トヨタのトップである豊田社長が、電気自動車に対する補助金はサステナブルではないという考えを示し、政府や自治体の性急な電動化に改めて警鐘を鳴らしていますが、
その一方で、トヨタが開発を進めている水素燃料電池車に対する多方面における補助金など、二枚舌感も否めないということについて、徹底的に解説します。
2025年までに15車種のEVを発売予定
まず、今回のトヨタに関してですが、現在世界最大級の自動車グループであり、そして日本最大の企業という、世界に誇る日本の自動車メーカーとなっていて、
これまでは、電気自動車という観点においては、既存の内燃機関車をただ電気自動車にリプレイスしただけという、いわゆるコンプライアンスカーしかラインナップしていなかったのですが、
それに対して、中国上海で直近で開催されていた上海モーターショーにおいて発表されたのが、
新たな電気自動車専門ブランドとして、Beyond Zeroブランドを立ち上げつつ、4年後である2025年までに、新型電気自動車をグローバルで15車種もラインナップしていくという大方針を発表し、
そして、その記念すべき第一弾として、
トヨタグループを始め、日本の様々なメーカーが結集して開発された電気自動車専用プラットフォームである、E-TNGAプラットフォームを採用した、本気の電気自動車であり、
ミッドサイズSUVセグメントである、BZ4Xのコンセプトモデルを発表し、その実際の発売時期を、来年である2022年の中旬と設定してきましたので、
少なくとも、今後は特に中国市場や欧米市場において、電気自動車の遅れを挽回するために、矢継ぎ早に電気自動車をラインナップしていく考えであることが、明らかとなってきた状況であるわけなのです。
しかしながら、その脱炭素化のために電気自動車に対してとてつもなく莫大な投資を行い始めてもいる、特に現在バイデン政権が誕生したアメリカ国内において、
そのような電気自動車への性急な転換について待ったをかけるようなロビー活動を行っているという事実も明らかになってきていたり、
イギリス国内においては、2030年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止、そして2035年までに、トヨタの得意なハイブリッド車の販売を禁止するという決定に反対するためのロビー活動を行っていたりと、
このように、現在世界が電気自動車への投資を加速させる中において、電気自動車のラインナップを大幅に拡充していくとアナウンスしながら、その電気自動車の普及に待ったをかけるというような動きも同時に見せ、
したがって、海外の主要機関投資家たちが、次々とそのような電気自動車を阻害するようなロビー活動をやめるよう、トヨタ側に圧力をかけているという、かなりショッキングな報道も飛び出していて、
これらのトヨタの一連の流れについては、個人的にはかなり批判的な立場で論じてきました。
水素エンジン車にも着手するが、、、
また、トヨタに関しては、水素燃料電池車に続く水素を使った新たな車種の開発をスタートさせ、
直近では、その新たな水素エンジン車を使って24時間耐久レースを挑み、そのレースを成功させ、多くの自動車メディアが絶賛している状況ともなっていますが、
やはりその水素エンジン車という、既存のガソリンエンジンを流用して活用することができながらも、結局は電気自動車の持つポテンシャルを始め、
もはや水素燃料電池車のポテンシャルにも追いつけないのではないかという未来しか想像することができず、
実際に、CO2やNOxというような大気汚染物質を排出してしまうため、世界的な流れであるゼロエミッション車の需要にそもそもマッチすることがなく、
さらにその上、既存のガソリンエンジンを搭載しながら、水素燃料電池車における弱点でもあった、水素を高圧で保管する、場所を取る水素タンクもさらに搭載しなければならず、
実質的な車内スペースが圧倒的に不利になってしまうという点、
しかもその航続距離は、2021年現時点における電気自動車や水素燃料電池車には遠く及ばず、
その電気自動車に関しては、今後のさらなる技術革新によって、内燃機関車とほぼ遜色のないような航続距離を達成できるという、具体的な数値を伴った予測が出ているということを勘案すると、
やはり現在の世界的な電動化の流れを止めるほどのポテンシャルは持ち合わせていないのではないかと、個人的にはその水素エンジン車に対して、かなり懐疑的な立場もとっていました。
EV補助金、多すぎじゃない?
そして、このようなトヨタの現状において、今回新たに明らかになってきたことというのが、
そのトヨタのトップである豊田社長が、「電気自動車に対する補助金はサステナブルではない」と発言し、走行中にCO2を排出しないだけで、
電気自動車の普及に傾倒する政府や自治体の施策に懸念を示していると、時事ドットコムというメディアが報じたのです。
まず、今回の報道の大前提として、こちらは一体いつ、どのような状況下で取材が行われたのかであったり、そのインタビューなどにおいて、一体どのような文脈の中で言われた発言なのかが全く明確ではありませんので、
個人的には、今回の報道だけを取り上げて、その発言に対する是非に言及するということは、適切ではないと考えていますので、
まずはこの発言が、一体どのようなバックグラウンドにおいてなされたものかについてを、今後の最新情報とともの注視していく必要が、まずあるのではないかとは感じます。
そして、この大前提を念頭に置いた上で、豊田社長が発言したかしていないかは別として、現状の電気自動車の補助金について、多すぎるやしないかという類の意見に関しては、
グローバルスタンダードで見れば、全くそんなことはないということで、
まず我々日本市場における電気自動車購入の際の補助金額についてを改めておさらいすると、
まずは、ただ単純に電気自動車のみを購入した場合ですと、最大で42万円という補助金を適用することができるのですが、
今年に入ってから、環境省の新たな施策として、電気自動車購入の際に自宅の電力を100%再生可能エネルギーにリプレイスすることによって、その補助金額を、ほぼ倍の最大80万円にまで高めることができ、
こちらに関しては、やはり脱炭素化の政策の一環として、再生可能エネルギーを扱う電力会社を優遇することにつながりますので、個人的には悪くない施策であるとは感じます。
そしてこの日本の最大80万円という額を押さえた上で、海外を見渡してみると、
例えば、まずフランス市場に関しては、2020年度までは、完全な電気自動車に対して最大7000ユーロ、日本円に換算して、93万円という補助金が適用でき、
2021年に入ってからは、その金額を6000ユーロ、日本円に換算して80万円にまで減額しましたが、それでも現状の日本市場とほぼ同じような補助金を適用することができていますし、
さらに、スペイン市場についても、この直近で電気自動車に対する補助金額を引き上げ、その2020年度におけるフランス市場と全く同じく7000ユーロ、
日本円に換算して最大93万円という補助金を獲得することができるようになりました。
さらにイタリアに関しては、すでに所有していた古い自動車を廃車することを条件に、電気自動車を購入すると最大で8000ユーロ、日本円に換算して、なんと106万円もの補助金を適用することができますので、
こちらに関しては、やはり燃費性能が悪い古い内燃機関車を、中古市場に流通させずに廃車させることを促すことによって、長期的な電気自動車普及の下地を作ろうとしていることが見て取れるとは思います。
そして、我々日本市場に次ぐ自動車大国であるドイツに関しては、40000ユーロ以下、日本円に換算して533万円以下の電気自動車を購入した場合、
なんと最大で9000ユーロ、日本円に換算して120万円もの補助金を適用させることが可能であり、
したがって、おおよそ500万円程度の電気自動車を購入する際は、実質300万円台から購入することができてしまうという、かなりの大盤振る舞いであり、
しかしながら、巨大な自動車産業を抱えながら、その主要自動車メーカーであるフォルクスワーゲングループを筆頭に、メルセデスやBMWも、今後の電動化時代を見据えて、揃って電気自動車に舵を切っているという状況もあり、
やはりそのようなメーカーを支援しながら、同時に国として次世代産業を育成するという意味においての大盤振る舞いでもあり、
実際問題として、ドイツ市場の新車販売に占める電気自動車の販売台数を示す電動化率に関しては、直近の半年ほどはコンスタントに20%を超えてきていますので、
その意味において、この大規模な電気自動車に対する優遇措置は成功している、と言えるのです。
また、アメリカ市場に関しても、2010年のオバマ政権から続く、7500ドル、日本円に換算しておよそ82万円もの税額控除を適用することができ、翌年度にこの82万円がバックされますので、
このように世界を見渡してみると、特に日本と同様の先進国に関しては、電気自動車に対する優遇制度を各国実施していて、
しかも、その補助金額についても、日本市場における最大80万円という金額は取り立てて多いという状況ではない、ということがお分かりいただけたと思います。
水素燃料電池車はEVの倍近い補助
ここまでは、電気自動車購入に対する補助金が多すぎるやしないかというような主張に対して、世界的な電気自動車の流れの中においては、
各国と比較して、実に平均的な補助金額であるということが理解できたと思いますが、
その電気自動車に対する補助金とともに、次世代環境車として、主にトヨタが開発に注力している水素燃料電池車に関しても、この電気自動車と同様に補助金を適用することができるのですが、
2021年度から適用できるようになった環境省の補助金の金額を見ていくと、
まず電気自動車に関しては、先ほども説明したように、車種にもよりますが最大80万円という補助金を適用することができていますが、
その水素燃料電池車を見てみると、なんとその補助金額は、トヨタが発売している新型ミライにおいて、140万3000円という、電気自動車と比較しても倍近い補助金額が適用されているということであり、
まずこの補助金額の差を見るだけで、いかに現在の水素燃料電池車が、次世代環境車である電気自動車と比較しても優遇されてしまっているのかが一目瞭然であると思いますし、
こちらは電気自動車を推進しようとしている一個人のポジショントークになってしまうかもしれませんが、
なぜ同じ次世代環境車であるのにも関わらず、電気自動車に対する補助金額と、ここまで圧倒的な差をつけているのか、非常に違和感を覚えるのは私だけでしょうか?
数億もの補助金が投入されている水素ステーション
しかもその上、この水素燃料電池車に関してはさらに多くの補助金が投入されていて、
やはり水素燃料電池車において必須となるインフラ網である、水素ステーションの建設費なのですが、この水素ステーションの建設費に対しても補助金が支給され、
その補助金額が、1ステーションにつき最大でその整備費の3分の2、衝撃の3億9000万円ということで、
ただし、一般的に設置が進められるであろう、外部で生成された水素をトラックなどで運んで、その水素ステーションで充填するというオフサイト方式における補助金額である、
最大3分の2、2億5000万円という補助金額が一般的とはなりそうですが、
例えばそれでも、2019年度における水素ステーションの1基あたりの整備費はおおよそ3億5000万円ですので、つまり、その補助金をほぼフルフルで受け取ることが可能、
水素ステーション1基建設するために、2億5000万円程度の補助金、つまり、我々の税金が投入されていることになるのです。
ただし、これは電気自動車に対しても同じだろうと思われた方もいるかもしれませんが、それでは電気自動車のインフラである急速充電器に対する補助金額を見てみると、
45kWという充電出力を発揮することができる急速充電器ですと、1基あたり120万円、
そして、スイスの電子機器メーカーであるABB社製の、180kW級超急速充電器であるTerra 184という充電器に関しては、500万円という補助金を適用することができ、
もちろんその本体価格であったり工事費などが大きく異なりはしますが、
このようにして、次世代環境車である水素燃料電池車と電気自動車に対する補助金は、ここまで大きく異なるという点であり、
つまり何が言いたいのかといえば、仮に電気自動車に対する補助金が多すぎやしないかという主張をしているのであれば、
そもそも電気自動車に対する補助金額はいたって世界標準であり、しかも同じく水素燃料電池車に対しても補助は行われ、さらにその金額に関しては、電気自動車の比ではないということでもあり、
したがって、やはりそのような電気自動車に対する補助金が高すぎるという類の主張、
特に自身が水素燃料電池車という次世代環境車を発売しながら、電気自動車よりも多額の補助を得ている状況においては、ナンセンスとしか言いようがないのです。
水素そのものに対しても補助金有り
ちなみに、水素に対する補助金に関してダメ押ししてしまえば、実は現在、水素k1g充填するのにかかる水素充填代が、おおよそ1200円程度であるのですが、
この水素充填代についても補助金が適用されていたりもしますので、
つまり、例えば新型ミライを一回あたり満タンまで充填すると、水素タンク容量が5.6kgですので、おおよそ6720円ほどかかってきますが、
本当であれば、この金額よりもさらに水素充填代がかさむということになり、
もはやこれであれば、ガソリン補給代と比較しても、たった647kmしか走行できない水素燃料電池車は割高に感じることしかできないとも感じますし、
逆に電気自動車であれば、例えば満充電あたり568km走行することができる電気自動車のモデル3を満充電にするまでに、
テスラの急速充電器であるスーパーチャージャーを使用すると、概ね2000円程度かかりますので、
このエネルギー補給のコストという面でも、やはり水素燃料電池車が割高である、
少なくとも補助金が適用されなくなってしまえば、そのコストはさらに上がってしまうということなのです。
Toyota Mirai Tesla Model 3
水素燃料電池車への補助金打ち切るとマズくない?
このように、電気自動車に対する補助金に警鐘を鳴らす動きが出てきているということに対しては、
まずその補助金額については、グローバルで見ても決して高い国ではなく、むしろ今年度からの80万円という倍増によって、ようやく世界の標準レベルに達したという点、
また、その電気自動車と同じく次世代環境車である水素燃料電池車を取り上げると、その補助金は倍近い140万円以上という莫大な補助金額を適用でき、
まさにこちらの補助金額こそ、グローバルスタンダードで見ても明らかに高い状況であり、
しかもその上、その水素燃料電池車のインフラである水素ステーションに対しては、やはり電気自動車の急速充電インフラとは桁が違う、数億円規模の莫大な補助金が出ているということなどを鑑みると、
もし仮に、今回の豊田社長の電気自動車に対する補助金が適切でないという報道が真実なのであったとしたら、
そのトヨタが発売を続けている水素燃料電池車に関しても、全く同様の指摘をしなければならないと思いますし、
もし水素燃料電池車に対する、そのような莫大な補助金を打ち切ってしまった場合に、その販売台数がどのようになるのかは、
おそらくミライを販売している販売店を始め、その水素燃料電池車に関わっているほぼ全ての方が、暗に認識できてるのではないでしょうか?
何れにしても、今回の時事ドットコムによる豊田社長の発言については、一体どのような文脈の中で語られたことなのかがいまいち明確ではなく、
単純に脈絡なく切り取られている可能性も否定はできませんので、
今後の続報、彼が本当に電気自動車に対する補助金を見直すべきと考えているのか、
もし仮にそうなのであれば、トヨタが現在発売している電気自動車に対する補助金も撤廃しても問題はないのか、
そして、トヨタが発売している水素燃料電池車に対する、明らかに多い補助金についてはどう考えるのか、
是非とも豊田社長に、その見解を伺ってみたいものです。
From: 時事ドットコム
Author: EVネイティブ
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