【EV充電の闇】高速道路のEV充電にメス〜公取委がeMP寡占の高速道路上の急速充電ネットワークに是正を提言した背景とは?

e-Mobility Power

公正取引委員会が高速道路上における急速充電器設置について、実質的な独占状態にあるという調査結果を公表したことを受けて、 果たして、EVユーザーの間で指摘され続けている高速道路上のEV充電に関する問題点、およびその解決につながるのかについてを解説します。

「EV充電の闇」に公取委がメス

今回取り上げるのは、公正取引委員会の調査内容で、これは高速道路上のEV充電サービスの実態調査報告となっています。公正取引委員会は、4月に特定の事業者が高速道路上の急速充電器の設置を独占し、競合の参入が阻害されている可能性について懸念を示し、調査を開始しました。この調査報告は、高速道路上の急速充電器設置について新たな動きが予想されるため、報告書の内容をまとめて紹介します。

調査報告で最も懸念されているのは、高速道路上に設置されている急速充電器がほぼ全てe-Mobility Power(通称イーモビ)が設置・運用していることです。全国の高速道路上には3月末時点で445基の急速充電器が設置されていますが、そのうち98.7%の439基がイーモビによって設置されています。残りの6基も高速道路会社が設置しているものの、利用権はイーモビが持っています。つまり、高速道路上に設置されている全ての急速充電器は事実上イーモビが運営しており、他の充電器設置企業の参入は難しい状況です。

しかしこの調査結果に対し、高速道路を管理するNEXCOは反論しました。彼らは需要の多いエリアだけに充電器を設置するのではなく、需要が少ないエリアでも事業を継続する事業者と提携したいと主張しています。

公正取引委員会はまた、充電器設置企業からも意見を聞きました。彼らは交通量の多いサービスエリアに新規参入したいとの意向を示しつつ、需要が少ない場所でも充電器を設置しなければならないとするなら、新規参入は困難だと述べました。

私の意見としては、NEXCOの提起した需要が少ないエリアでも事業を継続する事業者と提携したいという主張には同意できません。

充電器設置企業が指摘している通り、交通量の多いサービスエリアに多くの急速充電器を設置するべきで、そのためにはイーモビ以外の企業も充電器を設置するべきです。そして、複数の企業が参入すれば、一部の企業が撤退したとしても、そのエリアから急速充電器が完全になくなるという事態を防ぐことが可能になります。

EV充電の競争を阻害するべきではありません

また、おそらくNEXCOが恐れている懸念というのが、複数の充電器設置業者が乱立することによって、EVユーザーがその充電器を使用するためのさまざまな決済方法がそれぞれ乱立し、EVユーザーの利便性が悪化する可能性です。

そのため、なるべく充電器設置企業を限定したいという考えがあるようです。しかし、その考えについては、現在のイーモビの課金システムの問題点を指摘しなければなりません。イーモビでは、事前に有料の会員登録を行って充電カードを取得するか、あるいはビジター充電としてクレジットカード情報を登録し、アプリ経由で充電認証を行う方法があります。

しかし、これでは充電器を初めて利用する場合、特に高速道路上では手間取ることは避けられません。クレジットカードをその場でスキャンして課金するか、あるいは自動車メーカーなどから車両情報を取得し、充電器を差し込むだけで自動的に充電料金が決済される仕組みを作るべきです。

少なくとも、この決済機能が用意できないのであれば、たとえ充電料金の決済方法が多様化したとしても、イーモビであろうとどこであろうと変わらないでしょう。いずれにしても、決済方法の乱立という問題については、もっと本質的にプラグアンドチャージ機能の実装を求めるか、あるいはクレジットカードリーダーを必須装備にするかで解決すべきです。これらを理由にして、充電器設置企業をイーモビだけに限定する理由にはならないと考えます。

ただし、NEXCOが懸念している通り、イーモビは利用率の低い、つまり採算性が今後も見込めないような地方のサービスエリアに対しても急速充電器を設置しています。この点については一定の理解を示すことができます。

具体的には、現在設置を検討している充電器設置企業は、利用率の低いエリアに設置したくないと表明しています。それであれば、例えばイーモビにはサービスエリア内の立地という観点で優遇する、あるいはNEXCOだけではなく、国側もこれまでの利用実績から利用率が低く採算性の低いサービスエリアを特定し、これらのエリアに充電器を設置してくれるような企業に対して、設置後すぐに撤去させない制約をつけた上で、補助金の割合を増やすなどの措置を取るべきです。

それとは別に、EVユーザーの利便性を高めるためには、利用率の高いサービスエリアに重点的に急速充電器を配備するためにも、複数の競合企業に設置を許可すべきです。その結果、充電器の設置台数が増え、充電サービスの競争が発生し、サービスの質も向上します。

この競争という大前提を、何らかの理由で阻害するべきではありません。

イーモビのなんちゃって200kW充電器のスペックの低さとは?

また、その競争が存在しないことにより、EVユーザーから見た典型的な問題が生じます。具体的には、イーモビが設置している急速充電器のスペックが問題となります。イーモビはちょうど2023年に突入してから新型の充電器を設置しており、最大6台のEVが同時に充電可能な200kW級の急速充電器を設置しています。しかし、その充電器のスペックは一台のEVに対しては最大でも90kWの充電出力しか流せず、さらに15分経過すると充電出力が強制的に50kW以下に制限されてしまいます。

この15分間のブーストモードはケーブルが過熱するのを防ぐための措置と説明されていますが、それならば90kWを流し続けることが可能なケーブルを採用すべきです。しかし、それをすると充電ケーブルが重くなり、ユーザーの利便性が悪化するとの理由から、軽量化されたケーブルの開発が求められます。それに対して、冷却に対応した水冷式のケーブルは導入コストが高くなるため、現状では導入を拒否しています。

さらにEV同時充電でも充電出力は低下します

このような状況が続くと、イーモビが独占的に充電器を設置することになり、日本国内ではこの「なんちゃって200kW級充電器」しか利用できなくなるでしょう。その耐用年数は8年以上なので、今年設置された場合、2030年以降もこの充電器を使い続けることになります。これは現在のEVユーザーだけでなく、未来のEVユーザーにとっても最悪な状況です。

また、欧米などの主要先進国およびEVが普及している他の国では、基本的に300kW以上の充電出力がデフォルトとなっています。なぜ日本の充電インフラがこれほどガラパゴス化しているのかというと、それはイーモビしか設置企業が存在しないことにより、競争が働いていないからです。今回の公正取引委員会も懸念しているように、競争がなければ新たなテクノロジーの導入が遅れ、その上充電料金もイーモビの言い値になってしまいます。日本のEVシフト全体という観点からも、高速道路上での充電器設置企業間の競争は必要不可欠です。

ETCカードによる充電料金決済は愚策です

さらに、今回の公正取引委員会は、現在検討中の充電のための高速道路外への一時退出を容認する措置についても言及しています。一時退出の理由がEV充電であることを明確にするために、ETCカードを充電料金の決済方法として採用することを検討しています。

しかし、新たにETCカードによる決済端末を開発するコストはかなり高く、新興企業としてはこのような決済端末を開発するくらいなら高速道路近くの充電器設置を諦めるでしょう。これは大きな参入障壁となります。

さらに、現在のETCは車両情報が登録されているため、充電したかどうかを判断するシステムを開発するコストをかけるくらいなら、EVに限って1-2時間程度の一時退出を認めれば良いだけです。

このように考えると、一時退出した車両がETC充電カードを使って充電したかどうかを判断する専用の認証機やシステムを開発する必要は全くありません。その分だけ多くの充電器設置企業が充電器を設置することが可能となり、企業間の競争が活性化します。

NEXCO側から見ても、現状ではサービスエリア上の駐車スペースの不足が問題となっています。わざわざ土地の限られたサービスエリア上に充電器を設置する必要がなくなれば、EV充電器の存在を考慮する必要もなくなり、より多くの駐車スペースを確保することが可能となります。

一時退出措置を適用するためにETCカードによる課金認証を必須にすると、イーモビなどの資本力のある既存の充電器設置企業しか設置を望まなくなる可能性があります。これは、今回懸念されている一社独占状態がさらに加速する可能性があります。

公正取引委員会も同様の懸念を指摘しています。これらの点から見ても、高速道路上やそれに関連する急速充電器設置について、特定の企業による寡占状態が続いていることが、EV充電の利便性の悪化を引き起こしていると言えます。

テスラスーパーチャージャーが高速道路は設置できない理由

このように、公正取引委員会による調査結果が公表され、高速道路上における急速充電設置の一社独占状態が問題視されました。本チャンネルでは、なぜ高速道路上の急速充電ネットワークのスペックや利便性が向上しないのかを長年問題視してきました。その問題は、イーモビだけが悪いのではなく、高速道路上にイーモビしか設置できないような暗黙の体制が続いているからだと考えられます。

利用率の低い場所にも設置を強制するような措置は愚策と言えます。それよりは、利用率の低い場所に設置すれば、それはそれで、国が補助金の割合を引き上げるなどの優遇措置でバックアップすれば良いだけの話です。

そして、充電のための高速道路外への一時退出に関しても、ETCカードを活用するなどの方法は非効率的です。これによって参入障壁が上がるだけでなく、ユーザーから見ても、複雑なシステムを構築することによって充電料金が上昇する恐れがあります。そのため、シンプルに、ETC情報からEVかどうかを判断し、EVの場合であれば、1-2時間の退出を認めれば良いだけの話です。

ちなみにテスラのスーパーチャージャーがサービスエリア上に設置されるかどうかについてですが、これは全くの別問題です。テスラはチャデモ規格をコネクターに採用していないため、テスラ以外のEVが使用することはできません。高速道路上にテスラ専用の充電器を置くことは個人的には誤っていると感じています。テスラが高速道路上に設置したいのであれば、北米のようにテスラ規格とチャデモ規格の両方を使用できる専用の充電器を開発すべきです。それができないのであれば、今後も高速道路外に設置するしかないというのが現状です。

テスラスーパーチャージャーはこれまで通り高速道路外の設置を余儀なくされるでしょう

From: 公正取引委員会

Atto: EVネイティブ

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