フォルクスワーゲングループのトップを務めるDiess会長の進退問題に関する一件が、ついに完全決着を見せ、
残念ながら多くの権力が剥奪され、実質の経営に関する実行権が形骸化してしまいました。
電動化の立役者「Diess」はCEOに残留できるのかが決定
まず、今回の世界最大級の自動車グループであるフォルクスワーゲングループの一件についてですが、
本メディアにおいてはつい直近でも大きく取り上げていた通り、
現在グループのトップを務めるDiess取締役会長が、進退の危機にさらされているのではないかというリーク情報であったわけで、
こちらはDiess会長が、フォルクスワーゲングループがこのままの電動化への移行スピードに留まってしまえば、
最大で3万人もの雇用が失われてしまうという懸念を表明した際に、
その懸念に対して、労働組合側が大反対を起こし、
その大反対の流れを主導したCavalloという、
フォルクスワーゲングループ29万人の労働者が構成する労働組合のトップが、
そのような性急すぎる電動化ビジョンに、同じく懸念を示す株主を焚きつけて、監査委員会の立ち上げを主張し、
そこで、Diess会長をはじめとして、様々な人事改革が行われているのではないか、というリーク内容であり、
こちらにリーク情報については、つい直近も解説していました。
そして、最も懸念していた点というのが、
そのグループトップを務め、特に2015年に起こしたディーゼルゲートからの立て直しを主導、
そしてその後も一貫して電動化、およびデジタル化を主導してきた立役者でもあったDiess会長が、
グループ全体のCEOとして残留することができるのか、
仮に残留したとしても、もともと有していた権力を剥奪されて、
電動化を中心とする経営戦略を決断する権限を有することができなくなってしまうのではないか、
つまり、今後のフォルクスワーゲングループの電動化を主導する、最もアグレッシブな立場であったDiess会長が、
フォルクスワーゲングループをリードすることができなくなるのではないか、という点であったのです。
電動化&デジタル化に11.4兆円投資の衝撃
そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、
当初のアナウンス通り、取締役監査委員会が開催されて、
今後の経営体制を大きく見直しながら、今後の電動化戦略などについてもさらなる見直しが行われ、
その関西委員会で決定した内容を、しっかりと公式に中継しながら質疑応答も行われるという、
フォルクスワーゲングループにおける、重要な発表が行われたのです。
まず、今回の発表の冒頭において発表されたのが、
今後の電動化、および自動運転やデジタル化に対する投資額をさらに引き上げるという朗報であり、
グループ全体で、今後5年間で合計して1590億ユーロ、
日本円に換算して、20.4兆円にも昇る投資額の内、
マジョリティである56%に該当する890億ユーロ、
日本円にして、およそ11.4兆円にも昇る巨額の投資額を、
特に完全な電気自動車のみにフォーカスした電動化であったり、デジタル化、および自動運転に対して行い、
この全体の投資額に占める次世代技術への投資比率が50%を超えてきたのは、
フォルクスワーゲングループの歴史上でも初、
つまり、フルクスワーゲンは既存のレガシーな技術ではなく、次世代技術に対して行うという、
より未来志向な考えを、取締役、および主要株主を含めた監査委員会においても合意が取れた、ということになりました。
ちなみにですが、この電動化とデジタル化に対する投資額である11.4兆円、
つまり1年間で、2.2兆円以上という規模感というのは、
例えば直近で日産が発表してきた2030年までの電動化戦略などをまとめたNissan Ambition 2030において示された、
今後5年間で、電動化やデジタル化に対する投資額である2兆円という規模感と比較してみても、
もちろんその会社の規模感が異なるものの、
日産が5年間で投資する額を、たったの1年以内に行ってしまう、というようにイメージしていただければ、
その圧倒的な規模感がイメージできると思いますし、
さらに日産というのは、電動化といいながら、完全な電気自動車だけでなくe-POWERであるハイブリッド技術も多分に含めているわけですが、
今回のフォルクスワーゲングループについては、
次世代技術の中の電動化技術への投資額である520億ユーロのうち、
ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に対する投資額は、たったの80億ユーロ、
つまり、完全電気自動車のみに対しては、圧倒的マジョリティであるおよそ440億ユーロ、
日本円にして、およそ5.6兆円以上を投資していくわけですから、
このように詳細にみていったとしても、
やはりフォルクスワーゲングループの電動化戦略、特に完全電気自動車を中心戦略に据えているということが、
日本メーカーと比較すればするほど明らかとなってくる、ということなのです。
Diess会長は実質「裸の王様」状態?
このように、今後の次世代技術に対する投資額を増やすことによって、
さらに電動化、そして自動運転時代に備えて変化を加速させていくことが見てとれるとともに、さらに朗報であるのが、
今回最も注目されていた、Diess会長の動向についてですが、
結論から申し上げて、フォルクスワーゲングループトップとしての座に留任することが公式に確定しましたので、
今後も変革を率いてきたDeissがトップとしてフォルクスワーゲングループ全体を、電動化、そして自動運転へと率いていくというのは、
元々懸念されていたような心配をする必要は無くなったのではないかと、捉えることができると思います。
それでは、ここまで説明したことというのは、
普通のメディアで解説されるような、フォルクスワーゲン側が公開してきている内容のメイン部分となっているわけですが、
本メディアにおいては、今回のフォルクスワーゲン内部の一件を、より詳細に読み解いていきたいということで、
まず、トップに残留することになったDiess会長ではありますが、
それと同時に、様々な権力を剥奪されてもしまったという点が極めて重要であるわけで、
まずは、中国市場におけるビジネスに対する権限を剥奪され、
現在フォルクスワーゲンブランドのCEOを務めるRalf Brandstätterが、
来年である2022年の8月付けで、中国市場におけるトップ、および事業を統括することになりましたので、
要するに、フォルクスワーゲングループの最も大きな稼ぎ頭となっている中国事業に対して、
Diess会長は実質的な決定権を失ってしまった、ということになります。
さらに、フォルクスワーゲングループ全体のグローバルセールスを統括する権限も剥奪されてしまい、
後任には、アウディのグローバルセールスの責任者であったWortmannという人物が、グループ全体の取締役として昇格しながら、
そのグループ全体のグローバルセールスの統括を、2022年2月付けで引き継ぐこととなりましたので、
つまり、グローバルセールスに対する采配をはじめとして、
Diess会長というのは、外向けには日々のビジネスを管理するというよりも、
よりグループ全体の戦略という、俯瞰的な立場に移動したとされてはいますが、
その実態はというと、
実質的の決定に対して、口出しすることができなくなってしまった、
要するに、フォルクスワーゲンの最重要マーケットである中国事業における権限、
そして、グルーバルセールスを統括する権限が、実質的に剥奪されてしまった、ということになったわけです。
CARIADトップ就任は株主サイドの罠?
ただし、Diess会長に対しては、新たなポジションを獲得してもいるということであり、
それが、Cariadという、フォルクスワーゲングループのデジタル化を主に担当するソフトウェア部門を統括するということで、
確かに、フォルクスワーゲン自身が、今後の主力事業として掲げていることというのが、
ただ単に電気自動車を発売することによる収益だけでなく、
ソフトウェアによって得られる関連サービスのことであり、
要するに、確かにフォルクスワーゲンが未だに発展途上な分野でありながら、今後の成長がマストとなるソフトウェア事業について、
Diess会長がトップを務めるということは、実はより良い采配なのではないかと、捉えることも可能ではあります。
しかしながら、皆さん想像していただきたいことというのが、
政治においてはよく見られる手法であり、私自身も同じような采配をよく見てきてはいますが、
仮に、ある人物を、その主要ポジションから蹴落としたい場合、
現在発展途上であり、将来的に注目されることは間違いないポジションでありながら、
とてもではないが、すぐには結果を出すことのできないようなポジションに、あえてその人物を采配し、
短期的に結果を出すことができなかった、という印象操作を行えば、
その経営陣の采配を決定することができる株主から、ノーを突きつけられることは間違いありません。
よって、ここからはあくまで仮定の話とはなりますが、
つまり今回のDiess会長の、Cariadのトップという采配というのは、
単純に、Diess会長の能力を見越した上で、
フォルクスワーゲングループが今後最も求められる分野において、遺憾無く能力を発揮してもらおう、と考えているというよりかは、
今回権力を剥奪された中国事業と全く同様に、特に電気自動車の販売台数が当初伸び悩んでいたことから、
その能力不足によって中国事業の権限を剥奪したように、
今回のCariadを担当してから、短期的に結果を出すことができなかった場合、
全く同様に、その責任者であるDiess会長の責任として、さらにDiess会長への攻撃を強めるのではないか、
そして最終的には、今回労働組合や大株主であるLower Saxonyという、Diessの失脚を狙っていた側の狙い通り、
次こそは、Diessをグループトップとしての座から、引き摺り下ろそうとしてきたのではないかと、
これまでの経緯を踏まえると邪推することもできてしまう、ということなのです。
Trinity生産への大規模投資!なら良かったが、、
ただし、ここまでの邪推については、
流石に邪推しすぎなのではないかと思われた方もいるかもしれないわけですが、
今回の采配と同時に、
冒頭触れた、今後の電動化などの次世代技術に対する莫大な投資額をについてをさらに詳細に読み込んでいくと、
今回の取締役監査会、そして経営戦略のアップデートによって、
具体的に、いったい誰が得をしているのかが浮き彫りとなってくるという点が、
ただ単純にゴシップとしてではなく、
今後のフォルクスワーゲングループの将来にとって、極めてクリティカルでもあるのです。
というのも、今回の次世代技術に対する投資の分配先として最も大きいのが、
Lower Saxonyという州に位置する工場に対して、
特に210億ユーロ、日本円にして2.7兆円もの投資を、今後5年間で行うと表明してきているという点なのですが、
先ほども説明していた通り、
このLower Saxonyというのは、フォルクスワーゲングループの2番目の株主であるということで、
この状態を簡単に表現してみれば、
日本最大の企業であるトヨタの大株主に愛知県が存在し、
そして、トヨタの今後の電動化戦略において、その投資先の中心が愛知県に集中することになる、
ということと同義であるのです。
確かにこれだけであれば、別に大きな問題ではないと思われるかもしれませんが、
その210億ユーロの中でも大きいのが、
そのうち50億ユーロ、つまり6400億円規模となる、
フォルクスワーゲンの本社が位置する、Wolfsburgの工場に対する投資となっていて、
もともと、この世界最大級の工場とも言われているWolfsburgの工場というのは、
2026年から、グループ全体の最新の電子アーキテクチャーであるSSPを採用しながら、
アップデートのみによって、レベル4自動運転まで到達することができるという、
フォルクスワーゲンのフラグシップEVとなるTrinityを生産する予定であり、
確かにそのフラグシップモデルを生産するための投資としてであれば、
全く頷ける規模感の投資と捉えることができます。
大株主への配慮によって合理性を描く生産計画へ
それでは、なぜこの投資内容に問題があるのかというと、
実は今回の発表において追加された内容というのが、
今までには予定のなかった、現在の電気自動車専用プラットフォームであるMEBを採用し、
すでに発売中であるID.3を、2023年から急遽生産する予定となったという点であり、
つまり、元々の計画にない、しかもプラットフォームの異なるID.3をWolfsburgの工場においても生産するということになってしまい、
そもそも論として、
既存の工場を、全く別の次世代アーキテクチャーを搭載する電気自動車生産ラインにリプレイスすることが、極めて難しく、
なおかつ、施設のキャパシティの問題も指摘されていたはずであるのに、
その工場に、ID.3用のラインも新たに追加しようとしているのです。
というのも、現在のMEBプラットフォームを採用しているグループの電気自動車というのは、
Zwickauに位置し、そのMEBの電気自動車のためだけに操業されているという専用工場をすでに用意し、
さらに、それ以外にもDresdenなどの工場でも生産することで、MEBの需要に対応すると説明していたわけですから、
果たして本当にWolfsburgにおいて生産することが、最も合理的な決断であったのか、
極めて疑問が残る、ということなのです。
そして、それを説明することができてしまう背景というのが、
以前解説していた、Cavalloという人物が率いている、29万人もの労働者の代表が集まる労働組合の存在であり、
つまり、今回の突如としたID.3の生産決定というのは、
別にもともとあった計画でもなければ、最も合理的な生産計画ということでもない、
しかしながら、労働組合側の、電気自動車をすぐにでも生産することができなければ、
現状半導体不足による減産によって、ただでさえ生産台数が減ってしまっている労働者側が、
満足に仕事に就けなくなってしまうと懸念してきたからではないか、ということなのです。
したがって、そのWolfsburgを中心として、
それ以外にも数多くのフォルクスワーゲングループの工場が位置するLower Saxony側も、
その労働者たちの税金によって運営され、
そして、労働者たちの票によって選出されているわけですから、
いかにしてLower Saxonyに投資してもらえるのかという点で、取締役会に圧力をかけた、
結果として、投資額の中でも、2.7兆円もの投資額をもぎ取ったのではないかと推測できる、ということですね。
これはダメかもわからんね
このようにして、既存メーカーの中でも、
日本のトヨタと並んでトップに君臨するフォルクスワーゲングループの一連の経緯については、
確かに表面上では、次世代技術に対してさらにアグレッシブに投資額を増やしながら、
そして、その去就に世界が注目していた、トップを務めるDiess会長を残留させることによって、
対外的に見ると、フォルクスワーゲンは、変革をさらに進めようとしているというように見えるわけです。
しかしながら、その投資の具体的な内容、およびDiess会長の実質的な権力の中身を見ていくと、
特に投資内容については、
フォルクスワーゲンを実質的に操ることができる大株主のLower Saxony、
そして、そのLower Saxonyを動かすことのできる、巨大な労働組合に非常に有利な内容、
しかも、これまでのフォルクスワーゲンの電動化戦略から見ると、
やや合理性に欠けているように感じる決定であり、
それと同時に、Diess会長はトップには残り続けるものの、
その実質的な主要決定能力というのは、そのほとんどを剥奪されてしまった、
故に、裸の王様状態であるとも言えるわけで、
さらにだめ押ししてしまえば、
確かに、今後の中心事業の1つとなっていく、ソフトウェア事業を統括することにはなったものの、
果たして経営陣や一部の株主たちが、本当にDiessの活躍によって、ソフトウェア事業を改善させようとしているのかは、
やはりこれまでの経緯を含めると極めて疑問、
むしろ、グループCEOとしての権力からも引き摺り下ろそうとしているのではないかという疑念さえ、
感じざるにはいられない、ということですね。
何れにしても、今回の一件によって、フォルクスワーゲン内部の内紛は終結を見た格好ですが、
権力を大きく失ったDiess会長が、本当にここで生き残るために、
Cariadにおけるソフトウェア事業で、目覚ましい活躍を見せるためにコミットしてくるのか、
それとも、すでに決定済みであるDiess会長の任期である2025年まで、
もう抵抗勢力に対抗するのを辞めて、安定のサラリーマン経営者に甘んじてしまうのか、
1ファンとして、Diess会長の奮起に期待していきたいとは思います。
そしてそれと同時に、これほどまでに電動化に積極的であるかに見えていたフォルクスワーゲン、
そしてドイツ、ヨーロッパというくくりでさえも、
残念ながら、既得権益のケツを舐める抵抗勢力がここまで幅を利かせているということも明らかとなった、
それであれば、既得権益のケツを、クソがついていても、周りを気にせずに、尻尾を振って舐め続けることができる日本の既得権益勢であれば、
それはもう電動化、そして自動運転におけるデジタル化など、
誰がどうあがいても不可能としか思えなくなってしまった、
故に、残念なことではありますが、
もはや日本の自動車メーカー、そして日本という国というのは、
沈みゆく船として、一回どん底まで沈まないと、
既得権益勢に対する本質的な問題点に日本国民が気づくことはできないと絶望することしかできない、
ということですね。
From: Volkswagen(Management)、Volkswagen(Strategy)、electrive
Author: EVネイティブ
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