神奈川県の横浜市において、さらなる充電インフラの拡充のために、日本で初めて公道上に急速充電器が設置され、
新たな潜在的な充電器需要を、模索し始めていますが、
それと同時に、今回の設置を手がけたe-Mobility Powerに対する、日本の充電インフラ整備への大きな懸念を、電気自動車歴7年が改めて解説します。
日本初の公道沿いの急速充電器
まず、今回の公道上における急速充電器の設置に関してですが、神奈川県横浜市の青葉区という地点において設置され、
そもそも横浜と聞くと、みなとみらいな中華街などの繁華街付近に設置されたと思われた方もいらっしゃると思いますが、
実は青葉区という場所は、東京の町田に接しているというような北側に位置し、
いわゆる東京都心や、横浜駅やみなとみらいなどのベイエリアで仕事などをしている方のベッドタウン的な街となりますので、
いわゆる閑静な住宅街というような認識でいいかと思います。
そして、その青葉区の中でも、高速道路を使用する方では認知されている、横浜青葉インターチェンジから1km程度県内、
都心から厚木・御殿場方面までをつなぐ、国道246号線沿いから数百メーターという、比較的好立地な場所に設置されたのが、今回取り上げたい新たな急速充電器となっていて、
なぜ今回の急速充電器設置が注目されているのかといえば、こちらは日本で初めての、公道上に併設された急速充電器ということで、
今までであればその安全上などの理由から公道併設は認められておらず、
基本的には駐車場の中であったりなど、急速充電器の設置要件を満たすことができなかったのですが、
今回の設置者である、日本の充電器管理運営企業であるe-Mobility Powerと、行政側である横浜市などが協力して、実証実験という形をとって、期限付きで設置が進められたのです。
高速道路上の一部SA・PAも公道扱いの場合あり
ちなみにですが、厳密にいえば、公道上における急速充電器の設置というのは、今回が初めてではなく、
実は高速道路上のサービスエリアやパーキングエリアについては、ごく一部ですが、法令上道路の一部として扱われていたり、
揚げ足を取りに行けば日本初という表現が正確な表現でないという指摘もあるのですが、
ここでは、世の中で一般的にイメージするであろう、いわゆる道路に接した地点における急速充電器の設置という意味で、日本初という表現方法を採用しています。
実証実験としての公道への急速充電器設置
そして、なぜ今回公道上に急速充電器を設置してきたのかという理由に関してですが、
電気自動車先進諸国の集まるヨーロッパ市場で普及が進んでいる、公道上への充電器設置の流れを日本でも採用し、
日本市場において、いったいどのようなメリットデメリットが存在することになるのか、
さらには、公道上に充電器を設置することによって、まだ電気自動車を所有していない方であっても、街中に充電器が存在することを視覚的に理解することができ、
将来的な電気自動車購入の後押しにもつながるのではないか、というようなことを実証することが、目的となっています。
また、本チャンネルにおいて取り上げていきたい、今回実際に設置された急速充電器のスペックに関してですが、
こちらは、今回の設置者であるe-Mobility Powerが、昨年である2020年に、スイスの電子機器メーカーであるABB社から購入した、
250台以上もの急速充電器である、Terra184という急速充電器となっていて、
こちらは1台につき、同時に2台の電気自動車を充電することができ、
その最大充電出力は、180kWという超高出力を発揮することができるというスペックを備えていますが、
今回設置されたのは、1台あたり最大で90kWという充電出力にとどまり、
そして、2台同時に充電した場合は、それぞれ最大で56kWという充電出力に留まると説明されています。
そして、この急速充電器は24時間利用する事が可能であり、この充電中の30分間については、公道上でありながら駐車する事ができますので、
ユーザーとしては、充電にかかる料金に加えて、駐車料金などの追加の料金を支払う必要がないというメリットが存在しますので、
まさにこの点が、現在特に今回の横浜をはじめとして、東京23区内などの都心部において問題となっている、
駐車料金などを考慮する必要のない、より気軽な充電インフラとして、検証するに値するということになり、
今回の検証が終了する来年である2022年の3月までに、いったいどれほどの電気自動車ユーザーが、この公道上の急速充電器を利用するのか、
そして、いったいどのような問題点を発見する事ができるのか、今後も注目していくべき取り組みであるとは感じました。
なぜ充電スペックをデチューンしてしまうのか?
ここまでは、今回の日本初の公道上における急速充電器の設置の件について、
主にその実証実験をすることの意義であったり、そのメリットについてを取り上げてきましたが、
それと同時に、すでに思いつく様々な問題点も指摘する事ができ、
特に本チャンネルにおいて取り上げなければならない、その設置された急速充電器のスペックとなっていて、
そもそも先ほども説明したように、この急速充電器というのは、ABB社製のTerra184と呼ばれる、180kW級の超急速充電器であり、
よって、なぜ今回の設置においては、一台あたり最大90kWという本来のスペックの半分に留まってしまっているのか、という事なのです。
実はこちらに関する理由はすでに明白となっていて、
そもそも我々日本市場における電気自動車の急速充電の規格というのは、チャデモ規格と呼ばれ、この充電規格に関しては、現在世界の主要マーケットごとに、それぞれの充電規格が存在し、
中国市場においてはGB/T規格、北米市場においてはCCSタイプ1、ヨーロッパ市場においてはCCSタイプ2、というようになっていて、
そしてそのそれぞれの急速充電規格を、それ以外の市場、例えば北米市場におけるCCSタイプ1であれば、韓国市場に、
また、ヨーロッパ市場におけるCCSタイプ2であれば、オセアニア地域であったり中東地域に、
という感じで、その充電規格を普及させるための覇権争いの様相を呈してきているのですが、
これらのチャデモ以外の急速充電器と、我々日本市場におけるチャデモ規格の急速充電器の決定的な違いというのが、
その発揮する事ができる充電出力のスペックの差であるのです。
というのも、2021年6月時点において、日本市場をはじめ、世界のどこを見渡しても、今だに90kW以上という充電性能を発揮することのできるチャデモ急速充電器が存在していないということで、
それと比較して、チャデモ以外の急速充電器であれば、どれも最大で350kW級という、チャデモ規格の急速充電器のなんと4倍程度という、圧倒的高出力を発揮することのできる超急速充電器が存在し、
欧米市場においては広大な大陸を、余裕を持って横断する事ができるくらいの数が普及しているくらいであり、
したがってなぜチャデモ規格の急速充電器だけが、これほどまでに低スペックな数値に留まってしまっているのかに疑問を持っている方が多いと思いますが、
それは、その急速充電器に搭載される、電気自動車側とをつなぐ充電ケーブルの構造の違いとなっていて、
チャデモ以外の充電規格のケーブルに関しては、水冷ケーブルと呼ばれる、その充電ケーブル内に水冷式の管を通してあることによって、
特に350kW級という超高出力で充電する場合に発生する発熱を、水冷方式によって安全に管理する事ができるのですが、
我々日本市場におけるチャデモ規格の急速充電器に関しては、今だにその水冷式の充電ケーブルが開発されていませんので、
より多くの電流を流そうとすればするだけ、より多くの熱が発生してしまい、
現状の水冷式ではない空冷式のケーブルでは、ある一定の電流量を安全に流す事ができず、したがって、その電流量の上限が概ね200アンペア、
つまり、充電出力に変換すると概ね90kWという数値が、空冷式ケーブルで対応することのできる充電出力の上限ということになるのです。
テスラは以前は空冷式、現在は水冷式
ちなみに、テスラ独自の急速充電器であるスーパーチャージャーに関しては、
現在日本に設置されているほとんどが、V2スーパーチャージャーと呼ばれる種類となっていて、
こちらは最大120~150kW弱という充電出力を発揮する事ができるのですが、このV2スーパーチャージャーに採用されている充電ケーブルは、なんと空冷式のケーブルであり、
こちらに関しては、テスラは充電ケーブルの温度などをしっかりとモニタリングすることによって、
その最大充電出力である150kW弱という出力を、よく言えば最適にコントロール、
悪く言えば、充電器側が意図的に絞ってしまうことによって、その空冷式における発熱問題を解決していたり、
すでに我々日本市場の充電器メーカーである新電元工業からも、搭載ケーブルは空冷式でありながらも最大電流量が350アンペア、
つまり一時的に、最大150kW程度という高出力を発揮する事ができるという急速充電器も登場していますので、
空冷式ケーブルを採用している、イコール、必ず90kW以上という充電性能を発揮する事ができないのかというと、そうでもないという点は、参考までに押さえておくべき点であるとは感じます。
水冷ケーブルを開発しなければならない理由
しかしながら、その空冷式のケーブルの場合にどうしても問題となってしまうのが、その発熱に対応するために、ケーブルの直径をかなり大きくする、
つまりそれだけケーブルの重量が増し、よって、かなり取り扱いずらくなってしまうという点が挙げられ、
したがって、水冷ケーブルの導入によって、特に女性や小柄な方であっても簡単に取り回しが効くような、軽量型のケーブルを導入することができる、というわけなのです。
何れにしても、裏を返すと、チャデモ規格であったとしても、そのチャデモ規格に対応した水冷式の充電ケーブルさえ開発する事ができれば、
欧米市場や中国市場で普及している、350kW級という超急速充電器を普及させることは、技術的に可能となりますので、その開発が待望されていて、
実際に、すでにポルシェとABB社がタッグを組んで、チャデモ規格専用の水冷式ケーブルの開発に着手し、
現状すでに設置されているポルシェの急速充電器は、その空冷ケーブルの採用によって90kWに制限されてはいますが、
今年である2021年の後半から稼働する予定となっている、その充電ケーブルを水冷式のケーブルにリプレイスすることによって、
最大150kWという、より高出力な急速充電を行う事ができるようになるとしています。
水冷ケーブルを早く開発・導入せよ
ここまでのチャデモ規格の充電スペックの低さと、その搭載されている充電ケーブルについての解説によって、
今回の主目的でもあった、日本の充電器管理運営企業であるe-Mobility Powerに対しての懸念と期待に話を戻すと、
つまり、現在ポルシェとABB社が共同で開発中であり、年内にも稼働がスタートする、このチャデモ規格に対応した水冷ケーブルを、
今回のe-Mobility Power側も、しっかりと開発なり導入する計画を進めているのかという点であり、
いよいよ今年である2021年の後半からは、
90kWという充電出力を超えて、150kW級の急速充電器でなければ対応することのできない、質の高い電気自動車が次々と市場に導入される計画となっていて、
まずは今も説明した、ポルシェのスポーツセダンであるタイカンに関しては、最大150kWという充電出力を許容可能なスペックを備えていますし、
さらに、アウディのフラグシップスポーツセダンであるe-tron GTに関しても、最大150kWという高出力な充電出力を許容する事ができ、
さらには、我々日本市場から発売される日産のフラグシップクロスオーバーEVであるアリアについても、その納車が2022年の初頭に迫り、
その最大充電出力が130kWまで許容する事ができますので、
特にこのような車種については、現状の90kW級の急速充電器では、まさに宝の持ち腐れ状態であるわけなのです。
したがって、この水冷ケーブルを開発する事がなければ、公共の急速充電器において、90kW以上の急速充電器が普及する可能性は限りなくゼロということになり、
欧米や中国市場のような電気自動車の普及を目指すことはこの時点で不可能、ということになってしまいますので、
とにかくe-Mobility Powerを始め、各充電器メーカーには、この水冷式の充電ケーブルの開発状況がどの程度進展しているのかの、タイムラインを提示する必要があるのではないでしょうか?
e-Mobility Power、聞け
そして、以前の動画でも取り上げているように、経済産業省に提出しているe-Mobility Power側の、今後の急速充電器設置に関する計画において、
今後10年間を見据えた充電インフラを構築していく必要性を訴えていながら、
それでいて、特に長距離移動の際の、電気自動車の運用において不可欠である、高速道路上などに設置する急速充電器のスペックを、1つのケーブルに対し最大90kWという、
グローバルに見ても、極めて低スペックな充電出力で妥協しようとしているばかりか、
先ほど例を挙げた、2021年に発売され、次々と市場に投入される電気自動車のスペックすらも満足に達成することができない充電器を、
今後10年間を見据えたインフラ設置戦略などと謳っている、この経営姿勢のトンチンカンさっぷりに、非常に違和感を覚えるのは私だけでしょうか?
また、もしこの急速充電インフラ設置計画を、本当に今後10年間に向けて実施しようもんなら、
割と真面目に、私はトンチンカンなe-Mobility Powerに抗議運動を起こそうとも考えてもいますので、
とにかく日本の電気自動車マーケットをこれ以上ガラパゴス化させ、今後の電気自動車時代において、国内の競争力を失わせるような、近眼的な視野でのインフラ設置戦略ではなく、
まさにe-Mobility Powerが自ら謳っている、そのような近眼的視野ではない、今後10年を見据えた長期的な視野で持って、
せめて水冷式ケーブルを導入した150kW級の急速充電器を、高速道路上を中心に設置し、
これ以上日本市場が電気自動車において、海外マーケットからガラパゴス化しないように設置戦略の再考、
ならびにその水冷式ケーブルをはじめとする150kW級の急速充電器の設置計画のロードマップを公開することを、強く求めたいと思います。
From: e-Mobility Power、経済産業省
Author: EVネイティブ
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