【EVは簡単に作れる?それ無理です】 日産が「EVは容易に大量生産できる」という懐疑論を一蹴

日産

日産のトップである内田CEO、およびEV技術開発トップである平井専務執行役員に対するインタビューが立て続けに公表され、

特に日産の10年以上にも及ぶ電気自動車の知見を生かし、最終的な完全電気自動車時代に向けて、今後その電動化戦略をさらに加速させる方針を鮮明にしながら、

その日産のEVである現行型リーフの驚異のバッテリー劣化率の抑制についても紹介しつつ、

やはりなぜ電気自動車を簡単に作ることが難しいのかを徹底的に解説します。

リーフから10年経ち、日産の次世代EVはアリアへ

まず今回の日産に関してですが、2010年の12月に世界初の本格量産電気自動車であるリーフを発売し、

2021年現時点までにおいて、50万台以上の販売台数を達成しながら、

その当時のトップであったカルロスゴーンのタグ稀なる先見性のおかげもあってか、

電気自動車の大量生産においてマストとなる、リチウムイオンバッテリーの生産工場も2010年から運用をスタートし、

その当時日産以外には、自動車メーカーがで大規模なバッテリー生産工場を所有することなどあり得ないという風潮でしたので、

何れにしても、まさに名実ともに電気自動車のパイオニアとして世界の電動化をリードしてきたのです。

Nissan Leaf

しかしながら、そのリーフの後が続かず、肝心のカルロスゴーンも日産から追放されてしまいましたので、

そのリーフの販売台数の凋落とともに、日産の電気自動車としての優位性も年々没落してしまっていたわけだったのですが、

その日産がついに新型電気自動車であるクロスオーバーEVのアリアを発表し、

ようやく今年である2021年の10月ごろから正式な発売がスタート、そして来年である2022年の初頭には、実際の納車もスタートするなど、

いよいよその実際の発売が迫ってきていますし、

何よりも、満充電あたりの航続距離も、高速道路を時速100kmでクーラーをつけても達成可能であるというような、実用使いにおいて最も信用に値するEPAサイクルにおいて、最長483kmを達成するなど、

その電気自動車としての質はもちろんのこと、先進的かつ実用的なインテリアのデザイン性であったりなど、

やはり電気自動車のパイオニアとして、世界に通用する電気自動車をようやく発売してきたことには非常に感心しますし、

グローバル、特に電気自動車戦争が勃発しているヨーロッパ市場において、どれだけの販売台数を達成することができるのかに、非常に注目している状況でもあります。

Nissan Ariya

さらに日産に関しては、そのヨーロッパ市場であるイギリス市場において、

もともとサンダーランドに位置する車両生産工場のすぐ横に、最大35GWh、電気自動車に換算して40-50万台分という大規模なバッテリー生産工場を、

中国のエンビジョングループと建設することも表明していますが、以前から再三解説している通り、

ただ電気自動車に本気を出すと言ってみても、肝心のバッテリーを大量に確保することができる供給体制を確保できているのかがポイントであり、

やはりそのバッテリーの質の最適化であったり、

コストという観点において、自社でバッテリー生産工場を建設することはもやは業界のスタンダードとなりつつあり、

さらに現在激しさを増すバッテリー調達戦争においては、そのバッテリーの原材料の獲得戦争すらも同時並行で勃発していますので、

何れにしてもそのような意味において、やはり今回の日産は、その電気自動車戦争に本格的に参戦することを表明している、ということなのです。

軽自動車EVとクロスオーバーEVの投入も

ちなみにですが、リーフとアリアという2種類の電気自動車を市場に投入した後は、

さらに日本市場限定で、Imkという軽自動車セグメントのコンセプトモデルをベースにした電気自動車を、

一部報道によれば、来年である2022年の4月ごろから生産をスタートしながら、その2022年度の初頭には、実際の発売がスタートするとアナウンスされています。

日産の軽EVは2022年度初頭に発売決定

また、先ほどのバッテリー生産工場を併設するイギリスのサンダーランド工場においては、アリアと似た、

個人的な推測としては、アリアよりも少し小さいセグメントとして、新型クロスオーバーEVを発売することも発表し、

こちらに関しては、イギリスをはじめとするヨーロッパ市場専用のモデルではなく、グローバルに展開する完全な電気自動車とアナウンスされ、

しかもアリアと同様に、CMF-EVプラットフォームという電気自動車専用のプラットフォームも採用しているため、

その電気自動車としての質も、非常に期待することができるのです。

日産は完全電気自動車とe-POWERの二軸

このようにして、電気自動車のパイオニアであった日産が、現在の経営危機を脱出しながら、それと同時並行で電気自動車に舵を切ってきているという、

日本市場においてかなりの朗報に聞こえていたのですが、

そのような背景において、今回新たに明らかとなってきていることというのが、東洋経済というメディアがこの直近において、

日産のトップである内田CEOであったり、日産の電動化戦略を取りまとめるトップである、平井専務取締役などに独占インタビューを行ってきたということで、

そこでの発言内容が、果たして本当に、電気自動車への本気の姿勢が示されているのかを判断する良い指標となり得ますので、

今回はその電気自動車に対する本気度を占うためにも、こちらのインタビュー内容の中で、特に注目に値するポイントをピックアップしていきたいと思います。

内田CEO

まずはじめに、内田社長に対するインタビュー内容なのですが、

やはり日産に関しては、完全電気自動車とe-POWERというシリーズハイブリッド車の2つの柱で、グローバルの電動化を進めていく方針であることを改めて強調しているという点であり、

そして、その電動化への対応スピードが各国で異なるという理由から、

今後はグローバルで同一の車種を展開していくのではなく、そのマーケット別に新型車を投入するという戦略に移行するという点です。

したがって、やはり今後は特にヨーロッパ市場や中国市場などの、電気自動車の販売台数が急増している地域においては、

よりリーフやアリアなどの、完全電気自動車を中心にラインナップを進め、

逆に、あらゆる面において電気自動車発展途上国である日本市場においては、

電気自動車よりも、現在販売台数が好調なe-POWER搭載車両のラインナップを拡充してくる考えであると推測することができますが、

やはりこの割合が、結局は内燃機関者と全く同じであるe-POWERが多ければ、

電気自動車生産におけるスケールメリットを生かせずに、それに付随する投資も中途半端に終わる可能性があり、

その意味において、最近まではその日産の電動化戦略に懸念を抱いてはいたのです。

日産は完全電気自動車に最も積極的です

しかしながら、日産側の決算発表の資料において追加で明らかとなってきているのが、

その完全電気自動車とe-POWER搭載車両の販売割合をどのように考えているのかという点であり、

すでにアナウンスされている、2030年代早期には、欧米中国、そして日本市場という主要マーケットにおいて発売する全ての新車を、

電動車、つまり完全電気自動車とe-POWERのみにするという方針を示してはいたのですが、

このグラフから、おおよその内訳が見て取れ、その2030年代早期では、e-POWERの割合は30%程度にとどまり、

やはり完全な電気自動車が、そのシェアの70%程度を占めているのではないかと考えている、ということになるのです。

すると、様々なメーカーが中期電動化戦略において一つの目安としている、2030年までの電動化比率を推測してみると、

おそらく完全電気自動車の比率は、グローバルで50%程度に達しているのではないか、

つまりこの数値というのは、ホンダの目標値である2030年グローバルで40%という数値や、

トヨタの2030年、グローバルで20%程度という比率と比較しても、頭一つ抜けている目標数値を掲げていることになりますので、

このように推測してみると、

やはり日産が、今後も日本メーカーの中では電気自動車をリードしていこうという考えが、見えてくるのではないでしょうか?

EVの普及にはバッテリーコストをいかに下げるかが鍵

また、電気自動車において3割ほどの原価を占める、リチウムイオンバッテリーのコストをいかに下げるかという点について、内田社長は、

当社は(コスト低減が期待できる)全固体電池や(希少金属のコバルトを使わない)コバルトフリーの電池も研究しており、コスト競争力を高めなければならない

と発言していて、

まず、コバルトフリーのバッテリーに関しては、私自身も所有しているテスラモデル3のスタンダードレンジ+グレードに採用されている、LFPバッテリーがいい例で、

やはりエントリーグレードとして、いかにコストを下げるかが重要であり、

したがって、日産についても、特に今後発売される軽自動車セグメントの電気自動車であったり、

ノートクラスのサイズ感の電気自動車をリーズナブルに提供していくためには、

やはり、より安価なコバルトフリーバッテリー、おそらくLFP系のバッテリーを採用してくるのではないかと推測することができます。

ちなみに、以前トヨタとパナソニックの合弁バッテリー事業を手がけるプライムプラネットエナジ&ソリューションズ、PPESについては、

このLFPバッテリーの開発は行わないと断言していますので、

このバッテリー開発の考え方の違いも、今後の電気自動車戦略の違いとして明確に現れてくるでしょう。

ただし、全固体電池がコスト低減を期待することができるという点ですが、個人的にはこの見方には賛同できず、

やはり全固体電池に関しては、

アライアンスを組んでいるルノーの電動化のロードマップを見る限り、2030年を目処に、実際にEVに搭載してくると考えられ、

その時点では、いまだに高価なバッテリーにとどまっているという点、

そして現行の液系のリチウムイオンバッテリーのコストは、1kWhあたり100ドルという数値を大きく下回り、

テスラやフォルクスワーゲンは60ドル程度にまで低減することができる、

つまり、その価格競争力という観点で勝負になっていませんので、

2030年以降の長期的なバッテリーのロードマップであれば、そのような見方も可能かとは思いますが、

やはりこの10年というタイムスパンで見た場合、

全固体電池は、既存の液系リチウムイオンバッテリーと比較して、コスト低減を期待することはできない、ということですね。

ルノーは全固体電池の量産は2030年以降と予測

さらにもう一点、内田社長から、

7月末で発表する第一四半期の決算発表でよい方向を打ち出せれば、長期ビジョンや、電動化戦略の下で日産がどこに向かうのかを秋にも示せるようにしたい。

という発言があり、

つまり、例えばホンダが2040年までに、新車販売において内燃機関車を完全撤廃するであったりなど、

そのような大きな電動化のビジョンを示してくるのではないか、

その時期というのが、第二四半期の決算発表、つまり10月末あたりなのではないかと推測することができますので、

特に現状の日産の電動化に対する姿勢を評価するためにも、

10月末付近に実施される決算発表には特に注目しなければならない、ということですね。

EVは簡単に作れる?じゃあ、やってごらん?

次に、その日産の電動化戦略を取りまとめる、平井専務執行役員のインタビューについても、同様にいくつか重要なポイントをピックアップしていきたいのですが、

10年間やってみないとわからないことがある。「EVはすぐ(開発)できる」と言っている人たちがたくさんいるが、「やってごらん」という感じだ。

という部分ですが、

まさにこちらは、私をも超えるような煽りの名人に認定したいと思いますが、

しかしながら、ただ煽っているのではなく、これは非常に重要な意見であり、

特に平井専務は続けて、

電池の劣化についても、モニターをしながら顧客がどういう使い方をすると劣化しやすいかといったデータを、グローバルで集めてきた。

これは劣化を抑えるための制御技術の部分でも大きな成果で、長持ちする電池の開発に役立つ、大きなアセットだ。

とも説明しているのです。

平井専務取締役

実は初期型の日産リーフに関しては、そのバッテリー劣化率が激しく、したがって、そのリセールも非常に悪くなってしまい、

現在電気自動車はバッテリーが劣化するから使い物にならないのだー、という意見が散見されるのですが、

実は私自身も所有している現行型のリーフの場合、初期型のリーフからバッテリーの種類を変更したり、急速充電の出力をうまく調整することによって、

バッテリー温度を最適に管理することのできない空冷式のバッテリーであるのにも関わらず、そのバッテリー劣化率を大幅に抑制することに成功し、

例えばこちらの現行型リーフに関しては、17万7000km走行した後でも、今だにバッテリーのセグメントがマックスの状態を維持している、

つまり、そのバッテリー劣化率が15%未満であるということが示唆されているのです。

現行型リーフのバッテリー劣化率は最小限に維持

ちなみに、強制水冷機構を採用し、常にバッテリー温度を最適に管理することができるテスラ車の場合、

17万7000km走行した場合は、概ね8%ほど劣化していますので、

このように考えると、強制水冷機構を採用していないのにも関わらず、そのバッテリー劣化率を最小限に留めることができている、

故に、やはり日産のバッテリーに対する知見は、この10年間で相当蓄積することができていることになりますので、

もちろん間も無く発売されるアリアについても、強制水冷機構を搭載し、

極めてバッテリー劣化を抑えることが可能な、質の高い電気自動車に仕上がっていると推測することができるのです。

日産リーフは世界で最も安全な電気自動車

また、リーフに関しては、そのようなバッテリー劣化率を抑えるだけでなく、その安全性についても徹底的に追求し、

すでにグローバルで50万台以上ものリーフを発売しながら、今だにバッテリーからの自然発火事故が発生していないという点は、

もはや賞賛に値するという表現以外見つけることができず、

同じように電気自動車のパイオニアであるテスラであったり、北米市場では一定の販売台数を達成しているシボレーBolt、

さらにはヨーロッパ市場においてかなり人気な韓国ヒョンデの電気自動車など、例外なく全て発火案件が複数報告されており、

何れにしても、電気自動車におけるコアテクであるリチウムイオンバッテリーに対する知見、

特に電気自動車に搭載する車載用という仕様用途として、非常に優れたノウハウを蓄積することができていると考えられますので、

メーカー名は伏せますが、よく電気自動車楽観論を口にしているメーカーよりも、

その日産が、「何度も言うが「EVはすぐできる」というのは無理だと思う」と断言しきっているという点、

果たして一体どちらが信用に値するのか、一見して明らかであると感じるのは私だけでしょうか?

水素とe-fuelは、将来の主役にはなれない

ただし、一点注意しなければならない発言というのが、特に水素燃料電池車と合成燃料e-fuelに対する見解となっていて、

まず水素燃料電池については、研究開発を続けているとはしていますが、

日産としてその水素燃料電池を採用した車両をラインナップするのかは不透明であるとし、

実際に、そのほかのメディアでの取材内容においては、水素燃料電池車は主流とはなり得ないので、

やはり内田社長の説明通り、電気自動車とe-POWERの二本柱で電動化を進めることは間違い無いと思います。

また、合成燃料e-fuelについても、

eパワーの燃料にeフューエルを用いると、完璧なカーボンニュートラルになる

と説明してはいるのですが、

こちらについては、その燃料を、今後さらに加速度をつけて減少しているガソリンスタンドで補給しなければならず、利便性の面で明らかに劣るという点、

そして最も重要なのが、このe-fuelについては、圧倒的に高価であり、どう考えても10年以上はそのコストが下がる余地がないということ、

これらの理由から、やはりe-fuelは脱炭素化の中心になることはないのです。

ただし、それではなぜ日産がこのe-fuelの開発を続けているのか、それはほぼ間違いなく、GT-R用の、CO2を排出しない合成燃料となりそうであり、

仮にそうであれば、GT-Rというのは日産のブランドイメージにも直結するフラグシップモデルですので、

日産のブランド戦略的にも、別に合理的にも聞こえますが、

繰り返しとはなりますが、一部メディアが、e-fuelこそがゲームチェンジャーであるかのごとく吹聴するのは、明らかに事実誤認であり、

もちろん日産としても、GT-Rなどをはじめとするごく限られた、超高級エンジン車を残すための、ニッチな開発の継続であることは間違い無いでしょう。

2021 GT-R Nismo

このように、日産の経営層の電動化に対する考え方を概観してきましたが、

結論から申し上げて、やはり日産こそが、日本メーカーの中で最も電気自動車に対して正しい考え方を持ち合わせていることを確信することができましたし、

これをいうと、お前は日産が好きなだけだろー、というクソリプが飛び交いますが、

実際に日産がリーフを発売してから10年間で残してきた、様々な電気自動車の技術を冷静に見てみれば、

やはりどちらが冷静に、現状の世界の電動化状況、

そして日本エーカーの電動化戦略を把握することができていないのかが、はっきりするかとは思います。

何れにしても、間も無く発売がスタートするアリアをはじめ、今後日産がラインナップしてくる電気自動車の質であったり、

また、10月中にも開催される予定である、日産の第二四半期の決算発表時において、

一体どのような長期的な電動化のビジョンを発表してくるのかという最新情報についても、非常に期待しながら注目していきたいと思います。

From: 東洋経済プラス(内田社長)東洋経済プラス(平井専務)

Author: EVネイティブ