中国BYDの高級車ブランドであるDenzaが新型電気自動車として、大人気セグメントであるミッドサイズSUVセグメントのN7のワールドプレミアを開催しながら、その予測を超えるスペックと大幅に下回る値段設定を両立してきたという、
2023年最も注目するべきプレミアムEVの新たなベンチマークについてを解説します。
N7はプレミアムSUVの新たなベンチマークに
まず、今回取り上げるのはDenzaについてです。Denzaは中国最強のEVメーカー、BYDとドイツのメルセデスが2010年に合弁で設立したプレミアムブランドです。
しかし、Denzaブランドに関しては、BYDもメルセデスもどちらも本気で取り組むことはありませんでした。2車種のEVを販売していましたが、ショールームはほんの数店舗だけでした。そのため、このDenzaブランドの今後の立ち位置については大きな注目が集まっていました。
一方で、BYDはこの数年間で電気自動車の販売台数を急速に増やすことに成功しました。しかし、BYDは基本的に大衆車ブランドというイメージが強く、特にEVの需要が急増しているプレミアムセグメントではBYDブランドでは勝負できませんでした。
そこでBYDは、これまで合弁体制で思うような販売体制を構築できていなかったDenzaブランドを本格的に活用するために、2021年末にDenzaブランドの株式を大幅に取得しました。BYDの株式保有率が90%、メルセデスが10%というBYD主導の体制となり、実質的にBYDの高級ブランドとしてブランドを再始動させることとなりました。
その新生Denzaブランドが2022年10月から発売をスタートしたのが、ミニバンセグメントのD9という新型EVです。このミニバンセグメントは日本では非常に人気がありますが、中国国内ではそれほど大きなマーケットではありません。それにもかかわらず、Denzaブランドの知名度やD9の高級感から、販売台数についてはかなり厳しいものと予想されていました。
しかし、日本円で600万円台からという高級ミニバンのD9であるにも関わらず、100kWh級のバッテリーを搭載したバッテリーEVバージョンとともに、特に、BYDの独自テクノロジーのPHEV技術であるDMを採用したバージョンもラインナップすることによって、ミニバンとして航続距離に不安があるユーザーの囲い込みにも成功しました。結果として、急速に販売台数を伸ばし、3月以降4ヶ月連続で、月間販売台数1万台を突破するという快挙を達成しました。その結果、中国国内で最も人気のあるミニバンにすら君臨することができました。
そのような背景を踏まえて、新たに発表されたのが、DenzaがD9に続く新型EV、N7のワールドプレミアです。N7は7月中旬から実際の納車をスタートする予定で、ミッドサイズ級のSUVセグメントに該当します。ただし、実際にはSUVというよりもシューティングブレークといったほうが適切で、ワゴンタイプに見えます。
これまでシューティングブレークは中国国内であまり人気のないセグメントでしたが、その概念を覆したのが今回のN7の主要競合である中国のジーリーのプレミアムEV専門ブランド、Zeekrの001です。Zeekr 001は日本円で600万円からという高級車であるにも関わらず、発売から1年半以上経過してもなお月間6000台以上を維持しています。そのため、同じくシューティングブレークのN7も中国で人気が高まる可能性があります。
さらに、ミッドサイズSUVというカテゴリーでは絶対的な王者であるテスラのモデルYも存在します。そのため、N7のEV性能や装備内容がZeekr 001やモデルYと比較してどの程度達成できるかは大いに注目されます。
今回のN7は全部で6種類のラインナップを構成していますが、搭載バッテリー容量は90kWh級の1種類のみです。駆動方式はシングルモーターのRWDとデュアルモーターのAWDの2種類です。そのため、ラインナップ構成はかなりシンプルです。また、D9とは異なり、N7はバッテリーEVのみをラインナップし、PHEVは設定されていません。このため、N7がどれほどの販売台数を達成できるかについては大きな注目が集まっています。
N7の搭載バッテリー容量に依存する満充電あたりの航続距離については、中国のCLTCサイクルに基づき、最大702kmという非常に実用的な航続距離を達成しています。EPA基準でも550km程度を達成見込みで、これは時速100kmでの高速道路走行中にエアコンを使用しても達成可能な値です。
また、N7の充電性能についても注目すべき特徴があります。基本的には最大150kW級の充電出力に対応するものの、N7はD9と同様に左右両方に急速充電ポートを装備しています。そして、隣の急速充電器が使用可能な場合に限り、2つの急速充電器を使用してデュアル急速充電が可能です。その場合の充電出力は最大230kWを許容し、CLTC基準で100km分の航続距離をたったの4分で、350km分の航続距離を15分で充電できるレベルです。
さらに、最高出力390kW、最大トルク670Nm、0-100km/h加速も3.9秒と、非常に敏捷な加速性能を持っています。しかし、Zeekr 001やテスラモデルYと比較しても、このほどの加速性能は電気自動車のSUVとしては特別驚くべきものではありません。
その一方で、N7はBYDの最新のサスペンションシステム、Disus-Aシステムを初めて採用しています。このシステムはエアサスペンションを主としたもので、それによりiCVC(インテリジェントベクトル制御システム)によるブレーキやモーター制御、およびサスペンションの統合制御により、コーナリング性能を高めています。さらにiADC(インテリジェントドリフト制御システム)により、トルクの制御とダンピングや車高の統合制御を行うことで、ドライバーは正確なパワー制御を必要とせずに、継続的にかつ安全にドリフトを楽しむことが可能です。
また、エアサスペンションを採用しているため、最大200mmまで最低地上高を引き上げることができます。さらに乗り心地や静粛性にも注力し、時速120kmで巡航した際の車内の静粛性については、Zeekr 001やテスラモデルYよりも優れていると主張しています。
そして、価格についてですが、N7は初めから40万元(約800万円)級の価格設定が予想されていましたが、それを下回り32万元弱(約639万円)からのスタートとなりました。これはZeekr 001と近い価格設定で、また上級グレードであるAWDグレードについてもテスラモデルYパフォーマンスよりも50万円ほど安い価格設定となっています。これにより、非常に競争力のある価格設定を達成していると言えます。
「競合のトップグレードは我々Denzaの標準の装備です」
N7の内外装はスポーティでステーションワゴンタイプのデザインを採用しており、その印象はSUVよりもさらにスポーティです。また、非常に特徴的なデイライトであるπモーショングリルを装備しており、フロントフェイスについてもユーザーの好みに合わせて2種類がラインナップされています。
インテリアの質感については、中央に17.3インチという超大型のタッチスクリーンを搭載し、助手席側にもエンターテイメント用のスクリーンが標準装備されています。さらに、運転席にはARヘッドアップディスプレイも標準装備されており、そのプロセッサにはQualcommの最新チップが搭載されています。
また、スマートフォンのワイヤレス充電器については、モデルYと同様に二台同時に充電可能で、その充電出力は空冷式のファンを搭載することにより50Wとなり、急速充電化に成功しています。USB-Cの出力も60Wと、これらはプレミアムEVに求められる機能をきちんと備えています。
また、シートについても14方向の電動調整が可能で、シートヒーター、クーラー、メモリー、マッサージまで全グレードで標準装備されています。一方の大型ガラスルーフも全車標準搭載で、電動式のサンシェードも採用されています。
さらに、音響システムについてはフランスの音響メーカー、Devialetとのコラボレーションにより16スピーカーが搭載され、出力は960Wとなっています。この音響システムも全グレードに標準装備されています。
そして、自動運転については、新たな自動運転システムであるEyes of the Godを初採用しています。このシステムは33のハードウェアを搭載し、その動作を統合するための自動運転用プロセッサとしてNvidiaのOrinチップを搭載しています。この演算能力は毎秒254兆回に達するとのことです。
以上のことから、今回のN7はBYDの最新テクノロジーを採用した高いEV性能と、中国の高級車に求められる豪華な装備を低価格で提供していることが明らかとなりました。これは競合するプレミアムEV、特にZeekr 001との激しい対決を予想させます。
BYDが大衆車からプレミアムセグメントへと進出することで、これまでドイツ御三家が支配していたプレミアムセグメントに新たな風が吹き込むことでしょう。また、BYD全体の利益率という観点でも、今後N7が重要な役割を担ってくると考えられます。
私たちは、Denzaブランドがどれほど存在感を示すのか、また、このブランドが日本市場にも導入されることを期待しています。
From: Denza
Auhtor: EVネイティブ