【巨人がEV本気の臨戦体制へ】トヨタがバッテリー生産体制を大幅拡充したが、、

トヨタ

トヨタがついに、懸念されていたバッテリー生産体制を大幅増強し、なんと電動車48万台分のリチウムイオンバッテリーを追加生産することを表明しましたが、

しかしながら、実際の増産量についてを正確に読み解く必要性とともに、世界基準では圧倒的に低水準にとどまっているという事実についても、徹底的に解説します。

ハイブリッド車は電気自動車ではない

まず、今回のトヨタの電動化についてですが、ご存知の通り、トヨタは1997年に世界で初めてのハイブリッド車を市場に投入し、

そこからハイブリッド技術を洗練させ、現在では世界中の様々な競合メーカーでさえももはや対抗できないほどの、圧倒的なハイブリッド技術にまで達しているという、

電動化をリードしている自動車メーカーと言われてるのですが、この電動化という言葉がマジックワードとなっていて、

初代プリウス

例えば現在管政権が新たに提示してきた目標というのが、おおよそ十数年後である2030年台半ばまでに、ガソリン車やディーゼル車の発売を禁止し、電動車のみの発売とするとアナウンスしてはいるのですが、

この電動車というカテゴリーの中に、このトヨタを筆頭に、日本メーカーも得意としているハイブリッド車も含まれてしまっているということで、

本チャンネルにおいては繰り返し問題提起させていただいていますが、

このハイブリッド車というのは、その禁止されるガソリン車やディーゼル車と全く同様に、化石燃料を原動力に走行することにはなんら変わらず、外部電力を充電することができない、

つまり、今後我々日本を含めて世界的なスタンダードになることが確定的な、グリッドの脱炭素化の恩恵を全く受けることができないという観点において、

その外部電力を充電して走行する電気自動車とは、将来的なCO2削減のポテンシャルがまるで異なり

よって、我々日本を除く多くの国々はこのハイブリッド車も既存の内燃機関車と同じカテゴリーに含めて、禁止対象としていますので、

特に現状において、そのようなハイブリッド車を軒並み禁止する市場に向けての販売割合が多い日本メーカーこそ、この特にのハイブリッド車が軒並み売れなくなってしまうという大問題に、対処しなければならないのです。

必要バッテリー量が全く異なる

また、その電動車という同じカテゴリーに分類されてしまっているハイブリッド車と電気自動車のもう一つの決定的な違いというのは、

搭載されているリチウムイオンバッテリーの性質が全く異なるという点であり、

特に電気自動車の場合は、文字通り電気のみで走行しなければなりませんので、その充電しておくリチウムイオンバッテリーの容量は、ガソリン走行のアシスト的な立ち回りであるハイブリッド車のリチウムイオンバッテリーのそれよりも、圧倒的大容量となり、

したがって、この大量のリチウムイオンバッテリーを安定的に確保することができる供給体制を確保しなければ、

いざ電気自動車を大量販売しようと思っても、大量に生産することができなくなってしまうのです。

約104kWhのバッテリーを搭載したモデルSのバッテリーパック

トヨタが満を持してバッテリー生産能力アップへ

そして、そのような現状の中において、今回新たに明らかになってきたことというのが、

トヨタが、その電気自動車において特に大切となってくるバッテリーの生産体制を大幅増強してきたというニュースとなっていて、

そもそも論として、トヨタに関しては、現在世界で3番目のバッテリーサプライヤーであるパナソニックと協業してバッテリーの製造開発に取り組んでいて、

それが、昨年である2020年の4月に立ち上げた、プライムプラネットエナジー&ソリューションズ、略してPPESという、そのトヨタとパナソニックの合弁会社であり、

このPPESにおいては、ハイブリッド車および電気自動車用の角型リチウムイオンバッテリーの開発、製造、および販売を手がけるほか、

全固体電池や、それ以外の車載用次世代バッテリーの開発や生産などを事業内容としています。

そして、その生産キャパシティの増産計画に関してですが、

そもそも、まずPPESが設立された半年後である、2020年の10月に、そのPPES初めてリチウムイオンバッテリーの生産ラインを、徳島県に位置するパナソニックの子会社が所有する工場を借りて新設されていて、

その生産キャパシティが、なんとハイブリッド車50万台という、かなりの量を確保する公算となっていますので、

ついに、このPPESの親会社でもあるトヨタに関しても、今後の電動化時代においてマストとなる、リチウムイオンバッテリーの大量供給体制を確保してきたように見えますが、

先ほど解説した、ハイブリッド車と電気自動車の違いを再度確認すると、その搭載バッテリー容量が雲泥の差であり、

例えばトヨタが発売しているハイブリッド車の多くは、概ね1kWh程度という容量を搭載しているのですが、

対する電気自動車はというと、トヨタがすでに発売している、レクサスブランドのUX300eに関しては、54.3kWhという搭載バッテリー容量となりますので、

つまり、この時点でも50倍以上ものバッテリーが必要ということなのです。

ちなみに、そのレクサスブランドから2025年程度を目安に発売されるとアナウンスしている、LF-Z Electrifiedというコンセプトモデルの搭載バッテリー容量は90kWhともアナウンスされ、

実際に2021年現在で発売されている多くの電気自動車に関しては、やはり80kWh程度のバッテリー容量、さらに100kWh程度という大容量バッテリーを搭載している車種が一気に増えてきてもいますので、

電気自動車に必要なリチウムイオンバッテリーについては、そのハイブリッド車よりも、100倍近い規模感であると認識しておいたほうがいいかとは思います。

そして、昨年新設されるとアナウンスされた、ハイブリッド車50万台という数値を見直してみると、

つまり、搭載バッテリー容量おおよそ1kWh分を50万台、合計して、おおよそ0.5GWhと計算でき、

したがって、UX300e程度、少なく見積もっても50kWh程度の電気自動車を生産するのに必要なバッテリー量に変換すると、

なんと1万台程度の生産キャパシティしかない、という計算となり、

しかもこの新規生産ラインというのは、来年である2022年までに設置が完了するというタイムラインですので、

電気自動車を年間にして1万台、月間にして800台程度しか生産できないバッテリー供給体制を、来年までに確保する、と聞いてみると、

ただ報道されている電動車50万台規模の生産キャパシティという情報とは、かなり印象が違うように感じるのではないでしょうか?

さらに生産能力倍増というアナウンスはしたものの、、

そしてさらに、直近である5月中に、そのPPESがさらに新たなリチウムイオンバッテリーの生産ラインを増設する、というアナウンスをしてきたということで、

それが、国内の兵庫県姫路市に位置する生産工場と、中国のダーリェンに位置する生産工場の2拠点合計して、電動車48万台分の生産キャパシティの増産ということで、

こちらも先ほどの50万台分の増産というニュースとともにインパクトがあるのですが、

全く同様に、この電動車という中身を正確に分析する必要があり、

まず注目なのが、国内の姫路工場の中身であり、こちらは、BEV、つまり電気自動車用のリチウムイオンバッテリーが8万台分となっていますので、

現状発売されているトヨタの電気自動車であるレクサスUX300eの54.3kWh、少し多く見積もって、仮に60kWh分のバッテリー容量が8万台と仮定すると、

この姫路工場において生産されるリチウムイオンバッテリーの生産キャパシティは、4.8GWhということになり、

こちらは先ほどの徳島工場における0.5GWhという数値と比較しても大幅な増強であることが見て取れると思います。

ただし、中国のダーリェンの工場に関しては、徳島工場と全く同様の、ハイブリッド車用のバッテリー生産となり、こちらが40万台分とはいうものの、

同様に計算してみると、0.4GWhというバッテリー生産量ということになりますので、

全く同様に、電動車48万台分の生産キャパシティの増強と比較すると、ややトーンダウンしたように感じるのは私だけではないと思われます。

ちなみに、こちらの生産ラインの稼働に関するタイムラインについてですが、

今年である2021年内に生産スタートとアナウンスしていますが、

先に準備が進められているはずである、先ほどの徳島工場であっても、2022年内にそのハイブリッド車50万台分という生産キャパシティに達成する予定ですので、

実際にアナウンスされている電動車48万台分の生産キャパシティに達するのは、おそらく2023年程度になるものと推測することはできそうです。

やっぱりトヨタのバッテリー調達予測甘くない?

そして、現状の生産キャパシティを確認した上で、直近で開催された、2020年度の決算発表時で説明されたトヨタの電動化戦略を改めて考察していきたいのですが、

トヨタは2030年までに、電動車を800万台発売するという目標を掲げていて、そのためには、180GWhという大量のバッテリーが必要となるという見通しも立てていますので、

つまり、その決算発表時点におけるトヨタのバッテリー供給能力である6GWhと、今回のPPESというパナソニックとの合弁会社による増産によって、5.2GWh程度追加された、

したがって、2022年から8年間で、あと168.8GWhというバッテリー調達能力を達成しなければならない、ということなのです。

From: 日本経済新聞

ちなみに、この180GWhという数値に関してはいくつかエクスキューズが存在すると考えていて、

まず、この数値というのは、自社であるトヨタ自身や、今回紹介しているPPESという合弁会社だけではなく、

すでに提携関係を発表している中国のバッテリーサプライヤーであるCATLやBYDからの購入分も含まれているという点であり、

したがって、私がよく説明している、自社内でバッテリー生産を行っている内製化されたバッテリーの生産キャパシティの合計ではないということ、

”全方位的”な協業関係を締結

さらに、そもそもトヨタの電動車800万台という数値の中で、搭載された大容量のバッテリーに充電して貯められた電力のみで走行する電気自動車の割合は、水素燃料電池車と合計して200万台

つまり、どんなに多くても200万台程度にとどまるという予測であり、

こちらの予測に関しては個人的には過小評価しすぎな数値であるとも考えているということ、

この内FCEVをどの程度と見ているのかが気になる所

以上の2点から、仮に世界的な電気自動車の販売予測が上振れした場合、このトヨタが予測している180GWhという数値では、バッテリー供給体制が間に合わないのではないかと推測することができるのです。

トヨタはもっと電気自動車を売れるはずです

ちなみに、その後者の懸念点である、トヨタの電気自動車の販売台数の数値についてですが、

こちらの根拠は、IEAという世界の29カ国が加盟している国際エネルギー機関という公式機関が、2030年までの電気自動車の普及予測を行なっていて、

その2030年までの電気自動車の販売台数は、グローバルで4500万台オーバー、その電気自動車の分類の中でも、特に電気のみで走行する完全な電気自動車の販売台数予測は、

残りの27%に該当するプラグインハイブリッド車を除いて、少なく見積もっても3000万台以上にも上り、

したがって、グローバルにおける完全な電気自動車のシェア率というのは、25%程度、

そして、トヨタのグローバルにおける販売台数というのは、例えば新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年の販売台数で1100万台弱程度であった、

つまり、その1100万台の25%程度である275万台程度という完全な電気自動車が発売されると予測することが可能であり、

故に、そのトヨタの2030年における予測である、完全電気自動車と水素燃料電池車を合わせて200万台という数値は、かなり過小評価しているのではないか、ということなのです。

世界のバッテリー生産強化への投資はケタ違い

そして、このような日本最大の自動車メーカーであるトヨタの現状認識を行なった上で、その他の世界の競合メーカーを比較してみると、

まず、年間生産台数500万台以上を誇るアメリカのフォードに関してですが、こちらも2030年までの電動化の見通しを発表していて、

アメリカ国内だけでも140GWh、そしてグローバルでは、なんと240GWhというリチウムイオンバッテリーが必要になると説明し、

したがって、韓国のバッテリーサプライヤーであるSKイノベーションと合弁会社を立ち上げて、最大60GWh級という巨大なバッテリー生産工場を立ち上げることを表明したり、

自社内においても、バッテリー生産兼研究開発センターの着工をスタートさせていたりもいるのです。

SK Innovation

また、グローバルで700万台以上という販売台数を誇り、アメリカ最大の自動車メーカーであるGMに関しては、

2035年までに、グローバルで発売する全ての車両を、完全電気自動車をはじめとするゼロエミッション車のみにするという大方針を示しながら、

それを達成するために、2025年までの4年間に、270億ドル、日本円に換算して3兆円以上もの投資を行うとも表明し、

こちらも韓国のバッテリーサプライヤーであるLGエナジーソリューションと合弁会社を立ち上げて、30GWh以上という生産キャパシティを誇るバッテリー生産工場を、なんと2つも同時に建設中ともなっているのです。

そして、トヨタと肩を並べ世界最大級の自動車グループを構成しているドイツのフォルクスワーゲングループに関しては、

2040年までに、グローバルで発売する全ての車両を完全電気自動車を中心とするゼロエミッション車にするために、バッテリーの内製化にフォーカスし、

2030年までに、40GWh級のバッテリー生産工場を、なんとヨーロッパ市場だけで6つも建設、

つまり、ヨーロッパ市場だけでも、2030年までに240GWh分のバッテリー供給能力を、自社だけで整えることができるということになり、

こちらはおそらくですが、今後は北米市場や中国市場などにおいても、バッテリーサプライヤーと合弁会社を立ち上げて、バッテリー生産工場を立ち上げる可能性も十分考えられますので、

したがって、先ほどのトヨタの2030年までのグローバルでのバッテリー供給能力であった180GWhと比較しても、

特に自社だけで240GWhという生産キャパシティをか開けることになるフォルクスワーゲングループとは、雲泥の差となるのです。

ちなみに、現在世界最大の電気自動車メーカーであるテスラに関しては、そのヨーロッパ市場においてギガファクトリーを目下建設中であり、

その生産キャパシティが、まずは100GWhという特大級の生産キャパシティを目指しながら、最終的には200-250GWhというキャパシティにまで高めていくとも説明していますので、

つまり、トヨタが2030年までに様々なサプライヤーから調達する量を全て含めた供給量である180GWhという数値を、

たった1つのバッテリー生産工場でまかなえてしまうような圧倒的なスケール感でもって、バッテリー生産体制を拡充しようとしているのです。

Giga Factory 4 in Berlin, Germany

自社でバッテリーを確保することがマストなEV戦国時代

何れにしてもこのように、今回発表されている日本最大のトヨタの、今後の電動化戦略の中でも特に最重要なリチウムイオンバッテリーの供給体制を正確に分析してみると、

  • ハイブリッド車が含まれていることによる、報道ベースでのイメージと実際の生産規模とは大きな乖離があるということ
  • 2030年までの電気自動車シェアの見通しについても、国際機関の予測から見ても過小評価しすぎやしないかという見通しに留まる
  • 世界の自動車メーカーと比較しても、そのバッテリー生産体制のスケール感が明らかに小さい

したがって、現在予測を大きく超えている電気自動車のシェア率に加えて、

それをさらに加速させるであろう、アメリカと中国、そしてヨーロッパを筆頭とした、脱炭素化への莫大な投資も相まって、電気自動車のシェア率は現状の予測をさらに大きく超えてくる、

つまり、その分だけ現状の想定よりも多くのリチウムイオンバッテリーが必要となる、

故に、その生産キャパシティをコントロールすることが可能な、自社内におけるバッテリーの生産体制を、長期を見通して構築することが、

今後の電気自動車の大津波の中を、今回のトヨタをはじめとする自動車メーカーが生き残るために課せられた、喫緊の課題であるのではないでしょうか?

From: Prime Planet Energy Solutions

Author: EVネイティブ