【日本メーカーは生き延びることができるのか?】 ヨーロッパ連合がハイブリッド車の販売禁止を表明

ヨーロッパ

ヨーロッパ連合が、2035年までにハイブリッド車を含む全ての内燃機関車の販売を禁止とする包括案を正式に提案し、

今後もハイブリッド車の販売を当面継続させる考えであった日本メーカー、特に日本最大の自動車メーカーは、今後の電動化戦略の見直しを迫られているのではないかという日本メーカーの今後の対応についてを、

そして、なぜハイブリッド車と電気自動車が共存するという電動化の未来が、絶対に訪れることがないのかに関して徹底的に解説します。

EV先進諸国の集結するヨーロッパ連合(EU)

まず今回のヨーロッパ連合に関してですが、もともとも加盟国でもあったイギリスが、そのEUから離脱するというブレクジットで一時期話題ともなっていて、

現在ではドイツやフランス、スペインなどを中心として、27カ国が加盟し、

その経済圏の総人口は、2020年時点において、なんと4億5000万人程度という、

日本のおよそ4倍、しかもアメリカ市場の1.5倍程度という、世界の中心的なマーケットとして存在感を放っているのです。

現在はイギリスが脱退し27カ国に

そして、そのEU加盟国をはじめとする多くのヨーロッパ諸国は、電気自動車の普及において積極的な姿勢を見せていて、

特に先進諸国を中心に、すでに多くの国が内燃機関車の販売禁止を表明し、

EUには所属してはいないものの、例えば現在電気自動車最先進国でもある北欧のノルウェー市場に関しては、

2025年まで、つまりあとたったの4年後には、ガソリン車やディーゼル車、そして我々日本メーカーが得意なハイブリッド車も含む、

すべての内燃機関車の販売を禁止するという大方針を示していたりします。

ノルウェーではすでに新車の10台に8.5台がEVに

しかしながら、例えばフランス市場に関しては、2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売禁止を表明してはいたのですが、

電動車でありながら、ガソリンエンジンを搭載し、ガソリンを燃やして走行するという意味において、ただ燃費性能を改善しているだけで、

本質的には既存のガソリン車などと全く変わらない、日本メーカーの得意としているハイブリッド車は、その禁止対象から除外されていたりと、

各国で足並みが揃っていなかったという現状も存在していたのです。

2035年からEUでは内燃機関車を購入できなくなります

しかしながらここにきて、直近でも解説していたように、そのEUの欧州委員会が、今後の気候変動対策において現状よりも相当厳しい環境対策、

特に自動車部門におけるCO2排出量を、さらに厳しく絞ってくるのではないかという報道が飛び出し、

特に、今から9年後である2030年までに、新車から排出されるCO2排出量を、今までの37.5%削減という目標数値から大幅に上方修正し、

なんと65%削減という非常に挑戦的なCO2削減目標を掲げながら、

さらにEU域内全体で、2035年までに新車販売における内燃機関車の販売を完全禁止にするという方針も取りまとめてきているのではないか、という内容の報道でした。

そして、そのような報道を含む一連の環境規制の流れの中において、今回新たに明らかになってきたことというのが、

その事前の報道の通り、やはり欧州委員会が、今後の環境規制をより厳しくすることを盛り込んだ、温室効果ガスの大幅削減の包括案を公表してきたということで、

特に自動車という観点では、まずは先ほど紹介した、2030年までの新車から排出されるCO2排出量を2021年現時点から比較して、55%削減するという、

事前の報道ベースの数値であった65%よりもやや低い数値に落ち着いた形とはなりましたが、

それでも従来の削減目標であった37.5%と比較してみても、さらに厳しい制約を課してきたことになると思います。

また、その5年後である2035年までには、その新車から排出されるCO2排出量を、2021年現時点から見て100%削減を達成、

したがって、事前の報道において最もインパクトの大きかった、2035年までにハイブリッド車を含む全ての内燃機関車を、新車として発売することを事実上完全に禁止するという大方針が、

正式に公表されたことにもなるのです。

From: European Commission

ちなみに、今回欧州委員会が事実上の禁止を表明してきている内燃機関車にの定義に関してですが、

既存のガソリン車やディーゼル車、そして日本メーカーが得意としているハイブリッド車はもちろんのこと、

本チャンネルにおいては電気自動車の1種類として定義し、

バッテリーとガソリンエンジンを搭載し、両方を併用して走行することができるプラグインハイブリッド車についても、事実上の完全禁止の対象に該当してしまい、

つまり2035年以降に、EU域内において自動車の新車を購入しようとした場合、

その選択肢は、日産リーフやテスラのような、搭載された大容量のバッテリーに充電して貯められた電力のみで走行する、完全な電気自動車

もしくは、現在トヨタやヒュンダイグループなど、一部の自動車メーカーが開発を続けている、トヨタのミライなどをはじめとする水素燃料電池車という、

走行中にCO2を一切排出することのないゼロエミッションカーしか選択肢がなくなる、ということを意味するのです。

2035年からEU域内で購入できるのは事実上BEVとFCEVのみへ

世界の先進国は電気自動車に舵を切る

そして、このような内燃機関車の販売禁止を表明しているマーケットというのは、何も現在電気自動車が急増し、環境意識の高いEUだけではなく、

例えばそのEUを直近で離脱したイギリス市場に関しても、まずは2030年までに、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止しながら、

さらに2035年までには、これまた日本メーカーの得意としているハイブリッド車の販売も禁止していくという、ゼロエミッションカーへの移行を推進しています。

日産のサンダーランド工場を視察するジョンソン英首相

さらに、現在ぶっちぎりで世界最大の自動車大国である中国市場に関しても、2035年までには、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を完全に禁止し、

しかもその上、2035年からは、完全な電気自動車や水素燃料電池車という、ゼロエミッションカーの販売割合を50%にまで引き上げ

残りの半分をハイブリッド車などの省エネルギー車にするという大方針も発表しているのです。

From: 東洋経済オンライン

また、その世界最大の自動車大国である中国市場に続く自動車大国であるアメリカ市場についても、今年である2021年から新たに大統領に就任したバイデン政権に関しては、

電気自動車購入に対して、現状と比較してもさらに大規模な補助金を適用させる方針であったり、

アメリカ全土に充電器を50万基設置していく方針を示したり、

さらにその電気自動車を大量に生産する上でマストとなる、大容量のリチウムイオンバッテリーを大量に生産するために、そのバッテリー生産工場

また、そのバッテリー製造に必要な原材料に至るまでのサプライチェーンを、アメリカ国内で完結させるための設備投資に対しても、

大規模な減税措置を適用する方針であったりと、電気自動車に対して莫大な投資を発表しながら、

すでにカリフォルニア州を始め、ワシントン、ニューヨーク、そしてマサチューセッツなど、

次々と、2030年から2035年までをめどに、ハイブリッド車を含む全ての内燃機関車の販売禁止を表明し始めてもいるわけなのです。

フォードのEV研究センターで演説するバイデン米大統領

EVをクリーンディーゼル車と同列に扱うな

したがって、よく電気自動車推進に対して懐疑的な方が使用するロジックとして、

ヨーロッパというのは、以前もクリーンディーゼル車というカテゴリーを作り出して推進しようとしていたが、それは失敗に終わったので、

今回も同じように失敗するだけであるという主張というのは、残念ながら今回の電気自動車戦争には当てはまらず

すでにこのように、ヨーロッパだけでなく、世界の主要マーケットが例外なく電気自動車に完全に舵を切ってしまっていますし、

それと同時に、その各国の動きに同調する形で、世界の主要自動車メーカーも、特に完全電気自動車に対して一気に舵を切ってきてもいる状況ですので、

今回の電気自動車戦争というのは、たった人口4億5000万のヨーロッパ市場だけにとどまらず、

自動車大国であるアメリカ市場、そして中国市場も参戦する、まさに電気自動車世界大戦の様相を呈してきている、ということですね。

電気自動車とハイブリッド車は共存できません

ちなみにですが、ここまでの説明に対する反論として、

中国市場、そして我々日本市場に関しては、当面の間ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も発売する方針であるから、電気自動車一辺倒である必要はないという類の主張なのですが、

実はそのハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を強力に推進していくということは、その電気自動車の推進をさらに推し進めることにつながるという点が重要であり、

こちらはこの直近の20年間における、日本国内のガソリンスタンドの設置数の増減を示したグラフなのですが、1990年代後半をピークに、急激にその数が減少してもいて、

現在は、そのピーク数の半分以下である3万件を割り込んでしまってもいるという現状であるのです。

そして、こちらの1990年代後半というターニングポイントというのは、ちょうどトヨタが世界初の量産ハイブリッド車であったプリウスを発売し始めた時期と重なり、

つまり、その燃費性能をより高めたハイブリッド車の増加によって、

それに反比例する形で、そのガソリンを補給するインフラであるガソリンスタンドの数が減少しているということが見て取れ、

その弊害として、すでに過疎地域においては、最寄りもガソリンスタンドまで数十キロも離れているため、ガソリン補給のためだけに、わざわざ数十キロの往復をしなければならないなど、

その内燃機関車の利便性が低下し始めてもいるのです。

初代プリウス

よって、そのハイブリッド車の比率を今後さらに高めていく、

ましてや、一日数十キロ程度の日常使いにおいて、充電した電力のみで走行することができてしまうプラグインハイブリッド車をさらに普及させるということは、

ただでさえ通常のガソリン車やディーゼル車の燃費性能が劇的に向上し、

すでにピーク時の半分以下まで減少してしまっているガソリンスタンドという、エネルギー補給のためだけのインフラが、さらに加速度をつけて減少する、

つまり、既存のガソリンエンジンを搭載し、結局はガソリンを補給するためにそのガソリンスタンドを頼らざるを得ない、

ハイブリッド車とプラグインハイブリッド車というのは、ガソリン車などと全く同様に、今後さらに加速度をつけて利便性が低下する、

しかもその推進を促せば促すほど、さらに自分たちの燃料補給に対するインフラの利便性に、首を締めるという負の循環に突入してしまう、

故に中長期的に、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車と、完全な電気自動車が共存するという電動化社会は、インフラという観点からもやってくることはないと、断言することができるのです。

また、特にそのような、すでに燃料補給インフラの過疎地域については、

自宅の充電プラグから充電することができてしまう、電気自動車、

特に搭載された大容量のバッテリーに、充電して貯められた電力のみで走行する完全な電気自動車にシフトしてしまった方が、

ただでさえ利便性が悪いガソリンスタンドに燃料を補給しに行くという煩わしさから完全に解放され、

わざわざガソリンスタンドを、自治体などが維持する必要性がなくなるわけでもあります。

From: 熊本新聞

ホンダは2040年までに内燃機関車を捨てます

それでは、そのような世界で勃発している電気自動車戦争の真っ只中において、我々日本メーカー勢はどのような戦略を表明しているのかというと、

まずホンダに関してですが、

こちらはすでに2040年までに、グローバルで発売する全ての新車を完全な電気自動車、もしくは水素燃料電池車というゼロエミッションカーのみにするという大方針を発表していますので、

確かに今回の、2035年までの、EU域内における内燃機関車の販売禁止というタイムラインには、わずかに及んでいないと思われた方もいるかとは思いますが、

そもそもホンダのマーケット別の販売比率を見て見ると、すでにヨーロッパ市場には大きく注力していないということが見て取れ、

つまりホンダについては、その2035年までの内燃機関車販売の完全終了については、容易に達成することができそうと結論づけられます。

ホンダの欧州比率は極めて少ない
From: 東洋経済オンライン

日本メーカーで最もEV化に積極的な日産

次に日産に関してですが、こちらは2050年までのカーボンニュートラルの達成のために、

2030年台早期には欧米、中国、そして我々日本市場という主要マーケットにおいて、電動車のみの発売にシフトするとしてはいますが、

こちらの電動車というカテゴリーには、現在日産が強みを持っているe-POWERというシリーズハイブリッド車も含まれていて、

なぜか一部のコメントにおいて、シリーズハイブリッド車は既存のハイブリッド車とは違うのだー、というトンチンカンなコメントが散見されるのですが、

ガソリンエンジンを搭載し、ガソリンを使用して走行することには何ら変わりがありませんので、

つまり完全な電気自動車だけでなく、ハイブリッド車も同時に注力していくという姿勢を表明している、

要するに、世界的にはガラパゴス車になりつつあるハイブリッド車を当面推し進めていく、ということなのです。

しかしながら、その電動化戦略について日産の経営層の発言を詳しく精査してみると、

特にその電動化戦略の立案を中心に担当する、専務執行役の平井氏のインタビューにおいて、

特に日産に関しては、水素燃料電池車やプラグインハイブリッド車には注力せずに、

シリーズハイブリッド車であるe-POWERと、リーフやアリアという完全な電気自動車にフォーカスするという選択と集中作戦を実施するという方針を示しながら、

その主要グローバル市場における電動車のシェア率の内訳についても、確かに2025年時点ではe-POWERが主流となりながらも、

2030年ごろでは、そのe-POWERと完全電気自動車のシェア率が拮抗し始め、

そして、2030年以降からは、何と完全電気自動車の販売台数の方がe-POWERを上回っていき、

どこかのタイミングでe-POWERがなくなる、つまり脱内燃機関車を達成するとも説明しています。

From: 日経クロステック

また、過去の日産側の資料を見てみると、その電動車100%を達成する2030年台早期において、

その完全な電気自動車とe-POWERの販売比率は、およそ7:3程度と記載があることからも、

やはり2030年における完全な電気自動車の販売割合は、

主要グローバルマーケットにおいて、およそ半分程度の達成を計画しているものと推測できます。

実は日産のEV化率はかなり挑戦的

よって、今回のEU域内における2035年までの内燃機関車の販売禁止についても、

実は日産については、先ほどのホンダとともに、すでに現状の電動化戦略の中においてでも何とか対応することができそうであると結論づけることができるのです。

2030年においても内燃機関車販売が8割強と予想するトヨタ

しかしながら、主要日本メーカーの中で唯一、そのヨーロッパ市場の電動車の販売台数比率の見通しを示しているトヨタに関しては、

その完全電気自動車と水素燃料電池車というゼロエミッションカーの販売台数の比率を40%としながらも、

グローバルにおけるゼロエミッションカーの販売割合は、10%台に留まるという、

先ほどの、ホンダのグローバルにおけるゼロエミッションカーの比率である40%であったり、日産の50%程度というような比率と比較しても、

明らかに、その比率を低く見積もっているわけなのです。

ここがEVガラパゴスを脱却する最後の分岐点になるかも

このように、今回EU委員会が提案してきた、2035年までに日本メーカーの得意とするハイブリッド車を含めた、すべての内燃機関車の販売を禁止するという衝撃の発表というのは、

確かに電気自動車発展途上国家に住んでいる我々日本人からしてみると、その衝撃は凄まじいと思われる一方で、

すでに中国や欧米各国では、来たる完全電気自動車時代に対応するために莫大な投資を行なっている最中でもあり、

よって、その政府の動きに追随する形で、主要自動車メーカーも揃って完全な電気自動車に一気に舵を切り始めてもいるわけなのです。

そしてそれと同時に、その禁止対象となっているハイブリッド車に強みを持っている日本メーカー勢に関しては、その電動化戦略の見直しが急務であると思われているのですが、

その電動化戦略の中身を詳細に読み解いてみると、ホンダと日産に関しては、現状の電動化戦略の認識においてでも、

そのEU域内の内燃機関車販売の完全禁止にはなんとか対応させることができるのではないかと推測することができました。

しかしながら、日本最大のトヨタについては、そのヨーロッパ市場におけるゼロエミッションカーの発売比率が2030年までで40%という比率であるのと同時に、

今回のEUのアグレッシブな電動化戦略を今後グローバルでも採用するという、追随の動きが活発化してきた場合、

現状のトヨタのグローバルのゼロエミッションカーの販売比率の見通しは、2030年においてでも10%台に留まっていますので、

果たしてこの電動化戦略を継続するのか、

それとも全方位戦略を歌っているトヨタも、今回のEUのアグレッシブな動きを受けて、完全電気自動車を中心とするゼロエミッションカーに舵を切ってくるのか、

豊田トヨタCEO

特にこの日本最大の自動車メーカーでありながら、日本最大の企業、

つまり日本経済を下支えする企業として、この世界の電気自動車世界大戦に本格的に参戦しようとしてくるのか、

こちらのトヨタをはじめとする日本メーカー勢の、今後の電動化戦略のアップデートの動向については、

特に最新情報がわかり次第、情報をアップデートしていきたいと思います。

From: European Commission

Author: EVネイティブ