【ゲームチェンジャーではない】日本でEVバッテリー交換ステーションの実証実験をスタートしたが、、

日本

日本のガソリンスタンド大手のENEOSが、出資先でもあるアメリカのAmpleとタッグを組んで、電気自動車用のバッテリー交換サービスの実現を目指すことが発表されましたが、

このゲームチェンジャーにも見え、期待されている電気自動車のエネルギー補給手段であるバッテリー交換を、一般ユーザーが使用できる日は来ない可能性について徹底的に解説します。

エネルギー補給の時間ではEVは内燃機関車に完敗

まず、今回取り上げていきたいバッテリー交換についてですが、

そもそもすでに世界初の本格量産電気自動車である日産リーフが発売されてから、はや10年以上経ち、

リーフの発売は2010年12月から

その電気自動車に関する様々な技術が急速に進歩する中においても、どうしても欠点として指摘されてしまっているのが、

そのエネルギー補給の長さ、つまり電気自動車でいうところの充電時間の長さという点であり、

よく比較対象とされる既存の内燃機関車におけるエネルギー補給、つまり、ガソリンスタンドにおける給油となりますが、

基本的には概ね5分以内という時間でもって、そのエネルギー補給をほぼ満タンの状態にまで完了することができますが、

対する電気自動車の充電はというと、2021年現時点(2021年6月時点)における、現在世界で最も充電性能が高い電気自動車である、

韓国のヒュンダイが発売し始めた、クロスオーバーEVのIONIQ5でも、充電残量10%から80%まで充電を完了させるのに18分かかりますので、

やはりそのエネルギー補給にかかる時間という観点で雲泥の差である状況は、電気自動車黎明期から変わってはいないのです。

Hyundai IONIQ5

バッテリー交換はゲームチェンジャーか?

そのような現状の電気自動車におけるエネルギー補給の概念を変えるポテンシャルを秘めているのが、

バッテリー交換という、充電に代わる新たなエネルギー補給の手段となっていて、

こちらは読んで字のごとく、電気自動車に搭載されている大容量のリチウムイオンバッテリーを、

バッテリーパックごと、すでに充電されてある状態のバッテリーパックと、そのまままるごと交換してしまい、

ほぼフル充電の状態で再スタートすることができるというエネルギー補給の手段であり、

まさにこの手段であれば、内燃機関車における給油に要する時間とほぼ遜色のない短時間でもって、エネルギー補給を完了させることができる、

つまり、電気自動車の弱点でもあった、その充電にかかる時間を完全に克服することができるのです。

そして、このバッテリー交換に関しては、実はその電気自動車黎明期において、むしろ様々な自動車メーカーやスタートアップが実証実験をしてもいて、

特に現在世界最大の電気自動車メーカーであり、すでにグローバルで25000基以上もの、急速充電器であるスーパーチャージャーを設置しているテスラについても、

実は当初は、そのスーパーチャージャーとともにバッテリー交換ステーションも建設しようとしていて、

特にそのプレゼンテーションが行われた2013年当時は、イーロンマスク自身が、その当時スーパーチャージャーでの充電が無料であったことから、

無料を選ぶか、それとも多少のコストを支払っても速さを取るか、

というような、やはりそのエネルギー補給の圧倒的な速さを売りにする宣伝文句であり、

実際に、そのプレゼンテーションの中で行われた、ガソリン車への給油とバッテリー交換とのスピード勝負に関してですが、

ガソリン車への給油には、おおよそ3分30秒以上かかっていたのに対して、バッテリー交換の場合には、概ね1分30秒ちょいで完了し、

そのガソリン給油の間に、2回ものバッテリー交換を完了させてしまってもいますので、もはや内燃機関車への給油よりも利便性が高いということを実証していたわけなのです。

リーフもバッテリー交換可能な未来が待っていた!?

さらに冒頭触れた、世界初の本格量産電気自動車であるリーフを発売した日産に関しても、

そのアライアンスを組んでいるルノーなどとともに、アメリカのスタートアップであったBetter Place社と戦略的提携関係を構築して、

そのBetter Place社が開発したバッテリー交換ステーションに対応した電気自動車を開発しながら、世界中で様々な実証実験を行っていて、

特に我々日本市場においてでも、都心の虎ノ門において、そのバッテリー交換ステーションを設置し、主にタクシーにおける実証実験を行ってもいたのです。

EVのパイオニアはどちらも挫折済み

しかしながら、この電気自動車のパイオニアでもあるテスラと日産ルノー連合に関しては、そのどちらも現在はバッテリー交換サービスの継続を断念していて、

まずテスラに関しては、2016年ごろまで、そのバッテリー交換ステーションの運用を続けてはいたものの、

特にその圧倒的短時間でバッテリー交換を完了させられるバッテリー交換ステーションの稼働率が、想定を大きく下回ってしまっていたということ、

また、やはりその交換ステーションのコストが高くつき、そのバッテリー交換ステーションを一基建設するだけで、

その当時50万ドル、現在の相場では5500万円程度もかかるということもあり、その継続を断念してしまっています。

ちなみに、一点興味深い点というのが、そのバッテリー交換ステーションが稼働する前から発売されていた、フラグシップセダンであるモデルSに関しては、

もちろんですが、バッテリー交換に対応するために、バッテリーパックを車体に固定する全てのボルトが車体外部に取り付けられていたのですが、

その後に発売され、2016年の3月のワールドプレミアが開催されたミッドサイズセダンであるモデル3に関しては、

そのバッテリーパックを固定するボルトが車内に取り付けられていて

しかもそのボルトにたどり着くためには、シートや床下のカーペットを取り外さなければ到達できない構造のため、

つまり、そのモデル3の開発段階において、すでにテスラ側は、このバッテリー交換という手段を断念しようとしていたことが、推測できるというわけですね。

From: 日経クロステック

また、日産ルノー連合に関しても、その提携関係を結んでいたBetter Place社が、様々な投資家から10億ドルクラスの投資を調達することができる公算であったのにも関わらず、

結局2013年には倒産となってしまい、よって日産ルノーに関しても、

そのバッテリー交換というエネルギー補給の手段に手をつけることなく、独自に急速充電器を設置していくという流れを続けていった、ということなのです。

EVにとってバッテリー=内燃エンジン

それでは、なぜこの電気自動車におけるゲームチェンジャーとも呼べる、バッテリー交換という手段がうまくいかなかったのかに関して、いくつか理由が考えられるのですが、

特に最も重要な理由として個人的に考えているのが、

やはり電気自動車において最もコアテクでもある、その大容量のリチウムイオンバッテリーを共通化しなければならないから、という理由に尽きると考えていて、

というのも、本チャンネルにおいては繰り返し説明していることではありますが、

既存の内燃機関社にとってのコアテクとはずばり内燃エンジンであり、何重にも渡る複雑なサプライチェーンを構築しながら、

独自に内製化を進めていることにより、そのエンジンの開発力に強みを持っているからこそ、

我々日本メーカー勢というのは、その内燃機関車というカテゴリーにおいて世界をリードしているわけなのですが、

トヨタが開発中の水素エンジン

電気自動車におけるコアテクというのはずばりバッテリーであり、

このバッテリーが内燃エンジンに変わるコアテクになることを当初から理解していた、電気自動車のパイオニアであるテスラや日産に関しては、

そのバッテリーの生産工場を早くから立ち上げて、バッテリーを自社内製することによってその電気自動車としての完成度を高めていったのです。

世界の自動車メーカーが、自らバッテリー内製化にコミット中

そして、特にリーフのバッテリー生産工場が立ち上がった2010年から早くも10年以上の月日が経ち、ようやく世界が電気自動車に舵を切り始めた中において、

その電気自動車において、バッテリーこそがコアテクであることに世界が同時に気がつき、

現在自動車メーカー側から、そのバッテリー生産工場の立ち上げが相次いで表明されている状況となっていて、

例えば、アメリカのGMに関しては、すでに30GWh以上級のバッテリー生産工場をアメリカ国内において2つ同時に建設している最中であり、

さらに直近の報道において、そのバッテリー生産工場をさらに追加で2つ、合計して4つのバッテリー生産工場を立ち上げるのではないかというレベルにまでなっていますし、

また、同じくアメリカのフォードに関しても、

最大で60GWh級というかなりの規模感のバッテリー生産工場を建設する予定ともなっていますし、

また、電気自動車のパイオニアでもある日産に関しても、

複数の報道で、イギリスと日本市場にバッテリー生産工場を建設する可能性が濃厚であるということ、

そして、世界最大級の自動車グループであるフォルクスワーゲングループに関しては、2030年までに、ヨーロッパ市場だけで40GWh級のバッテリー生産工場を、なんと6つ

つまり合計して240GWh級という圧倒的なスケール感でバッテリーの内製化を目指していますが、

つまり、現在電気自動車時代の到来が確定し始めた段階において、なぜその電気自動車に舵を切っている自動車メーカーたちが、

すでにパナソニックをはじめとする既存のバッテリーサプライヤーがいるのにも関わらず、自分たちの手でバッテリー生産工場を立ち上げようとしているのか、

それはまさに、既存の内燃機関車におけるコアテクでもあり、自分たちの手で内製化に取り組んでいた内燃エンジンと同様に、

電気自動車におけるコアテクでもあるバッテリーを内製化しようとしてるから、ということなのです。

よって、自動車メーカーたちが今後の電気自動車時代において、質の高い競合車種と差別化していくためには、やはりバッテリーの内製化に取り組むことは必然であり、

各社が独自のバッテリーを開発していくことになりますので、

今回取り上げている、バッテリー交換ステーションを使用したバッテリーパックの交換というエネルギー補給方法を、各社が共通して導入することなど実質不可能であり、

したがって、充電規格を共通化するだけで、公共のインフラを構築することができる急速充電器を使用した充電というエネルギー補給という手段を採用している、というわけですね。

NIOは自社専用のバッテリー交換ステーションを拡大中

ただし、このバッテリー交換については、一部条件をクリアすると一定のセグメントにおいて普及する可能性は残されているとも考えていて、

まずは、公共のインフラではなく、そのメーカー独自でバッテリー交換ステーションを普及させることができれば、

そもそもそのバッテリーパックの規格など、一切考慮する必要がありませんので、自分たち独自のバッテリー交換ステーションを普及させることが可能であり、

実際問題として、現在世界で唯一と言ってもいいその成功例が、中国の電気自動車スタートアップであるNIOが展開している、バッテリースワップとなっていて、

NIO ES8

すでに中国国内において200カ所近いバッテリー交換ステーションを建設しながら、その交換回数が、なんとすでに200万回を超えているという、

その安全性などをはじめとする実績は十分ですので、

まさにこのNIOのバッテリースワップについては、私の考えとは反して、まさに現在成功中となっているのですが、

こちらは、集合住宅が極めて多く、しかも特定の駐車場を所有することが難しいというような、中国特有の事情を抱えていたり、

何よりも、このバッテリー交換ステーションはNIOの電気自動車専用であり、

特にNIOはブランド価値を上げるために、そのコスト度外視でバッテリー交換ステーションを運用しながら、そのほかにも自社専用の急速充電ネットワークであったり、

さらには、発電機搭載のモバイル充電サービスによって、充電器などに行かなくても充電することができてしまうなど、特殊なサービスを展開していますので、

何れにしても、このNIOの成功をもって、全世界的にこの電気自動車のバッテリー交換ステーション事業が成功すると結論づけるのはナンセンスである、ということなのです。

タクシーなどの商用車であれば、一定の普及を見込める場合も

しかしながらそれと同時に、その中国市場においては、タクシー会社などがこのバッテリー交換式の電気自動車を運用し、

実際にすでに多くのバッテリー交換ステーションを、国などとも連携しながら立ち上げている状況ともなっていて、

こちらに関しては、特にコミットしているBAICをはじめとして、中国の国有企業であるということ、

よって、国と連携しながらそのバッテリーを共通化することが容易であるということ、

そして最も重要な点というのは、タクシーなどの商用車については、別に車両性能などを各社が差別化する必要が全く存在せず

むしろそのバッテリーを共通化してしまうことによって、その公共のバッテリー交換ステーションを利用できた方が、

最終的なバッテリー交換ステーションの普及による、タクシーとしての電気自動車の利便性の向上につながるということから、

このような商用車というセグメントにおいてなら、中国国外でも、一定程度普及する見込みが残されているのです。

商用車セグメントにフォーカスしたENEOSの実験には期待

したがって、今回取り上げたい日本のエネルギー会社であるENEOSと、アメリカのバッテリー交換事業のスタートアップであるAmpleがタッグを組んで、

電気自動車向けのバッテリー交換の実証実験を行うというニュースに関しては、

特にその対象を、タクシーや貨物輸送というような商用車セグメントにしているという点において、まだ活路がある分野である、というのが現状の個人的な見解とはなりますので、

From: 日本経済新聞

この実証実験が、10年前に同様に行われた日産ルノー連合とベタープレイス社との実証実験のように、失敗に終わってしまうのか、

それとも新たな活路を切り開くことができるのかにも、注目すべきニュースである、ということですね。

あなたがバッテリー交換ステーションを使える日は来ません

ただし、ここまでの説明を理解している方であればもうお分かりかとは思いますが、

よく言われる、一般ユーザーに対するバッテリー交換式の電気自動車を導入すべきという類の考えというのは、残念ながらやはり実現性に乏しいという点が重要であり、

やはり電気自動車におけるコアテクであるバッテリーを、全社的に共通化することなど、この競争社会においては不可能でありますし、

さらに、例えばテスラであったり、中国のバッテリーサプライヤーであるCATLに関しては、そのバッテリーの搭載方法を、既存のバッテリーパックを構成するのではなく、

バッテリーセルをそのまま車体であるシャシーに直接埋め込んでしまうという、Cell To Chassisという最新のバッテリー搭載方法を開発中であり、

これが実際に実装されてしまえば、もはやバッテリーパックを交換するという概念自体実現することが不可能となるのです。

バッテリーセルを車体構造の一部にしてしまう、Cell to Chassis

また、さらに駄目押しで付け足してしまえば、現在そのバッテリーの研究開発が爆速で進行中であり、

例えばフォルクスワーゲンが2020年半ばに市場に投入する計画となっている、全固体電池を搭載した電気自動車であれば、

80%充電するまでにかかる時間を、12分程度まで短縮することが可能となっていたり、

VolkswagenはQuantum Scapeと合同で全固体電池を研究

しかもその上、さらにその満充電あたりの航続距離に関しても、

今年である2021年の後半に納車がスタートする予定ともなっているLucidのフラグシップセダンであるAirにおいては、

Lucid Air

高速道路を時速100kmでクーラーをつけても達成可能であるというような、実用使いにおいて最も信用に値するEPAサイクルにおいて、

832kmと、東京広島間を途中充電なしで走破することができるというスペックを備えていたり、

しかもその充電性能に関しても、483km分充電するのにかかる時間が20分、つまり250km分追加するのにたったの10分程度となりますので、

それこそ東京を満充電で出発した後に、途中トイレ休憩をすることもなく広島に到着し、

たったの20分の休憩時間兼充電時間を挟んだだけで、鹿児島県に到達することができるというように考えて見ると、

2021年現時点のテクノロジーにおいてでも、もはや99.9%の方にとって必要十分なスペック、

これが2021年の電気自動車最前線です

少なくとも、今回の、よりコストがかさみ、より広い場所を取ってしまう、バッテリー交換ステーションを普及させるよりも、

急速充電器を複数設置していく方に露ソースを割いた方が明らかに効率的であると感じるのは、私だけでしょうか?

ゲームチェンジャーに過信しすぎじゃないっすか?

このようにして、電気自動車の弱点とも言われている充電時間という概念を変えるために、

電気自動車に搭載されているバッテリーを交換するというバッテリー交換方式の普及について、どれほどの実現性があるのかを考察していきましたが、

特に直近で注目されている、タクシーや小型配送トラックなどの商用車セグメントにおいてでは、一部の地域などにおいて、実現性を見いだすことができると考えられる一方で、

少なくとも我々が一般的に使用する乗用車セグメントにおいては、すでに現状のテクノロジーを用いた電気自動車の質や急速充電器のスペックでも、十分に実用的であり、

もちろんこの電気自動車に関連するテクノロジーは、現在爆速で成長中でもあるということ、

また、それと同時に、現在勃発している電気自動車戦争において、競合メーカーたちが、

わざわざそのコアテクでもあるバッテリーを共通化して、公共のバッテリー交換ステーションを建設しようなど、どう考えてもあり得ないですので、

何れにしても、そのゲームチェンジャーともてはやされているバッテリー交換ステーションに過度に期待するのではなく、

やはりこの電気自動車戦争を勝ち抜くためには、急速充電器をはじめとする、地道な充電インフラの構築

そして何よりも、電気自動車時代におけるコアテクでもあるバッテリーの内製化、そしてその量産に全力を挙げることが重要であり、

この地道にも見える努力をせずに、ゲームチェンジャーのように見えるものを過信する、その態度こそが、

この電気自動車戦争において、負け戦へと突き進む、最大の敗北要因となり得てしまうのではないでしょうか?

From: 日本経済新聞

Author: EVネイティブ