興国としては史上初の、EVシェア率10%を突破したという信じられないEVシフトのスピードについてを解説します。
タイの新車販売の1割以上がBEVという衝撃
まず、今回取り上げたいのはEVシフトの動向で、具体的には東南アジアのタイ市場です。このチャンネルでは毎月、タイのEVシフト動向をアップデートしています。実際、現在、電気自動車の販売台数が急上昇しています。
しかし、その一方で、タイ国内で圧倒的なEV販売シェアを確立しているのが、中国のメーカーの存在です。このタイ市場では、これまで日本のメーカーが圧倒的な販売シェアを誇っていました。しかしその日本メーカーの電気自動車の存在は、ほとんどありません。
これは、日本のメーカーが東南アジアの車両生産工場をタイ国内に集中させているためです。つまり、タイはまさに日本の庭とも呼べる超重要マーケットです。この日本メーカーの庭で、現在、中国のメーカーが電気自動車というカテゴリーで攻勢をかけているのです。
それでは、このタイ市場における電気自動車の販売動向を詳しく解説していきましょう。
まず初めに、6月中に販売されたバッテリーEVの販売台数ですが、実に7673台と、歴史上最高の販売台数を更新しました。2023年に入ってからも販売台数はさらに伸びています。
特に驚くべきは、前年同月と比較して8倍以上という販売台数の伸びです。これにより、タイ国内では電気自動車のブームが到来していると言っても過言ではありません。
さらに、タイ国内で販売されたすべての乗用車に占めるバッテリーEVの販売シェア率が驚異的です。バッテリーEVのシェア率が10.24%と、タイの歴史上初めて10%を突破しました。これはまさに歴史的な転換点です。
冷静に考えれば、現在タイで売れている乗用車のうち、10台に1台以上がバッテリーEVに置き換わっています。新興国でありながら、電気自動車の普及がすでに現実のものとなっています。
また、このバッテリーEVのシェア率の伸びがどれほど凄まじいかを、我々日本市場におけるバッテリーEVのシェア率の変遷と比較してみると、タイ市場は爆速の成長を遂げており、すでに日本の販売シェア率とは4倍もの差が開いています。もはや新興国ながら、販売シェア率ベースで言えば、タイはすでに電気自動車先進国の仲間入りを果たしています。
それでは、このタイ国内でどのような電気自動車が人気なのかを見てみましょう。2023年上半期、1月から6月までに売れたバッテリーEVの販売台数ランキングトップ20です。
一部の欧州メーカーが一定の販売台数を達成しています。特に、BMWはi7、iX、そしてiX3を販売し、iX3は290台と高級車としてはまずまずの販売実績です。また、ボルボもXC40とC40の両車種をコンスタントに販売しており、欧州メーカーとしては最も存在感を示しています。
しかし、欧州勢を抑えて圧倒的な販売シェアを持っているのが、中国製の電気自動車です。トップ10のうち、6車種が中国メーカーで、トップ5に絞れば、4車種が中国メーカー製のバッテリーEVです。これにより、中国勢がいかに強い影響力を持っているかが見て取れます。
ちなみに、タイ市場における中国メーカーの台頭について語るとき、中国とASEAN間で締結されている中国・ASEAN自由貿易協定により、中国で生産されているバッテリーEVが最大80%の関税が免除されているから、という反論があります。しかし、実は2022年5月から、BEV輸入に関する関税措置は大幅に緩和されました。具体的には、日タイ経済連携協定を締結している日本についても、中国と全く同様に関税が免除されています。
したがって、関税率という観点から見れば、我々日本も中国と同じスタートラインに立っています。また、輸入車にかかる様々な税金、特に関税と並んで大きな影響を及ぼす物品税についても、バッテリーEVの場合は最大数十%の税率が8%まで抑えられます。
さらに、2024年から2025年までにタイ国内でバッテリーEVを製造する場合には、その物品税は2%まで減税されます。ここで言いたいことは、現在タイ政府が導入している電気自動車普及施策は、特に中国メーカーを優遇するものではないということです。
逆に言えば、中国との関税ゼロの差を埋めるために、タイで圧倒的なシェアを持つ日本メーカーを優遇するような政策です。そして、タイ市場をEV生産のハブにするための真っ当な政策です。したがって、この状況で中国製EVが売れているということは、単純に中国製EVがより選ばれているだけです。
中国製EVが人気の日本車に挑戦
その中国勢の中でも、中国のEVスタートアップであるNetaと、大手のBYDが圧倒的な販売シェアを達成しています。上半期にはBYDのAtto3が1万1000台を超える販売台数を記録しました。しかし、6月だけを見ると、これまでトップを独走していたAtto3が2位に転落しました。そして販売台数トップに躍り出たのが、NetaのコンパクトSUVであるNeta Vです。
日本円に換算すると、200万円前半から購入可能であり、BEVとして非常にコスト競争力が高いため、Atto3を上回る販売台数を記録しました。上半期の販売台数も6000台弱となり、大健闘しています。
このコスト競争力に大きく貢献しているのは、関税免除とともに、2024年中にタイ国内で車両生産工場を稼働させることによる物品税の大幅減税です。いずれにせよ、中国EVスタートアップとしては、現状、最も海外展開に成功していると言えます。そのため、今後Netaがタイ国内でどれほど販売台数を伸ばしていくのかには、ますます注目が集まるでしょう。
さらに、2023年から納車がスタートしたテスラについても触れておきます。特にモデルYの販売台数が好調で、Atto3の倍近い値段設定ながらも、上半期累計で3600台以上を販売しました。また、モデル3も1500台弱を売り上げ、2車種合わせて5000台という規模感で、プレミアムブランドとして富裕層にしっかりとリーチしています。
テスラはタイ国内の充電ネットワークの拡充にも注力しており、既に複数箇所にスーパーチャージャーを設置し、2023年中には合計で13箇所をオープン予定です。現状ではバンコク周辺にしかスーパーチャージャーは設置されていませんが、数年内にはテスラのスーパーチャージャーだけを使ってタイ全域を移動できる日が来るかもしれません。
さらにタイはCCSタイプ2を採用しているため、テスラスーパーチャージャーが解放されれば、タイのEVシフトにおいてテスラが車両販売だけでなくインフラからも大きく貢献することになります。
また、中国のMGも見逃せません。MGは複数の車種をラインナップしていますが、特にコンパクトハッチバックであるMG4の売れ行きが好調です。MG4はタイ国内だけでなく、ヨーロッパでも大ヒットしており、ドイツやフランスなどの主要国で非常に人気があります。
以前詳しくEVの性能とコストパフォーマンスを比較しましたが、ドイツやフランスのEVよりもMG4のコストパフォーマンスが高いことが、この好調の要因と思われます。つまり、欧州だけでなく、タイ市場でもMG4の高いコストパフォーマンスが評価されているわけです。
この歴史的なEV販売台数を達成したタイ市場では、2023年の下半期に、さらに加速度的なEVシフトがほぼ100%の確率で起こると見られています。その理由は、BYDがついに2車種目の新型EV、コンパクトハッチバックのドルフィンの納車を7月中から開始するからです。
ドルフィンは日本円に換算して約300万円から購入可能な一方、8in1方式のパワートレインを標準搭載することで、タイ市場の厳しい暑さにも対応可能です。さらに、80万バーツ弱という価格設定は、大衆向けのガソリン車と比べても競争力があるため、Atto3を上回る人気を得ることが見込まれています。特に、2023年末には、月間数千台の販売台数に達する可能性があります。
ドルフィンが成功を収めれば、タイ市場における内燃機関車の販売に大きな影響を与える可能性があります。現在、内燃機関車で人気のある車種は、日本メーカーのホンダCityとトヨタヤリスエーティブです。しかし、これらの車種はすでに電気自動車の販売台数に追いつかれつつあり、特にAtto3はすでにホンダCityを上回る販売台数を記録しています。
しかしながら、トヨタヤリスエーティブはまだ倍以上の販売台数差をつけられています。しかし、間もなく納車が始まるドルフィンはヤリスと比較しても遜色のない価格設定を達成しており、そのEV性能も申し分ありません。これにより、ヤリスやシティのユーザーがドルフィンへ流れる可能性があります。
ドルフィンがどれほどの販売台数を達成できるか、そして日本メーカーが売れ筋の内燃機関車の販売台数をこれまで通り維持できるか、これらに注目する必要があります。
このように、タイ市場での2023年上半期のEV販売動向を見てきましたが、その成長速度は信じられないほどで、すでに新車販売に占めるEVシェア率が10%を突破しています。その一方で、中国メーカーが圧倒的な存在感を示す中、日本メーカーが全くシェアを獲得できていない状況が続いています。
特に注目すべきは、トヨタbZ4Xの存在です。2022年末に先行予約を開始し、わずか1日で3356台の予約を獲得しました。その納車は2023年初頭から開始する予定でしたが、2023年前半戦が終了した現在でも販売台数はわずか13台です。
これから注目すべきは、どれほどの販売台数を達成できるのか、また、人気のあるbZ4Xが今何が起きているのか、そして大本命のドルフィンの売れ行きとなるでしょう。
From: Department Land & Transport、Autolife.Thailand
Author: EVネイティブ