【トヨタEVの切り札】トヨタの究極形態は全固体バイポーラ電池!? トヨタ新型バイポーラ電池の強みを徹底解説

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トヨタが発表してきた次世代のバッテリー開発について、2021年から採用していたバイポーラ構造を、全固体電池と対をなすバッテリーの中核テクノロジーに位置付けてきた点について、

本チャンネルが考えるトヨタの発表会における最大の注目ポイントであるバイポーラ構造とはなんなのか、競合の電池と比較した強み弱みとともに解説します。

全固体電池と対を成すトヨタの切り札「バイポーラ構造」とは?

最近、トヨタは「テクニカルワークショップ」を開催し、バッテリーEV、水素燃料電池、コネクティッド技術の最新の動向を発表しました。特に、バッテリーEVに関連する次世代バッテリーの開発動向、スペック、空力性能、軽量化、生産工程の大幅な改善など、多様な技術の概要を解説しました。

しかし、このチャンネルの見解としては、特に目新しい技術が発表されなかったことが残念でした。トヨタとしては、ハイブリッドや水素燃料電池などの新技術開発に積極的で、後出しのジャンケンのような手法が得意な企業体制であるため、目新しい技術が発表されなかったことが、トヨタの衰退につながるとは考えていません。しかし、ハイブリッドや水素燃料電池などのワクワクする発表内容には及びませんでした。

トヨタの発表で注目したい技術は、今回発表された次世代バッテリーで、その中でも2026年以降に市場導入が予定されている2種類の次世代バッテリー、次世代電池普及版と次世代電池ハイパフォーマンス版が採用しているバイポーラ構造でした。

バイポーラ構造とは、一般的なモノポーラ型のバッテリーセルの構造とは異なり、電極板の両面に正極材と負極材を塗布する方式です。これにより、正負極材を塗布するための電極板が1枚減り、構造がシンプルになり、コスト削減とスペース節約が可能になります。これにより、同じバッテリーパック全体により多くのセルを詰め込むことが可能になり、エネルギー密度の向上に寄与します。

また、バッテリーセルを背中合わせに配置して直接接続するバイポーラ構造を採用することにより、電子の通り道が最短となり、電子の移動がスムーズになります。これにより、電子の移動距離が最小化され、内部抵抗が大幅に低減され、バッテリーの発熱が抑えられます。これは、電子が活発に動くことで発生する内部抵抗が原因でバッテリーの温度が急激に上昇するという現象を抑えるために重要です。

通常のモノポーラ構造の場合、セル間の電子の移動は、タブに接続されたコネクターを介して行われます。しかし、バイポーラ構造の場合、セルが直接接続されているため、電子の移動距離は電極板の厚さの距離だけになります。これにより、電子の移動距離が短縮され、内部抵抗が大幅に低減され、発熱が抑えられます。

タブレス構造に見覚えがある方は、実は、テスラも同じアプローチを採用していることをご存じかもしれません。テスラは4680セルでタブレス構造を採用し、円筒セルを解いた長方形の長辺部分をすべて電子の移動可能な電極構造にすることで、電子の移動距離を短縮しています。電気自動車(EV)の発熱マネージメントは、急速充電性能や急加速の反復性向上に寄与します。また、発熱を抑制できる分だけ、冷却機構を簡素化することも可能です。生産コストや構造の簡素化だけでなく、EV性能の向上にもタブレス構造や内部抵抗の低減が重要で、各メーカーが試行錯誤しています。

トヨタはこの問題をバイポーラ構造によって解決し、水素ニッケル電池だけでなくリチウムイオン電池にもバイポーラ構造を採用する方針を表明しました。

一方、バイポーラ構造には欠点もあります。まず、セルを背中合わせに接続すると搭載効率は向上しますが、電池は充放電によって微妙に膨張収縮します。その結果、圧力変化や温度変化によって、セル内部の電解液が漏れる可能性が増えます。そのため、セル間の電解液を封じる高度なシーリング技術が求められます。

さらなる問題として、メンテナンス性が低下する可能性もあります。通常のモノポーラ構造では、バッテリーパックに問題がある場合、どのバッテリーセルが問題なのかを判断し、必要ならセルやモジュールを交換することで修理コストを抑制できます。しかし、バイポーラ構造では、セルが直接接続されているため、問題のあるセルを特定するのが難しくなります。その結果、モジュールだけでなくバッテリーパック全体を交換する必要が出てくるかもしれません。

究極形態は「全固体バイポーラ電池」?

トヨタがこのバイポーラ構造を普及版とハイパフォーマンス版のそれぞれに導入しようと計画しているのは、ここまでの説明を理解していただければ、なぜこの二つのバッテリーに対してバイポーラ構造を採用するメリットがあるのかを理解できるはずです。

普及版については、何と言ってもLFPを採用しているということから、どうしてもエネルギー密度という観点で劣るバッテリーセルの種類です。例えば、CATLやテスラなどでは、バッテリーパックへの搭載方法を”Cell to Pack“と称し、エネルギー密度を改善しています。それに対し、トヨタはバッテリーセルの構造をバイポーラ構造にすることで、セルあたりの省スペース化を実現し、LFPの弱点であったエネルギー密度を改善しようとしているわけです。

また、ハイパフォーマンス版については、上級モデルとして正極材にニッケル系を採用することを表明しています。ニッケルはエネルギー密度の向上に直結するため、大型SUVやミニバン、ピックアップトラックなどのバッテリー容量が求められる車種での採用が進んでいくと見られます。

今回のトヨタのハイパフォーマンス版になぜバイポーラ構造を採用したのかというと、エネルギー密度をさらに改善し、トヨタのピックアップトラックのタコマやSUVのランドクルーザー、アルファードやLMといったミニバンをBEV化したいという意図もあるでしょう。ただし、私の推測としては、このハイパフォーマンス版バッテリーは、レクサスのスポーツカー、LFAのEVモデルに採用されるのではないかと思います。

このスポーツカーにとって重要なのは、リピータビリティ、つまり繰り返しの急加減速でもバッテリーの発熱を抑えることができる技術です。例えば、テスラでは温度管理機構の能力を引き上げることで対応し、ポルシェでは800Vシステムという高電圧化によって発熱を抑制しようとしています。しかし、トヨタはバイポーラ構造を採用することで、内部抵抗を飛躍的に抑制し、それによって発熱を抑えることが可能なのです。

ちなみに、トヨタは2028年ごろまでに全固体電池を搭載したBEVを市場に投入する方針を示し、その全固体電池ハイパフォーマンス版は、次世代BEV第一弾のパフォーマンス版と比較してさらに航続距離を50%向上させるという目標も明らかにしています。

これについて、2030年以降に登場する可能性のある全固体電池ハイパフォーマンス版、つまりトヨタのバッテリーにおける究極形態は、全固体電池にバイポーラ構造を掛け合わせた全固体バイポーラバッテリーになるのではないかと推測しています。

現在、全固体電池がメディアで話題になっていますが、実は全固体電池と同等に重要なテクノロジーが、水素ニッケル電池の知見を蓄えつつあるバイポーラ構造です。これは現在のバッテリーにおける問題点、つまりエネルギー密度の向上と生産コストの低減の両立というポテンシャルを秘めています。

特に、トヨタの主力マーケットである大衆車セグメントをBEV化するためにはこのバイポーラ構造は必要不可欠で、スポーツカーをBEV化する上でも重要な技術となります。

このバイポーラ構造というトヨタのキーテクノロジーについては、今後も最新の動向をアップデートしていきます。

From: Toyota

Author: EVネイティブ