中国の自動車メーカーであるBYDが、なんと航続距離1000km以上、ゼロヒャク加速が2.9秒、そしてそのバッテリーの安全性が極めて高いという、次世代型の電気自動車専用プラットフォームを公開し、
なぜ私が、今回のBYDこそ、今後の電気自動車の覇権を奪うことのできる筆頭格であると考えているのかについて、徹底的に解説します。
EV販売台数世界トップクラスのBYD
まず今回のBYDに関してですが、中国の自動車メーカーであるのと同時に、現在電気自動車の開発にも注力し、
特に現在発売中である、Hanというフラグシップセダンであったり、TangというフラグシップSUVなどの電気自動車としての質が、
本メディアにおいては幾度となく取り上げている通り非常に高く、
すでにTangに関しては、電気自動車のシェア率が世界で最も高い北欧のノルウェー市場に出荷をスタートさせている状況でもあります。
そして、そのBYDの電気自動車の販売台数の規模感というのは、この直近の8月度において、すでに6万台オーバー、
つまり、年間で72万台以上もの電気自動車を販売することができるキャパシティを有しているということになり、
この数値というのは、すでに中国市場におけるテスラを大きく上回る販売台数でありながら、
テスラのグローバルにおける販売台数予測である、おおよそ86万台程度という数値に最も近い自動車メーカーである、
つまり、現在世界で最も電気自動車を販売している自動車メーカーの1つに君臨している、ということなのです。
しかもさらに、直近のBYD側からのアナウンスにおいて、
現在自動車産業を襲っている、慢性的な半導体の供給不足によって、そのBYDのバックオーバーがなんと16万台にも上ってしまい、
したがって、その納車待ちが概ね4-5ヶ月程度という品薄状態が続いてしまい、
こちらの納車の大幅遅延に対して、BYD側がオーナーに謝罪するという状況にまで発展してしまっている、
何れにしても、中国のBYDというのは、現在世界で最も電気自動車にコミットし、実際に世界トップクラスの販売実績を有している、ということなのです。
e-platform3.0はゲームチェンジャーとなれるか
そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、
そのBYDが、新たな電気自動車専用プラットフォームの存在を明らかにし、その詳細のプレゼンテーションを行ってきたということで、
実はこちらの次世代型の電気自動車専用プラットフォームであるe-platform3.0に関しては、
ちょうど8月後半から正式に発売がスタートしている、BYDのDolphinというコンパクトハッチバックにおいてすでに採用され、
そのDolphinの、コンパクトカーとしての必要十分な電気自動車としての質、
そして何よりも、日本円に換算して160万円から購入することができてしまうという、
極めて高いコストパフォーマンスについて以前解説していました。
つまり、このe-platform3.0を採用することによって、その次世代プラットフォームを初採用したDolphinが、
ここまで質の高い電気自動車として開発することができたと考えることができ、
それでは一体、このe-platform3.0とは、具体的にどのような技術的なスペックを有しているのか、
さらには、今後BYDが発売していく電気自動車に、どのように展開していくのかが非常に気になっていたわけですが、
ついに直近においてBYDが、特にe-platform3.0に関する技術的な発表を行ってきましたので、
今回は、特に日本のメディアでは取り上げられない、
それでいて、非常に重要であるe-platform3.0に関する技術的な詳細についてを、一挙に解説していきたいと思います。
航続距離1000km&5分の充電で150km分回復
まずはじめに、e-platform3.0を採用した電気自動車に関しては、中国市場で一般的に採用されているNEDCサイクルという基準において、
最長1000kmを達成することができるという、圧倒的な性能を有していると説明されてはいるのですが、
こちらのNEDCサイクルという基準については実用使いにおいては全く信用するに値しませんので、
高速道路を時速100kmでクーラーをつけても達成可能であるというような、実用使いにおいて最も信用に値するEPAサイクルに変換してみると、
現状の概算値とはなりますが、最長でも800km程度の航続距離となってきそうですので、
1000kmという数値と比較すると、やや見劣りするように感じますが、
それでも、満充電あたり最大800kmを確保することができる冗長性を備えているという点は、
今後の電気自動車戦争において、一つのベンチマークとなっていくことは間違い無いと思います。
次に、その加速性能に関してですが、時速100kmまで加速するのに最短で2.9秒という、スーパーカー顔負けの加速性能を秘めていますので、
おそらくBYDについては、今後発売するプレミアムセグメントの車種の、特にパフォーマンスモデルにおいて、
このゼロヒャク2.9秒という圧倒的なパフォーマンス性能を達成した新型電気自動車をラインナップしてくることでしょう。
さらに、その充電性能に関してですが、800Vのシステム電圧に対応可能であるため、
NEDCサイクルにおける航続距離にして150km分の充電量を、たったの5分間で完了させることができると説明され、
こちらも例によって、最も信用に値するEPAサイクルに変換してみると、おおよそ120km分の充電量をたったの5分間で充電することができてしまいますので、
この充電性能に関しては、現在世界最高の充電性能を達成している韓国ヒョンデのクロスオーバーEVであり、
同じく800Vのシステム電圧に対応しているIONIQ5が採用している、E-GMPという電気自動車専用プラットフォームと、
同等クラスの充電性能を達成してきた格好となりそうです。
新型ヒートポンプ採用で、電費性能20%改善
次に、電気自動車においてどうしても懸念される、冬場における航続距離の悪化に関してですが、
結論から申し上げて、BYDが今まで発売していた電気自動車と比較しても、なんと20%もの航続距離の改善を達成することが可能であると説明し、
特にその電費性能の改善に寄与しているのが、今回のe-platform3.0から新たに搭載される、新型のヒートポンプシステムとなっていて、
そもそもヒートポンプシステムというのは、自らが熱を生成するというものではなく、車外に存在している熱を車内に効率よく集めて取り込むことによって、
ヒートポンプとともに搭載している、熱を発生させる従来のPTCヒーターの稼働率を少しでも減らすことに貢献することができる、
故に、冬場においても、その消費電力を抑えることにつながるのです。
さらにBYD側は、今回の新型のヒートポンプについて、
その運用することのできる環境が、マイナス30度という超低温下から、60度という超高温下に至るまで、しっかりと機能するとも説明してきていて、
特にヒートポンプシステムというのは、一般的に氷点下を大きく下回る状況においては、
外界の熱を効率よく集めることができなくなるために、既存のPTCヒーターの稼働割合が高まりますので、
結果的にその電力消費量は、ヒートポンプによって期待するほど改善されない、というような弱点があるのですが、
今回の新型ヒートポンプについては、そのような極めて厳しい気温下においても、そのヒートポンプの効率性を高め、
結果的に、従来と比較しても、その電費性能を20%も向上させることができている、ということなのです。
Blade Batteryは車体一体構造
また、その効率性という観点で付け加えたいのが、BYDが独自内製してきた電動パワートレインとなっていて、
というのも、今回のBYDは、モーター、モーターコントローラー、Reducer、オンボードチャージャー、DCコンバーター、高電圧ディストリビューションボックス、
さらには車両コントローラー、そしてバッテリーマネージメントシステムという、
電気自動車に必須の8つのコンポーネントを、全て一体化した電動パワートレインを披露し、
そしてその効率性は業界最高水準の89%を達成しながら、
しかも現在半導体業界のスタンダードとなりつつある、効率性の高いSiC半導体についてすら、全て自社で製造、
特に半導体のチップですら、BYD独自に生産しているという、
今回のe-platform3.0の垂直統合のしかたは、明らかに一線を隠していると言えるのではないでしょうか?
そして、これまたBYDが独自で開発してきた新たなバッテリーの種類であるBlade Batteryについてですが、
すでに幾度となく解説している通り、より安全で耐久性の高いLFPを採用し、
さらにBYDが独自に、そのLFPをバッテリーパックに搭載する方法を改良してきたため、より安全性が担保されたと説明し、
しかもその電気自動車における航続距離を決定づけるエネルギー密度の高さに関しても、
例えば競合メーカーである中国のCATLのLFPバッテリーのエネルギー密度である140Wh/kgという数値を超えて、166Wh/kgという数値をも達成しています。
しかしながら、今回のe-platform3.0に搭載されるBlade Batteryについては、さらに改良が施されていたという新たな発表があり、
それが、なんとそのBlade Batteryというバッテリーパックを、車体のシャシーに統合して設計してしまっているという点であり、
よって、ただでさえ強固な電気自動車にバッテリーパックが、
同じく頑丈なシャシーと一体化することによって、車体の剛性が極めて向上していることが推測できますし、
そもそも剛性が高いBlade Batteryがさらに安全になっている、ということなのです。
中央集権化と垂直統合がカギ
さらに、今回のBYDというのは、ソフトウェアととハードウェアの一体化にも取り組んでいて、
まずは、こちらも自社で完全内製された、BYD OSというオペレーティングシステムを搭載し、
もちろん現在の自動車業界のスタンダードとなった、車両性能の無線アップデートに対応しているのですが、
しかしながら、特にその無線アップデートというテクノロジーというのは、
ただ単に、ソフトウェアを作り込めば達成することができると思っていたら大間違いであり、
そのソフトウェアを機能的に動かすことのできる仕組み、
特に、既存の自動車のような、数多あるECUによって、そのシステムが複雑化してしまうと、
車両性能を無線でアップデートさせていくというような機能を、実装することができません。
しかしながら、今回のBYDが取り組んできたのが、その数多あるECUを大きく4つのみに中央集権化し、
数々のECUから、それぞれに出されていた車両操作の指揮命令系統を一元化して管理することによって、
特に車両を開発した後でも、スムーズに無線アップデートによって、車両性能を向上させることができるようになるのです。
ちなみにBYD側によれば、そのような中央主権的な車両制御によって、
例えば走るや止まるといった、車両の基本性能の反応スピードを従来の5割も改善することができたり、
CPUを統合したことによって、演算能力も30%向上させることができたともしていますので、
何れにしてもBYDについては、自分たちの手で、自分たちが本当に必要としているプロダクトを内製してしまう、
もはや、車載半導体部品に至っても、自分たちの手で設計開発、および量産してしまうことによって、
今回のe-platform3.0における、真の意味においてソフトウェアファーストな車両開発を成功させることができた、ということなのです。
新型コンセプトは世界最高EVとなる可能性
そして、このような新世代の電気自動車専用プラットフォームであるe-platform3.0を採用した、BYDの次世代電気自動車のコンセプトモデルも、同時に発表されたということで、
それが、Ocean-Xと名付けられたミッドサイズセダンのコンセプトモデルであり、
こちらに関しては、いまだに多くを語ることはありませんでしたが、
その電費性能に直結する空気抵抗係数を示すCd値に関しては、およそ0.21を達成する見込みであるとも説明し、
こちらに関しては、例えばメルセデスのEQSが達成している世界最高の0.20などには、わずかに及んでいないものの、
例えば私の所有する、同じくミッドサイズセダンであるテスラモデル3の0.23よりも優れているという、それでも世界最高峰の空力性能を秘めている、
つまりそれだけ航続距離などの電気自動車としての質にも期待することができる、
それこそ、e-platform3.0の最大性能である、NEDCサイクルにおいて1000kmという数値に近づいてくるのかもしれません。
このように、今回BYDが詳細をアナウンスしてきた、最新の電気自動車専用プラットフォームであるe-platform3.0というのは、
世界最高クラスの電気自動車としての質、それと同時に、そのバッテリーに関する安全性の高さ、
しかも、ソフトウェアとハードウェアのシームレスな統合によるさらなる効率性、
より複雑なアップデートをOTAで対応することができるようになりますが、
それを可能としている最も重要なポイントであるのが、
そのどれも、BYDが自ら主導して設計開発、そして量産までを行うという、垂直統合を徹底的に追求しているからこそであり、
何れにしても、バッテリー生産はバッテリーサプライヤーの仕事、
ソフトウェア開発は、関連下請けに丸投げ、
そして充電インフラは充電インフラ企業、および国や自治体の仕事、などと投げるような姿勢では、
とてもではないですが、この電気自動車戦争において、世界の主要電気自動車メーカー、
特に今回の電気自動車マーケットにおける覇権を冗談抜きで狙ってきているBYDに、気づいたらもはや追いつけないほどに、
その技術力、生産能力で抜かされてしまっていた、
なんていうディストピアな世界が訪れないように、日本メーカーの懸命な判断を期待したいと思います。
From: BYD
Author: EVネイティブ
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