今回は、トヨタがこれまでの電動化戦略を大きく見直し、2030年までにトヨタグループのグローバルの販売台数の大半を占める、800万台を電動車とすることを発表してきましたが、
しかしながら、このトヨタの電動化プランを推進していく際の大問題についても、同時に浮き彫りとなり始めたということについて、徹底的に解説していきたいと思います。
世界の競合は一気に電気自動車に舵を切る
まず今回のトヨタに関してですが、現在世界最大級の自動車グループであり、我らが日本最大の企業でもあり、まさに文字通り、日本経済の中心を支えていると言っても過言ではないのですが、そのトヨタに関しては、世界的にはよく電気自動車に対して消極的ではないか、という批判が存在し、
実際問題として、例えば2019年度におけるグローバルでの販売台数1000万台を誇り、トヨタグループと並んで世界最大級の自動車グループを構成しているフォルクスワーゲングループに関しては、
2040年までに新車販売に占める電気自動車をはじめとする、排気ガスを一切出さないゼロエミッション車の販売割合を、グローバルで100%達成を目指し、そのために現在既存メーカーの中では最も電動化に舵を切り、そのために数十兆円単位での莫大な投資を行っていたり、
さらに2019年度におけるグローバルの販売台数700万台以上を誇る、アメリカ最大の自動車メーカーであるGMに関しても、2035年までには、電気自動車を中心とするゼロエミッション車の販売割合100%を目指し、こちらもフォルクスワーゲングループと全く同様に、数十兆円単位での投資を電気自動車に対して行い、
特にGMに関しては、キャデラックブランドという高級車ブランドを、完全な電気自動車専門ブランドにすべく、昨年である2020年末に、提携ディーラーに今後電気自動車を売るための、充電インフラ網や従業員のトレーニングに至るまでの投資をする気があるかの確認を行い、
将来の電動化にやる気がないディーラーに関しては、GMが手切れ金を支払う形で関係を解消するという、言ってみればディーラー側に最後通牒を突きつけていたりもしていますし、
その上直近では、日本のホンダが2040年までに、なんと我々日本市場を含むグローバルで販売する全ての車両を完全な電気自動車か水素燃料電池車というゼロエミッション車のみにするという大方針を示し、ホンダが、ハイブリッド車を含めてガソリンエンジンを捨てるという衝撃については、記憶に新しいと思いますが、
とにかくこのように、世界の主要メーカーがここにきて次々と電気自動車に対して急速に舵を切っているのです。
トヨタも電動化戦略を大幅にアップデートしてきたが、、
対するトヨタに関してはどうかというと、実は今回発表してきた電動化戦略というのは、4年前である2017年末に示されていた電動化のロードマップから、かなり電動化を推進する流れにシフトしていて、
その2017年末当時の電動化のロードマップを見ていくと、2030年までに、ハイブリッド車とプラグインハイブリッド車を450万台以上、そして、完全電気自動車と水素燃料電池車を合計で100万台以上、
したがって、電動車を合計で550万台以上販売するというタイムラインを示してはいたのですが、
今回新たに提示してきたタイムラインというのは、その電動車を、2030年までに合計で800万台以上にするというタイムラインとなっていて、まずこの550万台から800万台という数値の上方修正に関しては、やはり昨今の世界的な電動化の流れを読んで柔軟に対応してきていることが見て取れるのですが、
ここまでの説明で理解することができていない方も多いであろう、電動車やら電気自動車、ハイブリッド車などという、その種類についてをまず改めておさらいしていきたいと思います。
完全電気自動車とプラグインハイブリッド車
まず、一般に言われる電気自動車に関してですが、こちらは日産リーフやテスラをはじめとする搭載された大容量のバッテリーに充電して貯められた電力のみを使って走行し、実は世界的には「BEV」と呼ばれ、これはBattery Electric Vehicleの略称で、
バッテリーに貯められた電力のみで走行することからきていて、本チャンネルにおいては、まさに完全な電気自動車であることから「完全電気自動車」と便宜上表現しています。
Nissan Leaf Tesla Model 3
次に、プラグインハイブリッド車に関してですが、こちらはRAV4 PHVやアウトランダーPHEV、そしてプリウスPHVがいい例で、先ほどの完全電気自動車に搭載されていたバッテリーよりも小さなサイズを搭載しながら、通常のガソリンエンジンも搭載し、
例えば日常の通勤や買い物では、バッテリーに貯められた電力のみで走行し、長距離ドライブでは、ガソリンエンジンも併用して充電せずに走行することができるという、いわばいいとこ取りをしたような種類となっています。
RAV 4 PHV アウトランダーPHEV プリウスPHV
ハイブリッド車は電気自動車ではない
それでは、トヨタが1997年に発売を開始し、現在その圧倒的な技術力で世界をリードしているハイブリッド車はというと、
例えば下り坂などでブレーキをかけた際に得られる減速エネルギーを、電気エネルギーに変換して、それをごく少量のバッテリーに貯めることによって、その後通常の道を走行する際に、その貯められた電気を併用して走行をアシストしてくれるという仕組みであり、
したがって、その電気エネルギーの分だけ、通常のガソリン車と比較しても燃費性能を向上させられるのですが、先ほどの完全電気自動車やプラグインハイブリッド車との決定的に異なるポイントというのが、
外部電力を充電することができず、故に、ガソリンを使って走行するということにはなんら変わりがない、ということなのです。
ちなみに、この外部電力を使用することができるという点が今後の説明において重要となってきますので、頭の片隅においておいていただきたいです。
ちなみに、水素燃料電池車に関してですが、こちらは電気の代わりに水素を充填して、その水素と空気中にある酸素を反応させて、電気を生成し、それをハイブリッド車と同じようなサイズ感のバッテリーに充電しながら走行するという仕組みとなっていて、
超簡単に言ってしまえば車の中に水素を基にした発電所を置いている、とイメージしていただければいいと思います。
電動車=電気自動車という情報に惑わされるな
そして、こちらの前提を元に再度今回トヨタが発表してきた電動化戦略を見直してみると、その電動車800万台という数値というのは、よく誤解されてしまう、完全電気自動車を800万台などではなく、
今まで説明した、完全電気自動車と、プラグインハイブリッド車、水素燃料電池車、そしてハイブリッド車という4種類を合算した数値となっているということで、その内訳に関しても詳しく見ていくと、
2030年までに、完全電気自動車と水素燃料電池車という、いわゆる走行中の排気ガスを全く出さないゼロエミッション車の販売台数を、合計で200万台と表現していますので、
したがって、残りのハイブリッド車とプラグインハイブリッド車という、結局はガソリンを燃やして排気ガスを発生させてしまう車種の合計が600万台ということになり、
このように聞いてみると、電動車800万台というイメージからは、かなり異なるイメージを抱いた方が多いのではないでしょうか?
そして、先ほども紹介したような海外メーカーというのは、全て例外なく、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の販売は完全終了し、完全電気自動車を中心とするゼロエミッション車に移行すると表明していますので、
やはりこのことからも、一口に電動化といっても、トヨタの目指す電動化戦略と、日本のホンダを含む世界自動車メーカーとのスタンスが明らかに異なっているということも、お分りいただけたのではないでしょうか?
電気自動車は買った後もCO2排出量が減る
ちなみに、このゼロエミッション車の普及の話をすると、ほぼ百発百中で、完全な電気自動車であっても、その生成された電気は火力発電で発電しているので、CO2を排出していることには変わらないだろ、という類の反論なのですが、
こちらで最も重要なポイントというのが、現在この電気自動車へのシフトと同時に再生可能エネルギーへの莫大な投資の流れが起こっているという点であり、
つまり、発電所というグリッドで発電される電力が、毎年毎年CO2は排出しない再生可能エネルギーによって発電されるように、次々とリプレイスされ始めていますので、
したがって、特に完全電気自動車やプラグインハイブリッド車というのは冒頭説明したように、外部電力を使用することができますので、その外部電力が再生可能エネルギーにリプレイスされていく、
故に、すでに街中を走っている中古の完全電気自動車やプラグインハイブリッド車でさえ、走行時のCO2排出量を少なくすることができるのです。
ハイブリッド車ではグリッドの脱炭素化の恩恵を受けられない
しかしながら、この外部電力を充電することができないハイブリッド車というのは、今説明したグリッドの脱炭素化の恩恵をほぼ受けることができず、
現状でさえ、我々日本市場を含めた、世界の95%の地域において、バッテリー製造時から見た、同セグメントの完全電気自動車と内燃機関車のCO2排出量を比較しても、完全電気自動車の方がCO2排出量が低くなるという状況に加えて、
さらに今後再エネの普及によって、電気自動車のCO2排出量が低下していく、つまりハイブリッド車では、環境性能という意味において勝負がつかなくなってしまうのです。
このように、現在世界の自動車メーカーたちがなぜ完全電気自動車へと舵を切っているのか、特に今回の脱炭素化という観点から言えば、
既存のハイブリッド車では達成不可能なレベルでのCO2排出量削減を達成することができるポテンシャルを、この完全電気自動車は秘めているから、ということであり、
やはり世界の流れである脱炭素化レースが動き始めてしまった以上、この脱炭素化で最もポテンシャルが高い完全電気自動車を、世界の競合メーカーから遅れずに推進していくということは、そのメーカーの生死を分けるだけではなく、その国全体、
特に今回のトヨタに関しては、冒頭説明したように日本の経済を下支えしているトップ企業でもありますので、この電気自動車戦争に真っ向から立ち向かわなければならない、ということなのです。
トヨタのバッテリー調達体制の実情とは
そして、その完全電気自動車と水素燃料電池車の販売台数を200万台と上方修正してきたトヨタが、それを実践するために、現状のバッテリー生産体制を大幅拡充していく考えも明らかにしてきていて、
現状の供給能力の上限である6GWhという数値の、なんと30倍である180GWhにまで高めていかなければならないとも説明しているくらいで、
私が本チャンネルにおいて一貫して説明していた、バッテリー調達能力を高めることも表明してきた格好となりますので、一定程度評価することができるのですが、
こちらも注意しなければならない点というのが、そもそもこの180GWhという数値というのは、トヨタが独自に生産できるキャパシティの話ではなく、協業しているバッテリーサプライヤーからの供給体制も含めての数値であり、
特に現在のトヨタに関しては、パナソニックとの合弁でプライムアースEVエナジーなどのバッテリー製造を行なってはいますが、この生産キャパシティに関しては以前にも計算したように、概ね0.5GWh程度のキャパシティしか存在せず、
したがって、今回説明している6GWhという生産キャパシティの大半は、そのバッテリーサプライヤーに依存しているという状況であり、このパートナー企業との連携を強化するという発言からも、特にこのバッテリーの内製化の比率を大幅に高めていくということではなさそうでもあるのです。
フォルクスワーゲンGは240GWhを「完全内製化」
対する海外メーカーはというと、例えばGMに関しては、すでに韓国のLGエナジーソリューションと合弁して2つのバッテリー生産工場を目下建設中であり、
2023年までに、最大生産キャパシティが30-35GWh程度の生産キャパシティを備えた内製化されたバッテリー生産工場が2つ誕生しますし、
しかもその上フォルクスワーゲングループに関しては、40GWh級のバッテリー生産工場を、2030年までに6つもオープンし、その2030年までで、なんと240GWhという規模の生産キャパシティを完全内製してもきますので、
つまり、特にフォルクスワーゲンに関しては、トヨタがバッテリーサプライヤーからかき集めたバッテリーを合わせて合計で180GWhであったのに対して、それよりも多い240GWhという生産キャパシティを、全て自分たちの手で内製化するという計画を表明しているということになりますので、
ただ単に、その生産キャパシティのみの数値を取り上げて世界のメーカーと比較するのではなく、その数値が、バッテリーサプライヤーに依存した数値であるのか、
はたまた自分たちで内製化することによって投資リスクは高まるが、その分現在熾烈さを増す米中貿易戦争による政情の不安定さによる、サプライチェーンの安定化であったり、自社内性によるコスト抑制というメリットを享受しようとするのか、
こちらはその是非を問うてるのではなく、しかしながら間違いなく、電気自動車に対してどちらが本気の姿勢であるのかということが、透けて見えてくるのではないでしょうか?
最もヤバいのは、燃料補給インフラの崩壊
ここまでは、トヨタが2020年度の決算発表において明らかにしてきた今後の電動化のタイムラインについてを、より詳細に読み解いていきましたが、このアナウンスに関連して、一点個人的に気になったニュースが存在するのですが、
それが日本経済新聞が報道してきた、給油所を襲う三重苦というタイトルの記事なのですが、この記事の論点の中心は、基本的には直近の新型コロナウイルスにおける需要の落ち込みに取る経営の厳しさではあるのですが、
まず注目していただきたいのが、この直近の30年間のガソリン販売量のグラフとなっていて、概ね2005年を境にその販売量が一気に下落していて、しかもその上、その販売量の減少によって、ガソリンスタンド自体の数も1990年台中盤に記録した6万箇所から減少し、
ついに直近では3万箇所を割り込むという、実に最盛期から半減しているという状況となっているのです。
そして、このニュースによって何を言いたいのかといえば、そもそも論として、脱炭素という観点からだけではなく、この燃料補給のインフラという観点から考えても、もやはハイブリッド車、そしてプラグインハイブリッド車が生き残る可能性は限りなく低くなってきているということであり、
つまり、このトヨタが2030年においてもそのマジョリティを占めるであろうと予測しているハイブリッド車とプラグインハイブリッド車というのは、そもそもの燃費性能が高い、つまり裏を返せば、それだけガソリンを給油する回数が減るということであり、
別に大きく人口が減少したわけでもなく、むしろ日本市場の車両保有台数は上昇しているのにも関わらず、先ほどのガソリン販売量の減少というのは、このハイブリッド車が本格的に普及し始めた時期と重なっているからであり、
しかもその上、近距離においてはガソリンを全く消費しなくなるプラグインハイブリッド車の販売割合をさらに増加させた暁には、このガソリン販売量の減少はさらに拍車をかけて進んでいく、ということなのです。
電気自動車の最強の強みとは、スマホのように自宅で充電可能
つまり、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を売り続けるということは、自動車において最も重要であるエネルギー補給の手段に対して、自ら首を絞めていることと同義であり、
インフラが脆弱となればなるほど、このハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に乗り続けることが困難となってもくるのです。
対する完全な電気自動車の最強の強みというのは、一軒家やマンションなどの集合住宅に関係なく、自宅で充電することができるという点であり、もちろん世界的な電動化の流れを受けて、急速充電器の設置も加速度的には進んでいきますが、
やはりこの自宅においてでも、スマホのように毎日充電することができるというポイントは、今までの100年以上市場を支配してきたガソリン車には絶対に達成不可能な強みであり、
特に今後人口減少を始めとする要因によって、一気に先進諸国からは脱落することが決定的である我々日本市場においては、自宅充電を中心とした運用方法の推進によって、新たなインフラを大規模に整備する必要のない、
少なくともゼロエミッション車の水素燃料電池車のインフラである水素ステーションを普及させるよりも、圧倒的に格安ですむ完全電気自動車を推進した方がマシなのではないか、
というのが、現状の4種類の電動車の中から選ぶ、私の考える最もマシな選択、ということですね。
世界とは違う方向を歩み始めたトヨタに待ち受ける結末はいかに
何れにしても、今回のトヨタの発表によってやはり日本最大の企業であるトヨタに関しては、世界の潮流とは異なる、ハイブリッド車とプラグインハイブリッド車を中心に据える戦略を採用してきたことが確定しましたし、
そのバッテリー調達に関しても、やはり既存のバッテリーサプライヤーからの調達を中心戦略とする考えが示唆されましたが、
世界の脱炭素化という流れ、さらに燃料補給のインフラという観点において、やはりこのトヨタの電動化戦略は、果たしてベストな選択なのだろうか、と疑問に感じるのは私だけでしょうか?
From: トヨタ
Author: EVネイティブ
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