EV先進国であるノルウェーで毎年行われている大量の新型電気自動車の一斉性能テストが実施され、特に冬場の充電性能が著しく悪化する電気自動車がいくつも発見されるなど、
このEV先進国ノルウェーにおける、真のEV性能から見える、我々日本人が電気自動車を購入する上で重要なポイントを考察します。
一斉EV充電性能テストで分かった最新EVのリアルな性能
まず、今回取り上げるテスト内容は、ノルウェーの自動車連盟であるNAFが2020年の冬から年に2回実施している大規模な電気自動車の性能テストです。
私がこれまで何度も解説してきた通り、ノルウェー市場は世界中で電気自動車の販売シェア率が断トツに高く、EV超先進国です。2023年になると、新車販売全体に占めるバッテリーEVのシェア率は驚異の80%を超えます。つまり、5台に4台がバッテリーEVという割合で、EVを購入することは日本で内燃機関車を購入するくらい当たり前の事です。
逆に言えば、ノルウェーで内燃機関車を購入するということは、現在日本でEVを購入することと同じくらいマイノリティな状況と言えます。
その一方で、内燃機関車とEVの運用方法は大きく異なります。その中でも大きく異なるポイントとして、満充電あたりの航続距離が内燃機関車よりも劣るということ、そしてエネルギー補給にかかる時間がEVの方が圧倒的に長いということが挙げられます。
これらの2点は、現在内燃機関車を所有している方々にとってはイメージしにくいですし、購入を検討する際に最も気になる部分だと言えます。
しかしながら、自動車メーカーが発表しているカタログスペックについては、一部で信用できない数値であると指摘されることがあります。特に航続距離や充電時間といったスペックは、EVを運用する上で極めて重要となります。
そのため、現実世界で実際にどれほどのスペックを達成できるのかについては、大きな注目が集まっています。
本チャンネルでは、日本国内において航続距離テストや充電スピードテスト、そして1000kmチャレンジなどのEV性能の検証を独自に行っています。その正確性や検証の規模については、日本国内では最大級と自負しています。
そこから見えてくるのは、現実世界での検証結果が、自動車メーカーの主張とはかなり異なるということです。
中でも確認しなければわからない部分として、冬場の航続距離、充電器との相性問題を含めた実際の充電性能といった観点が挙げられます。
熱源を持たないEVは、バッテリーに溜めた電気から熱を発生させなければならず、排熱を利用できる内燃機関車と比較すると、冬場のエネルギー消費量が増えます。その結果、夏場の航続距離と比較すると、車種によっては3割以上も航続距離が短くなってしまうことも珍しくありません。
また、充電性能についても、自動車メーカーが充電時間30分と主張していたとしても、同じスペックの充電器でもカタログスペックを達成できなかったり、場合によっては充電エラーが発生する充電器も存在します。また、冬場にはバッテリーが冷たいために充電時間が長引くケースもあります。
このように、自動車メーカーのカタログスペックとは別に、外的要因をなるべく明らかにして、現実世界での航続距離や充電性能の検証が求められている状況です。
そして、そのような背景から今回新たに明らかになったのが、NAFの最新の2023年夏バージョンの充電性能テストの結果です。ここからは、その充電性能テストの結果について、カタログスペックとの乖離、および冬場の充電スピードとの差を含めて確認していきたいと思います。
この検証の大前提として、350kW級という充電出力を発揮可能なIONITYで、充電残量10%弱から80%まで充電を行い、その途中の充電出力や充電時間を計測するという方法をとっています。これは本チャンネルと全く同様の計測方法です。
さらに、この充電セッションを始める前に、少なくとも高速道路を2時間以上走行しています。これは一般ユーザーが行う経路充電における急速充電と全く同じです。
つまり、自動車メーカーのカタログスペックではなく、バッテリーが過熱していたり、バッテリーが十分に暖まっていなかったりするケースも考慮に入れた、まさにリアルワールドでの充電性能テストなのです。
それでは、まず2023年シーズンの充電性能テストでトップに輝いたのは、韓国ヒョンデのミッドサイズセダン、IONIQ6です。
この車はIONIQ5と全く同様のバッテリーやプラットフォームを採用しており、充電残量80%までたったの18分という驚異的な充電時間を達成しています。
今回の実際の検証結果によれば、その時間は19分と、カタログスペックをほぼ達成する結果となりました。
さらに、充電カーブを見ていただくと、最大239kWという驚異的な充電出力を達成していながら、充電残量80%の段階でもなお110kWという圧倒的な充電出力を維持しています。
いずれにしても、IONIQ6の充電性能はIONIQ5と同様に驚異的であるということが確認できます。
ただし、このIONIQ6に採用されているe-GMPは、冬場における充電性能で弱点を抱えているという点が重要です。
今回のIONIQ6については、2024年の初頭にも、冬場における性能テストを実施する予定ですが、 すでに一足早く、e-GMPを採用しているIONIQ5については、夏と冬の両方で充電スピードを検証済みです。
夏場については、今回のIONIQ6と同様に、19分間という充電時間を達成することができましたが、冬場については、なんと32分という、1.5倍以上の充電時間を要してしまいました。
特に注目すべきは、この充電カーブで、明らかに夏場と異なる充電カーブを示しています。
充電をスタートしてからは、たったの60kW程度しか発揮することができず、
その後は、徐々に充電出力が上昇していくものの、結局、最大145kWまで上昇してからは、緩やかに充電スピードが低下します。
このように、夏場の充電性能は優秀である一方で、冬場における充電性能とのスピードの乖離が激しいということです。
こちらについては、e-GMPの大きな弱点であり、バッテリー温度が概ね25度程度でないと、最高の充電性能を達成することができません。
よって、冬場についてはこのようなあからさまな充電制限に引っかかってしまいます。しかし、涼しい気候でも充電制限に引っかかってしまうため、その充電性能の安定性が求められていました。
そして、ヒョンデはすでに、2023年モデルから、急速充電器を目的地に設定すると、自動でバッテリー温度を昇温するバッテリーのプレコンディショニング機能を追加しました。
よって、これらの季節要因による充電制限の心配がなくなったかに見えていましたが、
ところが、この2023年の冬シーズンの実際のユーザーによる検証結果からは、このヒョンデのプレコンディショニング機能が想像よりも性能が低いことが明らかとなりました。
プレコンをかけたとしても、十分に昇温することができず、やはり充電制限に引っかかってしまっていました。
さらにその上、このプレコン機能は、充電残量20%を下回ると強制的にオフになってしまいます。
ところが、EVユーザーとしては、充電残量10%程度まで減らしてから充電を行うケースも多く存在します。そのため、このプレコンディショニング機能の改善が求められています。
そして、この冬場における充電性能の悪化という観点については、別にIONIQ5だけでなく、多くの電気自動車が経験しています。
例えば、フォルクスワーゲングループのMEBプラットフォームを採用しているアウディQ4 e-tronについても、夏場については、充電残量4%から80%まで充電するのに37分と、むしろカタログスペックを上回る充電性能を発揮しました。
しかし、冬場においては、ズバリ39分と、やはり夏場と比較すると充電スピードが低下しています。
一方、IONIQ5と比較すると、夏と冬の乖離という観点ではそこまで深刻ではなく、
そして、MEBプラットフォームについてはバッテリーのプレコンディショニング機能は存在しません。
したがって、バッテリー温度が若干低下しても、そこまで充電性能を絞るという挙動は見られない、ということになりそうです。
また、BMWのフラグシップ電動SUVであるiXに関しても、バッテリーのプレコンディショニング機能が搭載されているにもかかわらず、冬場においては、充電残量3%から80%まで、正確には45分という充電時間を要してしまいます。
少なくとも10分程度は、夏場と比較しても充電時間が長くなってしまっていることが分かります。
さらに、その充電カーブを見ていただければ、充電セッションが進んでいくごとに、冬場の方が明らかに充電スピードが低下していくペースが早いです。
それは、バッテリーのプレコンディショニング機能が、そこまで性能が高くないのか、もしくは、充電中にバッテリーを昇温するために、その昇温分の電力が必要であると推測できます。
いずれにしても、冬場における充電性能が低下してしまっていますので、バッテリーのプレコンディショニング機能があったとしても、電気自動車の充電性能低下は避けられないのではないかと思われます。
しかし、冬場における充電性能低下の問題をしっかりと解決できている電気自動車も存在します。
まずはなんといっても、プレコンディショニング機能を初めて採用したテスラです。特に、今回のモデル3スタンダードレンジ+グレードに関しては、
夏場においては、充電残量9%から80%まで24分という、本チャンネルも以前所有していたので、その充電スピードの速さは驚きました。
しかしながら、冬場における充電性能についても、充電残量4%から80%まで26分と、ほとんど同等の充電性能を実現していました。
最もわかりやすいのが、その充電カーブの違いであり、これを見ていただくと、確かに完全に一致する曲線ではありませんが、充電スタート時の充電残量が異なることを考慮すれば、ほとんど同様の充電カーブを描くことに成功しています。
これは一つには、バッテリーのプレコンによって、冬場においても充電性能を一定に保つことができていることを示唆しています。
本チャンネルの1000kmチャレンジを見ていただいても、なぜ冬場でも安定した充電速度が出ているのか、それはまさに、この高性能なプレコンディショニング機能のおかげである、と言えます。
また、この冬場の安定した充電性能という観点で、メルセデスが極めて優秀という点も取り上げるべきポイントであり、
特に、フラグシップセダンであるEQSについては、驚くべきことに、夏でも冬でもほとんど充電スピードが一緒であるということです。
驚くべきことに、この充電カーブを見ていただくと、なんと夏でも冬でも、全く同じ充電カーブを描くことができています。
やはりこのEQSについても、全く同様にプレコン機能を搭載していることによって、夏場の15度という環境、および冬場の0度という環境下においても、全く同様の充電性能を発揮できているという点は、さすがはメルセデスだと言えます。
いずれにしても、寒さが厳しい我々日本市場においても、このバッテリーのプレコンディショニングがなければ、安定した充電性能を発揮することができません。
そして、プレコンと一口に言っても、その性能は自動車メーカーによってまちまちであるという点も重要です。
逆に、高性能なプレコンディショニング機能が搭載されていれば、たとえ氷点下の環境でも、最新のEVであれば、いつも通りの充電性能を発揮することが可能である、ということです。
このように、今回ノルウェーの自動車連盟が主催し、電気自動車の一斉性能テストが実施され、特に冬場において懸念が残る、充電性能の低下がどれほどなのかについてを詳しく見ていきましたが、
やはり、今なお多くのEVが、冬場における充電スピードの低下を経験しており、
実際に、ノルウェーのEVオーナーに対するアンケート調査においても、その充電スピードの遅さが指摘されています。
一方、テスラやメルセデスなどという一部のメーカーは、高性能なプレコンディショニング機能を採用することによって、夏でも冬でも変わらない充電性能を実現しています。
今後発売する新型EVについても、さらに高性能なプレコン機能の導入に期待していきたい一方で、
すでに発売中の、日産アリアやトヨタbZ4Xという日本メーカー勢の新型EVたちは、どちらもプレコン機能は搭載されていません。
今回は詳しく紹介することはなかったものの、アリアもbZ4Xも、直近の夏のテストにおいては、カタログスペック通りの充電性能を達成していました。
しかし、2024年初頭に実施される予定の、冬場における充電スピードが、夏と比較してどれほど低下するのかについては、見所となりそうです。
それらの検証にも注目するとともに、やはり日本メーカー勢についても、早く、高性能なプレコンディショニング機能を導入して、いつでも安定した充電性能を保証してほしいと思います。
From: NAF
Author: EVネイティブ