トヨタが先陣を切っていた全固体電池の最新動向として、その他競合メーカーもその開発に追随中となっていて、
特にフォルクスワーゲンが、アメリカのQuantumScapeとタッグを組んで、パイロット版の生産工場をなんと今年中にも建設に向けて動きを開始することが表明された、ということを受けて、
現在その熾烈さが増す、全固体電池の開発動向に関してを一挙に概観します。
全固体電池に注力するトヨタ
まず、今回の全固体電池に関してですが、現在世界の電気自動車の流れの中において、多くの自動車メーカーが各自で開発を進めている状況となっている次世代の核心技術と呼ばれていて、
特に、日本最大の自動車メーカーであるトヨタに関しては、この全固体電池の研究に注力していますが、
逆にこのトヨタについては、この全固体電池の量産が達成できなければ電気自動車が普及することはないという考えが示唆されていて、
よって、現在競合メーカーがそれぞれ独自かつ大規模なリチウムイオンバッテリーの生産工場を建設している中においても、そのような投資へは消極的であり、
前回の動画でも解説している通り、自社でバッテリーを内製化するというよりかは、様々なバッテリーサプライヤーと契約してそのバッテリーを確保するという戦略を採用することが、直近の2020年度の決算発表内においても示唆されていました。
全固体電池は従来のリチウムイオン電池の1種類に過ぎない?
そもそも論として、今回取り上げている全固体電池と、現行のリチウムイオン電池とは一体何が違うのか、そしてどのような点で優れているのかという前提についてですが、
よく現行のリチウムイオン電池とは、全く異なる電池の種類であるという、世の中の多くの方がよく誤解されているのですが、
簡単に言ってしまえば、全固体電池とはリチウムイオン電池の種類の1つに過ぎないという点で、
リチウムイオン電池とは、プラス側である正極に使用される正極材と、マイナス側である負極で使用される負極材、そして、その正極を負極の間であり、リチウムイオンの通り道である電解質という、大まかにこの3種類がそのリチウムイオン電池の性質の決定要件なのですが、
このうちの、その電池の性能に与える影響が最も低い電解質を、現状の液体から固体化している、というものなのです。
電解質を固体化しても何が良くなるのかがわからない!?
もちろん、その電解質を固体化することによって、今後電解質が液体であった時では採用できなかった、さらに性能を高められる正極材や負極材を新たに採用できる可能性もあるのですが、
端的に言ってしまえば、リチウムイオンの通り道である電解質の質を変更するのみで、その電池の質を飛躍的に高められるという、確固としたエビデンスはいまだに明らかにされていないのです。
そんなわけはあるかと思われた方もいらっしゃるとは思いますが、現在世界最大の電気自動車メーカーであるテスラの黎明期において、三洋電機側の窓口としてリチウムイオン電池を供給する、契約締結に尽力し、リチウムイオン電池研究のスペシャリストである雨堤氏によると、
例えば、航続距離1000kmのスペックを達成できる!などという、現行のリチウムイオン電池と比較しても圧倒的なエネルギー密度を達成できるなどという、明確なエビデンスは現状存在していないそうで、
しかもその上、実際に世界中の車両を電気自動車に置き換えていく過程で重要な、量産化というハードルに関してはさらに困難で、
エネルギー密度の向上に最も重要な、電極の設置面積を十分に確保する方法についても、現状の最新の研究における超高圧プレスによって、電池を数ミクロンまで圧縮した上で、それを数千枚も積層していくという、量産という視点では現実的でなく、
もはやエネルギー密度に関しては、現行のリチウムイオン電池の足元にも及ばなくなってしまうというのが、全固体電池を研究室レベルから実際の量産化に持っていくために奔走した、この30年にもわたる全固体電池の実用化の最新状況であり、
今年である2020年に開催されるはずであった東京オリンピックにおいて、その会場内を走り回る予定であったトヨタの電動モビリティに搭載される予定でもあった、全固体電池研究の最前線なのです。
また、こちらの雨堤氏に対する興味深いインタビューに関しては、電気自動車専門メディアであるEVSmartでより詳細に記事になっていますので、こちらも併せて参照してみることを、強くお勧めしたいと思います。
トヨタ自身も現時点での量産化は不可能と断言
ちなみに、そのトヨタの決算発表時においても、現状の全固体電池に関する最新動向を聞かれた際に、現在のトヨタのCTOでもある前田氏曰く、
「現在、材料開発を進めてはいるものの、まだ安全性や耐久性をクリアできる段階にはない。引き続き材料開発を進める」
ということであり、やはりこの発言のニュアンスからも、研究室レベルでの話と実際に量産化するまでの話では、質的に別次元であるということが示唆されますし、
特に、大容量かつ高出力を発揮しなければならない電気自動車用の全固体電池の量産化は、やはりまだまだ程遠いのであろうと考えているのではないか、
というのが、この会見から感じた個人的な感想とはなります。
NIOの「固体電池」は衝撃の2022年に発売開始
また、今年である2021年に入ってから、中国の電気自動車スタートアップであるNIOが発表してきた固体電池に関してですが、
こちらはその電解質が完全に固体化されたものではなさそうであり、現状詳細は説明されてはいませんが、その電解質は、液体と個体素材のハイブリッド、
おそらく例えば、ゲル状の電解質となっているのではないかと推測でき、したがって、完全な固体電池ではないということにはなりますが、
例えばそれでも、NIOはその固体電池に採用する正極材の種類を、エネルギー密度を高められる素材であるニッケルの割合を最大限高めたり、
負極材の種類も、リチウムイオン電池において一般的に使用される黒鉛の代わりに、エネルギー密度を向上させることができるシリコンを採用し、
ちなみにこちらは興味深いことに、正極材も負極材もどちらも、テスラのバッテリーデイにおいて発表された種類と同様の種類を採用した戦略となっていたりしますが、
つまり何が言いたいのかといえば、冒頭から説明している通り、全固体電池とはリチウムイオン電池の1種類であるという点が重要であり、
やはりリチウムイオン電池において、例えば航続距離が長くなるというような性能の決定要因というのは、電解質の種類ではなく、やはり正極材や負極材の質に大きく依存する、ということなのです。
また、NIOの固体電池を採用したバッテリーのセルレベルでのエネルギー密度が、360Wh/kgということで、
例えば、2020年後半から展開されている最新の100kWhという容量のバッテリーパックのエネルギー密度がおおよそ240Wh/kgでしたので、エネルギー密度が1.5倍も向上していることからも、
やはり、ただ単に電解質を個体状にしただけではなく、正極材と負極材も刷新することで達成できていることが見て取れると思いますし、
最も注目すべきは、そのNIOの個体電池に関しては、なんと来年である2022年末までには、実際の車両に搭載され始めるともアナウンスされた、
つまりなんと来年には、その固体電池が、研究室レベルなどではなく、実際に電気自動車として街中を走り回ることも明らかとなっていますので、
何れにしても、雨堤氏も指摘している通り、果たして電解質を完全固体化することによって、具体的にどのようなメリットが起こり得るのか、
例えば、それによってどのような正負極材を新採用することができるのかであったり、そして、それを果たして研究室レベルから実際の電気自動車に実用化することができるのか、
さらには、その量産にあたってのコストが、現行の100万km以上耐用可能なLFPバッテリーであったり、航続距離についてもNIOやテスラが軒並み800kmオーバー(EPA)を達成しているような、最新のリチウムイオンバッテリーを生産するコストと比較して、
その価格競争力で勝ち抜くことができるのか、
あまりに高付加価値を追求してしまった結果、一定程度の質を担保した韓国製に市場を支配されてしまったテレビ業界と同じような匂いを感じるのは、私だけでしょうか?
巨人フォルクスワーゲンも全固体電池に大規模投資
そして、この全固体電池の動きというのは、これらのトヨタやNIOだけではなく、トヨタのライバルでもある世界最大級の自動車グループであるフォルクスワーゲングループに関しても同様であり、
アメリカのバッテリー研究ベンチャーであるQuantumScapeの筆頭株主となって、すでに3億ドル、日本円に換算して330億円規模の投資を行っており、
そのフォルクスワーゲンとQuantumScapeが今回新たに明らかにしてきたことというのが、全固体電池の生産ラインのパイロット版の設置計画を表明してきたということで、
今年である2021年内には、おそらく現状ではドイツのザルツギッターという、現在のフォルクスワーゲンの電気自動車に採用されているリチウムイオンバッテリーを生産している工場が位置する場所が候補となっていて、
まずは、年間にして1GWhという試験生産兼商業生産をスタートし、そして最終的にはその実に20倍の規模である、20GWhの生産キャパシティにまで拡大していく方針であり、
仮に、その搭載バッテリー容量がミッドサイズ級の50kWhである場合は、年間にして40万台もの、全固体電池を搭載した電気自動車が生産されることになる規模感、ということになると思います。
また、そのQS-1と名付けられた全固体電池の試験的な生産工場のタイムスケジュールに関しては、すでにアナウンスされている通り、2024年には実際の商業生産をスタートし、
そして2025年までには、その全固体電池をフォルクスワーゲンの電気自動車に搭載することにもなっていきますので、
すでにフォルクスワーゲングループに関しては、全固体電池のタイムラインをかなり明確に明示してきている格好となっている、ということですね。
フォルクスワーゲンとトヨタとの決定的な差
ちなみに、日本のトヨタに関しては、今年である2021年中にも、全固体電池を搭載した車両のプロトタイプを発表してくるのではないかという報道が一部メディアが発信し、
そして公式には2020年台前半、つまり、遅くともフォルクスワーゲングループと全く同じタイムラインで、全固体電池を搭載した電気自動車を市場に投入するとアナウンスしていますので、
その時間軸という観点ではトヨタも負けてはいないのですが、
気になるのはやはりその実際のスペックであり、フォルクスワーゲンに関しては、例えば現行のミッドサイズSUVであるID.4に、その全固体電池を搭載することができた暁には、
現状の充電時間である25分程度の充電時間を、半分である12分程度にまで短縮することが可能であると説明されていますので、
したがって、ID.4の航続距離は欧州WLTCモードで522km、つまり450km分の航続距離というのは、バッテリー容量にしておよそ66.4kWhとなり、
これを12分程度で充電することができる、つまり、最大充電出力にして330kW程度という超高出力を許容することができるような試算になると思います。
そして、以前の動画において、トヨタが10分間で500km分を満充電できてしまうというような全固体電池搭載の電気自動車は、その充電器側のインフラ対応が間に合わないことによって、実現性が極めて低いという説明をしましたが、
今回発表されている全固体電池搭載のID.4であれば、現状のインフラでも対応可能となっていて、欧米や中国市場に関しては、350kW級超急速充電器がすでに一定間隔で配備されている状況であり、
したがって、その最大充電出力である300kWを超えるような出力を許容できる全固体電池搭載のID.4が、仮に明日から納車されたとしても、
ほぼそのスペック通りの充電性能、つまり欧州WLTCモードにおいて450km分の航続距離を走行するのに、たったの12分程度の充電時間で賄うことができてしまう、ということなのです。
Electrify America IONITY Xcharge
つまり何が言いたいのかといえば、そのような充電インフラ網をはじめとして、すでにフォルクスワーゲングループに関してはトヨタとは違い、
ただ全固体電池搭載電気自動車の発売時期というタイムラインだけではなく、実際のスペックもかなり詳細に、そして2021年現在の状況から見ても、一定程度実現性のある発表してきているという点であり、
やはりこの点から考えてみると、少なくとも全固体電池競争の先頭に立っていたトヨタよりも、2021年現在においては、その具体的な内容を発表することができている海外の競合メーカーが、着実に、
そして恐ろしいスピード感で持って、トヨタに追いつき、追い越そうとしているということが見て取れるのではないでしょうか?
フォードとBMWも全固体電池ベンチャーに巨額投資
また、直近ではそのフォルクスワーゲン以外にも、フォードとBMWグループが、こちらもアメリカの全固体電池
開発ベンチャーであるSolid Powerに大規模な追加出資をすることで、その全固体電池の開発を加速させる考えを明らかにし、
今回特にフォードが1億3000万ドル、日本円にして142億円もの大規模追加出資をしたことによって、BMWグループとの株式保有率を対等にし、
今後はこのBMWグループとフォードの共同出資を中心として、Solid Powerの全固体電池が進んでいくという流れとなっていきそうです。
超絶スペックであっても、コスパが悪ければ宝の持ち腐れ
何れにしてもこのように、日本のトヨタが先頭に立っていた電気自動車におけるブレークスルーと言われている全固体電池の研究開発というのは、実は、すでに世界の競合メーカーが急速にその開発スピードを高めてきていて、
そして、重要なポイントであるのが、特にフォルクスワーゲングループとQuantumScapeについては、明確なタイムラインだけではなく、その全固体電池を搭載した場合、既存のリチウムイオンバッテリーと比較して、
具体的にどのようなスペックの向上を達成することができるのかという数値を、割と現実的にアナウンスできているという点、
そしてそもそも論として、全固体電池というのは一言で言っても様々な種類が存在し、例えば来年末までに実際に発売を開始してしまうNIOについては、
その電解質が完全な固体状ではない固体電池でもあり、しかしながら、そのバッテリーの性能を決定づける正負極材の種類を改良することで、間違いなくその性能を大幅に改善してきてもいますし、
さらに最も大切なポイントというのが、この全固体電池が、総合的な観点において果たして既存のリチウムイオンバッテリーと比較して、そのスペックを上回ることができるのか、
特に、テスラやフォルクスワーゲンがすでにアナウンスしている通り、
Tesla Battery Day Volkswagen Power Day
既存のリチウムイオンバッテリーの最新の量産技術を駆使することによって、そのコストを、従来まで考えられていた1kWh100ドルという基準を大幅に下回る、
1kWh60ドルという数値にまで抑制することができるとも発表しているくらいですので、
つまり、このような一般庶民に電気自動車を普及させるために最も重要な観点である、そのコストという観点も含めた、総合的なスペックという考え方で持って、改めてその全固体電池のあり方を考えなければならないのではないか、ということですね。
バッテリー事業についても全方位戦略を!
ちなみに、ここまでの説明を聞いて、私が全固体電池に対して懐疑的な見方なのではないかと思われた方もいらっしゃると思いますが、それは全くの間違いであり、
むしろしっかりと基礎研究は行われるべきであるという立場ですし、技術の発展という意味においては持ち上がっていくべき分野であるという見解ですが、
本動画において何を訴えたいのかといえば、その全固体電池のみが、今後のきたる完全電気自動車時代において、唯一の解法であるかのようなスタンスは、個人的には間違っているという点であり、
繰り返しとはなりますが、フォルクスワーゲンを筆頭にフォードなどに関しても、自社でリチウムイオンバッテリーの研究も同時並行し、そしてそれを生産するための自社工場も建設しているという点であり、
少なくともやはり当面は、従来のリチウムイオンバッテリーがその価格競争力という観点において、市場を支配するのではないか、
だからこそ世界の競合メーカーは、世間でゲームチェンジャーともてはやされている全固体電池だけではなく、従来のリチウムイオンバッテリーの改善も同時に行うという全方位戦略を採用していますので、
果たして、全方位戦略と謳っているメーカーが、なぜリチウムイオンバッテリーの内製化や生産体制に大きくコミットせずに、全固体電池という一本足打法であるのか、
この矛盾に疑問を感じるのは私だけでしょうか?
From: Volkswagen & QuantumScape
Author: EVネイティブ