日本の物流大手であるSBSホールディングスが、中国の自動車メーカーであるドンフェンから、小型配送トラックの電気自動車をなんと1万台も導入すると報道されましたが、
すでに我々日本市場には、中国製の電気自動車が次々と走り始めてしまっているという現実について、
その現在までにわかっている中国製EVの最新情報についてを徹底的に解説します。
物流大手がEV1万台を発注へ!
まず、今回のSBSホールディングスに関してですが、日本の大手物流会社であり、
主に東南アジアを中心に事業展開をしているように見受けられ、
その規模については、昨年である2020年12月期において、売上高が2571億円、
そして今期である2021年の売上高予想、および営業利益の変遷を見ると、
ここ数年で一気に売上高を伸ばしている状況となっていて、
確かに日本の物流業界トップである日本郵船やヤマト、佐川などと比較してしまうと中堅規模とはなりますが、
それでも、一定規模の物流企業ということになります。
そして、そのSBSホールディングスについて、今回新たに明らかになってきたことというのが、
その配送事業において使用する車両を、順次電気自動車へとリプレイスしていき、
2030年までには1万台もの電気自動車を導入していくという、非常にアグレッシブな発表となっていて、
こちらに関しては、日本経済新聞が独自に報道してきた格好となっていますので、
SBSホールディングス側からの、詳細なアナウンスなどは現状確認することができていませんが、
やはり昨今急速に進み始めている、世界的な脱炭素化の潮流を受けて、
物流事業において内燃機関車を使用しているSBSに関しても、
その潮流に沿う形で、車の電動化を進めてきた格好に見受けられます。
中国製EVを1万台導入へ
しかしながら、今回の報道において最も重要なポイントであるのが、
そのSBSが導入する電気自動車を、どの自動車メーカーから調達しようとしているのかという点であり、
それが、中国の自動車メーカーであるドンフェンモーターから導入するということで、
つまり、中国製の電気自動車が、なんと1万台も日本市場に大量配備される、
まさに、中国製電気自動車が侵略し始めた、ということになり、
多くの関心が集まっている状況、となっているのです。
それでは、今回SBSが導入を決定した電気自動車について、現在までにわかっている情報を改めてまとめていきたいと思いますが、
まずは、その導入するセグメントというのが、小型配送トラックというセグメントであり、
つまり、大都市間を移動するような大型の配送トラックなどではなく、
都市圏内、特に半径数十キロ圏内において、最後のエンドユーザーに対して実際に商品を届けるような、
ラストワンマイルで使用される車種となります。
こちらのラストワンマイルにおける電気自動車の採用というのは、
特に本メディアをご覧になっている方でしたら御察しの通り、
極めて親和性が高い、
ということで、
というのも、ラストワンマイル用の配送車両であれば、
例えば同じく電気自動車をラストワンマイルの配送トラックに採用しているヤマトによれば、1日せいぜい40kmほどであり、
さらに、営業時間帯が終了してしまえば、緊急で車両を使用するという心配もないため、
営業所に到着したら、充電プラグを差し込んで、翌朝の出社時には満タン状態で、
エネルギー補給の心配を一切必要とせずに営業を再開することができます。
ラストワンマイル配送トラックとEVとの親和性の高さは異常
さらに、その夜間帯の電力で充電することができれば、その安い電力体系を使用することができるため、
今までのガソリン補給というエネルギー代と比較しても、極めて安価に抑えることができながら、
そもそも複雑な構造を有する内燃エンジンを搭載していない電気自動車というのは、
既存の内燃機関車よりも圧倒的に耐久性が優れていますので、
ただ単純に燃料費がかからないだけでなく、中長期的に見た維持管理費というランニングコストも大幅に抑制することができますし、
しかも駄目押しで付け加えれば、電気自動車の特性上、
そのスペースを取る内燃エンジンなど、様々な部品を撤廃することができますので、
その分だけ、車内のレイアウトの柔軟度が増す、
つまり、既存の内燃機関車よりも、より使いやすい配送トラックとして最適化することにもつながるのです。
ちなみに、ラストワンマイルとして、街中を走り抜けていく小型配送トラックについては、
そのストップ&ゴーの機会が極めて多いわけで、
したがって、これまた電気自動車の強みでもある回生ブレーキによる、
今までであれば、ただ減速エネルギーをブレーキによって熱エネルギーに変換して待機中に捨てていたエネルギーを、
電気エネルギーに変換して、バッテリーに再充電することもできたり、
その回生ブレーキによって、そもそもブレーキを踏む回数も大幅に減少する、
つまり、その分だけブレーキパッドが減らないわけですから、
先ほども触れた、ランニングコストという点に、さらに追加することのできる強みともなりますので、
ストップ&ゴーが多いラストワンマイル用の配送トラックと電気自動車というのが、
いかに親和性が高いのかが、お分かりいただけたと思います。
製造は中国メーカーだが、設計開発は日本のEVベンチャーが担当
次に、今回のSBSが導入した電気自動車においてわかっていることというのが、
中国メーカーによって製造されているという点であり、
それが中国のドンフェンモーターという、中国有数の国有自動車メーカーの100%子会社であるDFSKとなっていて、
こちらのDFSKでは、主にマイクロ版や商用車の生産を担当しているのですが、
実はそのドンフェンに関しては、
日本の自動車メーカーであるホンダや日産と合弁会社を立ち上げて、中国国内で事業を展開しています。
そして、今回のSBSの小型配送トラックに関しては、
そのDFSKという、中国企業が生産するという点が非常にキャッチーなわけで、
したがって、ネット上などでも、
いよいよ中国勢が、自動車大国でもある我々日本市場にも侵略を開始し始めたということで話題となっているわけなのです。
ただし、その中国製の電気自動車という観点では一点注意しなければならない点も存在し、
それが、今回の小型配送トラックについては、
確かに中国のドンフェンによって中国現地で生産が行われるものの、
その設計開発に関しては、日本の電気自動車ベンチャーでもある、
京都のフォロフライ株式会社が担当しているという点であり、
したがって、設計から製造をすべて一貫して中国勢が取り仕切っているわけではなく、
あくまで設計部分は日本勢、
特に今回は、京都大学による大学ベンチャーであろう、電気自動車専門のベンチャーが担当しているということですので、
別に全ての分野で中国勢に席巻されてしまっているということではない、ということになります。
しかしながら、今回の報道元である日本経済新聞によれば、
実は今回のSBSは、1トン級の小型配送トラックの電気自動車を導入するにあたって、
日本メーカーへの生産委託も検討していたそうなのですが、
日本メーカーに委託した場合、その製造コストは跳ね上がり、
おそらく一台あたり1000万円程度もの値段設定となってしまうことが想定でき、
したがって、日本メーカー以外の海外勢ともコンタクトを図ったところ、
中国のドンフェンが、日本メーカーよりも圧倒的に安価に製造することができるということで、
その車両価格が、おおよそ380万円程度という、
つまり、同じ車両の生産を委託した場合、最終的な車両の値段設定で、3倍近い値段の差がついてしまうということになり、
日本メーカーを選択せずに中国のドンフェンを選択した、ということになったのです。
航続距離は十分すぎる300kmを達成
そして、今回のSBSホールディングス側については、
その1トン級を積載できる配送トラックとともに、さらに1.5トン級を積載可能な配送トラックについても、
ドンフェンではないものの、同じく中国のメーカーに生産委託する方針を示し、
9年後である2030年までに、その両車種を合わせてなんと1万台もの中国製電気自動車の供給を受ける計画ともなっています。
また、その来年である2022年の1月から本格的に輸入し始める、
1トン級の小型配送トラックに関する、電気自動車としての質についてですが、
残念ながら現状までに詳しいスペックなどが明らかにされていませんので、
こちらは続報が入り次第アップデートしていきたいとは思いますが、
その満充電あたりの航続距離は、300km程度とアナウンスされていて、
おそらくこちらは中国で一般的に採用されている、NEDCサイクルにおける基準の可能性が高いですので、
最も信用に値するEPAサイクルに変換してみると、概ね150km以上200km程度は、問題なく走行することができるということになり、
冒頭も紹介している通り、例えばヤマトに関しては、ラストワンマイルにおける平均走行距離は、1日あたり40km程度と、
仮に倍走るような、ハードな運用であったとしても、
今回導入される中国製電気自動車であれば、充電を全く気にすることなく運用することができそうであるとは感じます。
ちなみに、それ以外の公開されていない電気自動車としての質で、特に気になるポイントに関してをピックアップしていくと、
まずは、その搭載バッテリー容量がどれほどであるのかという点であり、
というのも、日経によれば、この1トン級の小型配送トラックの本体価格は、およそ380万円程度と、
例えば、我々日本市場で言えば、プジョーのコンパクトハッチバックであるe-208が購入できてしまうような値段設定であり、
そのe-208の搭載バッテリー容量は50kWhでもありますが、
問題は、この電費性能という点で極めて分が悪い、バンタイプの配送トラックというセグメントで、
おそらく航続距離300kmを達成するためには、一体どれほどのバッテリー容量が必要となり、
そして、そのe-208の50kWhという容量を大きく超えて、
私の推測である、概ね80kWh程度のバッテリーを搭載してきている場合、
特に現在電気自動車のコストの大きなウェイトを占めているバッテリーを、それだけ搭載してきたとしても380万円程度という値段設定で抑えられる、
まさに、中国ドンフェンが、極めて安価にバッテリーを調達することに成功していることが、自ずとわかってくるのです。
したがって、一体どれほどのバッテリー容量を搭載し、
そして、そのような安価なバッテリーを、どのバッテリーサプライヤーから調達してきているのか、
さらに、その安価なバッテリーとは一体どの種類であるのか、
中国勢が得意としている、より安価なバッテリーセルの種類であるLFPであるのか、
もしLFPであれば、そのLFPに特に強みを持ち、
今回の製造元でもあるドンフェンとパートナーシップを締結済みである、
世界最大の中国勢バッテリーサプライヤーのCATL製であるのか、などの、より細かい詳細がつながってくることになり、
よって、今回の中国製配送トラックの安さの秘密を、電気自動車としての質から解明することができる、ということなのです。
佐川急便も中国製EVを大量導入
ちなみにですが、このような中国製の電気自動車配送トラックが日本市場に進出するという動きは、
何も今回が初めての動きではないという点は、
やはり日本人が真剣に考えなければならない重大な問題点であるということで、
物流大手の佐川急便が、中国のGuangxi Automobilesという自動車メーカーとタッグを組んで、
より小型なラストワンマイル用の電気自動車配送トラックを、
同じく来年である2022年から順次、既存の内燃機関トラックからリプレイスしていくという方針を発表していました。
こちらに関しても、日本メーカーにもその生産委託を打診していたそうなのですが、
やはり全く同様に、そのコストという点で全く競争力がなく、
そのコストという観点で満足できる値段を提示してきたのが、Guangxi Automobilesであり、元々の名をWulingとも呼びますが、
その中国メーカーに製造を委託したという背景があったのです。
そして、その元々の名称であったWulingと聞いてピンときた方もいるかとは思いますが、
そのGuangxiについては、現在中国で最も売れている自動車に君臨している、
50万円以下で買える超格安小型電気自動車のHong Guang Mini EVを生産している、
上汽通用五菱汽車の合弁会社の一角を構成しているわけで、
つまり、そのような低コストな電気自動車生産に対する知見を有しているという点が重要であると思います。
また、その佐川急便の導入予定の小型電気自動車配送トラックに関しても、
実は全て中国製ではないという点が共通している点であり、
全く同様に、その設計開発などの上流工程に関しては、日本の電気自動車ベンチャーであるASFが担当していますので、
中国製であることには変わらないものの、日本で設計されているという点も、同時に押さえておかなければならない点であるかとも思います。
物流業界のEV化は始まったばかり
このように、現在世界的に急速に普及が進んでいる電気自動車の導入について、
我々日本市場においても、様々な電気自動車が登場し、
実際に本メディアにおいてもその最新動向を解説しているわけですが、
そのような乗用車セグメントだけではなく、商用車セグメントに関しても、現在電気自動車へのリプレイスが目下進行中であり、
特に今回取り上げた、ラストワンマイルという運用のような、すでに決まったルートを走行するような用途というのは、
すでに現状の技術であっても、明らかに電気自動車にリプレイスしてしまった方が費用対効果が高いわけなのです。
しかしながら、その小型配送トラックの電気自動車需要の受け皿となる日本メーカーの電気自動車がほとんど存在せず、
実際に生産を委託しようとしても、コストが全く釣り合わないわけで、
仕方なく、その電気自動車の開発・生産能力が極めて高い中国メーカーに流れてしまっているという、
自動車大国日本としては、これほどまでに痛い機会ロスはありませんので、
とにかく海外への資金流出を止めるべく、日本メーカーは来たる完全電気自動車100%時代に備えて、
この商用車セグメントの電動化の受け皿となる生産設備や車種のラインナップが急がれますし、
いくら日本メーカーが本腰を入れたとしても、ガチンコの価格競争ではもはや中国に対抗することは不可能ですので、
ここは国とも一蓮托生で、その生産設備投資への補助であったり、
日本で生産された電気自動車を導入する際は、補助金を導入するなどの支援策を講じていただきたいと思います。
何れにしても、すでに中国製電気自動車が、今回の配送トラックであったりバスであったりという、
商用車セグメントにおいて、一気に侵略をスタートしているという現実を、一人でも多くの日本人が認識すべきですし、
それと同時に、その商用車セグメントで日本市場を徹底的にマーケティングし、
満を持して、日本メーカー勢が支配している乗用車セグメントにも、機を見て中国勢が一気に侵略を仕掛けてくることは、
別に何も不思議なことではありませんので、
気づいたら街中を走っている電気自動車の多くが中国製の電気自動車であった、なんて、恐ろしい未来が現実とならないように、
電気自動車普及を阻害するのではなく、電気自動車時代への抜本的な備えを始めるべきなのではないでしょうか?
From: 日本経済新聞、LOGISTICS TODAY
Author: EVネイティブ
コメント