【ハイブリッド車のガラパゴス化は確定的】 アメリカが2030年までに電動化率50%へ
アメリカのバイデン政権が脱炭素化を達成するために、電気自動車の販売台数割合を、2030年までに50%にまで大幅に高めるという、2021年における電気自動車業界最大のニュースが発表されるのと同時に、
日産とホンダが、そのアメリカ市場における電動化戦略をさらに上方修正してきたという、世界の中の日本という視点についても、その最新動向をまとめます。
2030年までにEV比率を50%に
まず、今回のバイデン政権に関してですが、
今年である2021年の1月にアメリカ大統領職に就任してから、
即日中に、世界的な気候変動の枠組みであるパリ協定に復帰するという大統領令に署名しながら、
脱炭素化に向けて、その莫大な投資プランを表明するという、
これまでのトランプ政権の環境政策から、180度方針転換することによって、
その今後の脱炭素化をはじめとする環境政策に、世界中が注目している状況となっていました。
そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、
そのバイデン政権が、中期的な電気自動車の販売台数の数値目標を定めた大統領に署名してきたということで、
まず結論から申し上げて、その数値目標というのは、
今から9年後である2030年度において、アメリカ市場で発売される新車販売全体のうちの半数である50%を電気自動車にするという目標値となり、
つまり後9年後までには、アメリカ人の2人に1人が電気自動車を購入しているというような未来を目指している、とイメージしていただければ、
いかに今回の大統領令のインパクトが大きいのかを想像することができるのではないでしょうか?
しかしながら、今回の大統領令についてはいくつか注意しなければならない点も存在するということで、
まず大前提として、今回の大統領令そのものについては、特に法的拘束力のようなものが存在しないということでありますが、
ただし、アメリカの環境保護庁であるEPAをはじめとして、今回の大統領令に基づいて、実際に法整備が進められるものとも考えられますので、
特に今後は、そのEPAなどの関連省庁がその50%の電気自動車化に向けて、どのような政策パッケージを提案してくるのかに注目していかなければならないと思います。
ハイブリッド車はEVではありません
そして、今回バイデン政権側が定義している電気自動車にはいくつか種類が存在しているという点であり、
まずは、日産リーフやテスラのような、搭載された大容量のバッテリーに充電して貯められた電力のみで走行する完全な電気自動車が存在し、
こちらがまさに、皆さんが電気自動車と聞いて想像する車種であると思いますが、
その完全電気自動車に搭載されているバッテリーとともに、ガソリンエンジンも搭載し、両方を併用することで走行するプラグインハイブリッド車、
さらには水素を使って電気を生成し、その電気によってモーター走行する水素燃料電池車も、今回のバイデン政権が定義している電気自動車に含まれているのです。
ただし、今回の電気自動車の定義の中には、ハイブリッド車は含まれていないという点が、
特にそのハイブリッド車を得意とする、我々日本メーカー勢にとってはかなりショッキングな内容であり、
しかもこれに近しい決定というのは、ちょうど先月である7月中にEU、ヨーロッパ連合が提案してきた、
そのEU全土において、2035年までにハイブリッド車やプラグ新ハイブリッド車を全て含めた、内燃機関車の販売を完全禁止にし、
完全電気自動車や水素燃料電池車という、走行中にCO2を一切排出しないゼロエミッションカーのみの発売とするという提案と、非常に似通った内容でもあるのです。
CO2排出量のポテンシャルが全く異なる
よってこのことを取り上げて、今回のバイデン政権の決定というのは、そのEUと全く同様に、
その強豪となってしまっている、日本メーカー外しの流れの一環であるのだー、であったり、
ハイブリッド車であっても、バッテリー製造時などから見たCO2排出量に大差はないだろー、という主張が散見されるのですが、
個人的にはこの見方は浅いと考えていて、
というのも、そもそも今回のバイデン政権が定義してきた電気自動車と、日本メーカーが得意としているハイブリッド車との明確、かつ本質的な違いというのは、
外部電力を使って充電することができるのかという点であり、本チャンネルにおいては一貫して主張し続けていることではありますが、
そもそも2021年現時点において、我々日本市場を含むほとんどの地域において、
ハイブリッド車を含む内燃機関車と比較して、電気自動車の方が、トータルで見たCO2排出量が少ないというレポートは、世界では常識的な見方となってはいますが、
現時点におけるCO2排出量の差など、その電気自動車の持つ真のポテンシャルの序章に過ぎない、ということが重要なのです。
そして、そのCO2排出量削減における電気自動車の持つ真のポテンシャルというのは、外部電力を使って充電することができる、
つまり、発電所などのグリッドで生成された電力を使用することができるという点であり、これはどういうことなのかというと、
そもそもハイブリッド車については、ガソリンを燃焼して、そのエネルギーを利用してモーターを回す、
つまり、電気というのはあくまで補助的な役割に留まり、もちろん外部電力を使って充電することができないのですが、
一方完全な電気自動車というのは、自宅のコンセントからでも充電を行うことができ、その電気は発電所で発電されている、
よって、その発電所で生成される電力が、現在日本を含め、世界的に普及が加速している再生可能エネルギー由来の電力に切り替われば切り替わるほど、
その電気自動車に充電される電力が、より再エネ由来となる、
つまり、よりクリーンに走行することができるようになり、
したがって電気自動車というのは、その生涯にわたって排出されるトータルのCO2排出量が、年々加速度的に減っていくわけなのです。
もちろん比較するに値しない点ではありますが、ハイブリッド車については外部電力を充電することができない、
つまり、そのような世界的に導入が加速する再生可能エネルギーの発電方法へのスイッチの恩恵をほとんど受けることができない、
要するに、この脱炭素化というグローバルの目標において、電気自動車の持つCO2排出量削減のポテンシャルに敵う訳が無い、
その本質を欧州やアメリカ、そして中国という先進諸国は理解しているからこそ、
現在電気自動車への投資を加速させながら、実際にその電気自動車の販売台数が増えている状況である、ということなのです。
プラグインハイブリッド車は過渡期的にはEVとしてアリ
ちなみに、ガソリンエンジンも搭載しているプラグインハイブリッド車も電気自動車というカテゴリーというのは、流石にポジショントークであるだろという反論なのですが、
こちらも完全電気自動車と全く同様に、一定程度のバッテリー容量を搭載し、
そして最も重要なポイントというのが、ハイブリッド車とは異なり、外部電力を充電して走行することができるという意味において、
一日数十キロの通勤や買い物というような、日常使いの市場用途としてであれば、そのガソリンを使用せず、電気のみで走行することができますので、
特にその電気のみの運用を体感することによって、その次の乗り換え時に、完全電気自動車への乗り換えを促進することができるという点も相まって、
個人的には、この過渡期的な車種として、プラグインハイブリッド車というのも、有用な選択肢の1つになり得ると思いますし、
実際問題として、バイデン政権がこのプラグインハイブリッド車を電気自動車と定義してきたという点は、一定程度合理的な定義づけである、
したがって今後も本チャンネルにおいては、完全電気自動車とプラグインハイブリッド車の両方を、電気自動車として定義していく考えを確固とすることができました。
EV購入補助金は最大138万円へ!
次に、今回のバイデン政権が発表してきた電動化戦略において注意しなければならないポイントというのが、
まずその具体的な施策として、公共のインフラとして初めてとなる、電気自動車用の急速充電ネットワークを構築し、その充電器の数が合計して50万基を計画し、
その電気自動車の購入を促進するために、その購入者に対してインセンティブを提供し、
さらに、電気自動車生産のためのサプライチェーンの、アメリカ国内における完結を目指すために、それに必要な設備投資の補助など、様々な施策を提供するとしていますが、
特に注目に値するのが、その電気自動車購入に対するインセンティブであり、そもそも今回のバイデン政権の大統領令のタイトルというのが、
エコカーとしての電気自動車にフォーカスしているのではなく、電気自動車におけるアメリカのリーダーシップを取り戻すための大統領令であるということなのです。
つまりどういうことなのかというと、
そのアメリカのリーダーシップを取り戻すためにも、アメリカ国内で生産された電気自動車に対して、より大幅な税制優遇措置が適用されるという点であり、
特に現在議会に提出されている法案の中身が、現状の7500ドル、日本円にして82万円弱という税額控除の金額は変えずに、
さらにアメリカ国内の工場において、アメリカ国内でサプライチェーンを構築しているメーカーの電気自動車に対しては、
さらに2500ドルを追加した、合計10000ドル、日本円で110万円もの税額控除を適用することができるようになるのです。
さらにその上、アメリカ国内で生産されるという条件に追加して、
アメリカの大手自動車メーカーが参画している、全米自動車労働組合であるUAWに所属している従業員によって生産された場合、
さらに2500ドルも追加した、合計12500ドル、日本円にしてなんと138万円もの税額控除を適用することができる公算ともなっています。
アリアとモデル3が331万円から買えます
したがって、例えば全米で最も人気の車両に君臨しているフルサイズピックアップトラックであるF-150の電気自動車バージョンであり、
来年である2022年の春から生産がスタートするF-150 Lightningが、39974ドルですが、
そのF-150 Lightningを生産するアメリカのフォードに関してはUAWに所属していますので、
したがって、マックスの12500ドルを適用した27474ドル、日本円にして驚愕の303万円から購入することができてしまいますので、
もはや内燃機関車バージョンのF-150を購入するよりも安く済んでしまうほどの、圧倒的な価格競争力を発揮することができます。
また、現在は税額控除の適用対象外となってしまっているテスラについても、この新たな税制優遇案が可決された場合、その対象範囲内に戻り、
テスラはUAWに所属してはいないものの、アメリカ国内の向上においてサプライチェーンを構築していますので、10000ドルもの控除を適用可能、
したがって、テスラの最もエントリーモデルであるモデル3のスタンダードレンジ+グレードが39990ドルですが、
こちらに10000ドルもの税額控除を適用すると実質29990ドル、日本円にして331万円から購入することができてしまいますので、
すでに現状でも慢性的な品薄状態が発生してしまっているテスラ車の需要が、今後爆発的に増える可能性すら秘めているのです。
また、日産についても例を挙げると、
まずはこの直近において大幅値下げを断行してきたリーフについては、UAWに所属はしていないものの、アメリカ国内の工場で現地生産していますので、
最大10000ドルもの税額控除を適用可能、
したがって、アメリカ国内において日産リーフを17400ドル、日本円にして衝撃の192万円から購入することができてしまいますので、
もうこれであれば、そのアメリカ国内においてセカンドカー的な運用方法としてでしか購入することができなかったとしても、かなりの需要を見込むことができそうです。
さらに、日産が2022年度中に納車をスタートさせるとしているフラグシップクロスオーバーEVであるアリアについても、
アメリカ国内においては40000ドルからのスタートと公式にアナウンスされていますので、
したがって、税額控除を適用してジャスト30000ドル、日本円にしておよそ331万円から購入することができるとイメージしていただければ、
プレミアムセグメントの車種でありながら、大衆車セグメントを購入するようなユーザーにも訴求することができるような、
圧倒的な価格競争力を達成することができてくるのではないでしょうか?
日産とホンダは電動化率を上方修正
そして、今回のバイデン政権側の大統領令の発表に合わせて、それに対する日本メーカーから公式のアナウンスも発表されており、
特に具体的な数値目標を発表してきたのが日産となっていて、
その日産に関しては、北米市場において2030年までに発売する全ての新車のうち、40%を完全な電気自動車にするとアナウンスしてきましたので、
確かに今回のバイデン政権側の目標値でもある電気自動車50%という数値には届いていないものの、
この日産については、プラグインハイブリッド車や水素燃料電池車を含めずに、完全電気自動車のみで40%を達成してくるということ、
また、今年である2021年度の秋にも、日産の中長期的な電動化戦略の詳細を発表する予定であり、
こちらの発表においては、今回の大統領令を含めて、その40%という数値を上方修正してくる可能性は十分考えられますので、
その秋に発表する電動化戦略においては、こちらの北米市場の完全電気自動車率40%という数値を、どのように修正してくるのかも、
その日産の本気度を占う一つの指標となってくるのかもしれません。
またホンダに関しても、今年の4月時点で、2030年までの北米市場の完全電気自動車と水素燃料電池車の販売割合を40%にまで高めるとしていましたが、
今回の大統領令を受けて、その比率を40~50%と上方修正に含みを持たせてきましたので、
このホンダについても、今後の最新の電動化戦略についてはアップデートされ次第取り上げていきたいとは思います。
トヨタは電動化率の上方修正は行わず
ただし、日本最大のトヨタに関しては、
トヨタが私たちの役割を果たすことを期待でき、これは環境にGreatでありながら、米国内の従業員、ディーラー、サプライヤー、その他の利害関係者の43万6000人のアメリカ人の仕事を保護するのに役立ちます
とコメントしながら、
すでに最新の電動化戦略である、2030年までに北米市場において、完全EVと水素燃料電池車の割合15%という数値を、上方修正してくることはありませんでした。
ちなみに、トヨタに関してはアメリカ国内において、完全電気自動車一辺倒の電動化戦略を否定し、
特に自社が得意なハイブリッド車を推進した方が環境にいい場合も多分に存在するという主張を続け、
そのロビー活動を精力的に行なっていることは、世界では有名でありますが、
そのロビー活動も虚しく、残念ながらハイブリッド車については、今後の税制優遇措置であったり、様々な恩恵を受けることはできなくなりましたので、
果たしてこのような政治的な決断が行われてしまった以上、
トヨタが北米市場においても、電気自動車を中心とする電動化戦略に舵を切ってくるのか、
それとも、今回のように電気自動車をGreatと表では賞賛しながらも、裏では電気自動車はエコではないしサステナブルではないという主張を続けていくのか、
例えば東京オリンピックにおける広告見合わせをはじめとして、その判断の速さ、うまく空気を読む力に優れているトヨタであれば、
流石に電気自動車を中心戦略に舵を切ってくると期待はしていますが、
こちらの北米市場における動向には、最も注目していかなければならないとは感じました。
日本メーカーの電動化戦略の大幅修正は必死
何れにしてもこのように、バイデン政権による、電気自動車に対するアグレッシブな戦略を盛り込んだ大統領令によって、
現在数%という電気自動車の販売割合が、中国に追いつくために今後加速度をつけて上昇し、
電気自動車という新たなフィールドにおいても、そのリーダーシップを発揮しようとする姿勢を鮮明にしましたので、
特に、そのアメリカ市場の販売割合が極めて多い、つまりそのアメリカ市場に依存している我々日本メーカー勢が
どのように対応しているのか、
特に競合メーカーが一気に電動化に舵を切ってしまっている状況においては、そのスピード感が間違いなくそのメーカーの将来を左右しますので、
この電動化の流れを読んで、電動化戦略をスピーディーにアジャストさせることができるのかに注目していきたいと思います。
From: White House、Nissan、Honda
Author: EVネイティブ