アウディジャパンが日本のディーラーの100店舗以上において、今後発売する高性能の電気自動車に対応するため、150kW級の急速充電器を順次設置していくという、
日本最大級の充電インフラ網を構築する、極めてアグレッシブな充電インフラ計画を発表しました。
2026年以降は、全て完全EVのみの新型車に移行
まず、今回のアウディに関してですが、ドイツの高級車メーカーであり、
同じくドイツのメルセデスとBMWを合わせてドイツ御三家と称されたりもしますが、
実はアウディに関しては、日本のトヨタと肩を並べる、世界最大級の自動車グループであるフォルクスワーゲングループを構成し、
そのフォルクスワーゲングループについては、
現在世界の自動車メーカーの中で、最も電気自動車に舵を切っている自動車グループとなりますので、
そのグループ全体の方針として、アウディについても、現在電動化に大きく舵を切ろうとしているわけなのです。
そして、そのアウディに関しては、
すでにe-tronというフルサイズSUVの電気自動車をラインナップしながら、
さらに今年である2021年に突入してからは、フラグシップスポーツセダンであるe-tron GT、
さらにはミッドサイズSUVセグメントであるQ4 e-tronのワールドプレミアも開催し、すでに納車をスタートさせ、
さらに今後は、フルサイズセダンであるA6の電気自動車バージョンであるA6 e-tron、
フルサイズSUVの電気自動車バージョンであるQ6 e-tronを、どちらも2023年までにお披露目することを決定しています。
さらにその後は、e-tronに変わるフラグシップSUVとして、Q8 e-tronの発表を計画しながら、
そして、フォルクスワーゲングループの次世代型プラットフォームであるSSPを採用し、
自動運転レベル4を達成する能力を備えた、アウディの目下の最重要ミッションである、
Artemisと名付けられたフラグシップセダンを、現状2024年までに発売することを計画しています。
したがって、アウディに関しては2026年まで、
つまり、あとたったの5年以内にも、新型車として市場に投入する車両は、全て完全な電気自動車となることをアナウンスしながら、
現行型の内燃機関車についても、基本的には2033年ごろが最後の発売となり、
それ以降アウディで発売される全ての車両は、完全な電気自動車のみとなるという、
電気自動車に全振りする方針を示してきてもいますので、
何れにしても、電気自動車に対して、きわめて積極的な姿勢を示している自動車メーカーである、ということなのです。
日本では充電インフラ整備を全く行ってこなかったアウディ
そして、その電気自動車に超積極的なアウディ、さらにフォルクスワーゲングループについては、
自らが主導して、電気自動車の運用においてマストである充電インフラをグローバルに展開していくことも発表し、
特にお膝元でもあるヨーロッパ市場については、IONITYという、いくつかの自動車メーカーが出資し合って、
高速道路上に350kW級という超急速充電器の設置を進めていたり、
さらには、今後アウディ独自でも、急速充電ステーションの構築を進める計画もアナウンスし、
アウディ車専用で利用できる、充電中の休憩スペースなども含めた充電ステーションのコンセプトを発表していたりと、
このように、ただ単に電気自動車の発売だけに傾倒しているのではなく、
実際に電気自動車を購入したオーナーが、より快適に電気自動車を運用することができるように、
特にプレミアムセグメントであるアウディということもあり、
車としての質だけでなく、充電環境などを含めた包括的な充電体験についても、車両の出来と同じくプレミアムでなければなりませんので、
その充電インフラの拡充にもコミットしている状況、となっているのです。
それでは、我々日本市場に対するアウディの電動化戦略は、現状どうなっているのかというと、
大型SUVであるe-tronは発売がスタートしてはいるものの、
すでにヨーロッパ市場において納車がスタートしているe-tron GT、およびQ4 e-tronに関しては未だに発売されず、
特に、もともと今月である10月中にも納車がスタートする予定であったe-tron GTに関しては、
昨今の半導体の供給不足によって、その納車が来年である2022年にずれ込むことが決定したようですので、
まだまだ電気自動車のラインナップが少ない状況であるのです。
しかしながら、その電気自動車のラインナップが少ないこと以上に、極めて大問題である点というのが、
充電インフラ整備が全くとい言っていいほど進んでいないというのが実情であり、
というのも、アウディのディーラーに設置されている急速充電器の数自体が非常に少なく、
一応アウディ側の資料によれば、現在全国のアウディのディーラーの50店舗ほどに、
急速充電器が設置されているという説明がありますが、
その充電器の実態を見てみると、
まず、そのディーラーにはたったの一台しか充電器が設置されていない、
そして、このアウディの充電器に関しては、一般の電気自動車についても問題なく利用することができますので、
仮にe-tronで充電しに行っても、先客がいた場合、充電するために順番待ちをしなければならない、ということなのです。
急速充電ステーションに時間制限は論外です
しかも、さらに問題であるのが、その充電できる時間が大幅に制限されてしまっていて、
例えばこちらの店舗ですと、おそらくそのディーラーの営業時間である10時から18時まで、
さらに、第一、第三火曜水曜、および、ゴールデンウィークやお盆、そして年末年始という大型連休中は充電器を使用できないという、
そもそも論として、電気自動車を利用して長距離を走行する大型連休こそ、充電器のニーズが高まるはずですので、
このような利用時間の制限というのは、
率直に申し上げれば、電気自動車オーナーにとって最も避けたい充電施設である、ということなのです。
さらに、駄目押しで付け足してしまうと、
アウディのディーラーに設置されている急速充電器というのが、50kW級の急速充電器ということで、
仮にこの50kW級の急速充電器を使用して30分の充電を行った場合、
理論値として、おおよそ25kWhという電力量を充電することができますが、
例えば現在発売されているe-tronの、
高速道路を時速100kmでクーラーをつけても達成可能であるというような、実用使いにおいて最も信用に値するEPAサイクルを適用すると、
航続距離に換算して、たったの103km分しか充電することができない、
つまり、30分間充電したとしても、理論値で103km分、
実際は90km程度の航続距離しか回復することができない、ということになりますので、
これではとてもではないですが、
e-tronを使用して、充電のストレスなく長距離を運用することなど、事実上不可能な状況であるわけなのです。
チャデモ最速150kW級急速充電器大量配備の衝撃
そして、そのような背景において今回新たに明らかになってきたことというのが、
そのアウディが、我々日本市場における極めて脆弱な充電インフラ網を、大幅にテコ入れしてくるということで、
それが、アウディの全ディーラーの数である125店舗のうち、その大半である102店舗において、
チャデモ規格である150kW級の急速充電器を順次設置していくということで、
ついにアウディジャパンに関しても、本国と同様に、充電インフラ整備に本格的にコミットする方針を示してきたのです。
それでは、今回の発表において注目しなければならないポイント、
特に、アウディが具体的にどのようにこの高性能急速充電器を設置していくと、
日本市場の電気自動車販売において、競合を大きく引き離すことができるのかに関する注目ポイントを、一挙にピックアップしていきたいと思います。
まずはじめに、その充電規格に関してですが、チャデモ規格ということで、
こちらは日本市場において一般的な急速充電規格となりますので、
何も考えることなく、アウディのディーラー、もしくは公共の急速充電器に行ったとしても、問題なく充電を行うことができるわけであり、
それと比較してテスラ車については、テスラ独自の充電規格を採用しているため、
専用のチャデモアダプターを使用しなければ、公共の急速充電器を使用することができませんので、
この煩わしさという観点でも、アウディが日本市場向けにチャデモ規格で統一していくということは、
実際の電気自動車オーナーにとっては、非常にメリットが高い統一の仕方であると思います。
150kW級充電器で利便性は雲泥の差
次に、やはり最も特筆すべき点として、
その最大充電出力が150kWという高出力を発揮することができるという点であり、
先ほども説明した通り、今までの50kW級の充電器と比較しても3倍ほどの充電出力を発揮することができる、
要するに、充電時間を理論値で3分の1にまで短縮することができ、
例えば来年に発売される予定であるe-tron GTに当てはめて計算してみると、
e-tron GTのEPA航続距離が、現状383kmであり、
東京を満充電で出発して、途中名古屋において、今回の150kW級の急速充電器を使って30分間の充電を挟んだ場合、
一気に岡山県の倉敷まで走破することができるというようなイメージとなりますので、
このようにイメージしていただければ、
やはり150kWという高性能な充電インフラを設定することによって、
ここまで電気自動車の利便性が異なっていくということがお分かりいただけるのではないでしょうか?
しかしながら、今回のアナウンスにおいて言及されることのなかった、その急速充電器設置に関する懸念点についてもいくつか指摘しておくべきであり、
まずは、その充電器の利用時間に制限を設けるべきではないということであり、
先ほども指摘している通り、現状のアウディのディーラーの充電器というのは、そのディーラーの営業時間に依存しているため、
せっかく高性能な急速充電器を設置したのにも関わらず、
それこそ長距離走行するケースが多い長期休暇のシーズン中は、充電器を利用することができない、なんていう状況では、
とてもではないですが、電気自動車オーナーが気兼ねなく充電器を利用することができなくなってしまいます。
ちなみにですが、それではなぜ日本国内でほぼ唯一と言っていい、日産のディーラーの充電器は24時間解放することができているのかといえば、
駐車スペースの区画から、一から整備し直すことによって、
営業時間外であったとしても、電気自動車が駐車できるようにしていますので、
ぜひアウディジャパンに関しては、来たる完全電気自動車時代を見据えて、
年中無休、24時間利用可能な充電器となるように、その充電器の設置区画から見直すことに期待したいと思います。
1カ所に複数の充電ストール設置はマスト
次に、その設置台数という点も大きな懸念材料として存在し、
充電器の利用時間問題とも通じることでありますが、
電気自動車オーナーにとって最も重要なポイントというのは、
ここに行けば、まず間違いなく充電することができる、という安心感であり、
この安心感を醸成させるためには、やはり24時間いつでも利用可能であるとともに、
やはり、充電待ちのリスクを抑制する必要があるのです。
したがって、現状のような、各ディーラーに1台しか設置されませんでした、ということになってしまいますと、
やはり、充電待ちのリスクが相当上がってしまい、
よって、ここに行けば間違いなく期待通り充電することができるという安心感に繋がりませんので、
最低でも2台、
さらに今後増大する電気自動車需要に備えて、2台以上設置できる冗長性、
例えば、充電器を増設することができる駐車スペースの確保であったり、
その増設工事を簡易に行うことができるように、配線周りのことを前もって考えておくなど、
何れにしても、各ディーラーに複数台の充電器を設置するということはマストである、ということなのです。
ちなみにですが、今回アウディのディーラーに設置される充電器の種類というのが、
公式情報ではないものの、写真を見る限り、ほぼ間違いなくTerra360という急速充電器の種類であり、
こちらのTerra360というのは、充電器メーカーであるABB社製の最新型の充電器の種類であり、
その名の通り、最大360kWという業界最高水準の充電出力を発揮することができるだけでなく、
1台の充電器に対して、最大4つもの充電ストールを併設することができる、
つまり、Terra360を1台設置するだけで、最大4台もの電気自動車を同時に充電させることができるという優れものですので、
おそらく今回のアウディジャパンに関しては、
この複数ストールの併設によって、充電ストール数を稼ぐ作戦であると推測できますので、
こちらは最大4台とするのか、それとも2台とするのかは現時点では不明ながら、
複数ストールを併設できる最新型の充電器であるTerra360を採用してきたことによって、
電気自動車オーナーが安心して充電できる環境を構築するという観点においては、極めて期待することができそうです。
日産アリアは、もはやオススメできなくなりそう
ここまでは、アウディジャパンが突如として発表してきた、
電気自動車発展途上国家である日本市場において、充電インフラを大幅拡充するという方針について、その概要を解説してきましたが、
今回の発表によって、日本の電気自動車市場の勢力図、
さらには、本メディア独自の、電気自動車のオススメ度が大きく変わる可能性が出てきている、ということであり、
先ほどのe-tron GTの長距離走行のイメージを思い出していただければ、
現状の日本の脆弱な公共の急速充電網、および、今後設置される予定のなんちゃって90kW級急速充電器と比較しても、
その性能はまず間違いなく高いと言えますが、
そうなると、2022年中に発売が予定されている電気自動車の中で、
そのアウディの充電器を利用できる電気自動車の利便性が高くなる、ということを意味してくると思います。
はっきりと申し上げれば、アウディが2022年中の発売を計画しているミッドサイズSUVであるQ4 e-tronと、
同セグメントのガチンコの競合車種である日産アリアの戦力図が、この段階で逆転した、
つまり、日産アリアよりQ4 e-tronを購入した方が、電気自動車としての利便性で勝る公算となった、ということであり、
というのも、Q4 e-tronに関しては、今回のプレスリリースから少なくとも最大100kWという充電出力、
欧州市場においては最大125kW、さらに2021年中にも、
車両性能の無線アップデートによって、その最大充電許容出力を170kWにまで引き上げる公算となっているわけですので、
要するにQ4 e-tronであれば、その150kW級の急速充電器を使用して、
車両側の充電性能のスペックを、ほぼ最大限発揮することができるのです。
しかしながら、対する日産アリアに関しては、すでに日産が公式に、
2021年度までに、150kW級急速充電器を全国の公共性の高いエリアに設置するとアナウンスしておきながら、
その2021年度終了まであと半年を切っている中においても、
今だに150kW級の公共の急速充電器が、日本全国に1ヶ所も存在していない、
そもそもその充電インフラに関するアップデートすらアナウンスしてこないという体たらくっぷりでありますので、
要するに、この充電インフラの設置計画とともに、
その充電インフラに対する姿勢だけを取ってみても、その将来性でアウディの方に分がある、
故に、Q4 e-tronの方が今後将来的にも、より快適に運用できる可能性が高くなってきているのです。
フォルクスワーゲングループ統一の動きの可能性
そして、今後の展開を独自に推測していきたいこととして、
やはりこの動きが、アウディというブランドを超えて、
電気自動車に最も積極的なフォルクスワーゲングループ全体で、協調しながら進めてくる可能性があるのではないか、ということで、
つまり、今回はアウディジャパンが主導して設置が進められるとアナウンスしている、150kW級の急速充電インフラでありますが、
同じフォルクスワーゲングループ傘下の中核ブランドでもあるフォルクスワーゲンについても、
やはり今後似たような充電インフラ設置計画を発表してくる可能性を期待でき、
したがって、本メディアにおいては幾度となく取り上げている、
フォルクスワーゲンのID.4、およびID.3を皮切りとするIDシリーズの電気自動車についても、
特に、コンパクトハッチバックとして、テスラや日産、おそらくその他の日本メーカーも発売してこないであろう、
ブルーオーシャンなセグメントに該当するID.3、
さらには、プレミアムセグメントではないものの、大衆車セグメントとして、
ガチンコの競合車種であるアリアよりも安い値段設定を、実現してくる可能性すらあるID.4が、
日本市場においても、極めて有用な選択肢となってくるのではないか、ということなのです。
また、駄目押しで付け足してしまえば、
この充電インフラ整備に関しては、是非ともフォルクスワーゲングループ全体で主導し、
アウディとフォルクスワーゲンの電気自動車であれば、お互いの充電ステーションを利用することができるというような取り決めなんかを導入してくれば、
この充電インフラが壊滅的に脆弱な日本市場において、
電気自動車というゲームチェンジによって、日本メーカーの牙城を崩すことができるかもしれません。
何れにしても、今回のアウディジャパンの150kW級急速充電器に関しては、
来年である2022年の第二四半期、つまり来年中旬までには、全国のアウディディーラー102店舗に順次設置がスタートする、
おそらくこれは、e-tro GT、およびQ4 e-tronの発売スタートを見越した設置のタイムラインとなりそうですので、
それらの新型電気自動車の動向にも注目しつつ、
その充電器を安心して利用できる体制を、アウディ側がしっかりと構築することができるのかにも期待したいと思います。
逆に、本メディアにおいて一貫して主張し続けてきた、
最大150kW級の急速充電器を、将来への先行投資的に設置を進めていかなければならないという主張に対して、
そんな高性能な急速充電器なんて、赤字を垂れ流すだけだから設置できるわけないだろー、であったり、
そんなものは、ビジネスの基本を知っていれば設置できないことなどわかりきっているだろー、と反論されていた方々が、
今、息をしていることを祈るばかりですし、
果たして、現状赤字でも、長期的な電動化戦略に沿って、実用的な充電インフラを設置しようとするメーカーと、
最初は赤字(ベストはトントン)となるであろう充電インフラ投資に、びた一文も支払おうとしない自動車メーカーの、
果たしてどちらが、最後に息をしているのか、
答えはすでに明白なのではないでしょうか?
From: Audi Japan
Author: EVネイティブ
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