【恐れるべきはテスラでも中国勢でもない】 世界最大のフォルクスワーゲンがさらに数倍成長するかもしれない衝撃

フォルクスワーゲン

世界最大級の自動車グループであるフォルクスワーゲングループが、「NEW AUTO」と名付けた、主に2030年までの中期経営戦略を発表してきましたが、

そこで発表された電動化戦略だけでなく、今後の自動運転とソフトウェア開発、およびそれに関連する新たなサービスを提供することによって、

現在の収益のなんと数倍という、正真正銘世界最大のモビリティカンパニーに昇華するという計画について、そのポテンシャルを徹底的に解説します。

世界最大のフォルクスワーゲンは電動化に傾倒

まずはじめに、今回のフォルクスワーゲングループに関してですが、

新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックの影響を受ける前の、2019年度におけるグローバルの販売台数で、

我々日本のトヨタの販売台数をも上回っているという、世界最大の自動車グループであり、

中核ブランドであるフォルクスワーゲンを筆頭に、高級車ブランドであるアウディ、さらには高級スポーツカーセグメントのポルシェ、

さらには、大衆車ブランドであるチェコのスコーダ、また、スペインのセアト、

そして、超高級車セグメントのランボルギーニやベントレーなど、

並み居る欧州ブランドが結集している自動車グループとなっています。

そしてこのフォルクスワーゲングループに関しては、現在あらゆる既存の自動車メーカーの中でも、圧倒的なスケール感で持って、電気自動車に舵を切っている状況となっていて、

本チャンネルにおいて初めてフォルクスワーゲンの電気自動車であるID.3を扱ってからちょうど1年、

なんとその現時点でアナウンスされている電気自動車のラインナップは、

フォルクスワーゲンからは、ID.3、ID.4、ID.5、ID.6、ID.8、ID.Buzz、

アウディからは、e-tron、Q4 e-tron、e-tron GT、Q6 e-tron、A6 e-tron、

ポルシェからも、タイカン、タイカンクロスツーリズモ、e-Macan 、

スコーダブランドからもENYAQ、セアトからもCupra Born、

などなど、たったの1年間でここまで多くの電気自動車が発表されているという、

やはり世界最大の販売台数を誇るフォルクスワーゲングループが、そのスケールメリットを生かして、

圧倒的なスケール感で電気自動車攻勢を仕掛けてきていることがお分かりいただけると思います。

EV販売を増やしても、利益はさらに増加

そしてそのフォルクスワーゲンが、今回新たに明らかにしてきたことというのが、

NEW AUTOと名付けた、2030年までの中期経営戦略の概要をプレゼンテーションしてきたということで、

ただし大前提として、今回のプレゼンテーションに関しては、今まで様々な形で少しづつ発表してきた電動化技術やソフトウェア、そして自動運転技術をまとめてきたもので、

基本的には、新たな新技術が次々と発表されるというよりかは、今までのアナウンスを体系的に再確認していくという趣旨のプレゼン、となりますので、

まさに現状のフォルクスワーゲンの経営戦略の最前線を、ここでしっかりと再確認することができると思いますが、

その中でも、追加で新たに発表され、

しかしながら、今後のフォルクスワーゲンの見方を大きく変えざるを得ないような、驚異的な発表も同時に行われてきてもいますので、

その最新情報も同時に解説していきたいと思います。

それでは実際に、今回のNEW AUTOの中身を一挙に概観していきたいと思いますが、

まず今回のフォルクスワーゲンの戦略の中核の1つでもある電動化戦略を進めていったとしても、

収益性という観点において持続可能なものであるという点をまず強調し、

2021年現時点における売上高利益率がおおよそ5.5%から7%程度であるのに対して、

その電動化がさらに進んでいる2025年度においても、その利益率が7-8%と維持しながら、

さらに今回の発表に際して、その利益率の目標値をさらに上方修正し、8-9%にまで押し上げることができると説明し、

実際に、その完全な電気自動車の販売台数の比率というのは、2021年度において最大6%程度であるのに対して、

その2025年度においては、最大で20%を見込んでいる、

つまり、電気自動車の販売台数が現状の3倍以上になったとしても、その利益率は、現時点よりもむしろ上昇しているという、

例えば以前日本のトヨタ自動車のトップである豊田社長がコメントしていた、

電気自動車は持続的な利益を出すことができないという主張とは全く逆の結果を、

たったの4年後には達成するとフォルクスワーゲンが発表してきた、ということなのです。

2-3年後にはEVと内燃機関車の利益率を均衡

それではいったいどのようにして、電気自動車において今以上の利益を確保することができるようになるのかに関して、

まずは、現状の内燃機関車のラインナップを最適化し、その内燃エンジンの種類を、最大で60%も減らしながら、

その内燃機関車のプラットフォームであるMQBプラットフォームを生産する工場を集約することによって、

今後販売台数が減少していったとしても、現状の利益率からの減少幅を、最小限に留めることが可能になります。

そして、それと同時に、今後たったの4年間で3倍以上の販売台数を達成すると予測している、電気自動車の利益率を上昇させるために、

まずはグループを横断した研究開発を行なっていることによる、研究開発費の抑制

次に電気自動車の大規模生産によるスケールメリットの恩恵を受けながら、

特に電気自動車において最もコストのかさむ、大容量のリチウムイオンバッテリーの原価の低減に寄与することが可能、

そして、現在すでに電気自動車しか生産していないZwickauの工場をはじめとして、

複数のブランドの電気自動車を一括で生産してしまうことによって、その生産コストを抑制することができます。

Zwickau工場ではMEBプラットフォームのEVを生産

したがって、現時点である2021年から2-3年後には、現状利益率で上回っている内燃機関車を電気自動車の利益率が超える、

つまり、フォルクスワーゲングループに関しては、たったの2-3年後には、

電気自動車を販売した方が、内燃機関車を売るより利益が出るという体制の構築を完了させることができる、としているのです。

ゲームチェンジャープラットフォーム「SSP」

次に、その電気自動車の生産コストを劇的に下げていくために、

次世代型の電気自動車専用プラットフォームである、Scalable Systems Platform、通称SSPを新たに採用し、

SSP

こちらの次世代型のプラットフォームに関しては、

現状ラインナップしているIDシリーズに採用されているMEBプラットフォームと、

2023年中に発売される予定の、ポルシェマカンの電気自動車バージョンであるe-Macanから初採用される、PPEという、2つの電気自動車専用プラットフォーム、

さらにその上、今までラインナップしていたMQBなどの、既存の内燃機関車の3つのプラットフォームも合わせた、

フォルクスワーゲンの全てのプラットフォームを統合してしまうという、今後10年間の、フォルクスワーゲングループのコアとなるプラットフォームとなり、

例えば現在22種類も存在するバッテリーシステムを8種類に統合しながら、

搭載バッテリー容量にして85kWhから、おそらく商用トラックなどの、特大級である850kWhという容量まで、あらゆるセグメントを、

このSSPという1つのプラットフォームで、全て対応することができると説明しています。

そして、このSSPに関しては、ただ単純なプラットフォーム、つまり車台やコンポーネントという概念というよりかは、

フォルクスワーゲン側も強調している通り、メカトロニックス

つまり、そのプログラムから実際の車両の電子制御に至るまで、あらゆるソフトとハードを融合した表現ですので、

ただの電気自動車専用プラットフォームというよりも、

実はこのあと解説する、自動運転を達成するためのソフトウェアを統合するために不可欠な、次世代型のメカトロニックスである、ということですね。

ゲームチェンジャー大衆EV「Trinity」

ちなみに、このSSPを採用したフォルクスワーゲングループ初の電気自動車を、

アウディのArtemisとして、2025年から市場に投入しながら、

その次の年である2026年には、いよいよ一般層でも購入することのできる大衆車セグメントとして、フォルクスワーゲンブランドからTrinityとして発売し、

これらのSSPを採用した電気自動車は全て、レベル3自動運転技術を搭載しながら、

レベル4自動運転、つまり、一定の条件下において完全な自動運転を実現する、

故に、ドライバーレスで走行することができるように、

ソフトウェアの無線アップデートのみによって進化していくというポテンシャルを標準搭載してくる、ということなのです。

したがって、すでにテスラが一貫して採用している、ハード面ではすでに完全自動運転に対応しながら、

ソフトウェアのアップデートのみによって、その自動運転技術を進化させていくという手法を、ついに既存メーカーの中ではほぼ初めて本格的に採用してくる、

しかも、特にTrinityというのは、大衆車ブランドであるフォルクスワーゲンブランドから発売される、

つまり、大衆車セグメントの電気自動車が、ドライバーレスで走行することができる能力を有するという、

まさに真の意味でのゲームチェンジャー的な車種となる、ということでもあるのです。

Trinity

ソフトとハードを統合するためには垂直統合が必須

次に、そのレベル4自動運転を達成するために欠かせない、

SSPというハードだけではなく、ソフトウェアについても今後のタイムラインが示され、

現在のMEBプラットフォームに搭載されているのが、1.1というソフトウェアプラットフォームであり、

こちらはすでに車両性能に関わるソフトウェアの無線アップデート、

例えば、充電性能を高めたり、走行性能をアップさせたりすることに対応できてはいるのですが、

やはりその1.1を採用するMEBプラットフォームや、さらに1.2というソフトウェアプラットフォームを導入するPPEでは、

自動運転システムのアップデートまではアップデートすることができず

よって、その無線アップデート技術を自動運転システムにも拡大適用するために、2.0というソフトウェアプラットフォームを開発し、

それをアウディのArtemisから導入する予定ともなっています。

ソフトウェア2.0はアウディのArtemisから採用スタートへ

つまり、テスラが何年も前から実現している車両性能の無線アップデート、

特に自動運転システムの無線アップデートによって自動運転を実現しようとする手法というのは、

ただ単純にソフトウェアのプラットフォームだけがレディとなっていても、達成することはできず、

先ほど解説した、あらゆる制御システムと統合されたプラットフォーム、

フォルクスワーゲンで言うところの、メカトロニックスというハードも同時に伴っていなければ、

緻密な制御を必要とするレベル4以上の自動運転を達成することはできず、

したがって、フォルクスワーゲンはそのテスラの自動運転開発の手法を模倣するために、

ソフトウェアの内製化だけでなく、SSPというハード面の垂直統合を行うことによって、

ようやく2025年から、真の意味での、テスラの無線アップデート技術を採用してくる格好となったと思います。

しかしながら裏を返せば、少なくとも現時点において、量産車を公道で走らせながらデータを回収して、

そのビッグデータとAIを活用して、自動運転開発に生かしていくという手法を採用しているメーカーは現状テスラ、

そして、今回後発のフォルクスワーゲンとなりましたので、

ここまで超大規模に電動化とソフトウェア、そして自動運転技術に投資しているフォルクスワーゲン以外に、

果たしてこのテスラの手法を採用して、自動運転技術を量産車に導入することができる自動車メーカーが、現状本当に存在するのか、

今だにそのビジョンを提示することさえできていないそれ以外の既存メーカーとの、自動運転開発の進捗の差がどのように広がっていくのか、

以前ある自動車メーカーのトップが、我が社には世界中を走行しているリアルな車が大量に存在し、それが我が社の強みであると主張していましたが、

ビッグデータも収集することのできない、世界のどこかを走っているだけの車と、全てがネットに接続され、リアルタイムに情報を収集することのできる車の、

果たしてどちらが、真の意味において、リアルな車が存在するということを意味するのか、

私は後者の方であると確信してはいますが、

この後者の手法であるテスラとフォルクスワーゲンの、リアルデータの収集という手法の台頭によって、

特に自動運転開発レースが、中長期的にどのように差がついていくのか非常に興味深く、注目していきたいとは感じました。

ソフトウェアサービスを第三の収益源に

そして、その自動運転技術やソフトウェアを活用したサービス事業、業界用語的にはMobility as a Serviceと呼ばれていますが、

既存の内燃機関車の販売と電気自動車の販売による収益に加えて、今後の第三の収益の柱として、

2030年ごろには、同じような規模感に達するレベルにまで高めるとも表明していますので、

このように、現在世界最大級の自動車グループであるフォルクスワーゲンというのは、

既存の収益モデルであった内燃機関車の販売という収益の柱を、その最適化によって、販売台数を縮小させながらも収益性を維持し、

そのレガシーな技術によって得られる収益を、まずはカーボンニュートラルの実現のためにマストである電気自動車に対する投資に当て、

今後2-3年間という短期間でもって、その内燃機関車の収益性と同等レベルにまで高めることで、

フォルクスワーゲンの第二の収益の柱として、電気自動車ビジネスの持続可能性を確固としたものにするのです。

ソフトウェア関連のサービス収益が今後増大

さらに、それと同時に、完全内製されたソフトウェアプラットフォーム2.0という車載ソフトウェアを開発し、

それを、これまた垂直統合によって開発された電気自動車専用メカトロニックスである、SSPと統合することによってのみ達成可能な、

特定環境下における完全自動運転を可能とするレベル4自動運転にまで、ソフトウェアの無線アップデートによって対応可能という冗長性を備え、

しかもそれを2026年には、量産モデルとなるTrinityに採用し、2030年までに4000万台もの車両を発売していく、

つまり、その4000万台という車両から、リアルタイムでビッグデータを収集し、それによって、自動運転の開発スピードを加速度的に高めていくという、

ようやく、テスラから3周遅れとなっていた自動運転開発競争に、周回遅れレベルにまで追いつく為の環境構築が完了する、ということですね。

そして、そのレベル4自動運転が達成された暁には、その車両をMobility as a Serviceとして運用し、

いよいよフォルクスワーゲンの第三の収益の柱となる、ソフトウェアによるサービス収益を確立させ、

2030年には、内燃機関車と電気自動車販売、そしてそのソフトウェアのサービス事業という三つの収益の柱を、同じ規模感にまで高めるという、

ただ内燃機関車の販売による収益源だけではなく、複数の収益源の柱を確立することによって、

真の意味での、モビリティサービスプロバイダーに昇華する計画が明らかとなったのです。

EVと自動運転の大津波に備えよ!

しかしながらそれと同時に、我々日本メーカーに関しては、今回フォルクスワーゲンが示したような、

体系的、かつ実現性を期待できる堅実な、新たなビジネスモデルのビジョンを示すことができていないという点は、冗談抜きで深い懸念を抱かざるを得ず、

すでにフォルクスワーゲン自身も示している通り、今後内燃機関車のビジネスは2030年までに20%も縮小するということ、

その内燃機関車に変わる完全電気自動車の大波が襲来しているということ、

そしてさらに、自動運転という電動化の波の比ではない、超大津波も迫っているということを考えると、

早く日本メーカーに関しても、特にこの電動化と自動運転による、新たなビジネスモデルのビジョンを示さなければ、

今回のフォルクスワーゲンを筆頭とする競合メーカーはおろか、

異業種である巨大テック企業の参入にも対抗することができなくなってしまう未来が、そう遠くない将来に待ち受けているのではないでしょうか?

何れにしてもフォルクスワーゲンについては、現在世界で最も多くの自動車を販売しながらも、

電気自動車と自動運転、そしてそれに付随するモビリティサービスに関してのビジョンを明確に示しながら、

その達成のために爆速で進んでいることが判明し、今後9年間で2.5倍にまで成長する自動車産業の中において、

そのリーダーシップをさらに確固とする決意を感じることができましたので、

まずは、今後フォルクスワーゲンの発売する新型電気自動車、

直近では多くの熱狂的なファンを抱え、2022年中にはヨーロッパ市場で発売がスタートするID.Buzzであったり、

ID.Buzz

そして、2025年中にもアウディブランドから発売され、

フォルクスワーゲングループの先端技術の全てが集約されたSSP、およびソフトウェアプラットフォーム2.0を搭載したArtemisの続報についても、

最新情報がわかり次第アップデートしていきたいと思います。

From: Volkswagen

Author: EVネイティブ