中国のバッテリーサプライヤーであるBYDが、今後供給するバッテリーの価格を20%も引き上げる方針であるという可能性が、
複数の報道によってリークされました。
EV生産だけでなく、電池生産・外販にも注力する全方位メーカー
まず、今回のBYDに関してですが、
本メディアにおいては複数回にわたって、様々な観点から、その最新動向を追い続けているわけで、
その様々な観点というのは、特にBYDというのは中国を代表する自動車メーカーでありながら、
現在では、主に完全な電気自動車やプラグインハイブリッド車を中心に生産しているという、電気自動車中心の自動車メーカーであります。
さらに、このBYDについては、ただ電気自動車を生産するのではなく、
スマートフォン用のバッテリーであったり、そして電気自動車用の車載バッテリーの生産も行う、バッテリーサプライヤーとしての顔も持ち合わせ、
特にグローバルにおける車載リチウムイオンバッテリーの生産量において、CATL、LGエナジーソリューション、そして日本のパナソニックという、
バッテリーサプライヤービッグ3のすぐ後ろにつけている、世界第4位の生産量を誇っているのです。
したがって、このBYDの車載バッテリービジネスに関しては、
その大部分が自社で生産している大量の電気自動車に割り当てられているため、
いわゆるバッテリーサプライヤーとして、リチウムイオンバッテリーをガンガン外板している状況ではなかったわけですが、
ようやくここにきて、BYD製のバッテリーの外板をさらに進めていこうとする動きが水面下で加速しているわけであり、
特にこちらは、電気自動車のリーディングカンパニーであるテスラが、
BYDがラインナップしている独自技術でありながら、安価なバッテリーセルの種類である、コバルトフリーのLFPを搭載した、
Blade Batteryというバッテリーシステムを10GWh分、
つまりテスラの搭載見込み車両であるモデル3とモデルYに変換して、おおよそ17万台弱分の台数を、
賄うことのできる量を購入したのではないかという報道が注目されていました。
中国製マスタングマックEはBYD製バッテリーを採用
また、この直近で中国国内の車両生産工場においても生産がスタートした、
フォードのクロスオーバーEVであるマスタングマックEに関しては、
アメリカ国内の工場で生産されている車両については、韓国のLGエナジーソリューション製のバッテリーを採用している一方で、
中国で生産される車両に関しては、今回のBYD製のバッテリーを搭載しているという、
バッテリー調達のローカライゼーションを行なってきているのです。
ちなみにですが、こちらの中国で生産されているフォードのクロスオーバーEVであるマスタングマックEに関してですが、
最大80.3kWhというバッテリー容量を搭載しているという情報で、
中国市場で一般的に採用されているCLTC-Pサイクルにおいて、最長グレードが619kmを達成してきているわけですが、
例えば、今回のマスタングマックEのガチンコの競合車種であり、中国国内においても極めて人気のミッドサイズSUVとして、
テスラのモデルYのスペックはというと、78.4kWhというバッテリー容量を搭載しながら、
満充電あたりの航続距離が640kmということで、
確かにモデルYの方が、満充電あたりの航続距離であったり、電費性能という観点でやや勝る結果になるものの、
実は我々の想像以上に、そのどちらの指標に関しても肉薄してもいるわけなのです。
やはりBYD製バッテリーの質は高そう
それに対して、アメリカで生産されている車両に関しては、
確かに満充電あたりの航続距離という点では、マスタングマックEが最長491kmという航続距離を達成していることで、
モデルYの最長525kmという航続距離に接近することができているものの、
その搭載バッテリーと航続距離との関係性を示す電費性能を比較してみると、
明らかにモデルYの方が優っているという結果が明らかとなっている、ということになります。
つまり、何が言いたいのかというと、
同じような車両性能を達成している中国製とアメリカ製のマスタングマックEというのは、
その電気自動車としての性能を決定づける重要な指標である電費性能という観点においては、
明らかに中国製の方が上である、ということであり、
つまりは、その電費性能に直結する、重量級のリチウムイオンバッテリーの搭載容量を少なく抑えながら、
それでいて、モデルYと肉薄する航続距離を達成することができているのは、
やはりその中国製が採用しているバッテリーの質がそれだけ高い、
要するに、中国製で採用してきている、今回のBYD製のバッテリーの質が高いことが要因なのではないか、ということなのです。
今回の中国製マスタングマックEに採用されているBYD製のバッテリーセルに関しては、
NMC811と呼ばれる、日産リーフを筆頭に、中国製のモデル3ロングレンジやパフォーマンスなどでも採用されている、
現在主流となっている三元系のバッテリーセルの種類でありますが、
特にその中でもNMC811という種類に関しては、
最新型の、極めてエネルギー密度が高いバッテリーセルの種類となっているわけであり、
したがって、そのような最新、かつ、BYD製のNMC811を採用したことによって、
今回の中国製マスタングマックEの、電気自動車としての質の高さを発揮できているのではないかと推測することができそうです。
電池価格が20%も高騰の恐れ
このようにして、中国のBYDに関しては、質の高い電気自動車を開発・販売し、
すでに世界有数の電気自動車の販売シェアを誇っているというだけでなく、
その電気自動車におけるコアテクでもあるバッテリーの内製化にもコミットし、
しかもその質の高いバッテリーセルを、ただ自社の電気自動車に搭載するだけではなく、積極的に外販も進めているわけですが、
そんなBYDに関して、今回新たに明らかになってきたことというのが、
そのバッテリーの外販先との交渉において、
ちょうど今月である11月から、バッテリーの価格を大幅に引き上げてくるのではないかというリーク情報が報道されている、ということなのです。
こちらは、中国の現地メディアが報道してきた、内部ドキュメントから確認したリーク情報となっていて、
11月1日以降に新たに契約されるバッテリーの注文に関しては、
現状のWh単価から、なんと20%以上も値上げするというものですので、
したがってバッテリーサプライヤーであるBYDが、今後外販する分のバッテリーの値段設定を、2割以上も引き上げる、ということになったのです。
特に、今回のBYDが指摘している、その値上げする理由に関してですが、
特に直近の中国市場における電力供給の不足によって、
リチウムイオンバッテリーを製造するための原材料の値段設定が急騰している状況であり、
特に、正極材の値段設定が200%以上高騰していたり、
さらに負極材に関しても、150%以上の高騰を記録してしまっているため、その原材料コストを吸収することができず、
したがって、バッテリー価格を値上げせざるを得なくなった、ということになります。
電気自動車は今後高くなる可能性も
また、特に今回BYDが指摘してきている、原材料の高騰の動きに関しては、
特にニッケルの需要が急拡大してしまっていることによって、
現状の供給体制を、数年後である2024年中にも需要が追い越してしまい、慢性的な供給不足に陥る見込みである、
つまり、例えば今回のBYDがフォードのために生産しているNMC811なんかは、特にニッケルの割合が極めて高いため、
今後さらなるコストの上昇が懸念される、
故に、その値段が高騰したバッテリーを搭載する電気自動車についても、値上がりする可能性が極めて濃厚である、ということなのです。
要するに、先ほどあえて説明していた、現在主流のバッテリーセルの種類となっている三元系のバッテリーセルというのは、
まさに今回、その安定調達が最も懸念されているニッケルの配合割合が、比較的高いバッテリーセルの種類であるため、
確かに今回は外販比率が比較的少ないBYDのみの動きで済んではいるものの、
やはり遅かれ早かれ、このBYDの値上げの動きに追随して、
バッテリーサプライヤーが、バッテリーの値段設定を引き上げてくる可能性が高い、
したがって、多くの電気自動車の値段設定が、今後値上げのトレンドに向かってしまうのではないか、と推測することができてしまうのです。
何れにしてもこのように、現在世界の電気自動車戦争がさらに熾烈さを増す中において、
確かに一部の電気自動車推進派の中からは、
今後電気自動車の値段は加速度的に下がっていくという主張が散見されており、
まず大前提として、長期的なトレンドとしては、複数のシンクタンクが揃って、
同セグメントの内燃機関車よりも、車両コストで電気自動車が安くなっていくことは間違いないとしているわけですが、
むしろ逆に、この5年間程度という短中期的な視点においては、
現状の値段設定よりも、電気自動車が高くなってしまうリスクが増大していますので、
特に現在テスラやフォルクスワーゲンという電気自動車を強力に推進している自動車メーカーを筆頭に進められている、
ただ電気自動車用のバッテリー生産工場を建設するだけでなく、
そのバッテリーを安定的に生産するための原材料の調達戦争についても、
今回のバッテリーサプライヤーの値上げ圧力の動きからも、
その原材料確保にコミットしている自動車メーカーと、その原材料確保にコミットしてこなかった自動車メーカーとの差が、
電気自動車の値段設定という形で持って、大きな差として現れ始めるのかもしれません。
From: Securities Times, via CNEV POST
Author: EVネイティブ
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