アメリカ市場における、規模が大幅拡充された新たな電気自動車購入の補助金政策が、現在議会で審議中となっていますが、
しかしながら、トヨタとホンダがその新たな補助政策に反対するロビー活動をスタートし、
その今回のアメリカ市場における、新たなEV推進施策のメリットデメリット、さらには、日本車外しとも言われてしまっている理由、
そして、今回の政策から学ぶことのできる、我々日本市場における電気自動車優遇政策に関する提言についてを改めてまとめます。
バイデン政権はEV補助金大幅増額へ
まず、今回のアメリカ市場における電気自動車購入に対する補助政策に関してですが、
実は現在すでに、同じような税制優遇政策が適用されていて、
それが、電気自動車購入の際に最大7500ドル、
日本円に換算して、おおよそ83万円程度もの税額控除が適用されるというものであり、
そもそもこの税額控除とはなんなのかに関してですが、
本来支払うべき税金から、その控除額を直接差し引く制度のことを指し、
つまり、簡単に行ってしまえば割引のようなものに該当しますので、
例えば、我々日本市場における電気自動車購入の際の、最大80万円という金額が、
電気自動車購入後、直接自らの口座に振り込まれるという方式とは若干ニュアンスが異なる、ということになります。
よって、その我々日本市場における電気自動車購入に対する補助政策である、最大80万円という金額と比較してみると、
すでにアメリカ市場においては、同等レベルの税制優遇を行なっていたわけで、
しかもこの税制優遇措置というのは、オバマ政権下で制定された法案であり、もう10年以上も続いていたりしますので、
その意味において、電気自動車に対する優遇を、早くから、そして積極的に展開していた、ということなのです。
ちなみに、この税額控除を適用して電気自動車を購入した場合、
例えば、直近で大幅値下げが断行された日産リーフに関しては、現在アメリカ市場では27400ドル、
日本円に換算して、およそ302万円から購入することができるという、
これだけでも非常に競争力のある値段設定であるわけですが、
ここからさらに7500ドルの税額控除を適用すると、実質19900ドルから購入することができる、
つまり日本円に換算して、衝撃の220万円から日産リーフを購入することができてしまい、
したがって、現在このリーフがアメリカ国内で最も安く購入することのできる電気自動車ともなっていますので、
果たして大幅値下げされたリーフが、どこまでアメリカ国内で通用するのか、
今後の販売台数とともに注目していくべきであるとは感じます。
しかしながら、そのアメリカ国内の完全電気自動車の販売台数というのは、
例えば日本市場における、新車販売に占める完全電気自動車の比率である1%未満という数値よりかは、まだマシな、概ね2%程度を達成していたり、
特に、電気自動車の普及が進んでいるカリフォルニア州などでは、すでにその電動下率は10%程度を達成しているものの、
それでも、このペースであれば、とてもではないですが、電気自動車が広く普及する未来はまだまだ先となってしまう、
したがって、電気自動車購入に対する7500ドルの税制優遇措置をはじめとする、現状の電気自動車に対する推進政策を見直す必要に迫られている、
という背景があるのです。
最大138万円の税制優遇
そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、
その電気自動車購入に対する税制優遇措置を、さらに拡大適用させようとしてきているということで、
まずそもそも論として、現在のバイデン政権というのは電気自動車だけではなく、様々なインフラ投資を計画し、
その投資額が3兆5000億ドル、日本円に換算して、驚愕の400兆円規模にも迫る投資を表明しているわけで、
すでに議会で審議が行われている真っ最中であるわけですが、
その巨額のインフラ投資の中でも、特に電気自動車に対する投資計画も発表し、
まずその投資額の合計が1600億ドル、
日本円でおよそ17兆円以上もの金額を、今回フォーカスしたい、電気自動車購入に対する税制優遇措置を筆頭に、
それ以外にも、電気自動車用の充電器の設置であったり、
電気自動車を生産するための設備投資を行う企業に対する税制優遇、
連邦政府の公用車を全て電気自動車にするための予算、
さらには、乗用車セグメントだけではない、重量級のトラックなどの商用車の電気自動車化を支援するための税制優遇など、
とにかく、特にバイデン自身も訴えている、中国の電気自動車化との遅れを挽回するために、
我々日本市場などとは、文字通り桁違いの投資を、電気自動車に対して行おうとしているのです。
それでは、特にその中でも注目したい、電気自動車購入におけるインセンティブがどのような内容になっているのかについてですが、
まず結論から申し上げて、今までの7500ドルという上限をさらに上乗せし、最大12500ドル、
日本円にして、なんと138万円もの税額控除を適用することができるようになる公算なのです。
しかしながら、この税制優遇措置に関してはいくつか制約が存在するということで、
まず大前提となる税額控除金額というのは4000ドルとなり、
こちらは完全な電気自動車とともに、プラグインハイブリッド車も対象となり、
その搭載バッテリーの容量によって、最大7500ドルという上限を適用できるのかが決まり、
40kWh以上のバッテリーが搭載されている場合は、現行の最大7500ドル、日本円で83万円という金額を控除することができますが、
問題は、それ以上の控除額へと拡大適用させたい場合は、
全米自動車労働組合であるUAWに加盟している拠点で、製造されていなければならないという制約となっていて、
その制約をクリアした場合、追加で4500ドルが上積みされ、合計で12000ドルという税額控除を適用可能となります。
さらに、車両のパーツの50%以上がアメリカ製であり、
かつ、電気自動車に搭載されるリチウムイオンバッテリーのセルもアメリカ国内で生産されている場合、さらに500ドルが追加適用され、
したがって、合計12500ドル、日本円で138万円という圧倒的な購入補助を適用することができるのです。
対象車種と対象者を制限へ
ただし、今回の税額控除については、その対象車種、および対象者が制限されるということで、
まずは、その車両価格の上限が設定され、
セダンが55000ドル、日本円で607万円、バンタイプの車両が64000ドル、日本円で706万円、
SUVが69000ドル、日本円で761万円、そしてピックアップトラックが74000ドル、日本円で817万円、という上限となりましたので、
どのような高級車でも、7500ドルの控除を適用できていた、これまでの税額控除の制度とは異なり、
大きく対象車種を制限してきた格好となりますが、
こちらに関しては、すでに電気自動車の補助金政策を改定しているヨーロッパのほとんどの国々や中国などでも採用されている、
一般的な制限措置であると言えます。
また、その税制優遇の対象者についても、ついに制限が始まったということで、
それが、その所得に応じた制限であり、
基本的には年収40万ドル、日本円にして、4400万円以上の所得を有している人は、
今回の税制優遇を受け取ることはできない、ということになりますが、
こちらの制限に関しても、ヨーロッパの国々では、すでに高い給与水準の層では電気自動車購入がかなり増えてきていることも相まって、
所得制限を設ける国も増えてきていたりします。
さらに、今回の新たな税制優遇草案について特筆すべきなのが、
現行規定にあった、20万台ものEVを販売してしまったメーカーの電気自動車については、税額控除を適用できないという上限を完全に撤廃してきましたので、
すでにその上限に達してしまっていたテスラとGMの電気自動車に関しても、
この草案によって、今後税制優遇に復活する見込みともなりました。
日系メーカー&テスラが反対を表明
そして、現在目下審議中である、この新たな電気自動車優遇法案に関して、
一部の自動車メーカーが反対の意思を表明しているという点が注目されていて、
それが、日本の自動車メーカーであるトヨタとホンダ、そしてアメリカのテスラであり、
この3社ともに疑問を呈している箇所というのが、
UAWに加盟している拠点で製造しなければ、4500ドルもの税額控除を追加で適用することができないという点となっていて、
日本の全自動車メーカー、そしてテスラについてはUAWに所属していない、
つまり、この4500ドルの追加分の税額控除を適用することができず、
したがってトヨタについては、不公平で誤りであると主張していたり、ホンダについても同様に反対の意思を表明したりと、
この草案に対して、再考するように意見を表明してきているのです。
それでは、今回の日本メーカー勢やテスラの主張する、
UAWに加入しているメーカーの電気自動車を優遇、
つまりはっきり言ってしまえば、フォードやGM、ステランティスという、アメリカの自動車メーカービッグ3を明らかに優遇した政策に対する私独自の見解に関してですが、
これが政治である、と考えていて、
というのも、そのUAWについては、確かに現在はその会員数は落ち目にあるものの、最盛期には150万人もの会員数を誇っていたこともあり、
その数という意味において、今だに政治への影響力があるわけで、
大前提として数こそが、民主主義において最も力を発揮するわけですので、
その数の力を持ち、しかも現在のバイデン政権の民主党を支持基盤とする、UAWを優遇する政策を、時の政権が打つことは、
別に忖度でもなんでもなく、それが民主主義である、ということなのです。
テスラや日産は労働組合を結成させたくなかった
そしてそもそも論として、例えばテスラについては、イーロンマスク自身が組合組織への加入に否定的な立場を表明し、
ストックオプションを放棄するなどの、半ば脅しをかけていたわけで、
全国労働関係局という第三者機関から、法律違反であるという指摘を受けていたりしたという背景があり、
さらに日本の日産に関しても、海外メーカーとして初となるUAWへの参加を決める投票が行われたりしていたものの、
結局は、テスラと全く同様に、
UAWをはじめとする労働組合に所属することによる、メーカー側の人件費上昇などのリスクを回避したいために、そのUAW参加に反対し、
結局は結成が断念されたという歴史がある、
つまり何が言いたいのかといえば、
労働組合を結成するということは、メーカー側にとってリスクになり得るのと同時に、
今回のように、いざ政治に対してロビー活動を展開しようとした場合、その要望が通りやすくなる、
逆に労働組合に所属しなければ、その優遇措置に参画することができなくなるというリスクもはらんでいる、
ということなのです。
よって、今回の一件を取り上げて、やれアメリカの既得権益勢が日本メーカーを排除しようとしているのだー、であったり、
やれUAWがまたテスラの邪魔をしようとしているのだー、といった主張というのは、
確かに表面的に見ればそうとも言えるわけですが、
これが数の力による、政治を動かすパワーであるという、民主主義の原理を、今一度理解するべきなのではないか、
ということなのです。
民主主義における正当な手段?
もちろんのことですが、今回のUAWに参画している主要自動車メーカーである、フォード、GM、そしてステランティスというのは、
例外なく全て、今後一気に電気自動車に舵を切っていく方針を示しているわけで、
その自動車メーカーの電動化戦略と、今回のバイデン政権の電動化戦略の方向性が一致しているからこそ、
今回のような、電気自動車を優遇するさらに強力な政策、
もちろん両者の利害関係でもある、
バイデン政権からすれば、電気自動車を推進することで成果を上げることができ、
UAW側からしてみれば、自分たちの電気自動車を、UAWに所属していない自動車メーカーよりも、より競争力高く売ることができますし、
もちろん、テスラや日本メーカーの電気自動車に関しても、7500ドルの基本的な税額控除、
および、アメリカ製のパーツ、およびバッテリーセルを採用すればさらに500ドル、合計して8000ドルもの控除は適用可能なわけですので、
何れにしても、民主主義における正当な手段を使っているだけである、ということですね。
日本が学べるEV税制優遇措置の改善点は
それでは、今回の一連の電気自動車推進の優遇政策について、
いったい我々日本がどのような点を学ぶことができるのかに関してですが、大きく2点存在し、
やはり何と言っても、その補助金を適用することができる車種、および対象者に制限をかけるべきであるということであり、
まず、その対象車種の制限に関してですが、
こちらはアメリカや欧州、そして中国と全く同様に、その車両価格の高さの上限を決めるべきであり、
それこそ現状の補助金制度であれば、テスラやドイツの高級車などと、日産リーフなどの大衆電気自動車に適用される補助金の金額が全く同じであり、
そもそもそのような高級車を買う人間に対して、補助金を適用する必要はなく、
その考えを前提として、世界各国が同様の制約を設けてきてもいるわけですし、
その限りある財源を、より大衆電気自動車に適用することができれば、
その上限金額を達成するために、自動車メーカー各社が値下げを行い、
より一般の消費者にとって、電気自動車を安く購入することのできる環境が整っていくわけなのです。
そして、それに関連してもう一点というのが、
車両価格の上限とともに、購入者の所得上限も定めるべきであるということで、
当たり前とはなりますが、高所得の電気自動車購入者に対して、一般の中間層などと全く同等額の補助金を適用するのは、
限りある補助金の適性配分という観点で、適切ではありませんので、
こちらも海外と同様に、ある一定の所得制限を設けて、電気自動車補助金を適用させるべきである、ということなのです。
したがって日本市場においては、
特にアメリカ市場のように、100万円を大きく超えるような補助金額を適用する必要はないものの、
今後間違いなく増えていく電気自動車の販売台数とともに、その補助金の予算がすぐに枯渇するのを防ぐためにも、
まずは、高級電気自動車、および高所得の購入者に対して、その補助金を適用させないという制限を設けるべきであり、
それによって、その分の財源をより多くの一般消費者たちの電気自動車購入支援に充てたり、
それこそそれ以外の電気自動車優遇措置、例えば充電インフラ設置に対する投資など、
とにかく、一部の金持ちが得をする仕組みではなく、
より多くの日本国民に恩恵を与えるような制限を設けるべきである、と考えるべきではないでしょうか?
リーフは214万円、モデル3は353万円から買えます!
何れにしても、今回アメリカ市場における電気自動車購入の新たな税制優遇措置に対して、
トヨタやホンダ、テスラなどが反対の意思を表明しているものの、
残念ながら、その反論というのは、
そもそもUAWへの参画によるデメリットを考慮して、今まで参画することがなかったものを、
今更自分たちの利益につながらないとなると見るや、急に反対してきただけのようにしか見えませんし、
大前提でもある、民主主義における数をより多く集めることができているUAWが、しっかりとその力を行使しているだけであり、
特に反論の中身である、電動化が遅れることにつながることでもない、ということですね。
ちなみに、今回の草案は上下院で優勢な民主党側であるバイデン政権ということもあり、無事通過するという見方が大勢ではありますが、
そうなった場合、来年である2022年からは、
例えば冒頭紹介していた、現在アメリカ国内で最も安く買える電気自動車であるリーフは、
最大8000ドル控除され、実質19400ドル、日本円で214万円から購入可能となったり、
さらに、テスラのエントリーモデルである、モデル3スタンダードレンジ+についても、
最大8000ドル控除され、実質31990ドル、日本円で353万円から購入可能に、
そして、アメリカ市場のベストセラー車である、F-150 Lightningというピックアップトラックについては、
マックスの12500ドルを控除でき、実質27474ドル、日本円にして、驚愕の303万円からと、
フルサイズピックアップトラックとしては、ぶっちぎりのコストパフォーマンスを達成しますので、
すでに13万台以上の予約注文台数が、さらに跳ね上がる事はもう間違いない、
アメリカ市場の電動化がさらに爆速で進む事は、まず、間違いないでしょう。
From: Reuters
Author: EVネイティブ
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