今回は、日産が日本国内とイギリス市場において、新たなバッテリー生産工場を立ち上げるという報道が相次ぎ、
今後の電気自動車時代におけるバッテリーの供給体制の確立を、更に強固にする動きについて、トヨタをはじめとする競合メーカーの動きとも比較しながら解説します。
EVのパイオニアである日産
まず今回の日産に関してですが、電気自動車という観点においては、その当時のトップであったカルロスゴーンの類いまれなる先見性によって、
2000年代中盤から、すでに電気自動車への研究開発を加速させ、ついに世界初の本格量産電気自動車であるリーフの発売をスタートさせ、
現在である2021年においてでも、グローバルでトップを争う販売台数を達成しているのですが、
いよいよそのリーフに続く新たな電気自動車として、クロスオーバーEVのアリアのワールドプレミアも開催し、その予約開始も秒読み段階であったり、
更に、2023年度まで、一部報道によれば2022年中にも発表されるのではないかとされている、日本市場における国民者である軽自動車セグメントの電気自動車であるImkも、その発売が控えていたりもしますので、
とにかくこのように、現在電気自動車戦争に完全に出遅れてしまっている日本メーカーの日産に関しても、矢継ぎ早に新型電気自動車を市場に投入していく考えが示されている状況となっています。
しかしながら、本チャンネルにおいては毎度解説している通り、いくらその自動車メーカーがその電気自動車に本腰を入れようとしたとしても、その電気自動車を大量に量産することはできず、
というのも、ガソリン車におけるガソリンエンジンに該当し、
電気自動車において最もコアテクともなる、大容量のリチウムイオンバッテリーを、大量かつ安定的に供給することができる体制を構築していなければ、
仮に質の高い電気自動車を開発できたとしても、それを量産することができないのです。
EVの本質を当時から理解していた超優秀な経営者たち
したがって、このことをすでに見抜いていたテスラや日産という電気自動車のパイオニアたちに関しては、
例えばテスラであれば、初の量産モデルであったモデルSの量産を成功させたすぐ後である2014年には、その当時の世界トップのバッテリーサプライヤーであった日本のパナソニックとタッグを組んで、
自社内でバッテリーを生産することができる、巨大なバッテリー生産工場であるギガファクトリーの建設を表明し、2016年から生産をスタートさせ、
現在ではなんと35GWhを超えるような、世界有数のバッテリー生産キャパシティを有するほどにまで成長させ、
また日産に関しても、世界初の本格量産者であるリーフを大量に生産するために、やはり自社でバッテリーを生産することの重要性を認識し、
自らバッテリー生産工場を、神奈川県の座間市に2010年には立ち上げながら、
その後、イギリスのサンダーランド工場、そして、アメリカのテネシーの工場においても、リーフの生産と同時並行でバッテリー生産工場も立ち上げているという、
その当時では、自動車メーカーがバッテリーの生産に着手するなどあり得ないという風潮であり、
やはりこの意味において、当時のカルロスゴーンという存在は、とてつもない経営者としての能力を有していたことが、思い知らされるとも思います。
明暗が大きく分かれた両者のEV戦略
ただし、2021年現在においては、その日産のバッテリー生産工場は自社のみで運営しているわけではなく、
中国のバッテリーサプライヤーであり、世界第7位のバッテリー生産能力を有するエンビジョンAESCとタッグを組んで運営していて、
特にそのエンビジョンAESCの株式保有率は、現在2割ほどと、影響力は維持してはいるものの、やはりその当時立ち上げたバッテリー生産企業のAESCを2018年に売ってしまったという点に関しては、
やはりこの直近の日産の経営状態の悪さによるものであり、
しかしながら、現状の電気自動車需要の急増の流れを見ると、やはりその売却は、非常に近眼的な視野であったと言わざるを得ないとも感じます。
そして、現状の日産のバッテリー生産キャパシティについてをおさらいすると、
まず、日産初のバッテリー生産工場である神奈川県の座間工場に関しては、年産2.6GWhという生産キャパシティを備え、
更に、同じくリーフの生産を行なっているサンダーランド工場においては1.9GWh、そして、アメリカのテネシーの工場においても、3.0GWhということになり、
したがって、日産の電気自動車用のバッテリー生産キャパシティというのは、年産で7.5GWh、
現在発売されているリーフの搭載バッテリー容量が40kWhと62kWhですので、平均して50kWh程度と仮定すると、年間にして、リーフ15万台分の生産キャパシティを有しているということになると計算することができそうです。
また、現在日産からは切り離されてしまったエンビジョンAESCに関しては、中国国内において、自社のバッテリー生産工場を目下建設中となっていて、
その建設完了の時期は明確ではないものの、おそらく数年以内には、年産20GWhという規模のバッテリー生産工場の稼働がスタートする見込みともなっています。
アリアはEnvision AESC製ではない
そして冒頭説明したように、日産に関しては今年である2021年内にも、リーフに続く新型電気自動車であるアリア、
そしてその後には、軽自動車EVであるImkという、矢継ぎ早の電気自動車に市場投入が控えていて、
それでは果たして、その新型電気自動車に搭載するリチウムイオンバッテリーは、どのように調達するのかという疑問が湧いてくるのですが、
まずアリアに関しては、2021年5月時点における日産側の公式情報によると、今だにそのバッテリーサプライヤーを公開してはいないものの、
複数の報道によると、そのどれも世界最大のバッテリーサプライヤーである、中国のCATLから調達するということとなりそうですので、
つまりアリアに搭載されるバッテリーに関しては、リーフとは違い自社でバッテリーを生産するのではなく、CATLというバッテリーサプライヤーから購入する、というバッテリー調達方法を選択したということになるのです。
EV時代の最重要ミッションはバッテリー内製化
ちなみに、なぜバッテリーを内製化する必要があるのかという点に関してですが、こちらは主にいくつか明確な理由が存在し、
まずは、自社内でバッテリーを内製化することによって、その供給体制を安定させることが可能であり、
例えば今回のアリアで言えば、中国の企業であるCATLから、その電気自動車のアリアのコアパーツであるバッテリーを供給することになるのですが、
特にその中国とアメリカによる貿易戦争が激しさを増す中において、仮にその中国が日本に対しても、バッテリーの輸出などについて、現状以上の関税などをはじめとする制裁を科してきた場合、
その車両コストに直結してしまうというリスクを抱えることになりますし、
また、仮にアリアの販売台数が想定以上となり、その生産体制をさらに増強しようとしても、バッテリーサプライヤーであるCATLがその増産体制の話に乗ってくれなければ、
冒頭説明したように、特に電気自動車におけるコアパーツであるバッテリーを確保しなければ、電気自動車を増産することができませんし、
そしてさらに、電気自動車におけるコアパーツということは、その電気自動車の性能を決定づけるパーツである、
したがって今回で言えば、アリアの性能を根本から改善しようとしても、そのコアパーツであるバッテリーの性能を、CATLの合意なしに改善することができないという制約が課されてしまう、
という理由であるからなのです。
ついに日産もバッテリー生産体制拡充
したがって、今年である2021年から発売するアリアには間に合わないものの、今後発売する新たな電気自動車に関しては、
やはりそのようなバッテリーサプライヤーからの調達というリスクを分散するためにも、日産も自社内においてバッテリー生産にコミットする必要性を感じ、
したがって、今回新たに明らかになってきたことというのが、
その日産と、リーフのバッテリー生産でタッグを組んでいるエンビジョンAESCと協業して、新たなバッテリー生産工場を立ち上げる方針が、複数ソースからリークされているということで、
まず発端としては、ガーディアンがイギリス市場において、そのリーフも生産しているサンダーランド工場のすぐ隣に、バッテリー生産工場を立ち上げるという報道をしてきていて、
その生産キャパシティに関しては、まずは年産6GWhという生産キャパシティを達成し、
その後は、最大で20GWh級という、かなりの規模感の生産工場の建設を目指しているとし、その実際の生産開始時期が、2024年中ともアナウンスされています。
そしてそのすぐ後に、日本経済新聞が、日本国内の茨城県に、日産とエンビジョンAESCがタッグを組んで、新たなバッテリー生産工場を立ち上げるとも報道してきていて、
しかもこの記事内では、ガーディアンで取り上げられていたイギリス市場におけるバッテリー工場新設についても同様に取り上げられていましたので、
したがっておそらくですが、今回の日産とエンビジョンAESCの協業による新たなバッテリー生産工場の建設というのは、すでに確度の高い情報として報道機関では認識されていることであると推測可能であり、
公式情報ではないものの、ほぼほぼ確定案件と認識していただいて差し支えないとは思います。
そして、この日本市場の茨城県のバッテリー生産工場の新設における具体的な中身を見ていくと、こちらもイギリス市場の生産工場と同様に、年産6GWhという生産キャパシティをまずは備え、
その操業開始予定が2024年というタイムラインと報道されていて、
よって、この日本とイギリスのバッテリー生産工場の新設によって、グローバルにおけるバッテリー生産能力が、電気自動車に換算して合計90万台分というスケールに大幅拡大され、
この数値というのは、現状のバッテリー生産能力である年間20万台というスケールから、なんと70万台分もスケールアップするということになるかとは思われます。
それでは、この日産のバッテリー生産能力を詳細に計算してみると、
冒頭解説したように、現状のバッテリー生産能力というのは、日本とイギリス、そしてアメリカの3地点合計して、7.5GWhというキャパシティであり、
日経に関しては、おそらくこの数値を電気自動車にして20万台分と表現していますが、
これが90万台分の大幅増強されるということは、現状の実に4.5倍、
したがって、おおよそ年産34GWhというバッテリーの生産キャパシティを有することになる、というようなスケール感とはなりそうです。
トヨタの増産計画と比較してもかなりの規模感
ちなみに以前の動画において、日本最大の自動車メーカーであるトヨタが発表してきたバッテリーの自社生産計画とを比較してみると、
そのトヨタとパナソニックの合弁会社である、プライムプラネットエナジー&ソリューションズが発表した、直近のバッテリー生産計画が、
日本の姫路工場において、電気自動車8万台分、仮に電気自動車一台分の搭載バッテリー容量を60kWhと仮定すると、その生産キャパシティは年産で4.8GWhとなり、
こちらの増産計画に関しては、今年である2021年からスタートするとはアナウンスしてはいるものの、実際のキャパシティに到達するのはまだ先となる見込みですので、
何れにしてもこのように、日本最大の自動車メーカーであり、その販売台数ではかなりの差ともなっているトヨタと比較してみると、
日産としてはかなりのバッテリー供給量を確保しようと考えていることが見て取れますし、
逆に、やはりトヨタのバッテリー供給体制は、自社生産による調達方法ではなく、
外部のバッテリーサプライヤーからの調達を中心戦略に据えようとしているということが、図らずも浮き彫りとなってくるかとは思います。
バイデン政権のEV投資によって米国内にも工場新設の可能性も
ただし、今回は報道されてはいないものの、特に現在アメリカ市場において、新政権であるバイデン政権が、電気自動車に対する様々な税制優遇を大規模で行なっている状況でもあり、
むしろ逆に、アメリカ国内で生産された電気自動車でない場合、
電気自動車購入において適用できる税額控除の金額が、日本円にして30万円ほど減ってしまう可能性すら高い状況でもありますので、
もしかしたら日産側としても、このバイデン新政権への対応によって、今回の日本とイギリスに続いて、さらにアメリカ国内においてもバッテリー生産工場を新設する動きを見せる可能性も十分考えられますので、
その実際の生産キャパシティは、さらに増える可能性もあるとも思います。
世界の自動車メーカーの桁違いのバッテリー投資
しかしながら以前も解説したように、海外の自動車メーカーに関しては、今回の日産以上にそのバッテリー生産体制を、爆速で増強している最中ともなっていて、
例えば、アメリカのフォードに関しては、韓国のバッテリーサプライヤーであるSKイノベーションと合弁会社を立ち上げて、60GWh級という、巨大なバッテリー生産工場の建設を表明していますし、
世界最大のフォルクスワーゲングループに関しては、ヨーロッパ市場のみにおいて、40GWh級のバッテリー生産工場をなんと6箇所、
合計して240GWhという生産キャパシティを確保しようとしていたりもしますので、
もちろん今後の最新情報、特に直近では、アメリカ市場内においても、日産がバッテリー生産を拡大しようとするのかなどの動向を注視する必要はありますが、
やはり海外メーカー勢と比較しても、ややそのバッテリー生産量の数値という点で、見劣りしているようには感じるとは思います。
国を挙げて電気自動車安定生産のサプライチェーン構築を!
何れにしてもこのように、今回複数のメディアが一斉に報じてきた、
日産とエンビジョンAESCがタッグを組んで、イギリスと日本の両方においてそれぞれバッテリー生産工場を立ち上げ、
特に電気自動車におけるコアパーツともなるバッテリーの自社内製分を、大幅増強するというニュースは、非常に朗報であると思いますし、
特に我々日本市場において、このバッテリー生産工場が立ち上がるというのは、特に最近の日本の電気自動車関連のニュースでは非常に期待できるニュースではありますが、
やはりそれと同時に、すでに国をあげてバッテリー生産を強力に推進しているアメリカや中国に対抗していくためには、
やはり日本も政府を挙げて、今後の電気自動車時代におけるバッテリー生産にコミットする必要があり、
そしてこれは、特に台頭する中国に対する強力な安全保障上の対策ともなり得ますし、
特に日本にはパナソニックという世界第3位のバッテリーサプライヤーもすでに存在していますので、
これらの自動車メーカーとバッテリーサプライヤー、そして政府がしっかりとタッグを組んで、
そろそろ本気でバッテリーの国内調達、サプライチェーンの構築にコミットしていかなければならない時期に、突入しているのではないでしょうか?
Author: EVネイティブ
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