日産がヨーロッパ市場において、次世代小型商用車セグメントのTownstarという完全電気自動車の発売を決定し、
特に、リーフで採用されていないバッテリー冷却機構を搭載し、商用車としての運用においても十分に対応できるスペックを達成してきました。
ヨーロッパでは商用EVのシェアも急速に拡大中
まず、今回のヨーロッパ市場における日産に関してですが、既に2011年から世界初の本格量産電気自動車であるリーフを発売させ、
グローバルでは、なんと50万台以上という台数を発売し、
そのヨーロッパ市場だけでも20万台以上という、まさに世界で最も認知されている電気自動車の1つとして、
いまだに存在感を発揮している状況となっています。
そして日産については、そのリーフだけではなく、商用車セグメントの電気自動車も展開し、
それがe-NV200というバンタイプの電気自動車であり、
こちらは我々日本市場とヨーロッパ市場で発売されてはいたのですが、既に日本での発売は終了し、
現在は、リーフに搭載されている40kWhのバッテリーを搭載して、ヨーロッパ市場限定で発売が続けられている状況であり、
特にこのe-NV200に関しては、三列目シートを搭載し、最大7人が乗車することができ、
2021年現時点の電気自動車市場において、この3列目シート搭載というセグメントは、競合が極めて少ないブルーオーシャンということもあり、
我々日本市場についても、その再発売の声が根強い状況でもあります。
しかしながら、電気自動車への転換が加速しているヨーロッパ市場については、
特に商用車セグメントの電気自動車の需要が高まりを見せ、各社が商用車を展開し始め、
それこそ日本のトヨタに関しても、
欧州系自動車メーカーが結集して立ち上がったステランティスからのOEM供給車として、
プロエースの電気自動車バージョンを発売していたりなど、
何れにしても、乗用車セグメントの電動化とともに、
商用車セグメントにおける電気自動車戦争についても、一気に激しさを見せている状況、となっているのです。
商用EV「Townstar」の実力は?
そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、
日産が商用車セグメントにおいて、新型電気自動車を発表してきたということで、
それが、Townstarと名付けられたバンタイプの車両となっていて、
こちらはもちろん商用車として、広々としたラゲッジスペースを確保し、
木製パレットを2つと、さらに800kgもの荷物を積載することができます。
そして、本メディアにおいて注目していきたいのが、その電気自動車としての質となっていて、
まずはじめに、搭載バッテリー容量に関してですが、44kWhという、
例えば私自身も所有しているリーフの40kWhというバッテリー容量と似通ったサイズ感のように見えますが、
今回のToenstarの44kWhという数値というのは、実際に使用可能なバッテリー容量を示すネット値であり、
対するリーフの40kWhという数値というのは、搭載バッテリーの総量を示すグロス値ということで、
つまり、リーフの方の実際に使用可能なバッテリー容量であるネット値というのは、公式の数値ではないものの、概ね37kWh程度となっていますので、
このように正確に比較してみると、リーフよりもややバッテリー容量を増やしてきている、ということになります。
リーフにはない電池温度管理機構を搭載へ
そして、今回のToenstarにおいて最も特筆すべきポイントというのは、そのバッテリーの温度管理機構ということで、
なんとバッテリー冷却機構の搭載がアナウンスされたということであり、
というのも、リーフに関しては、バッテリーのアクティブな温度管理機構を頑なに採用してこなかったという背景があり、
確かにアクティブな温度管理機構を搭載しないほうが、
そのバッテリーマネージメントシステムをシンプルに構成することができるため、
安全性という点でも確保しやすかったり、
温度管理のための新たなパーツを搭載しないことによって、コストを低減することにもつながります。
だからこそ、日産リーフというのは、グローバルにおける大衆電気自動車としての地位を確立し、
世界で最も売れた電気自動車の1つとなっているわけですが、
その温度管理機構を搭載しないことによる弊害というのが、
特に、複数回に渡る急速充電や時速100kmを大幅に超える、長距離の高速走行時において、
バッテリー温度が上がりきってしまい、
その後の急速充電の際に、スペック通りの充電性能を達成することができなくなってしまう、という弱点を抱えていたのです。
したがって、いよいよ発売が秒読み段階に入っている、フラグシップクロスオーバーEVであるアリアに関しては、
2021年に発売される電気自動車としては主流となっている、
バッテリーパック内に、冷却のための管を張り巡らせ、バッテリー温度を冷やしたり、逆に温めたりするというバッテリー温度管理機構、
強制水冷機構を搭載することによって、リーフの3倍近い急速充電の出力を許容することができたり、
長距離走行時においても、バッテリー温度を気にすることなく、走破することができるようになったわけなのです。
そして、今回の新型商用EVであるTownstarに関しても、バッテリー冷却機構を搭載することをアナウンスしてきたわけですので、
この文言だけを聞くと、アリアと同様の強制水冷機構を採用してきたのかと思いますが、
しかしながら、欧州向けのプレスリリースを正確に見てみると、Battery Thermal Cooling、
逐語的に訳せば、バッテリー温度冷却という機能である、
つまり何が言いたいのかといえば、アリアに採用された、バッテリーパック内に冷却のための管を張り巡らせた、強制水冷機構とは書いていない、
要するに、強制水冷機構というバッテリー温度管理機構とは、種類が異なるのではないかと推測することができる、ということなのです。
強制水冷機構と強制空冷機構の違い
実は、先ほどの説明の中で、アリアで初めて強制水冷機構を採用してきたと解説していましたが、
実は、バッテリー冷却機構を採用したのは、アリアが初めてではないという点が、
実は知られていない興味深いポイントとなっていて、
というのも、冒頭少し触れた、今回のTownstarと同様に、商用車セグメントとして今なお発売を続けている、e-NV200に関しては、
日産で初めてバッテリー冷却機構を搭載しているのですが、
このバッテリー冷却機構というのは、バッテリー内部を液冷式に冷却するのではなく、
エアコンで冷やされた空気を、バッテリーパックに直接吹き付けてバッテリーを冷却するという、
いわゆる強制空冷機構が採用されているのです。
つまり、同じバッテリー冷却機構であったとしても、
液冷式の強制水冷機構であるのか、それとも強制空冷機構であるのか、
特に今回の場合でいえば、確定ではないものの、その書き方から察するに強制空冷機構である可能性が高い、
しかも、温度を下げる冷却機構のみで、バッテリー温度を上げる機構は採用されていない可能性も高いですので、
何れにしても、いわゆる一般的なバッテリー温度管理機構である強制水冷機構とは、かなり異なるバッテリー温度管理機構を、
同じ商用電気自動車であるe-NV200に引き続いて採用してきている、ということですね。
ちなみにですが、
やはり強制空冷機構ですと、バッテリーの外側から冷気を当てて冷やすというアプローチですので、
バッテリーの内部から冷却することのできる強制水冷機構と比較してしまうと、
確かに構造をシンプルに抑えることは可能である一方で、
やはりその冷却性能は一定程度落ちてしまいますので、
個人的には、一体強制空冷機構で、どの程度温度管理を最適に行うことができるのかには興味がありますし、
今後機会があれば、e-NV200を使用して1000kmチャレンジを行いたいと思いますし、
さらに、同じく強制空冷機構を採用してきている、レクサス初の電気自動車であるUX300eについても同様に、
その温度管理機構の性能を検証していきたいと思います。
温度管理機構搭載にしてはやや期待外れな充電性能
ただし、今回のTownstarの充電性能に関してですが、
その最大充電出力が75kWまで許容することができ、
グロス値で40kWhのバッテリーを搭載しているリーフの最大充電出力である50kWよりも、実に1.5倍もの出力を許容することができていますので、
この点を比較すると、やはり強制空冷機構ながら、バッテリー冷却機構を搭載したことによる、
一定程度の充電性能の向上が見て取れるわけですが、
それと同時に、空の状態から80%まで充電するのにかかる時間が42分ということで、
実はこの充電時間というのは、
リーフの充電時間である、充電残量警告灯が点灯する10%から80%まで充電するのにかかる時間である、
40分という時間と同程度ともなっていますので、
仮に最大充電許容出力が1.5倍も優れていたとしても、
その実際に充電にかかる時間というのは、そこまで大きく変わらないという点も鑑みると、
強制空冷機構を搭載しても、その充電時間という視点では大きく変わらないという見方も可能かとは思います。
値段はズバリ500万円〜?
そして、その値段設定や実際の納車開始時期については、今だにアナウンスされていないものの、
リーフと全く同じである40kWhのバッテリーを搭載しているe-NV200の値段設定が、
ドイツ市場において560万円程度からとなっていますので、
おそらく、そのバッテリー容量がわずかばかり増加しているということ、
しかしながら、先ほど解説したバッテリー冷却機構は、オプション設置となっているということを考慮すれば、
おそらく500万円前後という値段設定になるのではないかと推測していますので、
今後の価格に関する続報、
およびその発売時期についても、わかり次第情報をアップデートしていきたいと思います。
何れにしても日産については、リーフやアリアという乗用車セグメントの電気自動車だけでなく、
商用車セグメントも、電気自動車のラインナップを拡充してきましたので、
果たして電気自動車戦争が勃発しているヨーロッパ市場において、今までの販売シェアを、電気自動車においても死守することができるのか、
その販売台数とともに注目していきたいと思います。
From: Nissan
Author: EVネイティブ
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